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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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第6話  原点回帰

もう、早くも、自分がこの世界にやって来て、2週間程が経とうとしていた。


この村でも生活にも、大分慣れてきた。

毎日、殆ど自然なままの食事を取り、日が落ちてからは早く寝て、早くに起きる。

そんな健康的な毎日を送っていた。

今までの、コンビニ弁当を無心に貪り、3交代の仕事の不規則な睡眠時間を強いられていた、生活とは雲泥の差だ。


しかし、一番の問題はやる事がないという事だったが、それに関しては、村人の洗濯を手伝ったり、グレースさん達と供に、山菜取りに出掛けたりする事で解決する事が出来た。

最初は、労働の手伝いをする事には、村人から猛反対を受けたが、適当に理由をつけ、何とか承諾して貰う事が出来た。

流石に、食って寝て、好きな事だけしているのは、どうも気が引けるのだ・・・。


だが、その甲斐もあってか、村人達との関係性はかなり緩和されたと思う。

挨拶を普通に交わせる様になり、時折、世間話に花を興じる事も出来る様になっており、前の様に、肩がこる様な対応も、今では殆どなくなった。


そんな村人との、世間話の中から新しく得られた情報なのだが、この世界には、ポーカ王国、通称王国と呼ばれる中心都市が存在する。

場所は、このイヴァ村の西に位置しており、その都市には、ヒト種が主に、生活しているとの事。

このヒト種は、恐らく、自分とほぼ、同種族と考えていいみたいだ。


そして、例の高貴な方=ヒト種という図式らしく、エルフの上に君臨しているのが、このヒト種らしい。

この世界には、エルフ以外にも亜人種といわれる種族が数多く存在する様だが、その詳細まではまだわからない。


もし、王国に行く事が出来れば、もっと、色々と解るのかもしれない・・・。



そして、今は、水浴び場の川を少し、上流に行った所にある山へ、爆震石と堅砂利というものを取りに来た帰り道。

今日も、案内を兼ねて、グレースさんに手伝って貰い、二人、布袋一杯に積められた収穫物を抱えて歩いている。


この二つは、村の青年に分けて貰ってわかったのだが、古式銃の弾と火薬の代用品に最適であったのだ。


爆震石は、非常に脆い石だが、火に触れると爆発を起こすという変わった性質を持っており、堅砂利は非常に堅いが高熱に晒されていると、液状に溶け、固まる、金属に近い性質を持っている事がわかった。

