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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第3章 希望への革命
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第37話 浄化の炎

広場には、已然と暴れるマンティコア。それを、もう3人まで減ってしまった解放軍が、辛うじて食い止めてくれている状況だった。

そして、遠巻きにその光景を見ていたグレースは、不安な瞳をレンガに向ける。


「レンガ様・・・。」

その呟きにレンガは、唸るように答えた。


「大丈夫だ・・・。グレース。」

そう、俺にはもう次の算段はついていた。

今度は、俺自身があの樽を破壊すればいいのだ。

だが・・・問題もある。それは、遠距離射撃ではダメだという事だ・・・。こんな距離から撃ち抜いたとしても、精々風穴が空く程度しか無い。それでは、ダメだ・・・。

やるべき事は、あの樽を破壊して尚且つ、中身をヤツに振りかける。その必要がある。


まだ、幸運な事に古式銃には、もう一発だけ石つぶて、もとい散弾が残っている。

これを至近距離で放つ事さえ出来れば、可能な筈だ。


しかし、そこでもう一つの問題も浮上してくる。

それは・・・自分にそんな芸当が可能なのかという事だ・・・。

先程、樽を担いでいたとはいえ、ドミヤですら、駆け出すタイミングに躊躇していた・・・。そんな事を、果たしてこなす事が出来るのか・・・。

俺自身、別段、運動神経は悪い方では無い。寧ろ、いい方であった。

でも、それは普通の人間という括りの中の話だ・・・。ドミヤやシーデと比べてしまえば、そんなモノは無いに等しい・・・。

更に言うと、今度は、そのシーデの援護も無しときている。ますます、成功の確率が低くなっていく・・・。


だが・・・やるしか無いッ! やらなければ、確率もクソも無いのだッ!!

覚悟を決め、古式銃を入れ替えると、横のグレースを見た。


「グレース・・・。俺が突っ込んで、あの樽をぶちまけるッ! 火矢のタイミングは・・・任せる!」


「・・・わかりました。・・・どうか、お気をつけて、下さい・・・。」


グレースは引き止めたい言葉を必死に飲み込んでいた。

本当は、引き留めたい気持ちがあった・・・。しかし、彼女も、もう他に策は無いのだとわかっていた。

彼女は、こんな時に、何の役にも立てない自分が・・・悔しくて、申し訳なくて堪らなかった・・・。


今は、レンガ様を・・・信じよう・・・。

そんな祈る事しか出来ない自分が・・・。



そして、レンガはクラウチングスタートの構えを取り、飛び込むタイミングを計る。

正面には、激しく暴れまわるマンティコアの姿。これから向かう先にある、高速で振り回されている尻尾。それに激しい恐怖を覚える。


ドミヤのヤツは、こんな中を樽持って突っ込んだってのか・・・。

それを提唱したのは自分だったが・・・同じ役にまわって見て、初めて彼女の成し遂げた功績に感服した。

だが、レンガはそんな弱気になる考えを振り払う様に頭を振った。


・・・ダメだッ! 絶対安全なタイミングなんか、ありはしないッ!

迷うな・・・。自分で決めたことを・・・やり遂げるんだッッ!!


そうだ・・・。こうなったら、尻尾の振るタイミングだけを計って、飛び出す! 

最悪、樽だけでも破壊すればいいッ!! 今は、それだけを考えろ・・・。


そして、レンガは完璧なタイミングを待つことは捨て、尻尾の振り子の感覚だけにその神経を研ぎ澄ます。


1・・・2・・・3・・・4・・・今だッッ!!

そんなタイミングと共に地面を思いっきり蹴り、転がる樽、目掛けてスタートを切った。

徐々に近づくにつれて、尻尾の起こす風が身体に伝わってくる。


怯むなッ!! 行けッ!!

そう、心で自分に渇を入れると、スライディングの様に滑り込み、樽への距離を一気に詰める。

もう、樽は目前だ!


イケるッッ!!

そして、迫る樽に目掛けて、古式銃を構えた。


だが、その時。尻尾がレンガの頭部を掠めた。


「ぐッッ!」

その衝撃に身体のバランスを崩してしまう。

そして・・・マンティコアの冷たい狂気に満ちた瞳と目が合う・・・。


まずいッッ!!

