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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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第3話  祖父の贈り物

お互い、簡単な自己紹介を終えた後、グレースは何かに気が付いた様に声を上げた。


「あ・・・お水をすぐに汲んでまいります・・・ますので、すみません!」


それは、机の端に置かれていた木で出来た水瓶、どうやら、それが空になっていたみたいだ。


「あ、そんなに慌てなくてもーー」


だが、彼女はこちらの返答も聞かずに、何度も謝りながら部屋から出て行った。


なんなんだ・・・一体・・・。


少女の態度、口調から自分があまり良くは思われていないと感じて、少し凹む。

机の前に座り直し、ふぅ、と大きな溜め息を吐く。


一服しようと、ポケットを探るが、部屋には灰皿がない事に気が付き、まぁいいかと、諦める。

もう一度、携帯の電波をチェックしたが、相変わらず、県外のままなので、今度は節約の為、しっかりと電源を切って置く。


まぁ・・・ここが、地球じゃないなら、携帯はもう二度と使えないだろうけど・・・。


そういえばと、ここまで持って来た箱の存在を思い出し、部屋の隅に運び込まれていた段ボール箱を手繰り寄せる。


どうせ、また、アルバムとかガラクタが出てくるんだと思うけど・・・。


そんな悪タレをつきながら、開封していくと、中には、更にもう一つの箱が入っていた。


なんだこれ? 箱の中にまた箱?


更に、その中からは、金属で出来た丈夫そうなアタッシュケースが出て来た。

そのアタッシュケースを取り出し、机に置き、ロックを外して開封する。


!!


