表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 騒乱の王国
29/43

第28話 利用するモノ、されるモノ

宿の一室内には、ドミヤが定期的に本を捲る音が聞こえていた。同じ空間にいる、グレースとシーデは日中の疲れから、座ったままの姿勢で小さく寝息を立てていた。

そして、もう一度ページを捲る音が響く。


・・・これは、また豪い、書かれようでさね・・・。


今、ドミヤが見ているのは、王国設立までが記された歴史書である。だが、そこに記載されているのは、かなり偏ったものだった。

亜人種が過去に行ってきた暴虐の数々。そして・・・それを正し、打ち勝ったとされるヒト種の功績が赤裸々に描かれていた。

ここに書かれている内容のどこまでが真実かはわからないが、少なくともこの歴史がヒトによって、捻じ曲げられてものだという事だけはわかる。

だが、そう感じれるのは、ドミヤ自身が亜人種であるからに他ならない。


人は誰しもが、自分は正しい事をしている、間違った事はしていないという、自己愛の気持ちを持っている。

その気持ちは、人によって、大きさ、形こそ異なるが、最終的にはそこに行き着くものだ。

それがどんな行動だったとしてもだ・・・。


その為、この様な書物の効果は絶大である。

自らの種族の行いを正当化し、更には、善悪をきっちりと分ける事で自らの存在価値を正当化する。

いつの時代でも歴史と、いうものはこんなものである。


真実は書き換えられ、示される正義などというものは、所詮、その時の支配者の都合の良いものでしか無い。

絶対的な正義などと、いうものはこの世界には存在しない。勝てば官軍とは、よく言ったものだ。


しかし・・・この家を持ち上げ、破壊の限りを尽くしたドワーフってのは・・・ちょっと面白いでさね。

そこには、家屋を軽々と持ち上げ、村を破棄しているドワーフが描かれていた。そして、その至る所には、逃げ惑う民衆達が描かれている。


幾ら、あい達の種族が怪力だからって、こんなのは無理でさよ・・・。

そのあまりにも飛躍した表現に、思わず笑いが込み上げしまう。



すると、部屋の扉がゆっくりと開かれた。旦那が戻って来たみたいだ。


「・・・遅くなって、悪い。」


旦那は、部屋の様子を見渡すと、短くそう言った。

戻って来た彼の雰囲気は暗く、相変わらずの様子だ。

そこで、あいは思い切って、いつも通りに接してみる。


「また、遅いから・・・女の子を垂らし込んで帰ってく来るのかと思ったでさよー。」

「何でそうなるんだよ・・・。人を女のケツばっか追っかけてるみたいに言うなよッ!」


お互いに、少しぎこちなくはあったが、いつも通りに笑い合う事が出来た。

こういう雰囲気で話せるのが・・・あいには、すごく久しぶりな、気がしていた。



その夜は、日中の騒動もあって、皆疲れているという事で、早めな消灯していた。

周りからは、小さな寝息が幾つか聞こえている。もう、みんな寝付いたみたいだ。

でも、あいだけは、なかなか眠りに落ちることが出来ず、目を瞑ったまま、身体を丸めていた。


旦那の暗い表情が脳裏に過る・・・。

あのヒトは、何なのだろうか・・・。やたらと、面倒事に首を突っ込みたがる。今日の件も、シーデの件もそうだ。

何が彼を突き動かすのか・・・理解が出来ない。

その癖、すぐに落ち込み、怒り、悩む・・・。それでは、支離滅裂だ。


あいが、この人生で学んだ事は、面倒事は回避し、上手く立ち回って生きていく事。それだ。

世の中には、不条理、仕方の無いことなど、星の数ほど存在している。

そんな事にいちいち、ぶつかっていたら、身体が持たない。


だが、彼は違う。そんな不条理に正面からぶつかり、足掻こうとする。何故・・・わざわざそんな事をするのか・・・。


この世界の不条理・・・それは、ヒト種と亜人種の存在。

きっと彼の心中の引っ掛かりは、これで間違いない。

彼が強い怒りを見せる時は、いつだってこの類いが多い。先程の然り、クリストの時も然り。


でも、私は、恐らくは姉さん、シーデだってこれは、既に受け入れている事なのだ。

自分がこの世に産まれ落ちた時から、ずっとそうなのだ。今更、心を病む程の事では無い。


そこで、あいは気が付いた。

あのヒトはまだ、この世界に、このルールに慣れていない事に・・・。旦那はこの世界にやって来たばかりなのだ。

時間さえ立てば、彼もまたこの不条理を受け入れていくのだろう。そうなれば、彼も、余計な悩みも抱えず、平穏に生きていく事が出来る筈だ。


旦那も、早く・・・慣れるといいでさね・・・。

あいはそんな事を考えると同時に、その事を寂しがる自分がいる様な気がしていた・・・。


すると、突然、誰かが起き上がる音が聞こえた。誰かが、起きたのだろうか?

