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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第3章 希望への革命
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第36話 決死の突撃

未だ、広場では、マンティコアとの激しい攻防は続いていた。


レンガの活躍により、尻尾の刀剣を失ったことで、多少、優勢な展開にはなっていた。しかし、レンガ達の攻撃はどれも決定打には欠けており、闘いの終局を見るまでには至らない。

レンガは、離れた位置から射撃と装填を繰り返し、援護攻撃に徹していた。そこで、一つの事に気が付いた。


「こいつ・・・。傷を、再生してやがる・・・。」

俺は呟くと、その身体を見た。その身体には四方からの攻撃に晒され、無数の傷が残ってはいた。だが・・・それにしては傷の数が少なすぎる。幾ら、弱い攻撃と言っても、これだけの弾丸と矢、それに刃に食らって、まだピンピンしているというのは、異常だ・・・。


そうなのだ。このマンティコアは高い自然治癒能力を有している。それは、瞬時に回復する程では無かったが、時間を掛けて、確実に、古い傷を再生しているのだ。

それは、この状況下では・・・十分、驚異になり得る。


そして、次の瞬間。戦況に動きが見られた。


バシッッ!

ガシャッン!!!

マンティコアの尻尾が数名の解放軍の動きを捕らえ、そのまま激しく吹き飛したのだ。

これで、もう残った解放軍はエギルと2人兵のみ・・・。

そして、ドミヤとシーデも激しく肩で息をして、その動きにも徐々に陰りが見え始めている。


「このままじゃ・・・まずい・・・。」

今のまま戦闘が続けば、近い未来にどうなるかは、想像に難しくない。

まだ、前衛が一人でも多く残っているうちに、なにか策を打たなければ・・・。


だが・・・何の策も浮かばない・・・。今、この場にある攻撃手段では、決定打に欠ける物ばかりだ・・・。

そんな事を考えている間も、前衛の皆への尻尾の強襲は続く。そして、シーデ目掛けて、鞭のような尻尾が繰り出された。


ビュゥンッ!!

ガシャァンッ!!

シーデはその尻尾を辛うじて、空に逃げてかわした。そして、少し大振りにだった尻尾は、辺りのランタンを叩き割り、建物の壁に飛び散った油に次々と引火していく。


火・・・。油・・・。ッッ!?

レンガはその光景を眺めて、閃いた!

そして、すぐにマンティコアから視線を外し、広場をぐるりと見渡す。暗闇を照らす為、そこかしこ設置されているランタン・・・。それに目が留まる。


「これだッッ!!」

レンガは尻尾の攻撃を裁き、一歩退くエギルに向かって声を上げた。


「エギルさんッ!! この養殖場の油の蓄積の場所は、わかりませんかッ!?」

エギルはその声に気が付き、怪訝な顔で見せた。


「さぁ、詳しくはわからんが・・・。だが、今そんなこと聞いてどうするんだッ!?」

それは、こんな時に何を悠長な事を、とでも言いたげな口調だった。

しかし、レンガも一刻を争う状況。すぐにもう一度、言葉を重ねた。


「大事な事なんですッッ!!」

エギルは眉をひそめるながらも、ただ事ではない様子を察し、すぐに応じた。


「おそらく、衛兵の詰め所にあるはずだッ!!」

レンガはそれだけを聞くと、すぐ様に少し離れた位置で矢を放つグレースの肩を叩いた。そして、そのまま、村の中央の屋敷、詰め所に急いだ。


屋敷の入り口はマンティコアによって大きく破壊されている。その破壊された中へと飛び込む。

中は光は無く、真っ暗。しかし、幸運にも目当ての物はすぐに見つかった。


「この樽で間違いないッ!!」

入り口の壁沿いに樽が並んでいる。その内の一つを掴む。


軽いッッ!?

それは想像以上に軽かった。だが、その理由はすぐにわかった。

先程の建物の倒壊で、大量の油が床に染み出していたのだ。

そして、遅れてグレースも中へ飛び込んで来た。


「レンガ様ッ!!」

「グレースッ!! すぐに中身が無事な樽を探してくれッ!!」


くそッ!!頼む・・・あってくれッ!!

そう心で願いながら、二人は樽を確認していく。


「レンガ様ッ! ありましたッッ!!」

そう言って、グレースが一つの樽を示した。レンガはすぐに、その樽に飛び付き掴んでみる。


よしッ!! 無事だッッ!!・・・これなら、イケるッッ!!

本当ならば、何個か探したいところではあった。しかし、外の状況がわからない以上、下手に時間は掛けられない。


「これを外に運び出すッッ!! グレースは反対側を持ってくれッ!!」

そう言うと、二人で担ぎ上げた樽を広場へと運搬していく。

広場に出ると、戦況を見る。


戦闘に参加しているのは・・・5人。よしッ! あれから、犠牲者は出ていないッ!!

そして、適当な場所に樽を降ろした。すると、運び出した樽を怪訝そうに見たグレースが尋ねてきた。


「レンガ様・・・これをどうするんですか?」

その言葉に再び、頭を巡らせる。

当初の予定では、複数の樽を投擲する予定だった。

だが・・・現実に持ち出せたのは、一つだけ・・・。今から戻って、取りに行くか?・・・いや、そんな時間は無いかもしれない・・・。

いつ、この均衡が崩れるのか、わからないのだ・・・。そうなってしまったら、策も何も無くなる。

ならば、答えは一つだ・・・。


こいつを確実に・・・直接、ヤツにぶつけるしかないッ!!

