テンプレ遭遇―初めての戦闘
今回は少し長くなってしまいました。
前回までのあらすじ
異世界へ転移した鈴木武史、容姿はそのままにMMORPG【エルダーファンタジー】のステータスを引き継ぎ「タナカ」になってしまった。
ステータスやアイテムを確認し、生き延びる算段の付いたタナカは街へむけて歩き始めたのだった。
マップを見ながら街の方向を目指し、薄暗い森の中をどれだけ歩いただろうか。
ここまで獣にも魔物にも出会っていないが随分歩いたように感じる。
遠くから金属と金属がぶつかる音や怒声のようなものが聞こえてきた。
「ん?これはもしかしてテンプレでしょうか、どうしましょうねぇ。」
改めてマップを確認すると少し先に赤(敵)が5つ、黄(その他)が6つある。
足音をひそめ気配を絶つようにしながら近づいてみると、どうやら馬車が魔物に襲われているようだ。
狼のような魔物5匹から馬車を護るように立つ護衛が4人の姿がみえる。
「狼系ですか。んー助けに入ったほうが良いでしょうかねぇ?」
とりあえず一番強そうな護衛と一番大きな狼を鑑定してみよう。
名前:グレッグ
種族:人間
職業:戦士
レベル:30
生命力 250/532
魔力量 33/100
筋 力 322
耐久力 224
器用さ 120
魔 力 50
精神力 80
速 度 125
運 気 10
<スキル>
剣術Lv3、盾術Lv3、体術Lv3、威圧Lv2、身体強化Lv2
名前:なし
種族:ヘルハウンド
職業:なし
レベル:45
生命力 705/820
魔力量 200/252
筋 力 588
耐久力 428
器用さ 300
魔 力 25
精神力 415
速 度 450
運 気 40
<スキル>
威圧Lv3、噛みつきLv5、身体強化Lv3、嗅覚強化Lv5
ステータスを見る限り両者ともそれほど強くない。
スキルレベルに関してはゲーム内ではLv10が最大値だったがこちらでも同じなら、
特に脅威ではないと思う。
他の護衛やヘルハウンドも鑑定してみたが、鑑定した相手より少し弱い程度である。
しばらく戦いを観戦していたがすぐに決着がつくことは無く、護衛達がよく耐えてた。
特に先ほど鑑定したグレッグがヘルハウンドとのステータス差を覆すほどに善戦している。
「ステータスやスキルが絶対、というわけではないのですねぇ。戦闘経験は無視しないほうがよさそうだ。」
しばらく見ていたがグレッグ以外の護衛達は全員倒れてしまったようだ。
彼らと戦っていたヘルハウンドの方は傷を負っているとはいえ5匹のままである。
「さて、どうしたものですかねぇ。」
一番大事なのは私の命だが、さきほどからの戦闘を見る限り、勝てるだろうという目算は立っていた。
とりあえず護衛の雇い主であろう、丸いタルのような商人に声をかけてみることにした。
「あのー加勢してもいいですかね?」
「だ、誰だ?いや、そんなことよりも助けてくれ!頼む!」
どうやら言葉は通じるようだ。そして承諾も得られた。
と、その時。最後の護衛の首に狼が喰らい付き、引き倒された。
「クソ犬があぁぁぁ!」
あの状態でも戦意があることに若干驚く。精神強すぎだろう・・・。
いや、そんなことよりも急いで助けるべきだろう。
「【アイスニードル】」発動すると同時、ヘルハウンドの頭に氷の杭が撃ち込まれ甲高い断末魔を上げて絶命した。
頭は裂け、地面に血溜まりができてグロテスクなことになっている・・・。
「う。これはまたグロい・・・、リアルだとこうなるのですねぇ。」
ネットのグロ画像である程度慣れているとは言え、好んで見たいものではない。
炎や雷では周囲を巻き添えに、かといって氷や土ではグロい死体が爆誕してしまう。
本当にままならないものだ。即死魔法なら綺麗な死体ができるだろうか・・・。
いや、もういっそのこと殴り殺した方が早いか。
先ほどのグレッグも他の護衛達もまだ死んでこそいないようだが瀕死だ。
急いで回復をかけることにする。
「【エリアヒール】」
倒れていたグレッグたちの全身が強く輝き、光が収まると全身の傷が消えていた。
グレッグ以外気を失っているようだ。
「っ。おお?死んだと思ったんだが・・・。お前が助けてくれたのか、ありがとよ。俺の仲間はどうなった!?」
「他の方も治療しましたが気を失っているみたいですねぇ。」
ここまで見物していた後ろめたさもあり、ヘルハウンドたちの方へ目線をそらしてみると
警戒したのか近づかずに距離を保ったまま姿勢を低くし、とびかかる準備にはいっているようだ。
モルゲンステルンをゆっくりを持ち上げるとヘルハウンド達は更に体制を低くする。
「【マルチロック】【デス】」
突如、死霊のような髑髏の顔がヘルハウンド達に浮かびあがり断末魔すら上げずに即死した。
心なしかグレッグも商人も顔が引きつっているように見える。
私としては怖がらせつもりはなく、ただ単にグロいものを見たくなかっただけなのだが・・・。
【デス】は即死魔法である。【エルダーファンタジー】ではあまり使わない魔法だった。
単純な威力で即死させられるため、範囲魔法でまとめ狩りした方が効率がよかったのだ。
この世界ではグロい物体を発生させない、私の心にやさしい優秀な魔法になっていた。
【マルチロック】は単体魔法を複数相手に打ち込むための魔法で、ホーミング性まで付与できるすぐれものだ。
少し場の空気が凍ってしまったが、先ほど助けた商人がこちらに向かって歩いてきた。
西洋風の顔立ちだがやはり大タルのように太っている。
「先ほどは助けて頂きまして、どうもありがとうございました。商人のバウマンと申します。
もう私の人生もここまでかと思っていましたよ。いやー本当に助かりました!
