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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第3章 希望への革命
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第38話 ヒトの欲望に果てに・・・

広場では、動ける者達が忙しく駆け回っている。


至る所に、転がる解放軍兵たちの生死の確認し、生きている者は担ぎ、馬車へと運ばれていく。

グレースは、一早く馬車に入り、担ぎ込まれてくる者達の治療に専念している。


しかし・・・運び込まれた者で生存が確認出来た者は、たったの2名だけだった・・・。


「・・・。」

そんあ現実に、レンガの気分は先程までとはうって変わり、沈み込んでいた。


・・・これは、果たして勝ったと言えるのだろうか・・・。

そんな想いに駆られ、立ち尽くす。

すると、誰かが肩を叩いた。


「レンガ君。君の機転のお陰で、何とか切り抜ける事が出来た。この場にいない者達を代表して君に、礼を言わせてくれ」

そう言うと、エギルは深々と頭を下げた。


「あ、いえ・・・。でも、こんなに、犠牲者が出てしまって・・・。何と言えばいいのか・・・。」

俺は、そんなエギルの言葉を素直に受けとる事が出来なかった。


「そうか・・・。君はまだ、こういう闘いには慣れていないのだったな・・・。」

「・・・はい」


同じ人間と闘うのは、これが二度目。慣れているわけは無い・・・。


「いいか、レンガ君。冷たい言い方かもしれないが、これは仕方の無い事なんだ・・・。それが闘いというものなのだ。」

「そう、ですね・・・。」


彼の言いたい事はわかる。

命のやり取りとはこういうモノ。皆が死に物狂いで闘う・・・。それは相手も同じだ。

自分達だけが、被害も受けない闘いなど存在しないのだと・・・。


「まぁ、そう言っても簡単に割りきれるモノでは無いか・・・。」

「はい・・・。」


彼の言う通り、割りきりれない・・・。どうしても、他の方法があったのでは無いかと考えてしまう。

今更、そんな事を考えても意味が無いとわかっていても・・・。


「慰めにはならないかもしれないが、君に一つ、教えておこう・・・。」

そう言うと、エギルはもう一度、自分の肩にその手を置く。そして・・・。


「今は、ここにある自分と仲間の命を祝福しよう。そして、散っていった者達に変わって生きていく。それだが残された者に出来ることだ・・・。」

「そう・・・そうですね。」


もう、無くした命は帰っては来ない。

だから、せめて彼等がここにいた事を、その勇姿を忘れない。自分に出来るのは、それだけなんだな・・・。

そして、俺は祈るように瞳を閉じた。




それから、俺は馬車に向かって歩いていた途中である事を思い出した。


「あ・・・。ドミヤ・・・。」

戦闘の最中に飛ばされたドミヤをすっかり忘れていたのだ。

確か・・・詰め所だったかな・・・。

記憶を辿り、その所在を思い返してみる。こんな事をドミヤが知ったら、さぞ、怒ることだろう・・・。

そして、文句を言われる覚悟を決めると、ドミヤの飛ばされた詰め所の方に足を進める。



壊された入り口を潜ると、相変わらず中は荒れ放題だった。そこらじゅうが崩れており、奥は明かりも無く、真っ暗だ。

これは、探すだけでも一苦労かもしれない。そう思って、暗闇に向かって声を上げてみる。


「おーいッ! ドミヤー! いるかー?」


暫く待ってみるが、何の応答も無い。

仕方ない。入って探すか・・・。

これから待ち受ける困難な作業に、軽い溜め息を溢しながら、暗闇に一歩踏み出そうとした。

その時・・・。


「そこで、止まれ・・・。」

暗闇から唸るような低い声が聞こえて来た。これは、明らかにドミヤの声では無い・・・。

まさか、この状況でまだ敵が残っていたのか・・・!?

そう考え、腰の古式銃に手を伸ばそうとしたが・・・。


「おい、妙な気を起こすな・・・。コイツがどうなってもいいのか?」

続けて放たれたその言葉に思わず、動きを止めた。

コイツって、まさか・・・。

中は依然として暗く、姿は確認出来ない。だが・・・この人物の指す者の正体は、恐らく・・・。


「よし・・・。では、そのまま広場に戻れ。ゆっくりな・・・。妙な動きを見せたら、わかっているな・・・。」

俺は、その命令に大人しく従うしか無かった。

男が指示した通りに、向きを変えず、ゆっくりと後退して広場に出る。


そして、やがて自分が広場の中央辺りまで出ると、その声の主もゆっくりと姿を現す。

そこに現れたのは、先程のマンティコアを開放した男。瓦礫に埋もれて死んだ筈の男だった。そして、その左手には、気を失ったままのドミヤの姿と、右手に持った剣を彼女の顔に突きつけていた。


何故、コイツが生きている!?

