Ep.2 現状
考察回です
どういう事だ……?
俺は今囚われている。
意味が解らない。
銃で撃たれて死んだ筈が覚えが無いのに捕まっている。
もう一度言う、意味が解らない。
懲罰房と言われる薄暗い牢に入れられてから、1時間は経っただろうか?
陽光も殆ど入って来ない上、薄暗い灰色をしたこの部屋では時間感覚が狂うので、実際はもっと短いのかもしれない。
とはいえ、その分の誤差を考えても、これだけの時間を費やせば並大抵の理解は追い付くと言うものである。
しかしこの状況は俺の理解を遥かに超えた出来事であり、未だに現状を呑み込め無いでいるのだ。
だが、ここまでで分かった事も幾つかある。
まず、ここはどうやら現実世界であり、天国等の死後の世界の類いでは無いという事。先程エンマに殴られた時も、水らしき液体を掛けられた時も感覚ははっきりしていた。
この事から、天国等にいるのだとは考えにくい。
そして、何らかの理由で違う世界に転移してしまったという事だ。これはにわかには信じ難い。何せそれはアニメや小説の中でしか聞いた事がなかったのだから。
しかし、現実にそれはこうして起きてしまっている。自分の声が頭で響くのもそうだし、エンマが聞いた事もない言語を話していたのもそうだ。ここでは、(記憶が途切れる)前の世界の常識では到底説明出来ない、不可解な出来事が多い。その事が、ここは異なる世界なのだと、雄弁に物語っている。
勿論、予想が外れていて欲しいし、そうであればどんなに嬉しい事か。
だが、先に挙げた事から考えるに、思い違いである可能性は低いだろう。
所謂異世界転移をしてしまったのだ。
さて、次は何故俺は囚われているのか、について考えよう。
異世界転移についてなど、考えてもどうせ答えは出ないだろうし、最も近い現実に目を向けることにしたのだ。
結論から言うと、「不審な人物だと判断されたから捕まっている」と言う予想で落ち着いた。
俺の仮説が正しくて、異世界転移をしているのだとして、転移した直後はどうなっていたのか?
あくまでも、想像の域を出ないのだが、恐らく道端に倒れていたのだと思う。
正体不明の男が突然街中に現れた! 警戒するのは当然というものである。捕まっても何ら不思議では無いだろう。
勿論、確かな情報ではないが、かなり核心に近いと自負している。
色々考えたら、かなりの時間が過ぎてしまったようだ。
先程迄は、鉄格子の隙間からオレンジ色に染まった空が覗いていたのだが、今ではすっかり暗くなっている。そろそろ寝よう。
明日、何が起こるのか分からないので、念のため早めに休養をとっておこうと思う。といっても、今何時位なのかは分からないのだが。まぁ少なくとも以前の俺よりは早いことは間違い無い。
俺はそれ以上考えることを辞め、薄い毛布にくるまり、静かに目を閉じた。
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「囚人No0429! 出ろ! 所長がお呼びだ」
ん? 初めて聞く声だな。誰だろうか?
会社では愛想良く振る舞っているし、自分でもそこそこ人付き合いも上手い方だとは思っている。だから、沢山友達もいるし、家に招待することもある。しかし、朝っぱらから勝手に上がってくるような礼儀のない人間とは付き合ってないし、ましてや誰かを家に泊めるなんて事はしたことがない。
したがって、朝は、俺以外誰もいない筈なのだ。
じゃあこの声の主は誰だろうか?
暫く考えこんだ後、ようやく答えにたどり着いた。
……ああ、俺今牢屋に居るんだっけ。
牢屋ってことはこの声は昨日の三人の内の誰かだろうな。
ところで、所長ってのはあのエンマの事かな? 偉そうだったし。
連行された先は、所長室と言うだけあって、立派な部屋であった。細かい金の装飾が至るところに施されている。所長という位はそこそこ高いものなのだと、この部屋からも容易に読み取れた。
部屋を一通り見渡した後、目の前の男に目を向けた。