Ep.1 囚人No0429
これは……現実なのか?
意識はまだ少しぼやけるが、気を失った後というよりかは寝て起きた時のような感覚に近い。
といっても、気を失ったことなど無いのだが。
いや、今はそんなことどうだって良い、それよりも何故意識がまだ残っているのかが重要だ。
もしかして今は死ぬ寸前で、時間が長く感じる、走馬灯のような状態なんだろうか?
あれ、走馬灯ってそういうものだったっけ?
……まぁ、良い。
それから、他に考えられる考察としたら……
――死んでない?
いや、俺は確かに撃たれて死んだ筈だ。
最後に残った景色と感覚を信じるならば、即死の急所は免れたが、それでもものの数秒意識を取り留める程度だったはず。
それに、万が一俺が生きていたとしても、それ程の重症なのにどこにも痛みを感じないのはおかしい。
以上から導き出される結論は……天国!?
にわかには信じ難いが、他には思い付かないし、もしかしたらもしかしちゃったのかもしれない。
もしそうなら心の準備が必要だ。
落ち着いてから目を開ける事にしよう。
目があるかは定かではないが、感覚は有るのだ。
痛みが無いのに感覚だけがあるのも可笑しな話ではるけれども。
バシャ
何かが顔にかかった。
突然の外界からの干渉に、俺の思考は乱れ思わず身をよじる。
目に入った液体が痛い……ってことは目は確かにあるのか。
液体はと言うと一瞬血かとも思ったが、すぐにそれを否定した。
血にしては冷たいし、そもそも死んだだろうからそれは無い……と。
「■■■■、■■■!!」
謎の液体の次は男の声。天国のイメージとは程遠い野太い声だ。
しかし、言葉は解らない。
今まで聞いた事の無い言語であったのだ。
だが、意味が解らずとも、男が怒鳴っているらしい事は声色からも理解できた。
何故怒っているのかは皆目検討もつかないが、天国で男と言ったら神様だろうか?
いや、きっと違うだろう、さっきのこともあるしこれからは皮肉を籠めてエンマと呼ぶ事にしよう。
[核スキル〈生存本能〉が、言語は生存に関与すると判断しました]
[核スキル〈生存本能〉より、特技〈言語理解〉が派生しました]
[特技〈言語理解〉を常用スキルに登録します]
[登録が完了しました]
ん?
俺の声なのにえらく機械的な冷たい口調……前にもどっかで……。
あ! ああ!!
そういえば殺される直前にも似たような声を聞いた覚えがある。
あの時はそれどころじゃなかったから正直確信はないけど、他に心当たりがないからそうなのだろう。
と言うか、なんで俺の声と瓜二つなんだ?
……まあ、どこで聞いたかとか、どうして俺の声なんだとかはこの際どうでもいいか。問題はその内容だ。
えーと、確かコアスキル生存本能から特技言語理解が派生? しました、だっけ?
スキルってーあの?
男なら誰しも夢見たーあの?
まさかーそんなこと無いでしょ。
死んで頭のネジが一本ハズれてたんだな。
誰かーネジ一本移植して欲しいんですけどー。
例えスキルが実在していて、それを俺が持っているのだとしても、そもそも死んでるから意味無いし!
――ところで、エンマはどうなったんだ? あの後何の動きも無いけど。
ビタン!!
ッ!!?
「イッタ!」
大の大人が思わず声をあげてしまう程、強い衝撃が右の頬に走った。
反射的に右頬を自分の手で庇うと、優しく擦って痛みを和らげる。
一連の動作の後、徐ろに顔を上げ、目の前に立つ大男――否、エンマの野郎を睨みつけた。
そう、エンマは大が付く程の大男なのだ。
生前の俺は180は背丈があったのだが、目の前の男はそんな俺の背を大きく上回っているように見えた。といっても、背丈を比べた訳では無いので断言はできないが、エンマの後ろに侍っているニ人の男と比べて見てもそれは明らかだと言えよう。
エンマは、俺の態度が癇に障ったようで、頬を引きつらせつつゆっくりと口を開いた。
「囚人No0429を一晩懲罰房にぶち込んでおけ」
エンマの言葉に反応して、側に侍っていた男の一人が大男の前に出てきて跪いた。
「ハッ ただ今連行致します」
えっ?
囚人?
連行?
それって俺の事では無いよね!?
何かの間違いだって言ってくれよ!!
………
……
…
ガシャン
「明日の朝に迎えに来る。それまでたっぷりと反省していろ!!」
……はい、俺でした。
#沢山修正しました。修正箇所が多すぎて挙げられませんが、物語に関わるので、称号の獲得を消去した事をここに明記します。
#これからも沢山修正、訂正、改編をしていきます。修正、訂正に関してはあまりに関係が無いので通知を省略しようと思っています(勿論ご要望があれば活動報告の方で明記します)。改編に関してはそれぞれの話の後書きに記載させていただきます。