表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第3章 希望への革命
35/43

第34話 美しき怪物

「なんだあれはッッ!?」

突如として広場にその姿を現わした、異形の生物を目の当たりにして、レンガはその場に凍りついた。


その身体は小ぶりな象は程はあり、顔は大きく目を見開いた美しい女性のエルフ。その頭から伸びる金色の髪が全身にも生え揃っている。

更に、特徴的なのは臀部から尻尾の様なものが生えており、その先には刀剣が縄で固く縛り付けられていた。

その美しさと、不気味さを合わせたアンバランスな容姿は、火竜の時とは別物の恐怖を駆り立てられる。


そして、化け物が現れた瓦礫の脇には、先程、取り逃がした男の姿があった。


「もう・・・。ここは、終わりだ・・・。しかし、貴様らも道連れにしてくれる・・・。我々が産み出した怪物、マンティコアに全員・・・引き裂かれる、がいい・・・。」

男はそれだけ告げると、醜く笑みを浮かべながら、崩れ続ける瓦礫の中にその姿を消した。


マンティコア・・・。

それは、空想上の怪物の名。ライオンの身体に人面、そして蠍の尻尾を持つ怪物だ。

しかし、今、目の前にいるのは、そんなモノを遥かに凌駕する美しくも不気味な生物であった・・・。


広場にいる者全員が、時間でも止まったかの様にその場から動けずにいた。

そんな膠着状態を破るように、エギルが声を張り上げた。


「何をしているッッ!! 早く馬車に乗り込んでこの場から離脱しろッッ!!」

エギルの叫びに再び、時は動き出した。最後の馬車に乗り込もうとしていた一団が、再び駆け出した。


マンティコアは、その動く者達にピクリと反応を見せ、憎悪と恐怖で見開かれている瞳をそちらに向ける。

そして、次の瞬間。


ビュンッ!!!

激しい風切り音と共に、馬車へと走る一団目掛け、その尻尾が凪ぎ払われた。


ブッシュッッ!!!

その一団を尻尾が一閃し、幾つもの悲鳴と共に、二等分にされた一団の身体が地面に転がった。

そして、マンティコアは夜空を見上げて、哀しみを含んだ女性の様な叫び声で吠えた。


アアアァァーーーー!!


「クソッッ!! 今だッ! すぐに最後の馬車を出せッッ!!」

エギルがその咆哮を遮るように、再び声を張り上げる。

すぐに、エルフを乗せた最後の馬車は広場から離れようと動き出した。

しかし、再びその動きに反応したマンティコアは、今度は馬車にその瞳を向け走り出そうと身を屈めた。


それを見たエギルは叫び声を上げつつ、マンティコアに斬りかかろうと地面を蹴った。


「うおぉぉぉぉ!!!」

その動きに反応して、マンティコアは横目でエギルを見据える。

マンティコアの懐に走りこもうとするエギルのわき腹に、ドミヤが思いっきり飛び付いた。そして、そのまま二人は勢い余って、地面に転がった。

その二人の頭上を、尻尾が空を斬って行く。

二人はすぐさま、起き上がると、転がるように距離を取った。


「すまない・・・。ドミヤ君・・・。」

肩で息をしながら、エギルはドミヤに呟いた。


「気にしないででさ。でも・・・そのドミヤ君ってのは、やめてほしいでさ・・・。」

ドミヤは、マンティコアから目を離さずに、苦笑いを浮かべた。


「残った全員で距離を取りながら牽制するぞッッ!! せめて、馬車を、エルフ達を逃がす時間だけでも稼ぐんだッッ!!」

エギルは応戦をする為、その場に残った解放軍の兵達に声を上げた。


「レンガ様・・・。」

横にいるグレースが、恐怖に満ちた表情でこちらを見つめていた。


「旦那ァッッ!!!!」

続けて、ドミヤがレンガの名を叫んだ。


恐らく、何か手を考えろって事なのだろう・・・。無茶を言うなッッ!!そんなにホイホイ思い付くわけがない。今回は考える時間もなく、遭遇してるんだ・・・。

しかし、戦闘の場から一番遠い、後衛の自分しか考えられる人はいないのも事実だった。

だが、さっきの尻尾のスピード・・・。とても、一筋縄で行く相手とは思えない・・・。


取り合えず、今、がら空きになっている顔面に向かって、照準を絞り引き金を引いてみる。


シュッダンッッ!!!

古式銃が火花を上げ、発射された弾丸はマンティコアの左の額に突き刺さった。


ギャアッ!!

一瞬小さく怯んだ様子は見せたが、すぐにゆっくりとこちらに振り返って来る。

その額から血は流れているが、あの反応から決定打に掛けているのは間違いない。

そして、向き直ったマンティコアとしっかり目が合う・・・。


まずい・・・。こちらに、来られたら自分では、なす術も無くやられるッ!!

その不気味に見開かれた瞳から絶望が伝わり、恐怖で全身の毛が逆立つ。


だが、すかさず、そのマンティコアの挙動を見て、ドミヤが横から斧を投げつけた。


ガキンッ!!

