エピローグ 希望へ向かう明日
しばらく時間が流れた・・・。
もう嵐は過ぎ去り、それと同時に朝日は顔を出し、雨に濡れた大地を輝かせている。
ようやく、長く壮絶だった夜も終わりを告げていた。
治療を終えたレンガは、グレースの肩を借りて、ゆっくりと起き上がった。
「グレース、ありがと。お陰で傷もすっかり治ったみたいだ」
そう言って腕をグルグルと回して具合を確認してみる。しかし、そんなレンガの様子とは対照的に、二人はレンガに怪訝な眼差しを向けていた。
「レンガさん・・・。さっきはどうしちゃたんっすか? なんか、いつもレンガさんじゃないみたいだったっすけど・・・。」
確かに、シーデの言葉の通り、あの時の自分は端から見たら少し・・・いや、かなり異常だったのだろう。でも、その理由は簡単だ。自棄になっていた。それだけだ。
「いや・・・あの時はなんか、全てがどうでもよくなっちゃっててさ・・・。その、ゴメン・・・。」
何やらしまらない感はいなめなかったが、上手く言葉に出来ない。しかし、グレースはそれでも何かに気が付いた様に視線を動かした。
「あ・・・。そうですね。私も・・・少しわかるかもしれません・・・。」
そう言うと、彼女は静かに視線を落とした。
そうか・・・そうだよな。辛いのは、哀しいのは俺だけじゃないんだ・・・。そんな簡単な事も分からないで、一人で暴れて、勝手に行動して。俺はバカだったな・・・。
すると、暗くなり始めた空気を察してか。シーデが突然、いつも通りの明るい声を上げた。
「でも、あれっすね! レンガさんがあんなに強いとは思わなかったっす! 敵さんのほとんどはレンガさんが倒しちゃったじゃないっすか! もう今度からは、レンガさんが前衛で闘ったほうがいいんじゃないっすか?」
「いや、それは勘弁してくれ・・・。」
ゲラゲラと笑うシーデの冗談をキッパリと断る。
あんなのが、毎回出来るわけは無い。今、思い返してみると、あの時、自分がいかに無謀な闘い方をしていたか、よくわかり、今更に恐怖すら込み上げてくる。
もうあんな想いはしたく無いもんだ・・・。
「レンガ様、他にはお怪我はありませんか?」
すると、グレースが血に塗れている自分の姿を心配そうに見回しながら声を掛けてくる。
「ああ。多分、大丈夫かな。でも・・・怪我はないけど。この格好は、ちょっとまずいよな?」
大量の血と雨を吸ったTシャツと上着がぴったりと身体に張り付き、とても気持ちがいいとは言えるものではなかった。
シーデはそんなレンガの姿を改めて見ると、盛大に顔をしかめた。
「うわ~。これはまずいっすよー。知らない人なら絶対避けられるっすよ~。その姿は」
彼女の言葉は大方間違ってはいない。この全身血だらけの姿、これじゃ、大量殺人鬼と見られて言い訳が出来ない・・・。
少し迷いながらも、上着とTシャツを脱ぎ捨てる。これで、慣れ親しんだ日本のTシャツともお別れか・・・。
グレースは、そんなレンガの突然の行動に思わず目を伏せる。
「ちょっ! レンガ様ッ! いきなり何をッ!?」
「うわ~。レンガさん、大胆っすね~」
そんなグレースの様子とは対照的に、シーデは楽しそうにレンガを眺め続けている。
そして、辺りに転がる騎馬兵の一番清潔そうな内着を取り、それを着る。そして、リーダーの男が羽織っていた少し大きめの紺のフード着きのコートを上着の代わりに羽織る。
サイズは、悪く無さそうだ。
その姿を見て、二人が諸々の感想を口にして来た。
「あ、レンガ様。とてもお似合いですよ」
「お! なかなかいい感じじゃないっすか! いつものヘンテコな服より全然いいっすよッ!」
笑顔で褒めてくれるグレースとは、またも対照的にシーデは褒めながらも余計な一言をしっかりと付けてくる。
俺からすれば、お前の格好の方がよっぽどヘンテコだっての・・・。
露出が極端に激しく、只、布切れを巻いているだけにも見えるシーデにだけはそんな事は言われたく無かった。
当のシーデ本人はそんな感想など知らず、未だに一人、ゲラゲラと笑っている。
「じゃあそろそろ、出発するか」
辺りに転がっていた古式銃とカバンを拾いながら、二人に促す。二人はそれに応じると、残された馬に各々跨っていく。
昔、幼い頃に祖父に連れて行かれた乗馬教室を思い出しながらも、馬を走らせていく。
晴れ渡る中で、頬に当たる風が気持ちいい。
この世界にやって来て、本当に色々なことがあった。その中で苦しみ、喜び、少しずつ前に進んできた。
それは前の暮らしで、自分が出来なかった事。いや・・・してこなかった事だ。
人は他者と関わる事で、何かを見つけていく。それも、いい出会い。悪い出会い。様々なモノがあるだろう。
だが、そのどれにも無駄なモノなどは、一つも無い。
中には後悔したくなる様な、最悪なモノもなるかもしれない。しかし、それもまた、大事な一つのスパイスになり得るのだ。
その出会い、交流の中で何を考え、何を感じたのか・・・。それが大事なのである。
全てを遮断し、閉じ籠っていても、その先には何もありはしないのだから・・・。
焦る必要など無い。周りと比べる必要なども無い。自分のペースで構わない。しっかりと、確実に一歩を踏み出し続ける事、周りに流されずにしっかりと進む事が大事なのである。
その踏み出した一歩がどこへと続くのかは、誰にもわからない・・・。
もしかしたら、その先には悲惨な未来が待っているのかもしれない。でも、それでも構わない。それが自分で決めた事なのだから。
行き詰まった時、それはその時にまた考えて進めばいい、只それだけの事なのだから。
だから、俺はもう・・・迷わない。俺は今、出来る最善の選択肢を選んで進む。それだけだ。
そう。それこそが、俺の殻を破ってくれた少女が自分に教えてくれた事なのだから・・・。
「レンガ様。どうかしましたか?」
「ボケッとしてると、置いていっちゃうっすよー!」
いつの間にか、後ろを走っていた自分に、二人の少女が声を上げてきた。
「なんでもないよッ! よし! 行くぞッッ!!」
レンガの顔は今、雲一つない空の様に澄む渡っていた。馬が掻き上げる水滴が、太陽の光に反射して宝石の様に輝く。
そして、更に速度を上げた三頭の馬達は、薄く虹が架かる空の下を並んで駆け抜けて行った。
希望のフリントロックをここまで読んで頂きありがとうございました。
物語は続編の《闇悦のフリントロック》へ続きます♪




