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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 騒乱の王国
24/43

第23話 お酒は程々に。

今はすっかり夜も更けり、ドミヤ、シーデ、グレース、俺の四人で酒場のテーブルに着いたところだ。


また、亜人種が入れる酒場を探すのも一苦労で、やっとの思いで席に腰を下ろす事が出来た。しかし、この王国の亜人の扱いの酷さを改めて、痛感する。

このやっと見つけた酒場も、客はガラガラ、内装もお世辞にも綺麗では無い。不人気店という事は、まず間違いないだろう。


「俺は、勿論、アルコール頼むけど。お前らはどうすんだ?」

「あいも、勿論、飲みますでさ」

「あたしは、飲んだ事無いけど、頂くっすッ!」

「私も、少し飲んでみます」


どうやら全員飲むらしい・・・。

ドミヤだけは飲んだ事がある様だが・・・。シーデとグレースは初めてみたいだ。大丈夫だろうか・・・。

どんなものがあるのか、よくわからないので、取り合えず、この店のおすすめの飲み物を4つ注文する。



小さく乾杯して、揃った飲み物を飲み始める。

これは、ビールか。色的にそうかと思ったが、これは正しくビールだ。久しぶりに味わう喉ごしと、アルコールが身体全体に染み渡る。


「くぁ~! 久しぶりで美味しいでさッ!」

「げ~。なんだが、苦い飲み物っすね。これ。」

「そうですね。少し変わった味です。」


ドミヤは慣れている様子だが、後の二人は今一、お口に合わない様子だ。まぁ、初めてビールの感想なんてそんなものだろう。


「仕方ないでさねー。お子様の口には合わないんでさよッ!」

「・・・どう見ても、お前が一番、お子様だろ・・・。」


「旦那・・・。なんか言ったでさか・・・。」

「いいえ。何も・・・。」


つまみを注文した後で、横で渋い顔をしながらコップを傾けているグレースに向き直る。


「グレース。口に合わないなら、無理して飲まなくていいからな」

「いえ、苦味、味は大丈夫なんですが・・・。なんか顔が熱くて・・・。」


言われてみれば、苦味ならば、このビールなぞ、グレース特製の山菜汁には遠く及ばない・・・。


「それは酔いが回ってきてるんだよ。慣れないうちは、少しずつ飲んだほうがいい。気持ち悪くなっちゃうからな」

「あ、そうなんですね。確かに、少し視界がフラフラしてます・・・。」


すると、料理が次々と運ばれて来る。それを、予想通りに、その食べ物を取り合って、ドミヤとシーデのじゃれ合いが始まった。

他に客はいないから、少しくらい騒いでも問題無いと、踏んでそれを傍観する。


「・・・今日は、すみませんでした。」


すると、突然、グレースが謝罪の言葉を漏らした。


「ん? ああ、別に大丈夫だよ。体調が悪い時は誰にだってあるからさ」

「・・・。」


他に、何かあるんだろうか?


