第33話 順調すぎる作戦
レンガ達はエギルと共に王国を発ち、馬車に揺られていた。
既に王国を出て、他の部隊との合流も済ませた一同は、目的地の養殖場を目指し、四台の馬車が並走している。
レンガは馬車の後方に流れて行く、景色を眺めていた。
昨晩は、ハメを外し過ぎ、しこたま食べて飲んでしまった・・・。その為、朝は軽く胃もたれを起こしたのだが、今はそれも落ち着いていた。
出立前に今後、必要になりそうな物は粗方、買い足して置いた。もう、今後、王国に戻ってくる事はないのかもしれないのだから・・・。
少し、感傷的な気持ちになりそうになるのをやめ、もう一度、気を引き締め直す。
この部隊は前衛に、エギルさんとドミヤとシーデ。後衛に自分とグレースと馬車を操っている女性の6人で編成されていた。
ふと、ある事を思い出し、瞑想をしている様に目を閉じているエギルさんに口を開く。
「エギルさん、そういえば、お二人の術具はなんなんですか?」
エギルはレンガの問い掛けに気が付き、ゆっくり瞳を開けた。
そうなのだ。自分は彼等の武器、術具を確認していない。何かあった時の為にも、前もって聞いておくに越した事はない。
「我々は、術具は用いていない。亜人達の解放を唱っている我々が、率先してあれを使うわけにも、中々にいかないからな・・・。」
なるほど・・・。確かにそうかもしれない・・・。
前にエギルさんから聞いた話を思い出す。
ー術具はエルフの犠牲の元に出来ている。その武器は、彼等の血肉が出来ており、その術具の数だけ彼らが、犠牲になっている。ー
確か・・・そう、言っていた。
「君には、前にその事を話した事があったな・・・。術具の数だけエルフが犠牲になっている。そう話したね。」
「はい・・・。聞きました・・・。」
「しかし・・・実際、犠牲を払っているのは、術具だけでは無いんだ・・・。」
「え・・・。」
それは初耳だった。まだ、自分の知らない、何かが、あると言うのか・・・。
「まず、術具を用いる為、成人の儀を行うことは知っているね。それは、ヒトが成熟した身体に聖水を流し込み、身体に眠っている力を引き出すという儀式なんだ・・・。」
「なるほど・・・。それで、ヒトが術具を通して、術を用いる事が出来る様になるわけですね・・・。」
「そうだ・・・。そこで、問題になるのが、この聖水なんだが・・・。」
そう言うと、エギルは少し口籠った。そして、レンガの前に座っているドミヤもまた、険しい表情を見せる。
「私も、詳しい精製の内容までは、知らないが、この聖水も・・・また、エルフの血肉によって精製されているらしいのだ・・・。」
俺は、思わず言葉を失った・・・。
聖水にまで、エルフの身体を使っているって・・・。それだと、一体どれだけの人数が必要になるっていうんだ・・・。
更にエギルは続けた。
より高純度のモノが貴族や、階級の高い者に与えられ、その高純度のモノに必要なエルフの数はまた、増えるのだと・・・。
そして、話し終わると誰もが口を開けずにいた・・・。
ドミヤは目を強ばらせ、どこか一点を只。見つめていた。グレースはそっと目を閉じている。シーデは只、流れる景色を見ている。
それは、想像していたより、あまりに残酷すぎる現実。
自然界に置いても、犠牲は必ず出るものだ・・・。だが、それは食べる為、生きる為に、不可欠な犠牲なのだ。
だが、人間は違う。生きる為、食べる以外でもその犠牲を数々の強いて来た。
自分達の暮らしをより安泰にする為。只、自分達を綺麗に着飾る為。そんな事にも、沢山の犠牲をしいて来たのだ。
そして、それは、世界が変わっても変わらない。自分達の暮らしを安泰にする為にまた、エルフの命という大量の犠牲を払っているのだ・・・。
レンガの脳裏には、逃げ出し、懇願の涙を浮かべるエルフ達の光景が再び、頭に浮かんでいた。
その手には、自然に力が込み上げていた。
エギルはそんなレンガの様子を、静かに見ていた。
彼は歴戦の戦士であり、ベテランの指揮官である。闘いの前に、この話をする事で、仲間達の指揮を高めていたのだ。
そして、彼は再びそっと目を閉じた・・・。
その後、しばらく馬車で移動が続き、現在は養殖場付近の森に馬車停車させ、他の部隊が配置につく頃合を待っているところだった。
レンガは養殖場の方へ目を向ける。その先には、村のかがり火と思われる明かりがちらほらと見えた。
他の誰も何も言葉を発さずに、各々、何かの決意を宿したかのような瞳で養殖場の方を見つめていた。
すると、エギルが立ち上がり、馬車の操者と何かを話し、後部へと戻ってくる。
「皆、準備はいいか?」
全員、それに無言で頷き掛ける。
いよいよだ・・・。
俺は、そう思うと古式銃を強く握りしめる。
すると、エギルの合図と共に、操者が火矢を上空に構えた。
ビュッ!
