冒険者ギルド再び。テンプレ遭遇!
前回のあらすじ
宿屋で個室を確保したタナカは自分のステータスとスキルについて確認し、
NPC作成で猫人のノワールを作成し、疲れ果てて眠りについたのだった。
チチチチ・・・チュンチュン。
鳥の声で目が覚めた。
木窓を開けて見ると空はまだ薄暗い。また早く起きすぎてしまったようだ。
ベッドへ視線をずらすとノワールはまだ気持ちよさそうに眠っている。
丸まっている姿が可愛らしく、本当に猫のようだ。
「ノワール、起きて下さい。冒険者ギルドへ向かいますよ。【不可視可】の魔法をかけますので外で待っていてください。
宿の人にはまだノワールの事を話していませんからねぇ。」
「ふぁあああ、おはようございます。わかりました。」
猫のように背中をそらせてぎゅーっと伸ばしたあと立ち上がるノワール。
突き出したお尻が目の毒なのでやめてほしい。
【不可視化】をかけるとノワールは音もたてず窓から飛び降りていった。
これなら【不可視化】は要らなかったかも知れない。
「さすが獣人。いや、私でも多分できるのでしょうが全く実感がないですねぇ。」
さて、今日はノワールを冒険者ギルドへ登録してランクをDまで上げておこうと思う。
街へ出てみると昨日と同じように人通りはまだ少ない。
念のため路地に入ってノワールの【不可視可】を解除してからギルドへ向かった。
早朝だが今日もギルドの中は活気にあふれていた。
空いている受付嬢の元へ向かうと、何故か先日お世話になったエリーゼさんが走ってきて担当を交代した。
トレードマークの栗色のロングヘヤーは何の乱れもなく、走ってきたのに器用なものだと感心させられる。
「タナカさん、おはようございます!今日はどのようなクエストを受けられますか?後ろの方はパーティーメンバーの方でしょうか?」
「おはようございます。ええ、この子は私とパーティーを組む予定なのですが、登録がまだでしてねぇ。登録をお願いしたのですが。」
「かしこまりました。こちらにお名前をご記入ください。・・・はい、ノワールさんですね。
申し訳ございません、今回は推薦がありませんのでFランクからのスタートになってしまいますがよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。それでお願いします。」
「かしこまりました、ギルドカードを作ってまいりますので少々お待ちください!」
エリーゼさんが対応してくれたおかげか、何の問題もなく登録できそうである。手際がとても良い。
少しするとエリーゼさんがギルド証をもって戻ってきた。
ギルド証の認証が終わると、今度はFと書かれている。
予定通りFランクでの出発のようだ。
「ランクアップの条件はどんな感じなのですかね?とりあえずこの子もDランクまで上げたいのですが。」
「それではご説明いたしますね。まず、FランクからEランクへは連続でF~Eランクの依頼を10回連続で達成すればランクアップできます。
ただEランクからDランクは10件達成とゴブリンの討伐依頼の達成が必要になりますのでご注意くださいね。」
「なるほど、ありがとうございます。」
「もしDからCへのランクアップをお考えでしたら、オーク討伐と盗賊討伐が必須になります。
盗賊討伐は少し特殊なのですが、盗賊を討伐した場合、本人を連行していただくか、首を持ってきていただくことになります。
専用の壺もお貸ししていますからお気軽にお申し付けください。」
話を聞いてみると、ゴブリンやオークは討伐証明部位を持ってくれば良く、
盗賊は首か本人が必要とのことだった。頭を吹き飛ばしてしまうと報奨金が得られないようである。
首狩りに勤しむ暗黒司祭姿の自分の姿を想像してみると、どこからどう見てもヤバい人であった。私なら迷わず逃げる。
「わかりました。あとパーティ登録はどうすればいいんですかね?」
「あ、はい。先ほどパーティ登録もしておきましたので、次にメンバーが変った時にまた窓口で申請して頂ければ大丈夫ですよ!」
エリーゼさん、本当に手際が良い。もうやることがなくなってしまった。
とりあえずノワールのランク上げのためEランクの薬草納品の依頼を受けることにした。
エリーゼさんに聞いてみると、私が迷っていた森の浅い部分に生えているようである。
5束で依頼達成、50束集めてくると10回達成とカウントできるそうだ。
つまり、100束集めてゴブリンを倒せばDランクなのだろう。
とても簡単に思えるが、浅いとはいえ森の中に入るためリスクが高く、
新人にはあまり勧められないらしい。
今回は私とパーティ―を組んでいることでこちらを提示してくれたようだった。
エリーゼさんには本当にお世話になっている。今度何か御礼をしよう。
外に出ようと出口まで進んでいるとガラの悪い男が前に立ちはだかっていた。
「おい!!女連れのくせに俺のエリーゼさんに色目つかってんじゃねぇぞ!」
3度目の冒険者ギルド訪問で、今更テンプレがきたようだ。
さてどうしよう・・・。
「私たちが新人なので親切に対応してくれているだけですよ。そこ通してもらえませんかねぇ?」
「チッ新人のくせに女連れで生意気なんだよ!そっちの女、かわいがってやるからこっちにこいよ。」
嫉妬にかられて言いがかりをつけてきただけのようである。
エリーゼさん狙いなのに他の女性にも手を出そうとするあたり色々と残念な人だ。
ノワールはというと無表情?というより呆れ気味なのだろうか。