「グレースは周りに気を使いすぎだと思うよ。村での事、前に聞いたけど。もう、ここは村じゃないんだから、気楽に行けばいいさ」


少し酔ってきているせいか、普段は言い辛い事もサラサラ言えてしまう。

彼女の性格上、村では相当に気を使っていたのだろう。そういった長年の癖は、中々抜けるものでは無い。でも、それが少しでも変わっていければいいと思う。


「そうですね・・・。ありがとうございます。私・・・レンガ様と一緒に来て良かったです。」


彼女はそう呟いて、小さく微笑んだ。グレースも少し酔っているせいか、いやに直球の言葉を投げ掛けてくる。

すると、そんな空気をぶち壊す様に・・・。


「シーデッ!! 肉ばっか食べてずるいでさッ!! その皿をこっちに寄越すでさよッ!!」

「イヤッっす!! この世界の鉄則は早い者勝ちっす!」


やはり、酒も相まって、二人のテンションはゲージは振り切られ始めていた。この様子じゃ、俺は全く酔う事は出来そうに無いな・・・。

そう思って、残りのビールを一気に飲み干してから、次の飲み物を注文したのだった。






「何でッ!! 俺がこんな目に合わないといけないんだッッ!! ふざけんなァー!」


酒場で飲み始めて、暫くすると、あい達の席にとんでもない酔っぱらいが誕生していた。

それは、この席での一番の年長者、旦那であった・・・。


「ちょいちょい。旦那、ちょっと飲みすぎでさよ・・・。少し、落ち着くでさ。」


あいは、席に立ち上がって、叫ぶ旦那に服の裾を引っ張った。

横に座っていた姉さんは、もう机に突っ伏してぐっすりと眠っている。シーデはというと・・・既に、第2の旦那になりつつあった・・・。


「うるせェぞッ! 幼女ッッ!! 大人ぶってんじゃぁねェーぞォ!!」

「そうだそうだァ! このチンチクリンドミヤァァ!」


あいは、頭の血管がキレそうになるのを必死に押さえた。この状態の二人に、何を言っても無駄だ。

寧ろ、その空気に飲み込まれてしまいそうな気さえする・・・。

あいは、二人を止める事は諦めて、溜め息を漏らしながら、席に腰を落とした。


「ったくッッ!! 俺はただ、地味暮らしてただけなのにィ! ここはどこなんだッ!? 俺の家はどこにいったんだァッ!!」

「そうだァッ!! あたしの明日はどっちだァッ!!」


ああ、旦那の前の世界とか言ってた話みたいでさね・・・。

しかし、それは旦那の動向を見ている限り、嘘では無い様だ。旦那が古式銃と呼ぶ、不思議な筒。それに、彼の纏うこの世界のヒトとは、明らかに違う異質な空気。

それらが、彼の証言を実証していると感じられた。


前に旦那から、冗談半分で聞いた話を思い出す。

馬の代わりに、鉄の馬車が走り回り、何十人も乗せて空飛ぶ乗り物。極めつけは、空に浮かぶ月に行く事も出来ると言う。

それは、お伽話にしても、あまりに行き過ぎている。想像する事も出来ない世界だ。


しかし、もし、その話が本当ならば・・・。旦那は、何故、どうやって、この世界に来たというのか・・・。

目の前には、先程と変わらずに、立ち上がったままで、愚痴を叫びまくる旦那の姿がある。

あの様子では当の本人も、わからないという事なのだろう・・・。


「なんだァ? ドミヤァ、黙りしちゃって。腹でも痛いのかァ?」


すると、突然、叫ぶのを急に止めた旦那が、あいに焦点の合っていない視線を向けてきた。

このヒトはいきなり、何一つわからない土地に一人、置き去りにされたって事なのか・・・。

そう考えると、この酔っぱらいの境遇が少し、不憫に感じる。たまには、酔いたくもなるのだろう。


「旦那も、色々大変だったんでさね・・・。」

「おぉ!? なんだァードミヤァ。なんか、優しいじゃァねェーかァ!? よしッ!! ご褒美に撫でてやろうじゃねェかァ!!」


旦那はそう言うと同時に、机に身を乗りだし、あいの頭を抱え込んできた。


「うわッッ!! ちょっとッ! やめるでさッッ!! 顔が近いでさッッ!!」

「ナハハハッッ!! ドミッチ! 喜んでるみたいっすよォッ!! レンガさんッチューするっすッ!!」


更に、悪ノリ2号がとんでもない提案をする。あいは、必死に旦那から逃げようともがくが、体勢が悪い、力が入らない。


「ちょッ!! シーデッ!! 何とんでもない事を言ってるでさかッ!?」

「アレェー!? ドミッチ、照れてるんっすかァー?! 意外にウブなんっすねェー! レンガさんッいいからやっちゃえェやっちゃえェすッ!!」

「よしッ!! ドミヤッ!! 俺の渾身のチュウを食らえェッ!! そして、俺がお前の呪いを解いて、幼女から、少女に変えてやるゥッッ!!」

「げッッ!?」


そして、旦那の顔が自分の顔に徐々に近づいて来る。こいつ・・・。本気でさッ!!