そんな疑問だけに、頭を支配される。更に、その男は怪我をしている様子すらも微塵もない。


馬車の元にいるエギルが、レンガの方角で起きている異変にいち早く気が付き、声を上げようとしたが、それを遮る様に男が叫んだ。


「ここにいる全員ッ!! その場から一歩も動くなッッ!!」

その声に誰もがこの男の存在に気が付き、今の状況を理解する。それから、男は自分に一番近いレンガをもう一度見た。


「おいッ! お前の背中にある妙な術具をそっちへ投げろッ!」

レンガを見据えると、剣を右に振って促す。レンガはその要求に一瞬、躊躇したがすぐにそれに従う。

今、ここでこの男に逆らうのは、得策では無いと考えたからだ。

レンガは男の要求通り、地面に2丁の古式銃が放る。そして、満足そうな表情を浮かべる男を確認すると、レンガはゆっくりと口を開いた。


「お前は何故、生きている。いや、少なくとも相当の怪我していた筈だ・・・。」

男はレンガの問いを聞くと、不敵な笑みを浮かべてから語り出した。


「なに・・・。俺は水の術具使いでね。戦闘に不向きなクソ術だとばかり思ってはいたが・・・こんな時に役に立つとはな。」

言い終えると、右の肩の衣服をめくって見せる。そこには、かすり傷の様なものがあるだけだった。


迂闊だった・・・。水の術具なんて物の存在を考えていなかった・・・。

すると、今度はエギルが男に静かに尋ねる。


「お前の目的は、なんだ?」

その言葉に男は、突然、歪んだ笑みを顔一杯に浮かべた。


「な~に・・・。」

そう言うと、ドミヤの頬にゆっくりと剣の先を刺した。そして、その先端からドミヤの血液が流れ出し、刃を濡らしていく。

その光景を目前に見て、レンガは思わず、叫んだ。


「やめろッッ!!!!」

男はレンガの声に応じて、剣を引き抜くと、ゆっくりとレンガに向き直る。


「怒るなよ・・・。ほんの冗談さ。」

「てめぇ・・・。」


レンガは男の行動に低く唸り声を上げる。しかし、男はそんな様子とは対照的に、軽く鼻で笑う。


「・・・そうかそうか。そんなに大事なヤツなんだな・・・。これは、思った以上の収穫だな・・・。」

男のそんな囁きを耳にして、レンガは猛烈に後悔する。

やられた・・・。コイツ、俺たちの反応を試しやがったんだ・・・。



「全員、よく聞けッ!! 今から連れ出したエルフ、全員の変換を要求するッ!! どうだ、わかったかッ!!」


その男の要求を聞いて、レンガは苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

そんな事・・・受けられるワケがないじゃないか!? ドミヤ、一人に対してエルフ全員・・・無茶な要求過ぎる! でも・・・だからと言って・・・。


すると、エギルがすかさずに、声を上げた。


「それは無理だ・・・。もう、エルフ達を乗せた馬車は大分前に、ここを出てしまっている。今からではどうにもならん・・・。」

そんな言葉を聞いて、男は笑いながら、更に言葉を重ねる。


「どうせ、落ち合う所は決めてあるんだろ? そこに使い出せば、それで済む話だ。適当な事を言ってうやむやにしようたって、そうはいかないぞ・・・。 それとも、一刻も早くコイツの生解体ショーでも見たいのか?」

そう吐き捨てると、再びドミヤに剣を向けた。


「くッ・・・。」

エギルは男の行動を見ると、その口を紡いだ。


コイツ・・・。見た目に似合わず、なかなか考えてやがる・・・。

俺は、そんな感想を漏らしつつも、男を睨む。

だが、このまま時間だけが立てば、いずれエギルさんは決断してしまうだろう・・・。交渉内容的に考えても、ドミヤを諦め、攻撃を指示を出すということは明白・・・。


どうする・・・。どうする・・・。

そんな考えだけが頭をグルグルと回り続ける。だが、この状況で突破口など易々と見つかるワケも無い。


すると、突然、グレースが叫んだ。


「わたしと、その子と人質を交換してくださいッ! その子は怪我をしてるんです。だから・・・お願いしますッ!」

男は馬車から顔を出したグレースに目を向けると、その目を細めた。


「なんだ・・・。そこにエルフが一匹残ってるじゃねーか。勿論、そいつもここに置いていけ。以上だ・・・。」

「待てッ! 彼女は俺の仲間だッ! 元々ここにいたエルフじゃないッ!!」


レンガは男が言い出した、更にとんでも無い命令に、思わず声を大にする。だが、男はそんな剣幕にも、一歩も引かず、小さく首を横に振った。


「そんなことは知らないな・・・。エルフはここに置いていけ。俺はそう言ったんだ・・・。」

「クソッ・・・。」


更に悪くなる状況に、レンガは握った拳で太ももを叩く。

どうすればいいんだ・・・。このままじゃ・・・。

その目に焦りの色を宿しながらも、レンガは頭では必死に策を練り続ける。

すると、男が先程とは違う口調で話し出した。


「それにして・・・。お前ら、この化け物を倒すなんてなかなかやるな・・・。せっかく苦労して造り上げたのにな・・・。」

男の後ろで已然として炎を上げている、マンティコアの亡骸にチラリと目をやった。


「これを造っただと・・・。どうやって・・・何の為に。」

レンガは男の発言に、思わず考える事もすらも忘れてしまう。

すると、男はレンガの問いに不適な笑みを浮かべる。


「そうだな・・・。この化け物は、エルフに大量の聖水を投与し続けた結果、出来た怪物だ。まぁ、こんなモノは失敗作なんだがな・・・。こちらの命令なんて何も理解出来ない、只の欠陥品のケモノ。そんなところだ。」