渾身の力を込められた火矢は、暗い夜空に真っ直ぐに飛んで行った。
それを合図に、操者は馬の脇を大きく蹴り、馬車は物凄い速度で養殖場を目掛けて疾走し始めた。
馬車の激しい揺れに耐えながら、しっかりと古式銃を握りる。
ザザッ!!
やがて、馬車が強い反動と共に急停車した。それを合図に、全員、馬車から飛び降りた。
外は、小さな集落の村の広場。幾つかの小さな小屋が並び、かがり火だけが、その村の唯一の明かりだった。
勿論、そこに居合わせた、三人の警備兵はすぐにその異変に気が付き、馬車に駆け寄ってくる。
「貴様らッ! 何者だッッ!? 何しにここへーー」
その先頭の衛兵に、真っ直ぐにシーデは飛び掛かった。降り下ろしたクローが首筋に突き立つ。
傍らにいるもう一人の兵は、その突然の出来事に驚き、立ちすくんだ。
「だりゃッッ!!」
そんな掛け声と共に、ドミヤの手から放たれた手斧が、その顔面を捉えた。その兵は声を上げる暇のなく、地面へと倒れ込んだ。
そして、残るもう一人の兵には、エギルが斬りかかり、二人の目の前で激しい鍔迫り合いが繰り広げられていた。
レンガは、横から、その男のがら空きの脇腹を狙い、古式銃の引き金を引いた。
シュッダン!!!
激しい爆発音と共に、その衛兵は口から血は吹き出し、力無くその場に崩れ落ちた。
これで、広場に点在していた警備兵は、粗方片付けた。そう、思った時。
ズッシャッッ!!
ほぼ同時に、後発部隊の3台の馬車が広場に滑り込んで来る。
ここまでは、作戦通りに事が運んでいるッ!!
レンガはそう考え、次の行動を思い返し、行動に移していく。そして、広場に置かれていた木製の机を蹴り倒し、グレースと共に、そこに身を隠し、次に敵が出てくると思われる正面に陣を張った。村の中央の屋敷の扉に向かって、それぞれの武器を構えて待つ。
やがて、数人の男達の怒声と共に、その扉は開かれた。
ビシュッ! ダンッッ!!
中から溢れ出して来た衛兵達に、レンガとグレースは次々に攻撃を開始する。
突然の、攻撃に襲われた兵達は、次々とその場に倒れていく。
レンガは撃ち尽くした古式銃をしまい、新しい古式銃を手にし撃鉄を起こした。
すると、今度は木製の大盾で構えた兵達がゆっくりと出て来た。
しかし、レンガはそんな事はお構いなしに、引き金を引いた。
ダンッッ!!
古式銃から放たれた弾丸は、易々とその木製の大盾を貫く。
グレースも、その隣で、兵達に向かって、嵐の様に矢を注いでいく。
更に、扉の左右からはエギル、ドミヤとシーデが挟み込むように攻撃を開始する。
その扉付近は、文字通りの地獄絵図と化していた。
次々と折り重なり倒れる兵達。飛び散る鮮血。そんな虐殺が起きる場に・・・。
そして、残りの兵にレンガは狙いを定め、最後の弾丸を放った。
シュッダン!!!
胴体から激しく血を噴出しながら、態勢を崩してその場に倒れ込む。
そして、恐らく最後の兵と思われる男が、扉から一瞬、身体を覗かせた時。グレースの矢がその男を捉えた。
ドスッ!!
「うぐぅッッ!」
その矢は、男の右の肩に刺さり、苦しそうに声を上げるが。何とか身体を引きずり、扉の中へとその姿を消して行った。
それを見たシーデは、直ぐ様、その男を追撃しようと、駆け出そうとしたが。
「追わずともよいッッ!! 恐らく、ヤツが最後の一人だ。もう、戦闘不能だろうから放って置いて構わないッ!」
シーデは、その言葉に足を止めた。
見ると、エギル達の傍らには、先程まで交戦していたであろう衛兵の亡骸が幾つも転がっていた。
何とか、一人の負傷者も出さず、作戦は無事に成功したようだ・・・。
辺りの小屋では、後発部隊の人達によって、助け出されたエルフ達が、次々に馬車に乗り込んでいた。
レンガは念の為、空になった古式銃に装填を始める。すると、隣のグレースが大きく息を吐いた。
「これで・・・後はエルフ達を乗せた馬車が離れれば、終りますね。」
レンガもその言葉を聞いて、少し安心したようにふぅと息を吐いた。
そうだ・・・。後、少しだ・・・。もう、問題は起きない筈だ。
そう思っていると、早くも一台の馬車は村から離れ出した。
徐々に緊張の糸からも解き放たれ、次々と先導されて、馬車に乗り込むエルフ達を安堵の表情で眺めいた。
その時・・・。
ドンッッ!!!!
激しい音と共に、正面の屋敷が大きく破壊された。
立ち込めた大量の砂ぼこりに、大きなシルエットが浮かび上がる。
巻き上げた埃を突き抜け、破壊された屋敷から姿を現したのは・・・巨大な四本足の化け物だった・・・。




