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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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第2話  安心と罪悪感の

エルフの男の後に続き、森の奥へと踏み込んで行く。


この森は相当に広く、終始聞いた事のない鳥?の声が響き渡っている。

彼の案内が無ければ、遭難は必至だろう。

ふと、前を歩く男の背中を見る。


本当は、もっと色々と質問したかったが、ここでヘマすると、後々、大変な事になりかねない・・・。

今は、様子を見ながら、沈黙するしかないと考える。


しかし・・・その村に着いてからは、どうするか・・・。 


その事だけは、村に着くまでにまとめた方が良さそうだ。

なんせ、ここは、日本は愚か、地球ですら、ない土地。

自分の知る、法律だの常識だのが、通用しない可能性が非常に高い・・・。


彼の身なりからして、お世辞にも、あまり文明レベルが高い様には見えない。

もし、何かあった時、どんな方法を取ってくるのか、検討もつかない。

最悪、処刑だ、生け贄だ、とかなってしまう事も考慮しておいた方がいいだろう・・・。

こんな状況になって見て、改めて、自分がいかに、法律に守られていたのかを、実感してしまう。


暫く考えて、答えは出た。

自分の現状はなるべく明かさず、話さず、今の相手の立場のまま口裏を合わせ、そして、少しずつ情報を聞き出していく。

この辺が無難だろう。


そんな事に頭を巡らせていると、まるで、森の中に隠れる様にある、小さな村が見えて来た。

植物の鶴が無数に巻き付いた家屋(ぶっちゃけ小屋にしか見えないが・・・)が、不規則に立ち並んでいる。


男は村の入り口に立ち、頭を下げ、大きく片手を広げる。


「着きました、こちらがイヴァの村に御座います」


まだ、朝が早いからなのか、村人の姿は見えない。

自分には、そのお世辞にも立派とは言いがたい、家々が立ち並ぶその村の感想は、廃村にしか見えなかった。


誰もいない村の広場を、男の後に続き歩いていると、男は何かを思い出した様に急にこちらへ振り返った。


「申し訳ありません。少々、こちらでお待ち下さい」


そう告げると、いつも通りに深々と頭を下げると、中央の大きな家屋に駆け出し、中から装飾の施された派手な椅子を抱えて戻って来る。


「こちらにお掛けになって、暫し、お待ち下さい。すぐに、族長と村の者をお連れしますので」


そう言い残し、男は再び、中央の大きな家へ駆けて行った。


・・・嘘だろ、これに座るのか・・・。


今、目の前にあるのは、センスが良いとは口が裂けても言えない巨大な椅子。

この自然の中にある事もあり、その椅子な異質さは、更に際立っていた。


だが、今は迂闊な行動は避けなければならない。

はぁ、と大きく溜め息を吐いてから、渋々その椅子に腰を下ろした。





「族長! 族長!! 大変です!」


男は建物に入ると、すぐに大きな声を家中に放った。

すると、奥の部屋から、眠そうに目を擦りながら、一人の老人が姿を現す。


「なんだ・・・こんな早くから、騒々しい」

「村に貴族の方がみえています!」


族長と呼ばれた老人はその言葉を聞いて、眠そうに開かれていた目を、大きく見開いた。


「なんじゃと!? 何用でこちらに?!」

「詳しくは・・・わかりませんが、道に迷っているご様子です」


族長はその言葉を聞いて、ほっ、と胸を撫で下ろし、そして、男に次の指示を与えた。


「よし、ならば、すぐに全員起こして、村の広場に集合されるのじゃ」

「わかりました!」


それを聞くと、男は飛び出す様に、族長の家を後にする。

そして、族長は簡単に身なりを整えると、急ぎ広場へと向かった。





暫くして、小さな老人が自分の方へ向かって来るのが見えた。

そして、目の前まで来ると、やはり、静かに跪く。


「御初に御目にかかります。私がこの村の族長をさせて頂いております、シダと申します。只今、村の者を至急集めております故、しばし、お待ちくださいます様、お願い申し上げます」