あいは薄く目を開け、それを確認する。


・・・旦那?

起き上がり扉へ向かって行くのは、旦那だった。トイレだろうか?

旦那は、静かに扉を開けると、そのまま部屋から出て行った。






俺は部屋を後にすると、廊下の終わりにあるバルコニーへ出る。

今日は、疲れている筈なのだが、なかなか寝付く事が出来なかった。先程の男から聞いた話が頭から離れなかったのだ・・・。

バルコニーの手摺から上半身を乗り出して、夜の街を眺める。

その町並みは、自分のいた世界とは違い、明かりは灯っている数はかなり少ない。この時間でも、明かりが灯っている場所は、商店区の外れに位置する、歓楽区だ。王国の中央に位置している、巨大な王宮ですら、明かりは少ない。


歓楽区には、この時間でも人がパラパラと往来しているのが遠目に見える。前に皆と酒場に出向いた時もそうだったが、夜の街はそれなりの賑わいを見せていた。

娯楽の少ないこの世界に置いては、夜に飲みに出ることが一番の楽しみになっているのかもしれない。

その陽気に人々が歩く風景は、自分の居た世界となんら変わりはなかった。

それは、この王国には、確かな、平穏がある証であった。


しかし、その平穏は、亜人種の多大な犠牲の上に成り立っているもの。この王国で平穏を手に入れた人の数だけ、亜人種達が犠牲に、不幸になっている。

それもまた、真実・・・。


これもまた、一つの共存の方法だとも思う。

しかし、何か違う気もする・・・。

もっと他に、何か道がある筈だと感じてしまう。

自分の言っている事は単なる綺麗事なのかもしれない。


それに・・・あの男が言っていた言葉。亜人種の反乱の兆しだ。

勿論、王国側もその事は念頭に入れている筈。何かしらの対策は興じているのだろう。

そして、また、あの男の行動・・・それを未然に防ぐべく動いている彼らの行動も大いに理解できる。


しかし・・・俺に何かを変える。そんな、大それた事は出来る訳がない。

これまで、色々な困難は越えては来た。でも、それが出来たのは、たまたま、持ち合わせた古式銃と、グレース達の力のお陰に過ぎない。

それは、全てが偶然の産物でしか無い。

所詮、自分は、世界の何億といる、力無き民衆の一人。その立ち位置は、今も大して変わりはしないのだ。


そんな自分に今、出来る事は・・・。

自分の、彼女達の平穏を守る事。それだけだ・・・。

これで・・・全ての答えが出た。これで、もう、迷いは無くなった、筈だ・・・。






次の日は少し寝坊してしまったが、それでもいつも通りに王国の外にて、仕事をこなしていた。

昨日のこともあって、いつもとは、場所を大きく変えている。

そして、一段落したところで昼食にする事にした。


「さぁ~! 午後に備えて、いっぱい食べるっすよ~!」


シーデはそう意気込むと、無心で昼食を食べ始める。


「あいも、負けてらんないでさッ! 旦那もチマチマ食べてると、あいが食べちゃうでさよッ!」

「だめですよッ! ドミヤちゃんッ! 人の分にまで手を出したら。」


グレースは笑いながら、ドミヤを制した。皆の様子は、いつもと変わりは無かった。

俺も気持ちを切り替えていかないとな・・・。


「おッ? 何かゾロゾロと歩いてるっすけど、何すかあれッ?」


シーデが肉をくわえたまま、何かに気が付いた。

見ると、そこにいたのは、馬車を囲む様に歩く衛兵の一団だった。


「王国の外に衛兵がいるなんて珍しいな。外周の警備か何かか?」

「そうですね。なんですかね?」

「・・・。」


自分達の言葉に、ドミヤが食事に手を止め、その方向を見た。しかし、直ぐに、何も言わずに食事を再開した。

流石、ドミヤ。やっぱり食べる事が優先なのか・・・。


しかし、只の馬車の通行を見ていても、仕方無く、自分も直ぐに食事を再開しようとした時。


ガタッ!!

馬車の後部から、何かが勢いよく飛び出した。


人かッ!?

