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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 騒乱の王国
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第22話 グレースの心

グレースは、一人で宿に残っていた。


他の皆は、レンガの仕事の登録と買い出しの為、朝から出掛けている。グレースは少し体調が優れないと言って、今日は宿で留守番をしていた。


「はぁ・・・。」


何となく深い溜息が漏れる。

どこか具合が悪いわけでは無い。でも、気分が悪いのは本当だった。

胸がもやもやして、気持ちが沈み込んでいる。


この気分になったのは、恐らく・・・昨日の夜からだ。昨晩、レンガ様が戻って来た時からだ・・・。

今まで、こんな気分になった事は無かった・・・。いや・・・一度あった、気がする。


確か、ドミヤちゃんと出会った最初の頃・・・。レンガ様とドミヤちゃんが、楽しそうにふざけ合う姿を同じ気持ちになった気がする。


この気持ちはなんなのだろう? 今までに、抱いた事の無い気持ち・・・。

もしかしたら、これが、恋心というものだろうか・・・。


でも・・・。私はエルフ。あの人はヒト。根本的に違う存在・・・。

それは・・・違うと、思う・・・。


それでは、何なのか?

わからない・・・。


今日は、皆に体調が悪いと、嘘をついてしまった。心配そうに此方を見る皆の顔に、罪悪感を覚えた。

それは、迷惑を掛けることだとわかっているのに。それは、良くない事だとわかっているのに・・・。

私は、一体何をしているのか・・・。

こんな事をしていたら、皆に嫌われるかもしれない。皆が、私の元から去ってしまうかもしれない。

また・・・一人になってしまう、かもしれない・・・。


ふと、心に恐怖が広がり始める。私は、思わず膝を強く抱え込んだ。



私は、生まれた故郷を思い出した。


故郷の村、母がいて父もいて、のどかで平和な村だった。何も無い小さな村だったが、そこには確かな幸せがあった。

ある日、一人の貴族のヒトが村にやって来た。いつもの様に、その貴族のヒトを、皆で持て成した。

そして、その方は暫く、村に滞在する事になった。


でも、それはいつもの事だ。たまにあるヒト種の訪問は、そんなに珍しい事では無い。

特に子供である自分は、これといってする事は無かった。


しかし、今回は一つのトラブルが起きたのだ。それは、昼食の時間の事だった。


「貴様ァ!! 何をするかッ!!」


村の広場に貴族の怒号が響き渡った。皆、驚き、一斉にそちらに視線を向けた。


「も、申し訳ありませんッ!! 申し訳ありませんッ!!」


その貴族の世話役に任命されていた少女が、涙目で何度も謝罪を繰り返していた。

彼女は、貴族の昼食のスープを誤って取り落とし、それを彼にひっかけてしまったのだ。


「ふざけるなッ!! この女ッッ!!」


男は更に激昂し、片付け様と屈んだ少女の髪を、乱暴に掴んだ。そして、そのまま地面に叩きつけた。

地面に倒された少女は、胎児の様に身を丸めていた。

男は、更にその少女の身体に何度も蹴りを繰り出し続けた。汚い言葉を重ねながら、何度も、何度も・・・。


村人達は、誰も止めに入る事は、出来なかった。皆が、只、呆然とその光景を傍観する事しか出来なかった。

これが、この世界の秩序。亜人とヒトの絶対の秩序なのだ。



次の朝、突然、貴族のヒトは村を出た。それを見て、大人たちは何やら騒いでいた。

子供であった私には、何の話かわからなかった。


その夜・・・私は母と父に、大事な話があると呼ばれた。


いきなり、荷物と手紙と地図を渡された。そして、これから、一人で村を出て、ここを目指す様にと言われる。

私は、突然の事で、二人が何を言っているのか、理解出来ていなかった。

二人は、いつも様に笑っていた。


そして、すぐに追いつくからと言う、父と母に促され、私は一人、裏口から草原を出た。

暫く歩いていると、何かに気が付いた。

夜なのに、辺りがやけに明るくなったからだ。振り返ると、私が来た方向を中心に光が広がっていた。

でも・・・その光は、一人で心細かった私の気持ちを、元気つけてくれている・・・。

