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Zeroの可能性 ―リベリオン―  作者: KC
脱獄編 ~出会いと別れ~
7/8

Ep.6 恐怖の襲来

 ――脱獄はしない


 少し期待はしていたものの、断られてもガッカリはしない。

 何故って、判っていたからだ、恐らく断られるだろうと。


 日本にいた頃はニュースで報道される殺人者に対して、最低、いなくなればいい、そう密かに思っていた。

 殺人は到底許されるものでは無いし、親を殺す等言語道断、俺の倫理観でもそう考えられる。


 だけど今回、俺は殺人をした、という事実よりも先にその人と友情を築いてしまった。

 人間というのは勝手なもので、客観的に見て正しいと判断した物事を主観の我が儘でねじ曲げてしまう。

 だから客観的に殺人がダメだと判っていても、俺の主観では死んで欲しくないという気持ちが前に出て来てしまうのだ。


 殺人は到底許される事じゃない、判ってる。

 でも、


「でも――」

「……心配してくれているのは判る、その気持ちは素直に嬉しいし、立場が反対なら俺もそうしたさ」


 俺が自分の気持ちを言葉にしようとしたとき、キウスが更に言葉を重ねてそれを制する。

 これは俺の憶測だが、聞きたくない、聞いたら揺れてしまう、そういう警告だったんだと思う。

 警告に気付いた俺が押し黙ったのを吐息で確認し、キウスが言葉を続ける。


「だけど、言ってなかったっけ? 俺の国は宗教国家でさ、俺もその例外じゃないってこと。宗教の関係上親を手にかけるのは最大の禁忌。許される事じゃない……」


 その声はどこか悲しそうで、自分に言い聞かせている様にも感じる物言いだった。


 ――辺りは再び静寂に包まれた。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆




 翌日、俺は努めて普通に接した。その方が彼の想いに沿った形になると判断したからだ。

 だからいつものようにキウスとノーラン、それと俺の三人で過ごしていたのだが、一つ気づいた事がある。

 ノーランが時折悲しそうな表情を浮かべているのだ。

 以前は全く気付かなかったが、恐らくキウスの死刑の話を知っているんだと思う。

 キウスとノーランは竹馬の友だとの事なので余計に悲しいだろうに、ノーランはキウスには気付かれないようにと気を配っている様だ。


 薄情と言われるかも知れないが、俺はあまり悲しいとは感じていない。

 いや、正確には実感がイマイチ湧いてこない、だろうか?

 始めから存在していた人間が、病気でもなければ衰弱でもなく、ある日突然世界からいなくなる。

 どんな気持ちになるのだろう。


 無くならないと気付かない、と言うが、本当にその通りだと今なら判る気がする。

 だから、一度も身近な人間を失った事の無い俺はキウスが居なくなるという事が想像出来ない。


 でも、そんな俺でも判る事がある。

 キウスを失う事になっても、二度と会えないという悲しみはあれど、辛くは無いだろうという事だ。

 臭い事を言う様だが、だってキウスは俺やノーランの記憶の中に存在するのだから。



 ………

 ……

 …



「おい! ヨニク! テメェ聞いてんのか?」


 ん? どこか遠くから男の野太い声が聞こえて来る。

 おっと、どうやら俺は呆けていたらしい。

 最近よく考え事をしているせいか、たまにこういうことが起こる。


 視線をとなりに居る男の方に向けると、髭の濃い、昔ながらの泥棒の様な風貌の男が俺の肩を軽く小突いて、顎を正面にシャクり、アッチを向けアピールをしてきた。

 この男、ダグラスは確か貴族やらに口答えした罪で捕まったと言っていた気がする。

 今年で懲役8年目の悪い意味でのベテラン囚人だ。

 口答えしただけでそんなにも重い刑罰が適用されるのかと、以前キウスやノーランに

 聞いた事があった。

 曰く、それでも軽い方なのだとか。

 貴族の不況を買ったのならば、その場で極刑という方が逆に多いそうだ。

 それ故に、この刑務所に収用されている囚人は貴族達の気まぐれで生かされた人間が殆ど占めている。


 また、ベテラン囚人と言うだけあって、ダグラスは新人囚人の監督役を勤めている。

 今回は確か、看守から俺を呼んで来るようにと頼まれたって言っていたっけ。

 そんな訳で、今所長室に居るのか。

 なるほど、やっと状況を理解できた。


「No0398、新人の監督がなっていないぞ!!」

「す、すみません。おい! 早く所長様にご挨拶しろ!」


 まずいはずい、取り敢えずは返事をしようか。

 殴られるのは会ったときの一回だけで十分だからな。


「所長様、本日はどの様なご用でしょうか?」


 所長――エンマは俺が敬語を使った事に驚いたのか、一瞬驚いた顔を見せると、直ぐに元の仏頂面に戻った。


「お前の処置についてだ。No0429、お前は一ヶ月後の――」


 突如として、辺りに地響きが轟いた。

 地響きは直ぐに収まったので、大したことは無いと割り切ったのか、エンマはその件について部下に調べさせるだけで済ませようとした。

 数秒間で判断と指示をこなして見せた彼の手腕は見事なものだといえる

 しかし、彼は一つ愚を犯した。

 彼は地響きを確認するや否や、部下を連れて逃げ出すべきであったのだ。

 自らの命を守る為に。

 しかし、彼はソレが自らに死をもたらす存在であるという可能性すらも考える事は無かった。

 そしてその判断は、大きく世界の命運を大きく変える事となる。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




 地響きが轟くよりも前、ヨニクは背筋に悪寒が走るのを感じた。

 この感覚には覚えがある。

 忘れもしない、命の危機に直面した感覚だ。


 ――辺りに地響きが轟いた。


 何かが来る、直感がそう告げた。

 俺はその直感に従って部屋の出口へと全速力で走り出した――筈だった。

 俺の体は俺の意思に反して最初の一歩を踏み出す事すらできなかったのだ!!