そして、それが出来るのは、一人だけだ!


「ドミヤッッ!! こっちに来てくれッ!!」

ドミヤは自分を呼ぶ声に気が付くと、すぐに飛び退き、こちらへ駆けて来た。

そして、目の前まで来ると、額の汗を拭い、呼吸を落ち着けた。


「なんでさ、旦那・・・。あいは旦那と違って暇じゃないでさよ・・・。」

いつもの毒を含んだ軽口を浴びせてくるが、今はそんなやり取りをしている場合じゃ無い。


「ドミヤ、お前なら、コイツを担いで走るくらい、出来そうかッ!?」

彼女は、怪訝な表情を浮かべつつも、樽を片手でヒョイと持ち上げ、肩に乗せて見せた。


「こんなん楽勝でさ。・・・ほら、飛んだり跳ねたりも出来るでさよッ!!」

ドミヤは笑いながら、その場で何度もジャンプして見せる。


これなら・・・イケるッッ!!

俺は、心の中でそう確信した。

そして、俺は二人にこれから起こす行動を説明した。


その内容を簡単にまとめると、こうだ。

まず、ドミヤが樽を担ぎ、マンティコアに走り込み、油をぶちかます。そして、油に濡れたところをグレースの火矢にてトドメを刺す。

至ってシンプルだが、今取れる最善の策は、もうこれしかない・・・。


「旦那も、まぁ・・・よくこんな状況で、思い付くでさね・・・。」

「それは、誉め言葉として受け取っておくよ・・・。」

「わかりました、レンガ様。それで行きましょうッ!」


三人は互いに頷き合うと、すぐに行動を移すべく動き始める。

それから、レンガは今も前線で闘い続ける4人に叫んだ。


「みんなッ!! これからドミヤがそいつに、この樽の油をぶちまけるッ!! 突っ込むドミヤに注意が向かない様、陽動に協力してくれッ!!」

「わかったっすッッ!!」

「わかったぞ、レンガ君ッ!! 任せてくれッ!!」

先程の尻尾を破壊した功績があってか、今度はエギルも他の2人にも躊躇の様子は無かった。

そして、4人はドミヤとは反対側に固まる様に、陣形を組み、注意を逸らし始める。


しかし、注意が反対に向いたとはいえ、高速で振り回す尻尾は全方向に行き来している。完全に安全とは言い難い状況だ・・・。

勿論、ドミヤもそう感じていた様で、走り出す構えを取りながらも、なかなかそのスタートを切れずにいる。


「これは・・・なかなかに、タイミングが難しいでさね・・・。」

レンガの横でドミヤは冷や汗を流していた。その口からは珍しく、弱音が漏れていた。

何とか、自分も上手く立ち回れないものかと、考えていた時。


シーデがマンティコアの一瞬の隙を突き、尻尾、目掛けて飛びついた。


「だりゃぁぁぁぁーー!!!」

そして、そのまま尻尾の先端に肢体で組み付き、右手のクローを一気に振り下ろした!


グシャァッッ!!

クローは尻尾に深々と突き刺さり、マンティコアは悲痛の悲鳴を上げ、その巨体を大きく崩した。


「今だッッ!!」

レンガのその声よりも早くドミヤはスタート切った。樽を肩に乗せたまま、物凄いスピードでマンティコアに迫る。

そして、小さく跳躍すると、その胴体目掛け、樽を高々と振り上げた。


「だぁッッ!!!」

しかしッ!!

マンティコアは本能で危険を察知したのか。今まで、一度も使うことのなかった前足を繰り出してきた。


バキッッ!! ガシャァッン!!!

脇腹にその衝撃を受けたドミヤは、声を上げる暇のなく、詰め所に吹き飛ばされた。

そして・・・ドミヤが振り下ろそうとした樽は、無情にもゴロリと地面に転がる・・・。


「ドミヤッッ!!」

「ドミヤちゃんッ!!」


レンガとグレースは同時に兵舎の方へ声を張り上げたが、何の応答も無い。

レンガは思わず、飛ばされたドミヤの方へ走り出そうとしたが、グレースが右手を広げで制した。


「レンガ様 今は・・・。それに、丈夫なドミヤちゃんなら・・・あのくらい、きっと平気な筈です・・・。」

俺は、グレースのその唸る様な言葉に正気に取り戻す。

そうだ・・・。今ここを離れても、どうにもならない・・・。今、俺に出来る事、それは・・・。


マンティコアの傍らに、転がる樽を見る。

今、自分に出来る事。それは、次なる一手を考える。それだけだ・・・。

すると今度は、響き渡った激しい音と共に、尻尾の先端に組み付いていたシーデが、尻尾ごと地面へ叩きつけられた。


ドゴンッッ!!

「ぐぅぅ・・・。」

短い呻きを漏らしつつ、シーデはそのまま地面にうつ伏せに倒れ、その動きを止めてしまった。


「シーデッッ!?」

叫びは空しく、広場に木霊した。

シーデは痛みにもがく様に微かに動いてはいた。しかし、もうとても闘える様子ではないだろう・・・。

ここまで来て、一気に形勢が狂い始める・・・。


だが・・・まだ功を奏してか、樽は無傷の状態でマンティコアの傍らに転がっている。

レンガは、それが無事な事を、もう一度、確認する。そして、静かに息を吐き出した。


まだ・・・策はあるッ!!



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