そう言うと、男は炎を上げるマンティコアの亡骸を汚いゴミでも見る様な目で見る。


「目的は、そうだな・・・。未開拓の遥か北の火竜の住まう土地。そこに踏み込む為。火竜の巣窟に行こうってんだ・・・。かなりの準備が必要になるからな。」


北の土地? それは初めて聞いた単語だ。男の口ぶりから、火竜はそこ来ている様だが・・・。

では何故、わざわざそんな危険な所へ・・・。


「そこに、何があるっていうんだ・・・。」

そんな危険な場所にわざわざ行くのだ。そこに何か重要なモノがあるのは明白だろう。


「それは詳しくはわかってないらしい・・・。だが、何やら世界を揺るがす様な凄いモノがあるらしいぜ。それを、守護する意味も兼ねて、無数の火竜が住処にしているってのが、もっぱらの噂だな。」


世界を揺るがすモノ・・・。なんだそりゃ・・・。

そこに何があるのか、気になるところではあった。しかし、男もそれ以上は知らない様子で、それ以上は何も語ろうとはしなかった。


「まぁ、お前らそれを知ったところで意味はないさ・・・。ともあれ、これで、エルフの重要性もちょっとは理解出来ただろう・・・。」

そう言うと、男は嫌らしい笑みを浮かべた。


だが、レンガは男のその言葉とは裏腹にその拳を強く握りしめていた・・・。


コイツの言葉が本当ならば、さっきのあの化け物も・・・元は普通のエルフだったという事だ・・・。グレース達と同じ様な・・・。

それを、身勝手に造ったってのか。そんな・・・不確かな物の為に・・・。

エルフの命をまるで、実験動物の様に使って・・・。


生きる為ならば、まだ理解は出来た。でも、その目的が只、自分達の欲求、探求心を満たす為だと・・・。


この世界のヒトは亜人達に比べれば、十分過ぎる程の快適な生活を送っている。それなのに、それでもまだ満足せず、更に彼等から、何かを奪おうというのか・・・。


レンガは拳を痛いほど握り締め、かつて味わった事のない。激しい怒りの感情が燃え上がっていた。

その時、レンガは悟る。この世界に、不条理を振り撒くモノの正体を・・・。



俺は、間違っていた・・・。

クリストとその手にかけた時からずっと思っていた事がある・・・。他に解決法があったのでは無いかと。


だが、それは間違っていた。そんな事は、不可能だ・・・。

コイツらは、結局どこまで行っても、どこを切っても自分。それしか無い・・・。それは、母が自分達に見せた顔と、同じ様に・・・。


自らの欲求を満たすまで、やめようとはしない。そして・・・その欲求に終わりなどは無い。

そう、それが彼等という人間なのだ・・・。


俺は、家庭が崩壊してから、ずっと考えていた事がある。

何故、こんなにも哀しいばかり、起こるのか・・・。世界中の至る所で、不幸が雪の様に降り積もり、世界を哀しみの色に染めていくのかと・・・。


だが、それが今はっきりと見えた。それを引き起こす元凶の正体が・・・。


コイツらだ・・・。こんな奴等が、世界を哀しみに覆わせているのだ・・・。無秩序に振り回されるこんな力こそが、その連鎖をつくっているのだ!


それならば・・・。

対話することが出来ないならば・・・。

打ち倒すしか無い・・・闘うしか無い!

それだけが、唯一の突破口。奪われない為の、唯一の方法。



そう考えると、妙に清々しい気分になって来る。先程まで、嵐の様に吹き荒れていた怒りの感情も、今はどこかへ去っていた。

もしかしたら、間違った選択をしているのかもしれない・・・。


でも、今はこれでいい・・・。

そう思うと、自然に頬が緩む気がした。


自らの行動を持って変えてみせる・・・。

自らの手でそんな人間を拭い去る・・・。どんな手を使っても・・・。

誰かの為ではなくても構わない、これこそが自分の追い求めていた答えなのだから・・・。

もう、どうでもいい、罪悪感に甘えるのは、終わりだ・・・。

俺に、皆に、不幸撒き散らし続ける元凶共に、味合わせてやる。俺達が味わってきたモノを・・・。



レンガは、今、過去に味わったこともない満足感に包まれていた。その顔には薄く笑みすらも浮かんでいる。

自らの道筋を見つけた彼は、今、幸福間と充実感に満たされていた・・・。




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