「いえいえ、こちらこそ、こんな朝早く、いきなり来てしまって申し訳ないです」


「滅相も御座いません! なにとぞ、暫し、お待ち下さいませ」


「はは・・・」


今までされた事ない対応に戸惑い、苦笑いが漏れ出す。


・・・もの凄く疲れるだよな・・・この感じ・・・。


そうこうしているうちに、バタバタと村の人らしき人達が集まって来る。

心なしか、皆、顔が強ばっている様にも思えた。


どうやら、これで村人全員が集まったみたいだ。

村人は全員で20人くらいで、その内、子供が4人。

子供の数を考えると、ここはかなり小規模な村の様だった。


「大変お待たせ致しました。村の者は全員こちらに」


全員が自分に向かって、その場に深く跪いている・・・。


「・・・どうぞ楽にして下さい」

「皆の者 表を上げよ」


そう族長が促すと、全員がゆっくりと顔を上げた。


「高貴なお方、道にお迷いになったと聞きましたのですが、この度はこちらの村へ、滞在して頂けるのでしょうか?」


その言葉を聞いて少し考える。

暫く、ここへ滞在して情報を集めるのは、ありかもしれない。

少し、対応に疲れる事を除けば、多分、安全だと思う・・・。

第一、ここを出ても行く宛がある訳もなく、また、次に出会う人間が友好的かどうかもわからない。


ならば、今の状態で何か解るまでの間だけでも、ここへ居る方がいいだろう。


「その前に、ここがどこなのか知りたいので・・・地図の様なものはありませんか? 」


族長は、その言葉を了承してくれて、先程出て来た家屋へと、戻って行った。

そして、別段する事がないので、もう一度、村人達を見渡してみる。


しかし・・・本当に皆、耳が尖っているな・・・。


子供や女性、青年、そして中年すらも、皆、耳が尖っている。

そんな風に見渡して感じた事がある。

自分と目が合うと、皆、驚いた様に目を伏せるのだ。

いきなりの珍客に緊張しているのだろうか・・・。



暫くして、族長が地図を持って戻り、こちらに見える様に地図を広げた。


やはり、それは、全く見た事がない物だった。

なにやら、ところどころに文字みたいな物が記載してあるが、まるで、見たことのない字体。

族長は地図の東側に指をやり一点を示した。


「今、御られるのがこちらです」


これで、ここが自分のよく知る世界ではない事が判明した。


「わかりました・・・ありがとうございます。もし・・・良かったら、少し休みたいので、暫く、こちらに滞在してもいいですか?」

「こちらは、大歓迎です」


拍子抜けする程、あっさりと受け入れて貰え、安堵する。


「では、こちらへどうぞ」


そして、族長に案内されるまま、その後へと、ついて行く。


案内された先は、木造の小さな小屋だった。

中へ入ると、小さな机とベッドがあるだけのシンプルな部屋だ。

どうやら、土足で良さそうなので、靴のまま中へと入る。


「では、お世話をさせて頂く者をお連れしますので、御くつろぎになってお待ち下さい」


そう言い残し、族長は小屋から出て行った。


・・・お世話する者? 今度はなんなんだよ、もう・・・。


また理解出来ない言葉が飛び出したが、もう、驚きすぎて、もう聞くのも面倒だった。

取り合えず、歩き回り、気疲れした身体を休める為に、ベッドへ寝転んだ。

変な対応の連続で固まってしまっっていた身体を、解しながら考える。


ここは、本当に別世界みたいだな・・・。


今だ、あまり現実味はないが、これが夢ではない事だけはわかっていた。

ここが地球ではない以上、先程、考えていた神隠しの様なものあってしまったと、考えるしかないのか・・・。


前の生活に、これといって未練はないからなのか、それ程、強く帰りたいとも思わなかった。

今の所、戻る方法がない以上、少しずつこちらの世界に慣れていくしかないんだろうな・・・。


だが、前向きに考えれば、これはある意味チャンスなのでは、と考える。

向こう世界では、色々失敗してしまった結果が、あの終息した生活だった・・・。

もしかしたら、一からやり直すことが出来るのかもしれない・・・。

そんな考えが頭を過っていた。


すると、突然、失礼致します、と誰かが小屋に入って来た。


「族長よりお世話を・・・任命されました・・・。グ、グレースと申します。よ、よろしくお願いします・・・」


そこには、綺麗なブロンドを腰まで伸ばした、少し細すぎる体格の少女が居た。

身長は低すぎず高すぎず、顔つきからして、年齢はまだ20歳前後だろうか。

この子も他の村人と同じく、表情は強ばり、口調も緊張した様に辿々しい。


「こっちは、藤原レンガって言います。よろしく」


しかし、この子に世話を焼かれるのか・・・。


これは目のやり場に困るな、などと考えている自分に気付き、ふと、我に帰る。


・・・さっき、やり直せるかも、何て考えていたのに、早くも転びそうになってどうする!


同じ失敗を繰り返さぬ様に、他人に固執して味わった苦しみを思い返す。

この世界で失敗しない為に・・・。





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