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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 騒乱の王国
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第26話 世界の秩序

グレースが、水の術をゆっくりと解いていった・・・。


「・・・・・ごめんなさい。」


グレースは、誰にともなく、小さく呟いた。俺は何も言う事が出来ず、只、その場に立ち尽くした。


「そうか、タウラは死んだか。」


いつの間にか此方へ来ていた男は、呟く。この少年は、タウラと言う名前だった、らしい。

もう少し、自分がしっかり確認していれば・・・。こんな事にはなら無かった、かもしれない。

しかし、今更、そんな事を思っても、彼はもう動く事は無い。

グレースの手から滴り落ちる水滴が、広がった赤池に弾かれる音だけが、木霊する。


「・・・助けられなく、申し訳ない。」


俺は、ようやく絞り出す様に男に謝罪の言葉を口にした。


「構わない。それよりも、あの大蛇の等分はどうするか?」


俺は自分の耳を疑った。

等分? 何の話をしているんだ・・・コイツは。


男の反応は、まるで只の日用品が壊れた、そんな様子。

自分の仲間が、しかも、自分を庇った結果、命を落とした、そうだった筈だ。

俺はあまりの想定外の反応に、理解が追い付かずにいた。


「ちょっと待てくれ。彼は、死んでしまったんだぞ? あなたの仲間が今、目の前で・・・なんとも思わないのか?」

「ああ? これが、こいつの役目だからな。これがいなくなって、多少困ることもあるが・・・。まぁ、仕方ない事だ」


男は何をそんなに熱くなってるんだ?と、でも言いたげな雰囲気で答える。

俺は、彼のあまりに淡々とした口調に、一瞬、自分がおかしいのかと、錯覚してしまう。

だが、そんな事は断じて無いッ!!

そして、俺は男に一歩、詰め寄った。


「旦那ッッ!!」

「役目!? 仕方ない!? ふざけんなッッ!! 彼はお前を助けて死んだんだぞッ! それをッッ!!」


俺の感情は爆発を起こし、男の胸ぐらを強く締め上げた。ドミヤの制止する声が聞こえたが、止まる事は出来そうに無い。


「はぁッ!? こいつは俺の狩りの道具だよッッ! 主を守って死んだんだッ! コイツは役目を全うしただけ、それだけだろうがッ!!」


「おまえはッ! 彼を何だと思ってんだッッ!!」

「あぁッ!? 知らねぇよッ! そんな事ッ!! 第一、てめぇだって3匹も連れてるじゃねえかッ!?」

「旦那ッッ! やめるでさッ!!」


未だ、男に掴みかかっている自分を、引き剥がそうとドミヤが割って入って来る。


「ドミヤッ! 邪魔するなッッ!! コイツは、コイツだけはッッ!!」


ドミヤを振り払い、更に激昂する自分を見て、男は深く溜め息を漏らした。


「何だ・・・てめぇは、希にいる偽善的な口の奴か・・・。なら、俺がしっかり教えてやるよ。これが、この世界、この国の秩序だッ!! それを、受け入れ、全うする。それがこの国で、生きる者の使命だッ!! 現実を見ろッ!この甘ったれがッッ!!」


ガンッ!!

男は言い終わるのと同時に、レンガの頬を殴り付けた。レンガはその衝撃に後ろ手に尻餅をつく。


「レンガ様ッ!!」


グレースがレンガの様子を見て、直ぐに駆け寄る。だが、それよりも早く、レンガは口を拭いながら立ち上がった。


「何が、秩序だ・・・。何が、使命だ・・・。てめぇの様な奴がいるから・・・。てめぇみたいな奴がいるからッッ!」


レンガは、呪いの様にそう繰り返すと、手にしている古式銃の銃口を男に向けた。


「旦那ッッ!! ダメでさッッ!! やめるでさッッ!!」

「レンガ様ッッ!?」


ドミヤとグレースの必死の呼び掛けが聞こえる。でも、俺はこの手を下げる気は無いッ!


そう、いつだって、どこだって、そうだ・・・。

こういう奴が・・・世界を壊す・・・。

下らない思想、ルールに只、縛られている者が、世界を壊す・・・。

だから、俺は・・・。

そして、俺は引き金に掛かる指に力を入れた。


ダンッッ!!