この二つを用いて、弾丸と火薬を生成して見た所、見事に成功した。


爆震石に至っては、摩擦を起こしすぎない様に、慎重に削り、粉末上にするといった、少し骨が折れる作業があった。

後は、想像以上に爆発が強すぎた為、一度の使用量を見直さなければならない。

しかし、どちらも、この世界では、珍しいものではないとの事なので、これで、当面、弾と火薬の問題は解決する事が出来た。



「手伝って貰って、ほんとに助かるよ。お陰で、こんなに持って帰れる」


横で同じ様に大荷物を抱えるグレースさんに声を掛けた。


「いえいえ、大丈夫ですよ。私の方こそ、今まで村から出る事は、あまりなかったので、とても楽しいです」


彼女はもう、すっかり怯える様子も見せなくなり、普通に会話する事が出来る様になっていた。

慣れて来ると、そこそこに明るい表情も見せる少女だった。


「そういえば・・・同じ位の歳の人もいないな・・・」


村にいるのは、自分より少し上位の者、40歳前後と思われる者、族長を含める老人、と、後は子供数名いるだけだった。

彼女と同じ位の年齢の者一人もいない。


「・・・いえ、それが原因っていう訳ではないんでけど・・・。」


彼女は少し顔を曇らせながら、言い淀んだ。

しまった・・・。あまり、突っ込んではいけない話題だったか・・・。何か、話題を変えようと、頭を巡らせていると。


「私は・・・この村で産まれた訳では、ないんです・・・。」


彼女は小さな声で、話を続けた。


「・・・小さい時、故郷の村が無くなってしまって・・・。それで、イヴァの村でお世話になる様になったんです・・・。」


「でも、ここに来て、長いんでしょ?」

「ええ、そうなんですが・・・。」


これまで接してきた感じから、彼女は決して嫌われる様な子ではないと思う。それとも、他に、まだ自分の知らない何かがあると、言うのだろうか・・・。

すると、彼女は、こちらから視線を外し、再び口を開いた。


「・・・滅びた村から、人が来る事は・・・あまり無いみたいで・・・その、それで、皆に凄く、怖がられているみたいで・・・。」


そういう事か・・・。昔の迷信染みた、疫災を運んで来るみたいな類いか・・・。


しかし、この村の文明のレベルだと、それはよくある事、なのかもしれない。そう思ったが・・・それと似た事は、自分の世界でも、平然と起こっていた事だと気が付く。


浮き出している人間がいると、それを疎む人間は必然と出てくる。

そして、数人に疎まれ始めると、自然と避ける人間が増えて行き、気付けば、いつの間にか、窓際へ追いやられている。

そんな、負の連鎖反応・・・。


だが、それは、多数が集まると、自然と起こる事。

それは、別に人に限った事ではない、集団行動の動物でも良くある事だ。

狼の群れで、いつも残り物しか貰えない者がいる光景、金魚なんかでも、いつもみんなに追い回され、挙句、死んでしまう、何て光景も良く見る。


しかし、人間は知恵がある事で、それが、更に、陰険になるケースなんかも珍しくない。


逆にそれをやめさせようと、動く者が現れた場合、その行為こそが浮く事になり、今度は助けたものが徹底的にやられる。

更に助けられた者もそちらに合流して、めでたくバトンタッチ、なんて事ある。


そんな経験は嫌という程して来た。

学生、社会人、それは終わる事が無くあり続ける・・・人が集まり続ける限り、ずっと・・・。



「・・・レンガ様?」


急に声を掛けられて、我に帰った。すっかり考え込んでしまったらしい。

いつの間にか、うつ向いていた自分の顔を、心配そうにグレースさんが覗き込んでいた。


「ああ・・ごめん!・・・でも、俺は・・・そんな事、全然気にしないから・・・」

「えっ・・・。あ、あの、ありがとうございます・・・。もし、嘘でも・・・とても、嬉しいです・・・。」


そう言って、彼女は少し、哀しそうに笑顔を浮かべた。


・・・これは、ちょっと悪い事、しちゃったな・・・。


あのタイミングで長考してしまった事が、変な誤解を生んでしまったのかもしれない。

しかし、自分には、それ以上、なんて言葉を掛ければいいのか、わからなかった。


そんな、少し気まずい空気になりつつも、もう、村の裏手の水浴び場まで、やって来ていた。

そこで、少しでも、自分の気分を切り替えようと、川で頭を冷やそうと考える。


「そうだ、丁度良いから、少し川で頭を流してくよ。砂利を集めてる時に舞った埃が気持悪くてさ」

「あ、はい。では、お待ちしてますね」

「いや・・・もう、すぐ近くまで来てるからさ、先に戻っててよ」

「そうですか・・・。わかりました。では・・・お昼の準備して、お待ちしてますね」


グレースさんによろしくね、と声を掛け、川の方へと歩を進める。

このタイミングで別れたのも、失敗だったかもと、思ったが、今は、このモヤモヤした気持ちを一新したい気持ちで一杯だった。


抱えていた荷物を川辺に下ろし、勢い良く、川へ頭を突っ込こむ。

纏まりついた、嫌な気分を振り払う様に、激しく頭を洗う。


すると、どこからか、まるで、飛行機が飛んでいる様な音が聞こえてくる。


ゴォォォォォ・・・・


頭を振り、水気を飛ばしながら、空を見渡していると、大きな影が上空を通過して行き、辺りの風を激しく舞い上げた。

その、当然の突風に顔を覆いながら、影の主を確認しようとする。


そこには、赤茶色ののトカゲの様な鱗を携えた、巨大な生物が飛び去って行くのが見えた。


あれは・・恐竜? いや、ドラゴンか!?


その姿は、よく神話等に出てくる、巨大な生物に類似していた。


あんなものまでいるのか・・・。この世界は・・・。


飛び去るドラゴンを呆然と見ていると、ある事に気が付いた。


あれって・・・。村の、方角じゃないか?