あいは、身の危険を感じ、火事場の馬鹿力を発揮する。


「このエロオヤジッッ!! いい加減にするでさッッ!!」


そして、酒場一体に、パンッと激しい平手の音が木霊したのだった。




夜中、グレースはトイレに行きたくなり、目を覚ました。ベッドから、ゆっくりと上体を起こす。

なんか頭がクラクラする・・・。視界はゆっくりと動き周り、上手く焦点が定まらない。

自分が、いつここへ戻って来たのか、記憶が全く無かった。

横のベッドを見ると、ドミヤちゃんとシーデちゃんが一緒に寝ている。肢体を全開まで伸ばして、泥の様に眠るドミヤちゃんのその顔に、シーデちゃんのフワフワの尻尾が被せられていた。


「ふふふ・・・。」


その少し間抜けな光景に思わず、笑いが込み上げてくる。

反対のベッドには、レンガ様がイビキをかきながら、うつ伏せに眠っていた。


私は、ダルい身体に鞭を打って、やっとの思いで立ち上がる。そして、壁に手を当て、フラつく足取りで、廊下にあるトイレへと向かった。


ようやく目的地に辿り着き、用を足す。

何となく、先程、酒場でレンガ様の言った言葉を思い出す。


ー気楽にいけばいいと思うよー


今の私には、その言葉が、凄く嬉しかった。自然と頬が綻んでいるのがわかった。

私も、少しずつ変わっていければ、いいのかもしれない。そう思う事が出来たから・・・。


そして、グレースは再び、フラつきながらも、部屋へと戻って行った。






「う、ううぅ・・・。」


俺は朝目覚めると、最悪な気分だった。猛烈に響く頭痛と共に目が覚めた。まだ、軽くアルコールが残っているのか、まだ意識も朧げだ。

これは、飲み過ぎたのかもしれない・・・。その証拠に、昨晩の途中から全く記憶がない。

何とか、無事に部屋には戻って来てはいるみたいだが。


だが、そこで、少しおかしなものに気が付く。

自分の身体が、何か柔らかで暖かいものに覆われているのだ。更には、何やら甘い香りまで放っており、朝の元気な自分の分身が更に元気になり始める。

これは、一体なんだ・・・。


ボヤけた意識で、何とか自分を包むものを、ゆっくりと引き剥がしていく。

すると、その正体が判明した・・・。


「ッ!!」


それは紛れも無く、グレースだった。その少女の顔が自分の顔の数センチ先にあった。

あまりの驚きに固まっていると、その瞳がゆっくりと開かれた。


「あ、レンガ様・・・。おはようございます・・・。」

「あ、うん・・・。」


グレースはまだ、寝ぼけている様で、そう囁くと、再び瞳を閉じようとする。しかし、何かに気が付いた様に、今度は瞳を全開まで開けた。

そして、その顔はリンゴの様に真っ赤に染まった。


「ッ!!」


すると。


「ああァァッッーー!!」


今度は、ドミヤの叫びが部屋に全体に響いた。俺は、その声に驚き、ベッドから転げ落ちた。


「ふ、二人共ッ!? 朝ッぱらから、何やってるんでさかッ!?」

「んんぅ・・・。 なんすか? 朝からうるさいっすね~。何か頭が、痛いんすから静かにしてほしいっすよー。」


その声に、どうやらシーデも起きたみたいだった。

しかし、今はそんな事を冷静に分析している時では無いッ!すぐに、この誤解を晴らさなくてはッ!


「違うんだ! ドミヤこれは・・・。」


そう言って立ち上がると、自分に巻き付いていたシーツが滑り落ちた。いや・・・正確には、自分の下半身でその落下は止まっていた・・・。

それはそれは、立派なテントであった。


「このッッ!! 変態オヤジッッ!!」


静かな朝の宿には、乾いた平手の音が木霊していた。



そして、体調不良者が3人も出た為、この日の初狩りは延期となった。

お酒とは非常に怖いものであると、身を持って実感した今日この頃であった・・・。



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