乾いた銃声が草原に響き渡った。

俺は、空を見ていた。それは、血の様に紅い夕焼け空だった。


「旦那・・・。落ち着くでさ・・・。」


その自分の視界にドミヤの顔が現れた。

引き金を引く直前・・・。ドミヤがレンガに組付き、そのまま地面へ倒したのだ。そして、軌道のブレた弾丸は、遥か彼方へと飛んで行った。


「どけ・・・。ドミヤ、コイツは俺がッッ!!」


だが、それでも、俺の怒りは収まらず、上体を起こすと、立ち尽くしている男を睨み付ける。


「ひ、ひぃッッ!」


男は、レンガが明確な殺意を持って攻撃してきた事に気が付き、その場から走り去って行った。


「待てッッ!! この野郎ッッ!!」


パンッッ!!

だが、次の瞬間、ドミヤの平手打ちがレンガの頬を捉えた。


「な、何するんだッ!! ドミヤッ!!」

「もう・・・やめるでさ、旦那。ここで、あの男を殺したら・・・あの少年は、どうなるでさか・・・。」

「ッ!!」


ドミヤの溢れた涙が、俺の服を濡らした。

その冷たさが、自分に少しの冷静さを取り戻させた。

でも、だからって・・・。


「クソッッ!!!!」


言葉に成らない感情を、吐き出す様に、俺は空になった古式銃を地面に叩きつけた・・・。







そのまま時は流れた。誰も何も言わずに、時間だけが只、流れていった。

空には、うっすらと星が輝き始め、夕暮れの時間の終わりを告げ始めていた。

俺はドミヤに乗られたまま、その空を見上げていた。


「・・・ドミヤ。もう、大丈夫だ。ごめん・・・。」


そう言うと、ドミヤは自分の上からゆっくりと退いた。俺も、それに続き、ゆったりとした動作で立ち上がる。


「彼を、埋葬してあげよう・・・。」


そして、身体の埃を払うと、皆に短くそう告げた。

皆は、何も言わずに動き始めた。いや・・・自分に聞こえていなかった、だけなのかもしれない。


手分けして彼を土に埋葬すると、大蛇が荒らした手頃な木片を墓標代わりに携えた。

誰もが無言で、出来上がった不格好な墓標を眺めていた。


少年は、最期の瞬間。何を、思ったのだろうか・・・。

少年は、これまでの人生を、どう思っていたのだろうか・・・。

それは、もう、誰にもわからない。誰も、答えられない。


この世界の秩序、ルール・・・。

それは、前から薄々は気が付いていた筈。知っていた筈。

これこそが、現実。紛うこと無き、この世界のルールなのだ。


生きていく為に必要な秩序。それが・・・これだと言うのか。これを、受け入れろというのか。

俺は、どうしたいのか・・・。何を、したいのか・・・。



「旦那・・・。」


すると、横に立つドミヤが、その静寂を破って此方に声を掛けてきた。


「あまり、気にしたら、ダメでさ・・・。」

「・・・ありがとう。ドミヤ・・・。」


ドミヤが気に掛けてくれている事はわかった。だが、今はそれだけを、口にする事しか出来なかった。





そして、無言のまま、宿へと戻って来た。

外は、もうすっかり日が沈んでいる。各々、自分のスペースへと腰を下ろし、誰もだ口を開く気配は無い。

重苦しい空気だけが部屋を支配している。


「ちょっと・・・。出て来るよ。」


レンガはそれだけ告げると、部屋を後にした。そして、誰かが、応答するよりも早く、扉が閉じられた。


「レンガさん・・・。かなり、参ってるみたいっすね。」


あたしは彼が出ていった扉を見たまま、呟いた。


「そうですね・・・。心配ですが、今は一人にしてあげた方が良さそうですね・・・。」


小さく囁く姉さんも、自分と同じ様に扉を見たままだ。


「旦那は・・・。何でも抱え込もうと、しすぎなんでさよ・・・。」

「・・・どういう事っすか?」


あたしはドミヤの言葉の意図が読み取れ無かった。


「頭が固い、って事でさ。あれじゃ、自分で自分を追い込んでるだけでさよ・・・。」


わかった様で、わからない。

あたしは、まだ彼、レンガさんの事はよくわからなかった。あたしは獣人で、あの人はヒト。それくらいの認識しかしていない。

先程の彼は、誰が見てもわかる程に激昂していた。

だが、その怒りは誰に向けられたものなのか・・・。あの男か? あの少年の死か? もしくは、それとは違うもっと別のものなのか・・・。


