第6話 原点回帰
もう、早くも、自分がこの世界にやって来て、2週間程が経とうとしていた。
この村でも生活にも、大分慣れてきた。
毎日、殆ど自然なままの食事を取り、日が落ちてからは早く寝て、早くに起きる。
そんな健康的な毎日を送っていた。
今までの、コンビニ弁当を無心に貪り、3交代の仕事の不規則な睡眠時間を強いられていた、生活とは雲泥の差だ。
しかし、一番の問題はやる事がないという事だったが、それに関しては、村人の洗濯を手伝ったり、グレースさん達と供に、山菜取りに出掛けたりする事で解決する事が出来た。
最初は、労働の手伝いをする事には、村人から猛反対を受けたが、適当に理由をつけ、何とか承諾して貰う事が出来た。
流石に、食って寝て、好きな事だけしているのは、どうも気が引けるのだ・・・。
だが、その甲斐もあってか、村人達との関係性はかなり緩和されたと思う。
挨拶を普通に交わせる様になり、時折、世間話に花を興じる事も出来る様になっており、前の様に、肩がこる様な対応も、今では殆どなくなった。
そんな村人との、世間話の中から新しく得られた情報なのだが、この世界には、ポーカ王国、通称王国と呼ばれる中心都市が存在する。
場所は、このイヴァ村の西に位置しており、その都市には、ヒト種が主に、生活しているとの事。
このヒト種は、恐らく、自分とほぼ、同種族と考えていいみたいだ。
そして、例の高貴な方=ヒト種という図式らしく、エルフの上に君臨しているのが、このヒト種らしい。
この世界には、エルフ以外にも亜人種といわれる種族が数多く存在する様だが、その詳細まではまだわからない。
もし、王国に行く事が出来れば、もっと、色々と解るのかもしれない・・・。
そして、今は、水浴び場の川を少し、上流に行った所にある山へ、爆震石と堅砂利というものを取りに来た帰り道。
今日も、案内を兼ねて、グレースさんに手伝って貰い、二人、布袋一杯に積められた収穫物を抱えて歩いている。
この二つは、村の青年に分けて貰ってわかったのだが、古式銃の弾と火薬の代用品に最適であったのだ。
爆震石は、非常に脆い石だが、火に触れると爆発を起こすという変わった性質を持っており、堅砂利は非常に堅いが高熱に晒されていると、液状に溶け、固まる、金属に近い性質を持っている事がわかった。
この二つを用いて、弾丸と火薬を生成して見た所、見事に成功した。
爆震石に至っては、摩擦を起こしすぎない様に、慎重に削り、粉末上にするといった、少し骨が折れる作業があった。
後は、想像以上に爆発が強すぎた為、一度の使用量を見直さなければならない。
しかし、どちらも、この世界では、珍しいものではないとの事なので、これで、当面、弾と火薬の問題は解決する事が出来た。
「手伝って貰って、ほんとに助かるよ。お陰で、こんなに持って帰れる」
横で同じ様に大荷物を抱えるグレースさんに声を掛けた。
「いえいえ、大丈夫ですよ。私の方こそ、今まで村から出る事は、あまりなかったので、とても楽しいです」
彼女はもう、すっかり怯える様子も見せなくなり、普通に会話する事が出来る様になっていた。
慣れて来ると、そこそこに明るい表情も見せる少女だった。
「そういえば・・・同じ位の歳の人もいないな・・・」
村にいるのは、自分より少し上位の者、40歳前後と思われる者、族長を含める老人、と、後は子供数名いるだけだった。
彼女と同じ位の年齢の者一人もいない。
「・・・いえ、それが原因っていう訳ではないんでけど・・・。」
彼女は少し顔を曇らせながら、言い淀んだ。
しまった・・・。あまり、突っ込んではいけない話題だったか・・・。何か、話題を変えようと、頭を巡らせていると。
「私は・・・この村で産まれた訳では、ないんです・・・。」
彼女は小さな声で、話を続けた。
「・・・小さい時、故郷の村が無くなってしまって・・・。それで、イヴァの村でお世話になる様になったんです・・・。」
「でも、ここに来て、長いんでしょ?」
「ええ、そうなんですが・・・。」