しかし、その斧はあっさりと尻尾に阻まれ、宙を舞った。

それを合図に、皆、次々に死角から攻撃を繰り出す。しかし、まったく動じた様子も無く。その攻撃達はその尻尾に無力化されていく。


これは、只、闇雲に攻撃するだけではダメだ・・・。

落ち着く様に自分に暗示をかけながらも、マンティコアを挙動を、その身体をしっかりと観察する。


ゆっくりと移動しながら、刀剣の付いた尻尾を振り回し続けている。

攻撃を当てることは愚か、その殺傷能力の高さも相まって、まともに誰も近づく事すら出来ずにいる。その激しい尻尾の猛攻に、徐々に追い詰められて行き、また一人と、解放軍兵が尻尾の刃の餌食になっていく・・・。

そんな目を覆いたくなる光景が、目の前には広がっていた。


ドミヤやシーデ、エギルも辛うじて直撃は避けてはいるようだったが、身体のいたる所に切り傷を増やしている。

このままでは、彼女達も危ない・・・。


焦る気持ちを必死に抑えながら、懸命に頭を働かせる。


まず、あの尻尾をどうにかしない事には、闘いにすらならない。そんな考えが思い浮かぶが、肝心の方法が何も思いつかない。

現在の絶望的な状況に、イヴァ村で火竜に遭遇した時を思い出す。

・・・そうだッッ!!


「グレースッ! ヤツから離れた位置に、火竜の時みたいに泥濘を形成する事は出来るかッ!?」

「あ・・・はいッッ!! わかりましたッ!やってみますッ!」


グレースはレンガの言葉にあの時の事を、思い出した様子で、その場から駆け出した。

続けて、マンティコアを牽制し続けている、ドミヤとシーデに声を上げる。


「ドミヤッ! シーデッ!! グレースの方に、そいつを近づかない様にしてくれッッ!!」

「やってみるでさッ!!」

「りょーかいっすッ!! しかし・・・レンガさんも、簡単に言ってくれるっすね・・・。」


二人は一瞬、チラッとグレースの位置だけを確認すると、すぐにマンティコアに向き直る。

そして、レンガもグレースとは反対の方向へ駆け出す。自分も牽制に参加する為、マンティコアに古式銃を構える。

マンティコアが誰かに攻撃を向けた際を狙って引き金を引く。少しでも、前衛の負担を減らす事だけに集中する。


今、マンティコアは四方からの攻撃に激しく向きを変えながら尻尾を振るっている。

端から見れば、こちらが押している様にも見えるかもしれない。しかし、実際は効果的な攻撃は何一つ無いという状況が続いている。

このまま長引けば、いずれ、こちらの体力が尽きてしまう事は明白だ・・・。皆の体力が少しでも残っている内に、何かしらの手を打たなければならない。


ヤツの動き見るからに、知能はそれ程、高くは無さそうだ。泥濘に落とす事は、それ程、難しい事ではない筈。

一度落としてしまえば、隙だらけのその身体に、全員で一斉攻撃。それにて、倒すことが出来る。


すると、グレースがレンガに大きく手を上げた。


「レンガ様ッ!! 出来ましたッッ!!」

レンガは、それに頷くと続けて、闘いを続ける皆に叫んだ。


「みんなッッ!! 聞いてくれッッ!! そいつを、こっちに誘導してくれッッ!!」

ドミヤとシーデは、すぐにその声に応じるように動きを見せたが、エギルを含めた解放軍兵は、戸惑いを見せる。


「レンガ君ッ!? どういう事だッッ!?」

レンガは時間を惜しむ余り、その声に被さる程に早く言葉を重ねる。


「今は、細かい説明の時間はありませんッ!! そこにグレースが泥濘を形成しましたッ! どうか、そこにヤツを落とす事に協力をして下さいッッ!!」

レンガの提案に更に、どよめきが起こる。エギルは一瞬、考えた様子を見せたが、すぐに解放軍兵達に向き直る。


「よしッ!! わかったッ! 皆、聞けッッ!! 我々で彼の示した所へ、そいつを誘導するぞッッ!!」

エギルの声に、残った解放軍兵の全員が声を上げた。

そして、何人かが足に備え付けたナイフを取り出し、マンティコアを引き付ける様に、それを投擲する。

いきなり、ナイフ攻撃に晒されたマンティコアは、怒った様に吠えると、駆け出した攻撃の主を目指して、大地を蹴った。

そして、泥濘の上を差し掛かった時。


ズガンッッ!!!

大きな地鳴りを上げ、形成された泥濘に頭だけを残して盛大に落ちた。


「オオォッ!! やったぞッッ!!」

その光景を見ると、解放軍兵達から歓喜の声が湧き上がった。エギルもまた、その様を見て仲間達に叫んだ。


「今だッッ!! 一気に畳み掛けるッ!!!」

解放軍がオオォッ!!、と言う怒声と共に、何人もの兵達が一斉に、その無防備な顔面へ一気に斬り込みに掛かった。

しかし・・・。


ビュッン!!!

激しく辺りに風切り音が響き渡る。それと同時に、先発して斬り掛かった数名の上半身が、地面に転がり落ちた・・・。

なんと、マンティコアはその身体を泥濘に沈めたまま、尻尾だけが高々と突き出されていた。血に濡れた刀剣が月明かり照らされ、不気味に輝を放つ。


そんな惨状に誰もが踏み止まり、手が出せずに再び、距離を取る事しか出来ない・・・。そして、マンティコアは威嚇する様に尻尾を何度か振り回すと、ゆっくりと泥濘から這い出て、身体を震わせた。


くそ・・・。ダメか・・・。

レンガはその光景に愕然とした。火竜に使った秘策はあっさりと破られた・・・。まさか、こんな結果になるとは・・・。

同時に、先程の俊足を見るからに、逃げる事も出来ないと悟る。あれでは、強行的に馬車に乗り込んだしても、馬車ごとやられるのがオチだ・・・。

闘う事も、更には逃げる事さえも出来ない。まさに、絶望的な状況だ・・・。


その場にいた誰しもが、完全に希望を失い。只、その場に固まる事しか出来なかった・・・。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