あの時、あたしは何も出来なかった。いや・・・しなかった。

ヒトである、彼が見せた不可思議な行動。それを傍観していたからだ。

彼の真意は、なんなのだろうか・・・。






俺は、まだ賑わいを見せている往来を一人で歩いていた。

陽気に歩く人々。そんな光景を見ていると、また自分だけが違う世界に来てしまった様な錯覚を覚える。

だが、それも強ち、間違いでは無いのかもしれない。

最近、この世界にも慣れたのだと感じていた。しかし、現実はこれだ・・・。

俺は、どこまで行っても、この世界の人間では無いのだと、痛感させられる。ならば、俺の世界はどこあるというのか・・・。


きっと・・・あの男に、悪気は無いのだろう。

男が言った通り、これこそがこの世界の秩序なのだ・・・。そして、俺こそが異物、そのものなのだ・・・。


この世界で生きていく以上、受け入れるしか無いのか・・・。それこそが、この世界に慣れるという事なのか・・・。

俺も、いつの日か、彼女達を・・・あんな目で見る時が来るのだろうか・・・。

答えの出ない疑問ばかりが、浮かんでは消えて行った。


暫く、宛も無く歩き回り、街の隅に置かれているベンチに腰を下ろした。そして、煙草くわえると火を灯した。

すると、一つの影が自分の前で止まった。


「隣、いいかな?」

「あ、どうぞ。」


白髪混じりで髭を生やした男。全く見た事の無い人だ。まぁ、只、休憩場所を求めて来ただけなのだろう。

俺は、それ以上、その男には興味は示さず、煙草の煙を吹かす。

すると、男の方から声を掛けてきた。


「君・・・今、少しいいかな?」

「はい・・・? 何でしょうか?」


少し警戒しながらも、男の言葉に応じてみる。正直、今は人と話したい気分では無かった。でも、無視するわけにもいか無い。

まぁ、適当に折り合いをつけて、場所を移動するか・・・。


「君は、この王国の事を・・・どう思うかね?」

「へっ・・・。」


男が突然、切り出した、不可思議な質問に思わず、間抜けな声を上げてしまった。

それは、いきなり自宅を訪問され、あなたは神を信じましすか?、という妙な宗教の勧誘を思わせて来る。

俺の警戒心は、限界まで高まって行く。


「あーすまない。そんなに警戒しないでくれ・・・。君に、何かしようとか、そう言うわけでは無いから。」

「はぁ・・・。」


男は誤解を拭う様に、喜作に笑いながら、手を振って見せた。だが、そんな事で、簡単に警戒を解く事などは出来ない。


「変な風に捕らえないで、聞いて欲しい。 実は、少し前に、たまたま君の事を見かけてから、気になっていたんだ。」

「ええぇ!?」


何やら、話が更に不穏な方向へ行っている気がする・・・。この人は、まさか・・・そっち系の人、なのか。

今度は、先程とは、別種の恐怖が込み上げてくる。


「あの・・・。自分は、同性愛とか、そういうのは、ちょっと無いんで・・・。すみません。」


ここは、早い内に、釘を刺して断っておくのがいいだろう。


「なッ!? 違うッ! そういう意味で言ったわけでは無いッ! 誤解しないでくれッ!! 」


男は年甲斐も無く、狼狽していた。

俺は、逃げるなら今だ、と腰を上げようとした。


「あッ! 待ってくれッ! 私が最初に見たというのは、君が獣人の少女を連れて、売人と揉めていたところだ。だから、別に、私が君に興味があるとか、そういう類いの話では、断固無いッ!」


男は、焦った様子で、話の真意を語り出した。

それでも、今一、引っ掛かる部分はあったが、ストーカーとかそういうわけでは無さそうだ。

ならば、一体、なんの話だと言うのか・・・。


「そうなんですか・・・。それで自分に何の話があるんですか?」

「そうだな・・・。今度はもっと具体的に聞こう。君は、亜人達について、いや・・・亜人達のあり方についてどう思っているかね?」


男は、更によくわからない質問を重ねた。どう答えれば良いものか・・・。

だが、男の話の内容は、今まさに自分が悩んでいた内容に酷似している様な気がした。


この男は・・・一体、何者なのだろうか・・・。



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