俺は中に入っていた物を見て、驚愕する。

そこには、生前、祖父が大事にしていたフリントロック式の古式銃が2丁が綺麗に納められていたのだ。


じいちゃん・・・重火器を押し入れの段ボールに仕舞うなよ・・・。


相変わらずな祖父の、この適当さを感じて、苦笑いが漏れる。祖父はこの銃をずっと大切にしていた。


確か・・・これは、弾に何でも代用出来る凄い銃だとか言って、自慢してたっけ・・・。

この銃は大昔、確かアメリカの独立戦争前後に活躍していた古式銃と呼ばれる代物。所謂、骨董品みたいなモノだ。

箱に綺麗に収められている銃はしっかりと磨かれて、まるで新品のような状態を保っている。相当に大事に保管していたのだろう。

これは、普段ならば、ただ危ないだけの物としか考えないが、今、この緊急事態ではこれが必要な物の様な気がした。

何たって、完全に未知の土地だ、もしかしたら、命を脅かされる瞬間が来てしまうかもしれない。

今は、そっと祖父に感謝する。


一瞬、村の人の前でこれを持ち歩くのは、まずいかと思ったが、弓矢を携帯している人達だ、おそらく平気だろう。

第一、これが何かもわからない筈だ。


他には、箱を敷き詰める様にある大量の火薬入りのケース、金属の弾、それと腰に付ける為のホルスター。

後は、弾を形をかたどるスプーンの様な道具と、一冊のファイルがあった。

そのファイルをバラバラとめくって見ると、銃の構造などが細かく記載されていた。

暇な時にでも、読んで置こうと、パシッっと閉じてから机の隅に置く。


そういえば・・・。


放浪から戻った祖父から、半ば無理やりに、手ほどきを受けたのを思い出す。

全く、人生、何が役に立つかわかった物じゃない。


この銃は基本、単発式で一発、撃つごとに火薬と弾を装填する必要がある。

しかし、この古式銃は銃筒が上下に二つ並んでおり、先に装填して置く事で、連続2発まで撃つ事が出来る様だ。


弾はスプーン型の工具の上で金属等を炙り溶かして作る。

その気になれば、筒に入りさえすれば、何でも発射出来るとの事だ。

その辺が、祖父の言う、この銃の凄い所らしい・・・。


普通ならば、一発ずつに装填がいる銃など、今さら使い物にならないだろう。

しかし、今の現状・・・この現代文明から遮断された現状では、この銃のメリットが十二分に発揮されそうだ。


アタッシュケースに敷かれていた布地の肩掛けカバンにファイル等を詰める。

銃を机の上でいじりながら、少し練習して置いた方がいいな、と考えていた時、水瓶と木のコップを持った少女が戻って来た。


「お、待たせ致しました」


彼女のコップに水注ぐその手は、少し震えている様に見えた。


「ありがとう・・・」


差し出しされたコップを受け取り、一応、中身を覗き込む。


・・・うわ。


大変、黄色がかった水。

恐らく、浄化などは一切していないのだろう・・・。


これは・・・飲んでも大丈夫なのか・・・。


日本に住んでいる時に、これを出されたら、まず、飲まない。

しかし、現状では仕方ないのか・・・。


グレースが心配そうにこちらを見ていた。

仕方ない、と覚悟を決めて一気に飲み干す。

少し、生臭い感じもしたが、喉はかなり乾いていた為、それは結構、美味しいかった。


「た、只今、朝食の準備もしておりますので・・・しばし、お、お待ちくださいませ」


そう言うと、もう一回、水を注ぐと、水瓶を抱え、再び部屋を後にして行った。


朝食・・・どんなものなのだ・・・虫とか出てきたらどうしよう・・・。


恐ろしい想像をして、思わず、鳥肌が立つ。

それ以上、あまり考えない様にと、違うことに考えを巡らせた。


ここの情報を得る為にも、せめて、あの少女と少しはコミュニケーションを取れる様にしたいけれど、今のままではまともなキャッチボールすら、出来そうもない。


こちらの投げたボールを全て避けてしまうのだから・・・。


こういう心を閉ざした相手との、コミニュケーションで大事なのは、まず同じ目線に立つ事だな。

昔に読んだ本に、そんな事が書いてあった気がする。


暫くして、木のおわんにスプーンを持って少女が戻って来た。


「こ、こちらがご朝食になります!」


毎度の少女の辿々しい反応に心を痛めつつも、お礼を言って、それを受け取り、スプーンを差し込んで中身を確認して見てから、少しほっとする。


虫などが浮き上がって来る事はない様だ・・・。

見たところ、草の煮汁・・・何かの肉も入っているみたいだが・・・。


一瞬、詳細を尋ねようと思ったが、ぐっと踏み止まる。

形的には、小動物の肉。

少なくとも、拒否反応を起こす見た目ではない。

しかし、面と向かってそれは蛇です、何て言われたら、とても食べる気が失せてしまう。

覚悟を決め、一口食べてみる。


食感は脂身が少なく、ささみの近い感じで、別段、臭みもない。

これなら、食べられそうだと、スープと一緒に食べ進む。


意外と、普通に食べれるが・・・まったく味がない。

葉っぱから出た風味、苦味はあるのだが、それ以外、何の味もなかった。

現代人特有の調味料に舌をやられている状態だから、余計そう感じるのかもしれないが・・・。


残りはスープが少しだけになり、ふと、気が付いた事があった。


「君は、朝食は食べないのか?」


今も立ったまま、こちらの食事をただ、見ている彼女に尋ねる。


「わ、わたしはレンガ様のお食事を済ませてから・・・頂きます」


よくある主従の関係みたいなものなのかと考えながら、残ったスープを一気にかき込んで、空になったおわんを少女に手渡した。


「ごちそうさま」

「あ・・・では、失礼いたします」


そう言うと、再び部屋から慌しく出て行く。

そして、今度は自分の分だと思われる、おわん持ち、部屋に戻って来た。


「お食事・・・失礼致します」


深々と頭を下げ、何やら、部屋の隅に立ったままで、食べ始めようとしている・・・。


「ちょっ! そこで、食べるの?」


彼女はその声にびくっ、と身体を跳ね上げる。


「え! すみません! 何かダメだったでしょうか!?」


「あ、いや、ダメって事じゃないけど、折角だから、こっちで座って食べなよ・・・」


「え・・・で、でも・・・」


視線を外しながら、言い淀む彼女を半ば無理やりに促した。


「立って食べられても逆に落ちつかないからさ・・・」


「はい・・・では・・・失礼致します」


そう小さく呟いてから、彼女は対面に腰を下ろし、やがて、ゆっくりと食べ始めた。


何となく少女のおわんを見ると、具はかなり少なく、肉などは入っていないみたいだ。

恐らく、俺の食事は、かなり奮発してあったのだろう・・・。


少女が食べ終わったのを確認すると、念願の灰皿を要求してみる。


「何か、汚れてもいい様な小皿ってあるかな?」


「は、はい! 直ぐにお持ち致します」


食べ終わった自分のおわんを持ち、再び部屋から出ていくと、直ぐに小皿を持って戻って来た。


お互い、朝食も終った所で、少し話題を振ってみようかと考える。

戻った少女から小皿を受け取ると、窓の方へ移動してライターで点火して吸い始める。

すると、それを不思議なもの見る様な、視線を感じた。

これは丁度いいとばかりに、話し掛けて見る。


「これが何か気になる?」


「い、いえ・・・」


「これはタバコって言って、気分を落ち着けたりする物なんだ。まぁ・・・身体にはあまり良くないみたいだけどね。こっちには、こういう物はないのかな?」


「も、申し訳ありません・・・私の知識では・・・わかりません」


「そっか・・・。」


「はい・・・申し訳ありません・・・。」


「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・・・」




それで今回のトークは終ってしまった。

あまりの余所余所しい反応に、変な汗が出てくる。


まぁ・・・急ぐこともないか・・・もう、時間なんか山程あるんだしな。


前向きに自分にそう言い聞かせた。


・・・まだ、慌てるような時間じゃない。

どこからかそんな励ましの声が聞こえた気がした。





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