これまで接してきた感じから、彼女は決して嫌われる様な子ではないと思う。それとも、他に、まだ自分の知らない何かがあると、言うのだろうか・・・。
すると、彼女は、こちらから視線を外し、再び口を開いた。
「・・・滅びた村から、人が来る事は・・・あまり無いみたいで・・・その、それで、皆に凄く、怖がられているみたいで・・・。」
そういう事か・・・。昔の迷信染みた、疫災を運んで来るみたいな類いか・・・。
しかし、この村の文明のレベルだと、それはよくある事、なのかもしれない。そう思ったが・・・それと似た事は、自分の世界でも、平然と起こっていた事だと気が付く。
浮き出している人間がいると、それを疎む人間は必然と出てくる。
そして、数人に疎まれ始めると、自然と避ける人間が増えて行き、気付けば、いつの間にか、窓際へ追いやられている。
そんな、負の連鎖反応・・・。
だが、それは、多数が集まると、自然と起こる事。
それは、別に人に限った事ではない、集団行動の動物でも良くある事だ。
狼の群れで、いつも残り物しか貰えない者がいる光景、金魚なんかでも、いつもみんなに追い回され、挙句、死んでしまう、何て光景も良く見る。
しかし、人間は知恵がある事で、それが、更に、陰険になるケースなんかも珍しくない。
逆にそれをやめさせようと、動く者が現れた場合、その行為こそが浮く事になり、今度は助けたものが徹底的にやられる。
更に助けられた者もそちらに合流して、めでたくバトンタッチ、なんて事ある。
そんな経験は嫌という程して来た。
学生、社会人、それは終わる事が無くあり続ける・・・人が集まり続ける限り、ずっと・・・。
「・・・レンガ様?」
急に声を掛けられて、我に帰った。すっかり考え込んでしまったらしい。
いつの間にか、うつ向いていた自分の顔を、心配そうにグレースさんが覗き込んでいた。
「ああ・・ごめん!・・・でも、俺は・・・そんな事、全然気にしないから・・・」
「えっ・・・。あ、あの、ありがとうございます・・・。もし、嘘でも・・・とても、嬉しいです・・・。」
そう言って、彼女は少し、哀しそうに笑顔を浮かべた。
・・・これは、ちょっと悪い事、しちゃったな・・・。
あのタイミングで長考してしまった事が、変な誤解を生んでしまったのかもしれない。
しかし、自分には、それ以上、なんて言葉を掛ければいいのか、わからなかった。
そんな、少し気まずい空気になりつつも、もう、村の裏手の水浴び場まで、やって来ていた。
そこで、少しでも、自分の気分を切り替えようと、川で頭を冷やそうと考える。
「そうだ、丁度良いから、少し川で頭を流してくよ。砂利を集めてる時に舞った埃が気持悪くてさ」
「あ、はい。では、お待ちしてますね」
「いや・・・もう、すぐ近くまで来てるからさ、先に戻っててよ」
「そうですか・・・。わかりました。では・・・お昼の準備して、お待ちしてますね」
グレースさんによろしくね、と声を掛け、川の方へと歩を進める。
このタイミングで別れたのも、失敗だったかもと、思ったが、今は、このモヤモヤした気持ちを一新したい気持ちで一杯だった。
抱えていた荷物を川辺に下ろし、勢い良く、川へ頭を突っ込こむ。
纏まりついた、嫌な気分を振り払う様に、激しく頭を洗う。
すると、どこからか、まるで、飛行機が飛んでいる様な音が聞こえてくる。
ゴォォォォォ・・・・
頭を振り、水気を飛ばしながら、空を見渡していると、大きな影が上空を通過して行き、辺りの風を激しく舞い上げた。
その、当然の突風に顔を覆いながら、影の主を確認しようとする。
そこには、赤茶色ののトカゲの様な鱗を携えた、巨大な生物が飛び去って行くのが見えた。
あれは・・恐竜? いや、ドラゴンか!?
その姿は、よく神話等に出てくる、巨大な生物に類似していた。
あんなものまでいるのか・・・。この世界は・・・。
飛び去るドラゴンを呆然と見ていると、ある事に気が付いた。
あれって・・・。村の、方角じゃないか?
