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碧眼少女は何を見る  作者: 東雲遼
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おやすみ世界

亡霊、幽霊、魂の成れの果て。

様々な用語で表されるそれらは、タンパク質の塊から抜け出た人間の本質。

本来なら器が機能停止に陥った際に、その本質も消え失せてしまう。

だがこの世界に残してしまった強い未練や思いを断ち切れず、または死んだ事を理解していないモノは器を失っても漂い続けてしまう。

生きている内は肉体という厚い外壁から守られているも、ソレ自体は脆く、守りがなくなればいつか消滅してしまう。

「なんて、それっぽいこと言ってみたけど…」

僕が想像出来る範囲はこの程度で、正解かどうかなんて判断もつかない。

とにかく、非科学的といわれていた幽霊を僕は今日見たわけで。現実的にソレらは存在し、街を浮浪している。

見えない人が多いから分からなかっただけで、見える人にとっては存在していることが当たり前なんだろう。

僕もこれから存在を否定する側ではなくなるだろうし、いつでもとはいかないけれど玲さんという媒体があれば視覚することが出来る。

あの宝石のように美しく魅了的な碧眼、それだけでも価値は高いのに、怪異をも写すことが出来るなんて。

神は二物を与えず、なんてよくいったものだ。

玲さんは僕にはないものをたくさん手にしている、本人の意思とは関係なくかもしれないが。

「僕を護る、か」

僕が寝返りを打つ度、安物のパイプベッドが軋み、布の擦れる音が常夜灯の淡いオレンジ色に照らされた部屋に響く。

玲さんは死に近付き過ぎた僕を護ると言ってくれた。具体的な内容まではわからないけれど、僕はこの若さで死に魅入られてしまったらしい。

肉体に何らかの異常が生じて、死ぬ。というものではないだろう。

それらから僕を護ってくれるのは医者だ。玲さんは医者じゃなく、ありえないモノが見える人。

そんな人が護ると言うのだから、概ねそっち関連のことなんだろう。

「心霊スポットなんて行ったこともないのになぁ…どこで何を拾ってしまったのやら」

自虐気味に笑いがこぼれた。

明日になればそれっぽい御札や盛り塩やら数珠やら、そういったものでも渡されるのだろうか。

部屋に御札なんて貼っていたら、姉さん驚くし心配させてしまうだろうな。

なんて、今こうして色々考えていても分かるものでもない。

明日は明日の風が吹く、未来なんて分からない。無駄な事を考えず、今は流れに身を任せるしかない。

待ち望んでいた彩り鮮やかな日々がようやく、僕の元に舞い降りてきたんだ。今はそれだけを噛みしめよう。

「さよなら、退屈だった今日までの僕」

そう小さく呟くとほぼ同時に、僕は意識を失った。



***



気が付くと、僕は何も無い真っ白な空間に立っていた。

何かに縛られている感触はないが、思うように体が動かず、言葉を発することもままならない。

独特の浮遊感と時折歪む世界線に、僕はこれは夢の中なんだと悟った。

夢の中を自由に動けるわけでもない僕は、ただ視界に映る白を眺めて立ちつくしている。

脳だけは妙に冴えていて、目覚める前の混濁した意識が、こういう現象を引き起こしているのだろうという結論を導き出した時だった。

「猶予はそう長くない」

聞き慣れない声が耳許をかすめていった。

そう、今まで聞いたことのない機械音にも肉声にも聴こえる名状し難い声色。

その声の後、突如強風が吹き荒れ僕の体は無抵抗に宙に吹き飛ばされた。

この真っ白な空間では地面との距離もわからず、浮き上がった体がいつ叩き付けられるのか不明だ。

情けなく絞り出した悲鳴の中で、さっきの声がまるで隣で囁くかのように近くで聞こえた。


ーーーその身を捧げよ、と。

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