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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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第5話  未知との遭遇

「ふぅーー。」


やっと、川から部屋へ戻ってくる事が出来、どさっ、と勢い良く腰を下ろす。


・・・なんだか、水浴びに行っただけなのに、凄く疲れたな・・・。


本来、疲れを取る場の筈なのだが、今は余計、疲労度が増した気がする。


丁度、やる事の無い、この時間を使い、古式銃の冊子を読もうかとも考えたが、部屋の明かりは夜になると、備え付けの蝋燭が灯されているだけで、かなり薄暗い。

あまり、読み物をする様な環境では無さそうだ。

する事がないと言うのは、非常に落ち着かないものだ。

どうしたものか、と窓の外を眺めていると、グレースさんが声を掛けてきた。


「・・・あの。」

「ん? なに?」


少し驚いた。

恐らく、彼女の方から話し掛けてくれるのは、これが初めてだった気がする。


「先程は、あ、ありがとうございました・・・。」


彼女は手に巻かれた布をいじりながら言った。

多分、治療の事を言っているのだろう。


「いいよ、それより血は止まった?」


「はい・・・多分、止まっています」


「なら、よかった」


「・・・・」


「・・・・」


相変わらず、会話が続く気配はないが・・・。

すると、今回は彼女が再び、声を上げた。


「あの・・・。」


「なに?」


軽く、デジャブを感じるやり取りだ。


「・・・あの時・・・使われたのは、あの・・・術具、なんですか?」


彼女の口からは聞いた事のない単語が飛び出した。


術具?・・・それはなんだ?