 考えられる原因は……囚人が全員つけているこの腕輪しかないな。

 今までは青かったのに今は赤く点滅してるし。

 デザインが格好いいからって今まで全く気にして無かったのが仇になったか。

 可笑しいとは思ってたんだ。

 外での警務作業をするのに見張りも何にも無いし、誰も逃げ出そうともしなかった。

 仕組みは良く分からないが、恐らく警務署側にとって不利な行動を抑制する効果があるんだろう。

 つまり、不利になる行動すなわち逃げる事はできない訳だ。


 万事休すか?

 いや、何か手はある筈だ!!

 思い出せ、何か…何か……。



 またしても辺りに地響きが轟いた。

「ゴオォン ゴオォン ゴオォン」と、先程の地響きと異なり規則的な音が幾度もたち、段々とその音は大きくなっていく。

 始めは、前に映画で聞いた恐竜の足音と同じくらいの音量だったが、今ではまるで爆弾でも爆発しているような大音量の轟音へと変わっていた。



 前はどうやって助かった?

 うろ覚えではあるが、スキルを獲得した時に聞こえた声と同じ声が聞こえたような……。

 ああ、そうだ! 確かに聞こえた。

 その声は何と言っていた?

 思い出せ、思い出せ!



 近くで瓦礫が崩れるような音がした。

 反射的にそちらに顔を向けると、思った通り壁のコンクリートが崩れていた。

 コンクリートの下には武装した看守達が三人程下敷きになっていて、何ともムゴイ惨状になっている。

 しかし、誰も助けに行こうとしない。

 この部屋にはエンマに加え、いつの間にか30人程の看守達が勢揃いしているのだが、彼らの視線は下敷きになった仲間の看守ではなく、壁を突き破ったヤツの方へと釘付けになっている。

 その視線を辿っていくと、三メートルはありそうな大きな顔があった。


 ――竜、と言ったらどのようなイメージがあるだろうか?

 恐ろしいと言う人も中には居るだろうが、そんな者は少数派で、多くの人間は強い、格好いいと口を揃えて言うだろう。

 しかし、実際に出会してしまったならば、そんなに悠長な事を言える者などいるだろうか?

 答えは否だ、少なくとも俺はそう思う。

 実際に見た者はまず間違いなく死を実感する筈だ、逃げる事すらも忘れてしまう程の恐怖と伴に――。


「う、うぅう」

「が、あ"あ"ぁ、あ」


 一人、また一人と恐怖のあまり気を失った者達が倒れていく。

 彼らはこの後殺される運命(サダメ)となった訳だが、ある意味彼らは幸せ者かもしれない。

 この後更なる恐怖を重ねる事は無くなったのだから。


 ヤツ――黒い竜はと言うと、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて、人が倒れていく様を観賞していた。

 実際には笑ってなどはいないのだが、直ぐに殺さない所を見ると、心境的には似たような感じなのだと読み取れる。

 それ故、笑っているようにも思えるのだ。


 俺が必死になって意識を繋ぎ止めているために、疎かになった視界に一つ動きがあった。

 流石所長と言うべきか、ふざけるなエンマと言うべきか、ただ一人恐怖に打ち勝って見せたエンマが、懐から例の銃を取り出して竜に向かって撃ったのだ!


 だが、堅そうな鱗に覆われた竜の皮膚を貫く事はできず、エンマの抵抗は虚しく終わってしまった。

 しかし、不幸は連鎖するもので、その小さな抵抗が竜の怒りを買ってしまったのだ!

 竜は短い咆哮を放つと、鋭く長い爪が生えた手をエンマに向かって高速で降り下ろした。

 死を具現化したようなその一撃は、エンマを含めた数人を潰すだけでは飽き足らず、その掌は地面を沈下させ、爪はコンクリートの床を抉った。

 遅れてやってきた衝撃波は更なる恐怖を残った者に植え付け、生きる気力さえも容赦無く削ってゆく。

 気力の尽きた者達が次々に脱落していき、残るのは俺やダグラスを含めて数人となったが、(いず)れも立っているのがやっとの状態で、意識がはっきりしているものは一人もいなかった。


 それは俺も例外では無かった。

 意識は朦朧とし、足元はふらついている。

 何故まだ意識があるのかが不思議なくらいだ。


 圧倒的な恐怖の前に、俺は生を諦めようとした――のだが、直前になって踏みとどまる事となった。

 目を閉じた直後、白昼夢を見たのだ。

 それは、幼き日の記憶。

 唯一の存在との出会いの記憶。

 夢が覚めた時、俺は涙を流していた。

 死にたくない、死んではいけないという思いが後から後から湧き出てきた。


 ――そして、男は今一度願う。自らの救済を。

すみません。

期末考査があったもので書くことができませんでした。

勿論、最近買ったゲームで一狩していた訳ではありませんよ、断じて違います。^^;

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