レンガは、ほぼ反射的に、古式銃を樽に構え直した。

しかし、マンティコアの動きの方が一瞬、速かった。振り上げた前足がレンガに向けて迫る。


グッシャッッ!!!!

しかし、その前足は振り下ろさせることはなく、代わりにマンティコアの大きな悲鳴が広場を包んだ。

キャァァァァーー!!!!!


「レンガさんッッ!! 今っすッッ!!!」

声の方向を見ると、いつの間にか起き上がったシーデが、マンティコアの首に両手のクローを深々と突き刺し、その首筋に張り付いていたのだ。


「助かるッ!! シーデッッ!!!」

レンガはその言葉と同時に、引き金を力いっぱい引いた。


シュッダン!!!!

爆発と共に撃ち出された、大量の石つぶてが油樽にぶつかり、そして、破壊した!

そこから吹き出した大量の油のシャワーは、マンティコアとシーデに容赦なく降り注ぐ。


「シーデッ!! 離れろッッ!!」

レンガの叫びと同時に、組ついていたシーデは、その場から飛び退く。そして、レンガ自身もその場から離れながら、他の解放軍達に叫んだ。


「全員離れろッッ!!!」


その動きを見て、グレースは火矢を構える。引かれた弦が低く音を立てた。

そして・・・彼女の細めた瞳と、マンティコアの見開かれた瞳が交差する。

グレースはその瞳を見て一瞬、目をしかめると。


「・・・ごめんなさい・・・。」

そう、一言だけ溢した。そして、その矢は放たれた。エルフの顔を持つ、巨大な生物に・・・。


ドスッッ!!

流星の如く放たれた、その矢はマンティコアの胴体に突き刺さると同時に、激しい炎を巻き起こした。


ゴォォォォォォ!!

キャァァァァァァァァ!!!!!!

広場には哀しい音色が盛大に響き渡る。

紅蓮の業火に焼かれ、哀しき生物の魂は、夜空へと還っていく・・・。

その身体から立ち上る煙は、まるで全ての苦痛から解放していく。そんな風にも見えた・・・。



ドンッ!!!!

やがて、その巨体は力無く崩れ、その場に倒れ込んだ。

グレースには一瞬、見えた気がした。苦痛に歪んでいたその表情が、和やかになった。そんな気が・・・。



「やったぞぉぉ!!!!」

マンティコアが倒れるのと、同時に解放軍の歓声が上がる。その中にいたエギルは、レンガに目を向けると、無言で握り拳をつくって深く頷いて見せた。

レンガはそれを、見て少し笑うと、その場に腰を落とした。


「・・・終わった・・・。」

その身体はまさに、満身創痍。長時間に渡る死闘の緊張感から解放され、完全な脱力状態であった。

すると、そんな余韻に浸っている背後から、呼び声が聞こえて来る。


「レンガさ~ん・・・。ヒドイっすよぉ~~。」

それはシーデだった。だが、その姿は、全身から油をボトボトと滴らせ、見るに無惨な姿だった。顔には、レンガを恨み様な表情が浮かんでいる。


「くッ・・・ははははッ! ごめんなシーデ」

「笑い事じゃないっすよッ!!」


笑い続けるレンガに向けて、彼女は怒った様に、尻尾で地面を打つ。だが、レンガは尚も、笑いが止まらなかった。

目頭に薄く涙も浮かべながら、笑い続けるレンガは、やがて空を指差す。


「でも、大丈夫だよ、シーデ。」

すると、指差した上空からは、パラパラと少量の雨が降り始めている。しかし、そんなレンガのフォローを思いっきり否定する様に、彼女は更に大声を上げた。


「こんなちょっと雨じゃ、なんの意味もないっすよッッ!!」

更に怒って、抗議し続けるシーデだったが・・・。その様子はどこか楽しげにも見え、次第に、その頬も緩み始める。

そんな中、広場にエギルの声が響き渡った。


「さぁッ!! みんな、すぐに撤収するぞッ! 怪我している者から馬車に担ぎ込むんだッ! 急げッッ!!」


そうだ・・・のんびりしている場合じゃないか。

早い段階であちこちで火は上がっていた。王国も異変を察知して、増援を出しているかもしれない。

そう考えると、レンガは未だ、じゃれついて来るシーデを押し退けて再び腰を上げた。





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