会話の流れから、猪モドキに使った、古式銃の事を言っているのは間違いないだろう。

しかし、これが何なのか、説明する訳にはいかない。

術具が何なのか、聞きたい所ではあったが、上手い言い回しが見つからない。


「そうだよ・・・」


当たり障りのない、短い返答を返す。


「あ、やっぱり、そうなんですね・・・。私、初めて見ました・・・。あの、貴族の方は皆さん、お持ちなんですね・・・」


話が続く事は、嬉しいのだが、自分の返答一つで色々バレる危険性もあり、何か、尋問でもされてる様な気分でもあった。

それは、彼女の口ぶりからすると、貴族の使う何かの様だ。

この世界の武器なのだろうか・・・。


だが、この会話が続きそうな今、絶好のチャンスだとも考える。

慎重にこちらも質問を重ねてみる。


「エルフはさっきみたいな、動物に襲われた時、どうしてるの? やっぱり、弓矢?」

「そうですね・・・。主には・・・弓が多いです。でも、術で戦う方もいらっしゃいます」


・・・術!? 忍者みたいな感じなのか?! それとも、魔法的なものか・・・。


普通の現代人の自分にはそれが、何なのかい、今一、ピンと来ない。

そんな心境に少し、渋い表情をしていると。


「あの、レ、レンガ様は・・・術は見た事はないんですか?」


一瞬、まずったか、とも思ったが、彼女の表情に怪しんでいる様子は無い。

これは、正直に答えても大丈夫そうだ。


「そうだね。実際に見た事はないかな・・・」

「あ、では・・・良ければ、少し・・・お見せしましょうか?」

「え!? 君も使えるの?!」


思わぬ提案に、声が上ずってしまう。

術なんて言う、いかにも神秘的な力だから、かなり使う人を限定するものかと思っていたが、そうでもないらしい。

しかし、実際こうやって目の前で見る事が出来るのは、願ってもない事だ。

俺は、当初の目的を忘れそうになる程、心が踊っていた。


「では・・・」


そう言うと、グレースさんはこちらへ近づいて来た。

すると、彼女は右の掌に水瓶の水を貯めた。


・・・これから、何が起こるんだ・・・。


俺は、そんなサーカスが始まる前と同じ心境で、彼女の動作に注目する。

今度は左手の布包帯を外し、その下の、先程の傷が露になる。

そして、グレースさんは目を閉じると、その身体が淡く発光を始める。


「・・・おお!」


あまりに不思議な現象に思わず、声が漏れてしまう。


更に、グレースさんの右手の水が軽く浮き上がり、生きている様に動き出し、その水を左掌の傷に当てがった。

暫くすると、徐々に発光は収まり、彼女はゆっくりと目を開ける。

そして、左掌を覆っていた右掌を退かすと、先程まで、そこにあった傷が綺麗に無くなっていたのだ。


「おおお!! これは、すごい!」


まるで、一流マジシャンのマジックでも見た様な心境で、思わず拍手をしてしまう。

普通であれば、それは、あまりに現実離れし過ぎて受け入れがたい光景だったのだが、今の自分の身に起きた状況もあってか、案外すんなりと受け入れる事が出来た。


「あ、ありがとう・・・ございます」


彼女は少し、照れながらそう言った。


「このくらいなら・・・村の方も、皆、出来ますので・・・。」


謙遜する彼女の言葉を他所に、俺は凄いものが見れた満足感で満たされていた。

彼女曰く、エルフは皆、術を使う事が出来るとの事。


今のが術だとすると・・・恐らく、術具ってのは術を使う道具って所か・・・。




「このくらいって事は、他にも種類があるの?」

「はい、石や木を使ったものとか・・・他にも色々、あります」


その人によって、適応している属性の様なものがあるみたいで、それは生まれつきの資質の様なものらしい。


「いや、本当に凄いよ・・・」

「いえ・・・わ、わたしなんか・・・後は、樹と土を少ししか、出来ないので・・・。全然だめなんです・・・。」


彼女は少し照れながらも、首を何度も、横にふるふる、と振った。


「樹と土も出来るのか! 是非、見てみたいな」

「あ、はい・・・。いいです、けど・・・今日は外も暗いので・・・。明日でも、宜しいですか?」


彼女の言う通り、もう結構な時間になっている。

思いも寄らないモノを見て、興奮してしまい、時間を忘れてしまっていたみたいだ。


「そうだね。じゃあ、それは、明日楽しみに取って置く事にするよ」


少し、残念ではあったが、これで明日の楽しみが出来た。


「はい・・・。ありがとうございます」


思わぬ形で、この世界の情報を得る事が出来た。

まさか、こんな頂上現象の様な力が、当たり前に存在する世界だとは思っても見なかった。


自分は基本的には、胡散臭い力などについては、どちらかと言うと、否定的な方ではあった。

しかし、あれだけ、はっきりした形で、見せられてしまっては、流石に疑う余地もない。

すると、彼女が伺う様に、こちらへ視線を向けてきた。


「あの・・・。宜しかったら、明日、レンガ様の術具も・・・もう一度、見せて頂いても・・・・いいですか?」


