テベンマの街
前回までのあらすじ
森の中で襲われていた商人バウマンの馬車を助けたタナカは、
護衛のグレッグたちと共に馬車を護りつつにテベンマの街を目指して移動を始めたのだった。
道なりにしばらく歩いて森を抜け丘を登ると、遠くに街が見えてきた。
グレッグさんたちは馬車の左右と後ろ側を護衛しているため、ここまでの道のりではバウマンさんと二人で雑談をしながら歩いている。
あまり雑談が得意ではないタナカとしては苦行であったが、色々と教えてもらえた。
「おお、街が見えてきましたねぇ、今回はバウマンさんも大変でしたね。」
「いやはや、ヘルハウンドに囲まれた時はどうなることかと思いましたが、タナカさんのおかげでどうにか無事に戻ってこられました。
感謝にたえません、ここまでくればもう安心です。」
街に近づくにつれて高い石壁に囲まれた街の姿が見えてきた。
「ほう、丈夫そうな壁に頑丈そうな門、それに思った以上に大きい街ですねぇ。」
「ははは、このくらいの規模がないと辺境の街としては機能しませんよ。魔物が氾濫した時に守り切れませんからな。兵の数も多い良い街です。」
バウマンさんから聞いたことをまとめると、
政治について確認すると現在は王制で貴族が存在しているようだ。
一応、法治国家ではあるものの、実際のところは貴族による人治が認められている節もある。
不敬罪など貴族の胸先三寸だろう。
この国の名前はエインデル王国。そしてここはエインデル王国の辺境ラジシール地方。
ラジシール辺境伯領のベテンマの街という位置づけのようだ。
他には村程度しかないとのことなので、ここがラジシール地方の中心の街なのだろう。
私が転移した森はラジシールの大森林という、この大陸最大の大森林であるらしい。
比較的浅いところだったからすぐに出てこられたのだろう。運が良いのか悪いのか・・・。
この世界の生活水準はどうやら中世ヨーロッパ程度のようだが、
魔法が存在する分だけ利便性は現代と変わらないのではないか、と思える部分も混在している。
例えば炊事については、魔法に生活魔法があるため着火などは簡単に行われているが、
未だに薪を使った煮炊きをしている。
汚物などは浄化魔法で消滅し、清潔に保たれている。下手をすれば現代日本より快適かもしれない。
物質の循環が壊れているように思うが、元の世界とは違う摂理で動いているのだろう。
また風車や水車が使われている様子がないことから、恐らく動力という概念は魔法という便利な存在によって発達しなかったのだろう。
などと、どうでもよいことを考えている間に門の前まで列が進んでいた。
「次の者!・・・ああ、バウマンさんですか、お疲れ様です。護衛の皆さんも。ところで隣の者は何者ですか?」
門番の兵士が胡散臭そうにこちらを一瞥する。この姿ではどう思われても仕方ないだろう・・・。
「暑い中ご苦労様。大森林の中でヘルハウンドの群れに襲われましてな、危なく死ぬの頃でしたよ。
この方は危ないところを助けてくれたタナカさんです。」
「どうも。魔術師のタナカです。冒険者になろうと田舎から出てきたものの道に迷いましてねぇ。
偶然バウマンさんたちが襲われていたところを見かけましたのでお助けしました。」
「なるほど、わかりました。一応規則ですので、この水晶玉に触れて頂けますか?・・・青。問題ないようですね。
ベテンマの街へようこそ!今回はバウマンさんから入門料は頂いていますので、どうぞおはいりください。」
思った以上にあっさりと入れてしまった。
の世界のお金はまだもっていなかったので、バウマンさんが支払ってくれたのは有難い。
とりあえず厚意として受け取っておこう。
後でグレッグさんに聞いたのだが犯罪者の場合、水晶が赤く光るようだ。
ただ、そこまで便利なものではなく、登録ずみの指名手配犯を選別する程度の役割らしい。
無事、門を通過して街の中に入ることができた。少し暗くなりかけている時間だが、意外にも人通りが多い。
「それではバウマンさんとはここでお別れですかねぇ。私はグレッグさんと一緒に冒険者ギルドへ行こうと思います。」
「そうですな。しかしまだ御礼もできておりませんので、どうでしょう。後日でもかまいませんので私の商会を訪ねて頂けますかな?
まずはこちらだけでも先にお納めください。」
バウマンから渡された皮袋は意外にも重たい、中を見てみると金貨5枚ほど入っていた。
ここで貨幣について説明しておくと大体以下のような感じのようだった。
小銅貨 10円
銅貨 100円
大銅貨1,000円
銀貨10,000円
大銀貨100,000円
金貨1,000,000円
大金貨10,000,000円
一応それ以上の貨幣も存在するようだが国家間の取引以外では使われていないとのこと。
バウマンさんからの報酬は金貨5枚、つまり日本円にして500万円という事になる。
一般的な庶民の年収は金貨2枚(200万)程度なので、2年半分のお金である。
「これは・・・いくらなんでも貰いすぎですねぇ、さすがにこれ以上のお礼など過分ですよ・・・。」
「いえいえ、何をおっしゃいますか!タナカさんの助けがなければ私たちは全員死んでいたのですよ。
命の値段にしては安いくらいですからどうかお納めください。」
「はぁ・・・わかりました。お言葉に甘えて受け取らせてもらいますね。
それではグレッグさん、行きましょうか。あ。場所がわからないので案内をお願いしても?」
「おう、それじゃあ行くか!こっちだ。」
グレッグさんの案内についていく。
それは良いのだが、グレッグさんの仲間達がずっと話しかけてくれないのは何故だろう?
避けられている気がしているのだが。気のせいだろうか・・・。