Ep.3 ゼロ=ヨニク
予想通り、所長というのはエンマのことであった。
所長改めエンマは開口一番こう言い放った。
「お前は何処の国のスパイだ? それともリべリオンの暗殺集団のメンバーか?」
どうやら俺はスパイか何かだと疑われているらしい。見当違いもいいところである。
どちらかと言えば、俺は被害者側だというのに。
生きていたのは嬉しい事だが、異世界に転移をさせるのはどうかと思う。勿論、もちろんね、転移している可能性が高いというだけで信じてはいない。
念のためもう一度言おう、信じていないと。
さて、どうやって誤解を解くか。
いつの間にか、知らない所に転移していました!
うん、無理だな。
転移していたと言っても恐らく誰も信用しないだろう。一笑に伏されるのが落ちだ。
ではどうすれば良いのか。
正直に話してもダメなら、嘘で言いくるめるしかない……か。
あまり嘘は得意では無いのだが、このまま何もせずスパイだなんだと決めつけられるよりは、無駄でも悪あがきする方が良い。当たって砕けろ、だ。
追い剥ぎに遭って、身ぐるみを剥がされてしまい、食料を買うお金も無く、道端で力尽きてしまったのです。
良いのでは? 一応辻褄は合っているし、身分証等が無いのも誤魔化せる。
ただ、追い剥ぎに……って所が少し変だけど、また後で言い繕えばいいや。
長い沈黙の方が怪しく映るだろうしね。
考え付いた言い訳を早速口にしようとした時、
「言い逃れをしても無駄だぞ。どういうふうに使うのかはかは知らないが、武器らしき物を所持していたのは疑いようのない事実何だからな!」
と言って、エンマが自らの机の引き出しから、見覚えのある一丁の銃を取り出した。
紛れもなく、それは以前自分に向けられたモノであった。
トラウマのようなものなのだろう。頭は冷静でも、体はそうはいかない。それを見た直後から、足は竦み、心臓が激しく脈打つのが感じられた。部屋を出てからも、その鼓動は暫く鳴り止む事は無かった。
結局俺は、何の弁解もすることも出来ず、ただ竦み上がっているだけであった。
何も話さなかったことでかえって向こうの確信を招いたと思う。予想が当たったのが皮肉なものだ。
表立ってはそういう措置はしなかったが、向こうでは、スパイか暗殺者ということで片付けられたであろう。最悪である。
戻った先は、昨晩とは違って相部屋であった。昨晩の牢は懲罰房と呼ばれていたし、恐らくこちらが通常なのだろう。
一つの房に入れられるのは3人だが、俺の房には俺を合わせて2人しかいなかった。釈放されたか、人数が足りないのかのどちらかだろう。
相部屋になった男は、牢獄の雰囲気には似合わない銀髪の美男子であった。
この男は、名をメル=キウスと言いそうで、囚人Noは0427。つい先週投獄されたばかりなのだそうだ。
何を仕出かしたのかは知らないが、囚人にしては気の良い男で、俺たちは直ぐに意気投合した。互いに、「キウス」「ヨニク」と名前で呼びあっている。と言っても、俺の方は偽名だが。
何故偽名を名乗っているのかと言うと、
「俺の名前はメル=キウス。よろしくな。アンタの名前を教えてくれ」
と訊かれた時、本名を名乗るのはまずいと判断したからだ。
メル=キウスなど、日本人の名前であるはずが無いし、ここで神崎 学と名乗れば面倒な事にもなり兼ねない。そこで思いついたのはゼロ=ヨニクという偽名。
メル=キウスと同じような雰囲気だし、違和感は無いだろう。ただ、囚人Noの0429から取ったので、バレないかが心配だ。まぁバレたらバレたで、キウスは許してくれると思うが、バレないに越したことはない。
こうして、キウスという友と共に、ヨニクの牢獄生活が始まったのである。
#主人公はスキルの事に気づいていません。頭の中から消えてます。
少しずつ、書いている文章量が増えてます!
この調子で、目指せ1話1万字!!
次回から本格始動予定です。文章量がぐっと上がると思います。(具体的には2、3倍)