彼女のその提案を聞いて、少し考える。

先程の術なるものに比べれば、見せるだけなら、何ら問題は無さそうだ。

恐らく、術具として持っていれば、これからは、公に身に付けていても、大丈夫だろう。


先の、猪モドキの件もある。

これからは、何時でも、使用出来る様、先に装填して置いた方がいいかもしれない。


「構わないよ」

「ほんとですか!」


そこには、頬を緩ませ、嬉しそうに笑う少女の姿があった。

それは、年相応に明るく、可愛らしい姿で、極度に怯えている彼女の姿は、なかった。


普段、暗く影を落としている彼女の様子見て、思った事がある。

彼女は・・・若くして、何か抱えて生きているのではないかと・・・。


それが、何なのかは、おおよそ、検討もつかなし、図々しく聞く事などは、勿論、出来ない・・・。


でも、そんな彼女を見て、この世界にはまだ・・・自分の知らない、当たり前のルールが、数多く存在しているのだと、いう事はわかった、気がした・・・。


その夜、蝋燭の明かりが消えた一室で、彼女は床に、足を抱え、胎児の様に身体を丸めて眠っていた。

何かから身を守る様に、何度も、身体を丸め直す、彼女にそっと、毛布を掛けた。


何で、そんな事をしたのかは、自分でも、よく、わからなかった・・・。


でも、その夜は、久しぶりによく眠れた気がした。






翌日、手早く朝食を取り、今日はグレースも一緒に、昨日の練習場へと来ている。


そして、早速、昨日、彼女が話した、土と樹の術を見せて貰った。

土術は砂利を噴射、触れている周辺の地形を変えたり、ぬかるみを形成したりと、補助的なものが主であった。

しかし、樹術は、それとは対照的に、ツタを目標物に絡ませたり、術で強化された枝を飛ばしたり等、やや攻撃的な術といった所だ。


次々と術を披露する度に上がる、自分の歓喜の声に彼女は終始、照れている様だった。


そして、一通り術を見せて貰い、今度はこちらが披露する番になる。

古式銃を取り出すと、彼女に見える様に掌に水平に置く。

その簡単な装飾が施されている古式銃を、彼女は、しげしげと見つめた。


「すごい・・・。不思議な形ですね・・・。この、光っているものは何ですか?」


彼女の指が、側面にある、金属で出来たライオンを模したエンブレムを示した。


「これはただの飾りだよ。強さの象徴を表してるみたいで・・・だから、強そうな動物が彫ってあるんだ」


・・・確か、そうだった気がする。


「そうなんですね・・・。確かに、強そうです。それに・・・すごく、綺麗です・・・。」


余程、そのエンブレムが気に入ったらしく、その視線はエンブレムに釘付けになっていた。


「じゃあ、撃って見せるから、少し、離れてて」


今度は射撃を披露する為、彼女を後ろの木まで下がらせる。

昨日、散々撃ち込んだ倒木に、銃口を向け、撃鉄を下ろし、引き金を引いた。


シュッダン!!


彼女はきゃっ、と小さく声を上げ、耳を塞ぐ。

弾丸は倒木に深く突き刺さり、また、新しい穴を一つ、形成していた。


「び、びっくりしました・・・。近くで聞くと、凄く大きな音なんですね・・・。」


彼女はふー、と息を吐き出し、胸を撫で下ろしている。


「慣れないと、音が少し、怖いかもね」


そう言いながら、倒木へと近づき、今、着弾した部分を彼女に示す。


「あ・・・。ここに当たったんですね・・・すごい、深い穴が開いてます・・・。」


彼女は興味しんしんで、弾丸が入り込んだ穴を、しきりに覗き込んでいる。


「これが・・・術具なんですね。感激です・・・。」


こちらには、重火器の類いは存在していないのだろうか・・・。

まぁ、この文明のレベルでは無さそうではあるが。


「王国の方では、こういう術具が流行っているんですか?」


王国・・・。

また、初めて聞く単語が飛び出してくる。

その言葉の感じからして、都の様な所だとは思うが・・・。


「・・・これは、個人的に作ったもの、だからさ・・・」


勿論、嘘八百である・・・。

しかし、都を知らないとは、流石に言えない。

今は、この返答が無難な所だろう。


「えっ! 手作りなんですね!・・・凄いです!」


そんな自分の心中とは裏腹に、純粋に褒め、感激する彼女の様子に心が痛い。


その後も、あれこれ、雑談した後、古式銃の練習をする事にした。

後ろで、グレースさんがずっと眺めているものだから、少しやり辛いが・・・。


次の日から、彼女が練習に付いて来る様になった。


別段、断る理由もないので、そうしている内に、付いて来るのが当たり前となり、今では、その光景がすっかり定番化してしまっていた。


・・・誰かと、こんな風に時間共有するのは随分、久しぶりだった・・・。俺も、彼女も、多くの話をするわけでは無い。でも・・・。この時間、この瞬間に、どこか・・・安心して自分がいる。そんな気がしていた。



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