ドラゴンが飛び去って行った方角は確か、グレースさんが向かった方角と同じだった。

まさか・・・。

嫌な予感に、全身に鳥肌が立ち、収穫して来た荷物はそのままに、自分のカバンだけを取り、思わず、村へと走り出した。

走りながらも、念の為、古式銃が装填済みか確認する。


頼む・・・。取り越し苦労であってくれ・・・。


祈る様な気持ちで、全速力に村へと、続く森を駆け抜けて行った。






その出来事から、少し時間は遡る。

グレースは一足先に、村へと到着していた。


「あ、ただ今、戻りました・・・。」


グレースは荷物を抱えたまま、広場の脇で洗濯に勤しんでいる人達に、挨拶をする。

声を掛けられた女性達は、その声に気が付き、こちらに振り向く。


「・・・」


その女性達は、グレースの姿を確認すると、無言のまま、会釈のみを彼女に示す。

すると、一人の女性が彼女に尋ねた。


「レンガ様は?」

「あ・・・レンガ様は、今、水浴び場で身体を流して御られます。それで・・・私は先にーー」

「あら、そうなの・・・ご苦労様」


女性はそう短く言うと、視線を戻し、再び洗濯を再開する。

グレースはそんな様子を別に、気にも止めていない様子で、では、と言い残し、その場を後にする。



「はぁ・・・。」


私は、歩きながら、誰にも聞こえない程の溜め息を吐く。

その足取りは重く、ノロノロと今、私が寝泊まりをしている家へと進む。


このやり取り、もう慣れている筈なのに・・・今日はいつもと違う・・・。

確かに、前より・・・皆の態度が、冷たくなっている、気はするけど・・・。


その彼女の予想は当たっていた。

実際、村人の対応は、前にも増して冷たいものになっているのだった。


その切っ掛けになっていたのは、レンガの村への滞在であった。


この村への、貴族の滞在は約20年以上ぶりで、彼が突然訪問した際、村人は大いに困惑していた。

それは、族長も同じで、いきなりの訪問により、何も準備などしている訳も無く、一番の問題である世話役について、相当に頭を悩ませていた。


貴族の世話役の主な仕事とは、滞在中、快適な生活を送れる様、身の回りの全ての世話をする事。

そこには、勿論、性に関する事も含まれている・・・。


その為、適任者には、若くて美しく聡明な女性が選ばれる。

しかし、現在、この村には、その候補となり得る女性はおらず、族長の苦渋の決断でグレースが選ばれる事になった。

何故、苦渋の決断だったかと言うと、彼女は、コミニュケーション能力に欠ける所が、問題視されていたのだ。


事実、レンガも最初、彼女の強度の怯えと、続かない会話に骨を折られていた。

だが、それでも、族長が彼女を選んだのは、村で唯一の若いエルフと、その非常に美しい容姿、それに託すしかなかったからである。


しかし、村の女性達は、当初、彼女が世話役に選抜された時、心で笑っていた。

村の女性達の殆どが、少女の頃、この貴族の世話係を体験しており、その役割を任命される事の、意味を身を持って、理解していたからだ・・・。


だが、いざ、蓋を開けてみると、そんな女性達の期待は大いに裏切られる事となる。


レンガと毎日、楽しそうに過ごす彼女・・・。

そこには、過去に自分達が味わって来た地獄とは、対照的な情景があった。

そして、彼女達のどす黒い感情・・・嫉妬、妬みの感情が、現在のグレースへの態度に繋がっていた。


しかし、まだ若いグレースには、そこまでの理解には及んではいなかった。


「はぁ・・・。」


グレースは、もう一度、先程よりも大きな溜め息を漏らす。


・・・もしかしたら、私は、レンガ様にも、嫌われてしまったのかも、しれない・・・。


自分の過去を話した後に、彼が見せた厳しい表情・・・。

きっと・・・不快な思いをさせて、しまったのだと思う・・・。

もう、レンガ様と過ごした楽しい日々は、帰って来ない・・・。


そんな事を考えると、思わず涙が溢れそうになる。


あの方は、私なんかに・・・とても、優しく接して下さった。

誰かに優しくされた事なんて・・・どの位ぶりだったか・・・。


あの方と一緒にいる時間は、とても暖かで、心地のいい時間だった。

それなのに。


なんで、私は・・・あんな事を話してしまったんだろう・・・。


今になって、物凄い後悔の念に押し潰される。

そして、私は服のポケットから小さな布切れを取り出した。


それは、最初、私の掌に巻かれたいたモノ・・・あの方が私にくれたモノ・・・。


それを見つめていると、いつの間にか、小屋の前に着いていた。

再び、小さな溜め息を漏らしながら、荷物を一旦、地面に置く。


その時。


ドォォン!!!!


