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碧眼少女は何を見る  作者: 東雲遼
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奇妙な噂

「そういえば玲さん、知ってますか?」

購買部で買ってきたメロンパンを頬張りながら、僕は玲さんに話しかけた。

「唐突になにかしら?」

口の中のもの嚥下してから、玲さんは小首を傾げ続きを待ってくれる。

オレンジジュースで口内のメロンパンを飲み下し、ゴミを袋にまとめながら僕はとある噂話を切り出した。

「友人から聞いた話なんですけど、この学校で女生徒の飛び降り自殺が何年か前にあったらしくて」

少し玲さんの顔が曇る。

「その自殺した女生徒が最近、夕方になると屋上に現れるらしくて。飛び下りる姿を実際に見たっていう人もいるって噂です」

食べ終えた小さなお弁当を片付けながら、玲さんは適度に相槌をいれてくれる。

「自殺の理由がこじれた恋愛の末に、とか。いじめを苦にしてだとか。そこら辺の情報は錯綜してるみたいですけど…そこに僕は興味なくて」

玲さんはそっと片手を僕の前に突き出し、話を止めた。

「前置きはその辺りでいいわ。要はその自殺した女生徒の姿を見たいってこと?」

玲さんは無表情に僕を見つめてくる。

「えっと…ま、まぁ。そうなんですけど…」

「お断りよ」

そんなにべもない。

「前にも言った通り、私は極力そういったものと関わり合いになりたくないの。あなたを護る時は仕方ないけれど、この件はこちらから関わらなければ被害はないんじゃないかしら」

正論を並べられ、僕は返す言葉が見当たらない。お茶を濁すような曖昧な返事しかできなかった。

初めてあれらを見せてもらってから、それなりに日にちも経っていて、僕自身恐怖心よりまた見てみたいという好奇心が勝るようになっていた。

こんな身近で見れるチャンスがあるなら…と思い、つい玲さんにこの話を切り出したが答えは予想通りのものだった。

「い、いまは確かに僕に直接的な被害はありません。でももしかしたら近い将来、被害を受ける可能性がないと言いきれないし…」

歯切れが悪いながら引き下がらない僕を、玲さんはまっすぐ見つめ何も言ってくれない。

「屋上も解放されてるから、忘れた頃に行ってしまって、その…」

「もういいわ」

冷たい言葉に、僕は反射的に体が強ばった。

「…石本くんの言う通り、今後何かしらの影響を与えられる可能性があるのなら、それは問題となり得るわ。それに私がここで断っていても、好奇心に負けて一人で行ってしまうでしょう?」

「…はい」

素直でよろしい、と伏し目がちに玲さんは言う。

「話では夕方にそれは現れるのね? なら帰る前に中庭に寄りましょう」

今度は僕が首を傾げる番だった。

「屋上じゃないんですか? 屋上から飛び下りるのをみたと聞いたので、中庭に現れるとは…」

「石本くんはこの学校の構造、覚えているかしら?」

「えっと…あ、あぁ」

コの字型の少し変わった構造をしている我が校は、その中央部に中庭がある。そして校舎の左側に体育館、右側にグラウンドが設置されている。

体育館側の屋上への扉は封鎖されていて、安全対策の金網も設置されていない。

生徒が入れるのはグラウンド側の金網が設置されている方であり、つまりわざわざ屋上まで行かなくとも中庭かグラウンドのどちらかを見れば、落ちてきたそれを視覚できる。

そう、玲さんは言いたいのだろう。

「無駄な労力は使いたくないの。わざわざ屋上までの階段を上るより、効率的だと思うのだけれど」

生徒が入れる屋上から飛び降りる姿を見たというのなら、それは必ず中庭かグラウンドどちらかに落ちているわけだ。

「でも責任はとれないわよ。何を見たとしても」

その言葉と同時に休憩時間の終わりを告げるチャイムが響き、玲さんは自分の席へと戻っていった。

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