ドラゴンが飛び去って行った方角は確か、グレースさんが向かった方角と同じだった。
まさか・・・。
嫌な予感に、全身に鳥肌が立ち、収穫して来た荷物はそのままに、自分のカバンだけを取り、思わず、村へと走り出した。
走りながらも、念の為、古式銃が装填済みか確認する。
頼む・・・。取り越し苦労であってくれ・・・。
祈る様な気持ちで、全速力に村へと、続く森を駆け抜けて行った。
その出来事から、少し時間は遡る。
グレースは一足先に、村へと到着していた。
「あ、ただ今、戻りました・・・。」
グレースは荷物を抱えたまま、広場の脇で洗濯に勤しんでいる人達に、挨拶をする。
声を掛けられた女性達は、その声に気が付き、こちらに振り向く。
「・・・」
その女性達は、グレースの姿を確認すると、無言のまま、会釈のみを彼女に示す。
すると、一人の女性が彼女に尋ねた。
「レンガ様は?」
「あ・・・レンガ様は、今、水浴び場で身体を流して御られます。それで・・・私は先にーー」
「あら、そうなの・・・ご苦労様」
女性はそう短く言うと、視線を戻し、再び洗濯を再開する。
グレースはそんな様子を別に、気にも止めていない様子で、では、と言い残し、その場を後にする。
「はぁ・・・。」
私は、歩きながら、誰にも聞こえない程の溜め息を吐く。
その足取りは重く、ノロノロと今、私が寝泊まりをしている家へと進む。
このやり取り、もう慣れている筈なのに・・・今日はいつもと違う・・・。
確かに、前より・・・皆の態度が、冷たくなっている、気はするけど・・・。
その彼女の予想は当たっていた。
実際、村人の対応は、前にも増して冷たいものになっているのだった。
その切っ掛けになっていたのは、レンガの村への滞在であった。
この村への、貴族の滞在は約20年以上ぶりで、彼が突然訪問した際、村人は大いに困惑していた。
それは、族長も同じで、いきなりの訪問により、何も準備などしている訳も無く、一番の問題である世話役について、相当に頭を悩ませていた。
貴族の世話役の主な仕事とは、滞在中、快適な生活を送れる様、身の回りの全ての世話をする事。
そこには、勿論、性に関する事も含まれている・・・。
その為、適任者には、若くて美しく聡明な女性が選ばれる。
しかし、現在、この村には、その候補となり得る女性はおらず、族長の苦渋の決断でグレースが選ばれる事になった。
何故、苦渋の決断だったかと言うと、彼女は、コミニュケーション能力に欠ける所が、問題視されていたのだ。
事実、レンガも最初、彼女の強度の怯えと、続かない会話に骨を折られていた。
だが、それでも、族長が彼女を選んだのは、村で唯一の若いエルフと、その非常に美しい容姿、それに託すしかなかったからである。
しかし、村の女性達は、当初、彼女が世話役に選抜された時、心で笑っていた。
村の女性達の殆どが、少女の頃、この貴族の世話係を体験しており、その役割を任命される事の、意味を身を持って、理解していたからだ・・・。
だが、いざ、蓋を開けてみると、そんな女性達の期待は大いに裏切られる事となる。
レンガと毎日、楽しそうに過ごす彼女・・・。
そこには、過去に自分達が味わって来た地獄とは、対照的な情景があった。
そして、彼女達のどす黒い感情・・・嫉妬、妬みの感情が、現在のグレースへの態度に繋がっていた。
しかし、まだ若いグレースには、そこまでの理解には及んではいなかった。
「はぁ・・・。」
グレースは、もう一度、先程よりも大きな溜め息を漏らす。
・・・もしかしたら、私は、レンガ様にも、嫌われてしまったのかも、しれない・・・。
自分の過去を話した後に、彼が見せた厳しい表情・・・。
きっと・・・不快な思いをさせて、しまったのだと思う・・・。
もう、レンガ様と過ごした楽しい日々は、帰って来ない・・・。
そんな事を考えると、思わず涙が溢れそうになる。
あの方は、私なんかに・・・とても、優しく接して下さった。
誰かに優しくされた事なんて・・・どの位ぶりだったか・・・。
あの方と一緒にいる時間は、とても暖かで、心地のいい時間だった。
それなのに。
なんで、私は・・・あんな事を話してしまったんだろう・・・。
今になって、物凄い後悔の念に押し潰される。
そして、私は服のポケットから小さな布切れを取り出した。
それは、最初、私の掌に巻かれたいたモノ・・・あの方が私にくれたモノ・・・。
それを見つめていると、いつの間にか、小屋の前に着いていた。
再び、小さな溜め息を漏らしながら、荷物を一旦、地面に置く。
その時。
ドォォン!!!!