「嫌です。私より弱い人には興味ありません。」
バッサリ切り捨てられたからか、彼は顔を真っ赤にして震えている。
彼をこのまま放置すれば逆上して殴りかかってくるのではないだろうか。
ノワールの拳技にも手加減スキルはあるはずだが、スキル発動しないで殴ると殺しかねない。
一瞬で”ハンバーグのような何か”になってしまうのは間違いないだろう。
私が対処しないとまずいか。
「なんだとてめぇ。新人は黙って言う事きいてりゃいいんだよ!」
手を出してきたのでとりあえず手をひねり上げることにする。
「いてててて、お前こんなことしてどうなるかわかってんだろうな!!!離せよコラ!!」
「何もしてこなければ、何もしないのですがねぇ、どうします?」
「わかったよ!何をしねぇから手を放せ!!」
手を離すと男はすぐに距離をとった。
腐っても冒険者、戦闘には慣れているらしい。
男がロングソードサイズの剣を鞘から抜いた。
「てめぇ覚悟しろよ。」
周囲がざわざわしているが、止めに入る様子はない。
もう、手加減するのが面倒になりつつある、そもそも不快を我慢してまで冒険者をやる必要もないのだ。
後ろから寒気を感じてノワールの方を見ると、口は笑っているが目が笑っていない。
こっちの方がはるかに怖い・・・。
「はぁ仕方ないですねぇ。何より私、仲間に手を出されるのだけは許せないんですよねぇ。
一回死んでみますか?【ウィンドブレイド】」
【ウィンドブレイド】は名前のまま、風で相手を切り裂く魔法である。
魔法防御力が足りていないと切り傷では済まず、切断される。
一瞬、風が唸るような音がする。
ゴトッボトボトボトッ、先ほどの男は四肢を断ち切られバラバラになって転がっていた。
両手、両足が冗談のように地面に落ちて転がっているが切断面は綺麗で血もでていない。
バラバラのマネキンが転がっているようにすら見えるが、人間である。
これはオリジナル要素イメージで追加した部分、”血が出ないようにウィンドブレイドで抑え込むこと”、に成功しているようだ。
「「「うわああああああ!!!」」」
ギルド内は一瞬静まり返ていたがいまは騒然としている。
男はと言えば目を見開いたまま、地面に落ちている。恐らく混乱しているのだろう。
「さて、私の仲間に手を出そうとしたのですから、この程度は覚悟していたのですよねぇ?
このまま地獄まで送ることもできますが、どうしますかねぇ。」
完全に悪役のセリフである。周囲も誰も何も言わない。
むしろ最初見ていた野次馬すら目をそらしている。
「お、俺の体が!手が、足がっ!どうなってんだ、おい、た、助けてくれ。
俺が悪かった二度としない、だ、だからどうか殺さないでくれ!」
「そうですか。いまの言葉、忘れないでくださいね。次は手加減しませんよ?【エクスヒール】」
断ち切れていた両手両足も含めて輝きはじめ、光が収まると元通りに戻っていた。
「本当に治ってやがる・・・。すまねえ本当にすまねえっ。」
そんな言葉をいうや否や、わき目もふらず建物の外へ走り去っていた。
「さぁ、私たちも薬草採取にいきましょうかねぇ。」
さっさと出ていこうとしていると、後ろから声がかかった。
「すみません。少しお時間いただけますか?さすがに先ほどの行為は、ギルドマスターして見過ごせませんので。」
後ろを振り向くとエルフの男性がたっていた。
エルフなだけあって美形である。
女性だったらどれほどの美人になるのだろうか。いつか会ってみたいものだ。
面倒くささのあまり現実逃避してしまっていた。
「ギルドマスターですか。私はただ剣を抜いた暴漢からパーティーメンバーを護っただけなのですがねぇ。それとも仲間を差し出せと?」
先日はやりすぎたため、今回は威圧レベルをできる限り抑えて威圧した。
「っ。・・・彼に非がありますし、完全に回復したので今回は罰則はなしとします。ただし、次は見逃せませんので気を付けてください。」
顔面は蒼白で震えてこそいるが、流石ギルドマスターというべきか、威圧に耐えきったようだ。
「わかりました。次からは善処しましょう。それではノワール、気を取り直して今度こそ薬草採取にいきましょうかねぇ。」
威圧を解除して歩き始めるも、扉まで一直線に人波が分かれている。
私はモーセじゃないのですが・・・。
今度は誰にも止められることなく外にでることができた。
外に出ると先ほどの重苦しい雰囲気はなく、
空は晴れていて夏の日差しが心地よい。
「思ったより暑いですねぇ。日傘はあっただろうか。」
インベントリを探すと女性用日傘(杖)があった。
白と青を基調にして、フチが金糸で飾られた白いフリルが大量に装飾されている。
ギルドの受付嬢のエリーゼさんのような美人ならよく似合うことだろうが・・・おっさんがこれを使うのは不気味すぎる。
「ノワール、これ使いますか?」と取り出した日傘を見せてみたが
「私は大丈夫です。それに両手が開いてないと戦えませんから。」
それもそうですね。
少し腹も減ってきたし食料の確保をしたい。
昨日見て回った時にパン屋を見つけていたので、そこでパンを大量に買い込んだ。
この世界のパンはパサパサでかなり硬い。
食感はイギリスのパンに近いが、切り口は茶色い色をしている。
全粒粉に近いのだろう。
早いうちに拠点を用意して自炊したほうがいいかも知れない。
そういえばバウマンさんに会いに行っていないので、
ついでに物件を紹介してもらえないだろうか。
そんなことを考えつつ、門番にギルド証を見せて街を出た。