テベンマの街の散策
前回のあらすじ
宿を探してさまよっている間にスラムへ到着したタナカ。
スラムで暴行されている女の子を助け、そのままスラムで一泊した。
翌朝、ターニャちゃんがが起きる前に目が覚めた。起こすのも可哀そうだったので、
ターニャちゃんのお母に一晩とめてもらった感謝を述べて、スラムをあとにした。
「さて。今日こそ宿屋を探さねば。・・・ギルドで聞いた方が早いですかねぇ。」
朝の街はまだ人通りが少なく静謐な空気で満ちていた。
そういえば、夏のキャンプ場の早朝もこんな感じだったなぁなどと思い出しながら町の散策を続ける。
少し人通りが増えてきたころ、馬車と井戸が裏にある宿屋のらしき建物を発見した。
馬車小屋の方で女性が何かしているようだが、宿に入るにはまだ時間が早すぎる。
とりあえず時間をつぶすため好奇心でギルドへ向かってみた。
朝早いというのに冒険者が必死の形相で依頼を選別し、取り合っているようだ。
遠目に見ていると依頼は本当に簡単なお使いのようなものから護衛、討伐、探索、納品、配達、土方仕事など実に多種多様なものだった。
変ったものでは訓練の講師やら後輩の育成のようなギルド依頼のものもある。
恐らく受けて置けば内部評価が上がってランクアップに有利なのだろう。
ふとカウンターを見てみると、エリーゼやほかの受付嬢が必死に手続きをこなしている様子がみえる。
今声をかけるのは邪魔にしかならないだろう。依頼は受けず、ギルドを後にした。
その後、街のあちらこちらを見て回って判ったことだが、この町はほぼ円形になって周囲を壁が囲っている。
そして十字のような大きな道があり、その先4方に門があるという構造のようだ。
中心部には領主の豪邸があり、その周囲を囲うようにして街が発展している。
スラムは一番外側で門からも離れた位置だった。
見回って終わったころにはすでに太陽は高く、街は活気に溢れてにぎわっていた。
「そろそろ宿の確保をしましょうかねぇ。確認してみたいこともありますし、早い方が良いでしょう。」
歩いていると街のいたるところに露店が立ち並んでいた。
焼肉串を売っている屋台を見ながら通り過ぎようとしていると屋台のおっさんが話かけてきた。
「どうだい兄さん、いい肉だろう!焼肉串1本、銅貨3枚だぜ!」
「焼肉串ですか、いいですねぇ。おいしそうだ。」
しかしお金は金貨しかもっていない。
さすがに屋台で金貨(100万円相当)をを使おうとすれば迷惑だろう。
小さいお金に崩しておけばよかった・・・と後悔するがもう遅い。
「あーすみません。これと焼肉串を交換とかできませんかねぇ?」
取り出したのはポーション、【エルダーファンタジー】で一番最初から持っているような最下級品だった。
「そりゃポーションじゃねぇか。交換はかまわねぇけどよ。そのポーション銀貨1枚はするだろう?もうそんなに肉の在庫がねぇぞ。」
「ああ、全然問題ありませんよ。私が食べる10本と交換してくれませんかねぇ。お釣りはいらないのでとっておいてください。」
「それじゃ俺が得しすぎだが・・・よし!次きたときにタダで食わせてやるよ。これ焼肉串10本な。また来てくれよな!」
受け取ると両手がふさがってしまった。どうやらこの世界では買う側が容器をもってくるのが常識のようだ。
大量消費が当たり前だった日本では考えられないが、この世界では消耗品として使える程に大量生産ができないのだろう。
串も太さがバラバラなので手作りなのだろう。
とても良いにおいが鼻孔をくすぐるため、我慢できず考察を中止して焼肉串を食べてみると、
少し癖があるものの牛肉のような濃厚な味わいで、噛めば肉汁が溢れてくる。とても旨い。なんの肉なのだろうか。
コンビニ弁当やコンビニおにぎりで生きていた私には絶品に思えてならない。
この世界では魔物の肉も普通に食べられていると聞いていたが、
もしかしたらこれも魔物の肉なのかも知れない。
残った焼肉串はインベントリへ入れて置いた。あとで食べよう。
それにしてもゲーム内で1本50ゴールドだったポーションだが、こちらでは1本銀貨1枚(1万円相当)。
ずいぶんと高価である。
もう、ポーションだけ売っていれば生活できるのでは無いだろうか。
薬作成系統のスキルもカンストしているので自作もできるし、
まだ確認していないがスキルの売店機能を使えばゲーム内アイテムも購入できるはずだ。
上手くいけば老後の備えまで資産形成できてしまうのでは・・・。
そんなことを考えながら、久しぶりに旨い肉を食べて満足した。
そして、今朝みかけた宿屋へ向かう。
宿の中へ入ると、少しやせ気味の女将さんが応対してくれた。
「いらっしゃいませ。お泊りですか?」
「ええ、1人なんですが1晩いくらですかね?」
「1番大銅貨7枚、朝夕食事込みなら銀貨1枚です。」
「ではとりあえず10日間お願いします。あー金貨しか持ってないんですがお釣りってありませんよねぇ?」
「大銀貨が足りませんが銀貨込みでしたらなんとかありますよ。どうなさいますか?」
「ではそれで願いします。」
「かしこまりました、それでは部屋の鍵はこちらです。2階の一番奥の部屋ですのでどうぞ。食事は食堂で鍵を見せて下さい」
部屋まで歩いていくと割と広い。ビジネスホテル程度の広さがあるだろうか。
机とベッドと窓しかない、非常にシンプルな寝室だった。窓もガラスではなく木である。
灯りはランプを借りられるそうだが、生活魔法【照明】で十分なので遠慮しておいた。
これで大銅貨7枚なら日本ではかなり高い部類にはいるだろう。
当然だがお風呂は無く、トイレも共通とのことだった。