これほどのお力をもちならさぞご高名なお方かと存じますが、もしよろしければお名前を教えていただけませんかな?」
名前を聞かれ武史は一瞬悩んだものの、アバターの名前タナカで通していくことにした。
職業は魔術師と名乗ろうと思う。
私自身、中身はただの凡人である、賢者という名前は過分で恥ずかしい。
「私は魔術師のタナカです。田舎から出てきたのですが道に迷ってしまいましてねぇ。ところであのヘルハウンドの死体は貰っても良いですかね?」
「どうぞどうぞ、護衛の彼らもきっと快諾してくれますよ!」バウマンが座り込んでいる護衛の男の方をちらっと見るようにすると
「おう。魔物は倒した奴のもんだから好きにしてくれていいぜ。」
グレッグは言い終わると、仲間が倒れている方に向かって歩いて行った。
「それではお言葉に甘えて。【解体】」
死体が真っ黒いドームに包まれる。そしてドームが解除された後には肉、骨、皮、牙、魔石などの素材が落ちていた。
ゴミ部分は消滅しているようだ。これにもイメージがかなり大きな影響を及ぼしているようだ。
肉が残ったのは原因不明である。
【解体】で出てきた素材はインベントリへさっさと収納した。
「ほぅ、アイテムボックスをお持ちとは!うらやましい限りです。
小さくても良いですから私も欲しかったものですが才能ばかりはどうにもなりませんからな。それにあの魔法、初めて見るものでしたが実に便利な魔法をお持ちのようだ」
「ええ、私も大変助かっていますねぇ。あの魔法は師から教えてもらったものでして、あまり使う人がいないのかも知れません。」
完全にいつものゲーム感覚でインベントリを使っているがあまり自重するつもりはないので問題ないだろう。
なにより、私はあまり頭が良いとは言えない。どうせ隠そうとしてもボロがでるので開き直ったのだった。
「ところで、タナカさんはこの後どちらへ向かわれるご予定で?もし行き先が決まっていないようでしたら、
どうでしょう私たちと一緒にテベンマの街へ行きませんか。
もちろんそこまでの護衛の依頼報酬もお支払いしますし、
先ほど助けて頂いたお礼もさせていただきたいのですが、いかがですかな?」
こちらとしても渡りに船のため、話に乗ることにした。
「ええ、それでしたら私も一緒に向かうことにしましょうかねぇ。」
仲間たちの状態を確認していたグレッグさん達が戻ってきた。
彼の仲間たちも無事に意識を取り戻したようだ。
「待たせちまってすまねぇ。自己紹介がまだだったな。
俺はグレッグ、見ての通り戦士だ。で、こっち右から順に斥候のアーチャン、魔術師のモーリアム、僧兵のジャイアン。」
「ご丁寧にどうも。私は魔術師のタナカです。」
「さっきは助かった、ありがとよ。まさか森の奥にいるはずのヘルハウンドが、あんな場所にでてくるだなんてな・・・。」
ん?もしかして私が原因なのでは・・・。内心、焦りながらもポーカーフェイスを必死に保った。
先刻、森の奥で【ファイヤピラー】を放ったから、ヘルハウンドたちはこちらへ逃げてきたのではないだろうか。
よし、しらばっくれよう。言えるわけがないのである。
「それは不運でしたねぇ・・・。ところでグレッグさんたちは冒険者のことですが、私も冒険者になることはできますかね?」
「おう、もちろんできるぞ。タナカくらい強ければ引く手あまただろうよ。」
「なるほど、では街に着いたら登録にいくことにしましょうかねぇ。」
「俺も護衛の報告に行くからそんときに連れて行ってやるよ。助けてくれたお礼もできてないしな。口利きくらいさせてくれ。」
「そうですか?お言葉に甘えて。よろしくお願いします。」
話を聞く限り、グレッグさん達はBランクの冒険者らしい。
冒険者にはF~Sまでのランクがあり貢献度や戦闘能力を総合的に判断してランク付けがなされているようだ。
Bランクまでは比較的上がりやすいが、そこから先に壁があると言っていた。
Bランクであのステータスだとすると、本格的に自分が化け物ということになってしまうような気がするが、
AやSランクで一気にステータスが跳ね上がる可能性もあるので、
そうなることを期待しようと思う・・・