ただの男とただの女の話。
スウェーデンで1500年前の剣を発見したというニュース。それを見た歴史に無知な作者が、手探りで不確かな知識と勢いで書いた妄想話です。
それでもおkな方は、拙い文書でよかったら読んでいって頂けると幸いです。
人里離れた山奥の森林にある大きな湖。
その畔に、質素な服を着た厳つい海賊と、豪華なドレスや宝石を身につけた見目麗しい娘がいた。
会話をすることなく静かにボートへ乗ると、海賊は黙々とオールを漕ぎ、娘は水面に映る月をただただじっと見下ろしている。
中央部分にボートがたどり着いた時、海賊は手を止めた。ギシリと揺らぐ船体に少し驚きながらも、娘は顔を上げる。海賊はおもむろに立ち上がり、右腰に下げた剣を引き抜くと、そのまま垂直に腕を上げ、手を離す。水面に吸い込まれるように落ちていった剣。少し寂しげにそれを見送ると
「海賊は消えた。俺はただの男になる。」
娘は突然ことに返す言葉を考えていると、男は腰巾着から指輪を取り出した。宝石や派手な装飾は施されておらず、稀少な貴金属等の材質も使われていない。木製の、如何にも素人の手製といった品物。娘が身につけているどのアクセサリーよりも、地味で不格好な物だった。娘は驚嘆した口を手で覆い、その目は男の顔と指輪とを行ったり来たりさせている。ゴツゴツと傷だらけの手が、娘の前へと差し出され、何かを受けるような形で止まった。娘は、視界が歪み、いくら水滴を足元へ落としても次から次へと美しい瞳から溢れてくる。
その様子を男はじっと見つめていた。本当は、すぐにでも抱き寄せてその涙を拭ってやりたい。しかし、そうしてしまうと男は娘を捕まえたま逃がしてやれなくなる。今、男のしようとしている事は、確実に娘にとってリスクの高い、その後の一生を左右する大きな賭け。だからこそ、自由に決めてほしい。例え、二度と会えない事になっても。
娘は胸元についた翡翠色に輝くブローチを白魚のような手で撫でる。目を固く閉じ、最後の1滴が頬を伝った瞬間、急に立ち上がり、細い指を服に力ずよく食い込ませそれを引きはがすと、大きく振りかぶって湖面に投げ飛ばした。しかし、か弱い腕には遠方へ飛ばすのは難しく、それは小さな放射線を描き、先程まで眺めていた月の真ん中へ、ポチャンッと小さな音をたてて落ちていった。動いた反動で倒れ込みそうになったが踏ん張って耐え、慌てふためく彼に向かって
「領主の娘は消えました。私はただの女。それでも攫って行かれますか。」
男は膝をつき、娘であった女を見上げて右手に持った指輪をもう一度、女の前へ差し出した。
女に躊躇いは無い。その輪の中へゆっくりと指を通すと、ぴったりとはまった。
そういえば以前、女の部屋で逢瀬を交わした際に、机の上に置いてあった指輪を男が何やら難しそうな顔で見ていた事があったな。きっとその時なのだろう。
女はクスリと笑うと、男の胸へ飛び込んだ。裕福な家庭で、蝶よ花よと育てられてきたとは思えぬ程の活発な予測不可能の動きに、昔からその性格を知っている男はしっかりと反応し、受け止める。背中に回した鍛え上げられた腕が微かに震えていることを感じると、女は男の頭に手を置き優しく撫で始めた。男は少しバツの悪そうな顔をして辞めるように言うが、それでも止めない。
「ありがとう、生きて帰ってきてくれて。約束を守ってくれて。本当にありがとう。...愛してる。」
男は答える。
「俺も愛してる。必ず、幸せにする。」
そう誓うと、女の顔に手を添えて口付けを交わした。
大きな湖にはただの男とただの女が2人。
満天の星空に浮かんだいくつかの流星が、彼らを祝福するように瞬き、降り注いでいた。