物凄い音と共に、複数の悲鳴が聞こえて来た。
村のすぐ裏手まで来ると、直ぐに、異変に気が付く。
幾つも聞こえて来る悲鳴と怒号、次々と空へ立ち上っていく黒煙。
嘘だろ・・・。
息を飲み、古式銃を右手に握りしめ、村の柵を飛び越え、広場へと走る。
そして、広場へ到着すると、前面に広がる光景に唖然とした。
そこかしこから上がる無数の炎、類類と横たわる血染めの死体、そして、その広場中央には、見た事もないくらいの巨大な生物が鎮座していた。
間違いない・・・。先程のドラゴンだ。
その赤い鱗を携える生物は、今、首を地面へ下ろし、横たわる死体達を貪り食べている。
そこから聞こえて来る、ミンチ肉を混ぜる様な生々しい音と、広がって行く血溜まりに、思わず酸っぱいものが込み上げそうになる。
「レンガ様!?」
グレースさんが真っ青な顔でこちらへ、走り寄って来る。
そして、彼女が続けて、何かを言おうとした時。
「やめないか!!!」
族長の叫ぶ様な声が、広場に響き渡った。
レンガはその声に方角を確認しようと、グレースから視線を外した時、村の正面、入り口付近にいる男に目が留まった。
「うわあぁぁぁぁぁ!!!!」
男は喉が裂けそうな程の咆哮を上げながら、ドラゴンに対して真っ直ぐに右手を掲げた。
そして、男の体が発光するのと同時に、その指の隙間に持たれていた小石を発射する。
小石は、男の手を離れると、みるみるその大きさを変えていき、やがて、頭部程のサイズの岩になった。
その岩は、垂れ下がっているドラゴンの首にぶつかり、砕けた。
しかし、ドラゴンは怯む様子すら見せずに、攻撃の主へと、視線を向け、けたたましい程の咆哮を上げた。
グオオォォォォォー!!!!
レンガは、その耳の中を掻き出される様な、激しい音にキツく耳を塞ぐ。
まるで、地鳴りの様に大気は揺れ、その振動が身体を震わせた。
ドラゴンは長い咆哮を終えると、再び口を開く。
すると、男とドラゴンとの間の空間が、蜃気楼の様に歪み始める。
そして、次の瞬間、ドラゴンの口から、その歪んだ空間を男へ向かって進む様に、炎の吐き出された。
全身に炎を纏った男は、躍り狂いながら、やがて地面へ倒れる。
レンガはその光景をただ、呆然と眺めていた・・・。
周囲から、幾つもの悲鳴が上がる。
そして、ドラゴンは、悲鳴の上げる女性の方へ、振り向き、ゆっくりと口を開けた。
・・・よせ、もう・・・やめろ!
「うあぁぁぁぁ!!!」
俺は、無我夢中で叫びながら、こちらへ背を向ける、ドラゴンの後頭部目掛け、引き金を引く。
シュッダン!!!!
弾丸は、ドラゴンの見事に後頭部に突き刺さった。
奇襲に成功した俺は、不敵な微笑みを溢す。
攻撃を受けた事を察知したドラゴンは、ゆっくりとこちらへ振り向き、そして、そのハ虫類独特の目が、自分を射抜く。
嘘だろ・・・。全く効いていない!?