物凄い音と共に、複数の悲鳴が聞こえて来た。







村のすぐ裏手まで来ると、直ぐに、異変に気が付く。

幾つも聞こえて来る悲鳴と怒号、次々と空へ立ち上っていく黒煙。


嘘だろ・・・。


息を飲み、古式銃を右手に握りしめ、村の柵を飛び越え、広場へと走る。

そして、広場へ到着すると、前面に広がる光景に唖然とした。


そこかしこから上がる無数の炎、類類と横たわる血染めの死体、そして、その広場中央には、見た事もないくらいの巨大な生物が鎮座していた。


間違いない・・・。先程のドラゴンだ。


その赤い鱗を携える生物は、今、首を地面へ下ろし、横たわる死体達を貪り食べている。

そこから聞こえて来る、ミンチ肉を混ぜる様な生々しい音と、広がって行く血溜まりに、思わず酸っぱいものが込み上げそうになる。


「レンガ様!?」


グレースさんが真っ青な顔でこちらへ、走り寄って来る。

そして、彼女が続けて、何かを言おうとした時。


「やめないか!!!」


族長の叫ぶ様な声が、広場に響き渡った。

レンガはその声に方角を確認しようと、グレースから視線を外した時、村の正面、入り口付近にいる男に目が留まった。


「うわあぁぁぁぁぁ!!!!」


男は喉が裂けそうな程の咆哮を上げながら、ドラゴンに対して真っ直ぐに右手を掲げた。

そして、男の体が発光するのと同時に、その指の隙間に持たれていた小石を発射する。

小石は、男の手を離れると、みるみるその大きさを変えていき、やがて、頭部程のサイズの岩になった。


その岩は、垂れ下がっているドラゴンの首にぶつかり、砕けた。

しかし、ドラゴンは怯む様子すら見せずに、攻撃の主へと、視線を向け、けたたましい程の咆哮を上げた。


グオオォォォォォー!!!!


レンガは、その耳の中を掻き出される様な、激しい音にキツく耳を塞ぐ。

まるで、地鳴りの様に大気は揺れ、その振動が身体を震わせた。


ドラゴンは長い咆哮を終えると、再び口を開く。

すると、男とドラゴンとの間の空間が、蜃気楼の様に歪み始める。


そして、次の瞬間、ドラゴンの口から、その歪んだ空間を男へ向かって進む様に、炎の吐き出された。

全身に炎を纏った男は、躍り狂いながら、やがて地面へ倒れる。

レンガはその光景をただ、呆然と眺めていた・・・。


周囲から、幾つもの悲鳴が上がる。

そして、ドラゴンは、悲鳴の上げる女性の方へ、振り向き、ゆっくりと口を開けた。


・・・よせ、もう・・・やめろ!


「うあぁぁぁぁ!!!」


俺は、無我夢中で叫びながら、こちらへ背を向ける、ドラゴンの後頭部目掛け、引き金を引く。


シュッダン!!!!


弾丸は、ドラゴンの見事に後頭部に突き刺さった。

奇襲に成功した俺は、不敵な微笑みを溢す。


攻撃を受けた事を察知したドラゴンは、ゆっくりとこちらへ振り向き、そして、そのハ虫類独特の目が、自分を射抜く。


嘘だろ・・・。全く効いていない!?


