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碧眼少女は何を見る  作者: 東雲遼
1/7

愛→哀

人々の叫び声、慌ただしい跫音、周囲は混乱の渦に呑み込まれていた。

遠くから聞こえる乾いた発砲音。そのつど悲鳴が上がり、この場に異常事態が発生している事を知らせている。

普段は和やかな賑わいで愛され、人々が集うであろうショッピングモール。だが今は、恐怖の空間へと変貌していた。

そこら中に滴る赤色、それは誰のものかさえわからない血痕。

通路に並べられていたであろう商品やワゴンは無残に散らばり、出口を求め走り回る人々に蹴り飛ばされ、道を更に悪くさせていた。

突如非日常へ誘われ、いつ誰が死神の鎌を振り下ろされるかわからない状態。

そんな死を濃厚に肌で感じるモールの隅に、2人の少年と少女がいた。

少年は壁に寄りかかるように座り、腹部から大量の血が流れ地面に血溜まりを生み出しており、顔色も青ざめ優れない。

「玲さん…今までありがとう。すごく…幸せだったよ」

掠れ声で少年はそう言うと、出血を抑えようと必死に両手で圧迫する玲に微笑みを向ける。

「駄目よ、抗いなさい! 貴方が逝くなんてそんなの…」

怒気を孕んだ、でも透き通った声音。玲は大粒の涙を浮かべ零れ落ちそうになるたび、乱暴に服の袖で拭う。

でも少年は、そんな玲の気持ちに答えられないとでも言うように、言葉を紡ぐ。

「これが僕の運命なら…従うよ。これ以上、玲さんに迷惑をかけられない」

血で染まった手を玲へ伸ばす少年。玲は傷口を抑えるのを止め、その手を優しく握り返した。

そして自身の顔にその手をあてがい、優しく諭すように言った。

「迷惑だなんて思ってないわ。貴方に居なくなってほしくないの…だからお願い諦めないで、すぐに助けがくるから」

互いを見つめ合うこと数秒。先に言葉を発したのは少年だった。

「流石にこの傷だと、もう持たないと思う…痛みも感じないし、眠たくて仕方ないんだ」

玲が口を開ける前に、それに、と言葉を続ける。

「玲さんに触れていなくても…見えているんだよ“あの姿が”」

少年の言葉に、玲の顔が絶望に染まり涙がピタリと止まった。

何も言えない玲と、その顔を見つめる少年。二人の間にまた沈黙が訪れたが、それは第三者の声によって破られた。

「神より宣告されし生命の猶予は今、この時を以て終わりを迎える。さぁ、その魂を昇華させよう」

黒を基調にした清洒な刺繍が施されたローブ。その裾は傷んで千切れているが、そこにあるはずの足たるものは確認出来ない。

深めに被られたそのフードの下から見えるのは、白くゴツゴツとした骨だけで表情を汲み取ることは出来ない。

そして何よりも、その白骨化した手に握られている大鎌が印象強かった。

漫画や小説、その他の媒体資料で誰もが1度は見たことあるであろう“死神”と瓜二つの姿をした者が、その大鎌をしっかりと両手で握りしめ立っていた。

玲は飛び上がるように死神と少年の間に割り込み、死神を睨みつける。

「彼は渡さない、最初に言ったはずよ」

その言葉に死神はわざと、誰が見てもわかりやすく大袈裟に、肩を揺らした。

「神の宣告は絶対。神の子は必ず神のもとへ還らなければならぬ。“その力を以てしても”運命は変わらない」

死神はそうする事が当たり前のように、大鎌を振り上げ、未だ引かない玲に称賛を述べ、そして一息に勢いよく振り下ろした。



***



ショッピングモールで起こった悲劇。

一人の男がカバンから二丁の機関銃を取り出し、奇声をあげて乱射し始めたことから始まった。

事態の収拾を図る警備員は次々と凶弾に倒れ、逃げ惑う一般市民も犠牲となっていった。

たくさんの犠牲が生まれた未曾有の大事件は発生から暫くして、機動隊の活躍により沈静化された。

救助が着々と行われていく中、玲の元にも救急隊員が現れた。

無事に保護された玲の顔に生気はなく、共にいた少年が遺体収納袋に入れられるのをただ眺めていた。

何度も救急隊員がその場面を見せまいとするも、玲はそれを頑なに拒み、共に連れ出されることを望んだ。

「…私はまた、救えなかったのね」

袋に入った少年と共に連れ出される間際、玲はそうボソリと呟き、下を向いたままモール外へと消えていった。

鎌が振り下ろされる刹那、背後から聞こえた少年の言葉を反芻しながら。


ーーー玲さん、ありがとう。愛してる。

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