絶望が全身を支配していく。
その恐怖から、全身に鳥肌が立ち、古式銃を持つ手はカタカタ、と小さく震え始める。
そして、ドラゴンの口がゆっくりと、開口されていく。
「うおおおぉぉぉ!!」
今度はドラゴンの背中側から、激しい怒号と共に、エルフ達の多数の矢が放たれた。
ドラゴンは周辺を、尻尾で激しくなぎ払いながら、そちらに向き直る。
その振り回された尻尾に、その場にへたり込んでいた女性や子供達が、次々と、吹き飛ばして行く。
「レンガ様! 早く逃げて下さい!! ここは私達が食い止めます!!」
グレースさんは、俺の肩を掴みながら、叫んだ。
その手は小刻みに震えていた。
いや・・・震えているのは、自分の身体の方なのかもしれない・・・。
「ここで、レンガ様を死なせてしまっては・・・どの道、我らも終わりです。どうか、御気になさらず、逃げて下され!」
今度は、族長がこちらを見ながら、よくわからない事を口走る。
だが、今は、それが意味だ等と、考えている余裕はなかった。
再び、村の入り口付近で、激しく火の手が上がる。
「早く!!!」
グレースさんが俺の肩を強く掴み、再び叫んだ。
俺は、固まってしまった足を平手打ち、歯を食い縛りながら全速力でその場から走り出した。
グレースは、村の外へ走り出すレンガの背中を、優しい瞳で見つめると、消え去りそうな声で呟いた。
「レンガ様・・・。ありがとうございます・・・そして、さようなら・・・。」
俺は転がる様に、森をひたすらに走り続ける。
背後から迫る、形のない恐怖から、ひたすらに走り続ける。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁ!!」
言葉にならない叫びが溢れ出す。
あれ程の恐怖を感じたのは、初めてだった・・・。
絶対に避けられない死・・・そんな状態にその身を晒され、全身の血液は凍りついていた。
今も、あの時の事を思い出すだけで、吐き気が込み上げて来そうだ。
脇目も振らず、全力で走り続けている性で、肺が悲鳴を上げている。
だが、足を止める事は出来ない。
もし、今、足を止めてしまえば、再び、身体は震えだし、恐怖に負け、その場に踞ってしまう気がするから・・・。
そんな時、ふと、彼女の手も、また震えていた事を思い出す・・・。
しかし、その考えを振り払う様に、大きく頭を振った。
「仕方ないんだ・・・こうするしか、無かったんだ・・・。」
その時、自分中から誰かが、語りかけて来た。
<これで、望みが良かったじゃねえか・・・。>
<弱者を踏みつけて生きて行く。それが、お前の見つけた答えだったろ?>
そうだよ・・・。
<世の中で、強く生きて行く奴は、皆わかってる。それがわかんない奴は・・・よく知ってるだろ?>
そうだな・・・。
<大体、力も無い、考える事もしない、そんな奴等は喰い物にされて当然・・・それが、世界の必然だろ?>
その通りだ・・・。
<そんな馬鹿共、助けた所で何の得にも、なりはしない・・・。弱者なんて、所詮、利用されるだけの価値しかないんだからな>
・・・。
倒木に躓き、派手に転倒し、落ち葉で埋まる地面へ、盛大に転がる。
顔を地面に伏せたまま、荒げた呼吸を整える為、何度も深呼吸を繰り返す。
<お前も、今、変わらなきゃ、また弱者人生に逆戻りだぞ? もしくは、犬死にだな・・・。>
「!!」
呼吸が落ち着き、顔を上げると、ここは、いつもの射撃の練習場だった。
そして、目の前にはいつも練習している時、少女が立っていた大木がある。
・・・。
<おまえは弱者か強者か・・・。どちらを選ぶ・・・>
俺は・・・。
父を捨て、去った母の後ろ姿が浮かぶ・・・。
裏切り笑う、友人達の姿が浮かぶ・・・。
自分を避けて歩く、皆の姿が浮かぶ・・・。
俺は・・・。
<ありがとうございます・・・。もし、嘘でも・・・とても、嬉しいです・・・。>
最後に、少女の哀しそうに微笑んだ顔が浮かぶ・・・。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
空へ大きく叫び、地面に思いっきり拳を叩きつけ、そのまま、起き上がると、再び全力で走り出す。
黒煙が上がる方角へ・・・全速力で走り出す。
「くっそぉぉぉーー!!」
何で、こうなるんだ!
何で、こうするんだ!!
これで、いいんだろ!!
こうしたいんだろ!!
もう・・・どうにでもなれ!!!
もう、語りかける声は聞こえなかった・・・。