絶望が全身を支配していく。

その恐怖から、全身に鳥肌が立ち、古式銃を持つ手はカタカタ、と小さく震え始める。

そして、ドラゴンの口がゆっくりと、開口されていく。


「うおおおぉぉぉ!!」


今度はドラゴンの背中側から、激しい怒号と共に、エルフ達の多数の矢が放たれた。

ドラゴンは周辺を、尻尾で激しくなぎ払いながら、そちらに向き直る。


その振り回された尻尾に、その場にへたり込んでいた女性や子供達が、次々と、吹き飛ばして行く。


「レンガ様! 早く逃げて下さい!! ここは私達が食い止めます!!」


グレースさんは、俺の肩を掴みながら、叫んだ。

その手は小刻みに震えていた。

いや・・・震えているのは、自分の身体の方なのかもしれない・・・。


「ここで、レンガ様を死なせてしまっては・・・どの道、我らも終わりです。どうか、御気になさらず、逃げて下され!」


今度は、族長がこちらを見ながら、よくわからない事を口走る。

だが、今は、それが意味だ等と、考えている余裕はなかった。

再び、村の入り口付近で、激しく火の手が上がる。


「早く!!!」


グレースさんが俺の肩を強く掴み、再び叫んだ。

俺は、固まってしまった足を平手打ち、歯を食い縛りながら全速力でその場から走り出した。



グレースは、村の外へ走り出すレンガの背中を、優しい瞳で見つめると、消え去りそうな声で呟いた。


「レンガ様・・・。ありがとうございます・・・そして、さようなら・・・。」





俺は転がる様に、森をひたすらに走り続ける。

背後から迫る、形のない恐怖から、ひたすらに走り続ける。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁ!!」


言葉にならない叫びが溢れ出す。

あれ程の恐怖を感じたのは、初めてだった・・・。

絶対に避けられない死・・・そんな状態にその身を晒され、全身の血液は凍りついていた。

今も、あの時の事を思い出すだけで、吐き気が込み上げて来そうだ。


脇目も振らず、全力で走り続けている性で、肺が悲鳴を上げている。

だが、足を止める事は出来ない。

もし、今、足を止めてしまえば、再び、身体は震えだし、恐怖に負け、その場に踞ってしまう気がするから・・・。


そんな時、ふと、彼女の手も、また震えていた事を思い出す・・・。

しかし、その考えを振り払う様に、大きく頭を振った。


「仕方ないんだ・・・こうするしか、無かったんだ・・・。」


その時、自分中から誰かが、語りかけて来た。


<これで、望みが良かったじゃねえか・・・。>


<弱者を踏みつけて生きて行く。それが、お前の見つけた答えだったろ?>


そうだよ・・・。


<世の中で、強く生きて行く奴は、皆わかってる。それがわかんない奴は・・・よく知ってるだろ?>


そうだな・・・。


<大体、力も無い、考える事もしない、そんな奴等は喰い物にされて当然・・・それが、世界の必然だろ?>


その通りだ・・・。


<そんな馬鹿共、助けた所で何の得にも、なりはしない・・・。弱者なんて、所詮、利用されるだけの価値しかないんだからな>


・・・。


倒木に躓き、派手に転倒し、落ち葉で埋まる地面へ、盛大に転がる。

顔を地面に伏せたまま、荒げた呼吸を整える為、何度も深呼吸を繰り返す。


<お前も、今、変わらなきゃ、また弱者人生に逆戻りだぞ? もしくは、犬死にだな・・・。>


「!!」


呼吸が落ち着き、顔を上げると、ここは、いつもの射撃の練習場だった。

そして、目の前にはいつも練習している時、少女が立っていた大木がある。


・・・。


<おまえは弱者か強者か・・・。どちらを選ぶ・・・>


俺は・・・。


父を捨て、去った母の後ろ姿が浮かぶ・・・。

裏切り笑う、友人達の姿が浮かぶ・・・。

自分を避けて歩く、皆の姿が浮かぶ・・・。


俺は・・・。


<ありがとうございます・・・。もし、嘘でも・・・とても、嬉しいです・・・。>


最後に、少女の哀しそうに微笑んだ顔が浮かぶ・・・。


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


空へ大きく叫び、地面に思いっきり拳を叩きつけ、そのまま、起き上がると、再び全力で走り出す。

黒煙が上がる方角へ・・・全速力で走り出す。


「くっそぉぉぉーー!!」


何で、こうなるんだ!

何で、こうするんだ!!

これで、いいんだろ!!

こうしたいんだろ!!

もう・・・どうにでもなれ!!!


もう、語りかける声は聞こえなかった・・・。




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