その人物は静止しようとする兵士を振りきりながら、後方へ走り出そうとする。


「イヤだッ!! 助けてッッ!!」


しかし、すぐに兵士二人係りで地面に抑えられ、その悲鳴だけが、辺りに木霊した。


「な、なんだ、あれはッ!? まさか、また密売人かッ!?」


そう考え、思わず立ち上がる。

すると、先程まで黙っていたドミヤが声を上げた。


「違うでさッッ!! それは・・・。」


しかし、ドミヤは何故か、口籠る。俺は、不可思議な視線をドミヤに向けたが、ドミヤは下を向いたまま、一向に何も言おうとはしない。

どうしたんだ・・・ドミヤの奴・・・。


すると、その馬車に、もう一度、動きが起こった。更に、もう一人の人間が、馬車から飛び出したのだ。

そして、その人物は押さえ込んでいる兵士を飛び越え、此方の方向へ真っ直ぐに走って来る。

しかし。


ドスッ!!

馬車の脇に控える一人の兵士が放った矢が放たれ、その人物を足を捉えた。

そして、そのまま体勢を崩し、転がると自分の少し前で止まった。


「う、うぅ・・・。お願い、助けて・・・。」


転んだ拍子に被っていたフードは捲れ、その顔が露になった。それは・・・エルフの少女だった。

足から血を流す少女は、震える手を此方に差し伸べてくる。


「大丈夫かッ!?」

「旦那ッッ!! ダメでさ・・・。」


俺は、その少女に駆け寄ろうとしたが、ドミヤにその動きを止められた。



あいは、殆ど反射的に旦那の肩を掴んでいた。

ドミヤには、この一団が何のか、一目見た時からわかっていた。


恐らく、これは・・・養殖の村から連れて来られたエルフだ。勿論、術具の材料としてだ・・・。

あいはその言葉を出来れば、出したくは無かった。エルフ種の姉さんがいる事は勿論と、それについて旦那に詳しい理由を聞かれたく無いという理由が一つだ・・・。


出来れば、言いたくは無い事だった。いずれ・・・知る事になるとしても、自分の口からは言いたくは無かった。

その告白は、自分が長きに渡って、その作業の片棒を担いでいた事を告白する事に他ならないのだから・・・。


「お願い・・・。死にたくない・・・。どうか、お願い・・・。」

少女は涙を流しながら、何度も懇願してくる。

可哀想だが、これは仕方無い事だ・・・。ここは、王国の外とはいえ、下手に問題を起こせば、自分達だってどうなるかわからない・・・。

前に立つ旦那も今は、大人しく動きを止めてくれている。幸いにも、先程の自分の言葉で、何かを察してくれたみたいだった。


「ご迷惑をかけます。」

直ぐ様、衛兵の一人が此方に駆け寄って来る。そして、少女の腕を掴むと、乱暴に引っ張り、そのまま引きずる様に連れて行く。


「やめてッッ!! 助けてェッッ!!」

しかし、少女は更に、悲痛の叫びを上げ、片方の手で地面に爪を立て、必死にその場に留まろうと足掻いた。

地面に突き刺したその爪先から、血が流れ出した。

誰もが、そんな凄惨な光景を前に言葉も無く、立ち尽くすしか無かった。


「この・・・大人しくしろッッ!!!」

すると、衛兵は苛立った様に声を上げると、少女のわき腹を蹴り上げた。

少女は短く悲鳴を上げ、一瞬怯んだが、まだ抵抗をやめなかった。


「ぐうぅ・・・。イヤだ、やめてぇ・・・。お願い・・・。」

尚も、必死に逃れ様と少女は暴れ続けた。


「いい加減しろッッ!!このッッ!!」

今度は衛兵は渾身の力で少女の身体を蹴り上げた。

そのあまりの衝撃に、少女の身体が浮き上がり、そのまま背中から地面倒れ込んだ。


「貴様の運命は生まれた時から決まってるんだッ! 今更、暴れるんじゃねぇッ!!」

そして、男は振り上げた拳を何度も少女、目掛けて振り下ろす。

その度、少女の呻きが短く上がる。


「うぅ・・・。もう、やめてぇ・・・。」

少女は頭を両手で庇い、身体を丸めて、衛兵の何度も振り下ろされる拳からその身を守っている。


それは、思わず目を覆いたくなる光景だった・・・。

後ろから、姉さんのすすり泣く声が聞こえて来た。前の旦那は・・・。


旦那も、ある種の覚悟を、決意を決めたのかもしれない・・・。

いつもならば、絶対に飛び出して行く場面だったが、今はピクリとも動こうとしない・・・。


そして、何となく視線を下ろすと。

旦那の右手が強く握られている事に気が付いた。その掌には、激しく爪が食い込み、血が滲み出している。

今、彼は頑張っている。このどうする事の出来ない理を受け入れようと、自らを変えようと頑張っている。


これで、いいんでさ・・・。これで、全てが上手くいく筈でさ・・・。

あいはそう思っていた。そう思っていた筈だったが。


「ぐあァッッ!!」


その声と共に、あいの手に残っている感触は、冷たい斧の手触りと、何かを砕く感触だった・・・。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