そんな、気がした・・・。



私はそれから、イヴァの村で生活するようになった。


しかし、母と父が来る事は、無かった・・・。

大人になり、あの時、父と母は私だけを逃がしてくれたのだと理解した。

だから・・・私は、どんなに辛くても、生きなければならない。どんなに孤独でも・・・。


最初の頃は、夜になると毎日、泣いていた。

でも、やがて寂しさにも慣れてきた。それが、村人に怖がられ、避けられていても。


一人でも、強く生きていける様になりたいと願った。

私は、もう、平気。心のどこかに、すっぽりと穴が開いていたが、平気。そう、割り切っていた。私には、それ以外の選択肢は無いのだから。


でも、そんなある時、レンガ様と出会って、私の空虚な日々は一変した。

今は、毎日が楽しい。レンガ様が居て、ドミヤちゃんが居て、まだ殆ど話した事は無いがシーデちゃんもいる。

すると、また新しい感情が芽生えた。

皆がいなくなる恐怖。皆に嫌われる恐怖。また・・・一人に戻る、恐怖の感情が・・・。


一人でも強く生きたい自分と、孤独を嫌う自分がせめぎ合う。

その二つは、表裏一体なのかもしれない・・・。

私が捨てられない価値と、一人でも強く生きられる価値。私は、その両方を求めているのかもしれない。






「これで、旦那も仕事につけますでさよ。男たるもの、ちゃんと働くのが一番でさよッ!」


ドミヤが、此方を見て、グッと親指を立てる。

人の事を、ニートみたいに言わないで欲しいものだ・・・。


今、丁度ハンターという仕事の証明書を発行してもらったところだ。

王国の殆どの男は、このハンターという仕事をしている。その内容は、王国の外部へ出て、食糧を調達して市場に流すのが、主な仕事の様だ。


何か、ハンターと聞くと派手なイメージだったが、山菜取りや鹿の様な草食動物を狩ってくるという、至って地味なものだった。

しかし、この仕事は個人の亜人達を同行させてもいいとの事なので、この人数ならば、なかなかの成果を上げる事が出来そうだ。


「そうだ。外へ出るのなら、シーデも何か武器が必要なんじゃないか?」

「武器っすか? まぁ、あたしはどっちでもいいっすよー。」


彼女の場合、武器など無くても大丈夫だろうが、また火竜の様な生物に遭遇した時の事を考えると、何か持っていた方がいいだろう。


「ドミヤは、そういうの詳しいんだろ? 良さそうなのを、選んでくれないか」

「いいでさよー。じゃあ、あそこの武具屋に寄って行こうでさ」


丁度いい所にあった、少し年季の入った武具屋へ入った。

中は、外装通りにあまり広くは無く、まるで傘を収納するかの様に剣やら槍やらが刺してある筒。壁には高価そうな剣が飾ってある。

そして、壁沿いに置かれている台には、様々な武具が並べられている。中には、形状的になんだかわからない物も数多くあった。


「シーデは、やっぱり接近戦が得意なのか?」


俺は、売人を取り押さえた時の、サマーソルトと人間離れした身のこなしを思い出す。


「そうっすねー。体術には自身あるっすよッ! 殴ったり引っ掻いたり蹴ったり!! だから、剣とかそういう、まどろっこしいのは苦手っす」


流石というか何というか・・・。イメージ通りの野性味あるスタイルだ。

すると、店の端の棚をがさがさと、漁っていたドミヤが何かを持って此方へ戻って来た。


「じゃあ、こんなのはどうでさ?」


ドミヤは、4本の鉄の刃が伸びている武器を差し出してきた。これは、所謂、鉤爪、クローと呼ばれる武器だ。手の甲に装着して使う、接近武器である。


「おッ! なんかいいっすねそれッ!!」


彼女はその武器を一発で気に入ったみたいだ。さっそく、手の甲に取り付けて、ブンブン振り回している。

しかし、ドミヤは流石、元工房勤めだ。あまりメジャーでは無い、こんな武器をすんなりと見つけてくるとは。

すると、ドミヤは今度は自分の方へ向き直った。


「折角だから、旦那も短刀くらい持っておいたらどうでさ?」


言われてみればそうだ。接近した時の為に、何かあるといいかもしれない。

それに古式銃だけだと、4回しか攻撃が出来ないと、きている。こんなポンコツな戦闘員は見た事が無い・・・。


「じゃあ、なんか良さげなのを選んでくれよ。ドミヤも、あのボロ斧は、買い換えた方がいいんじゃないか?」


「余計なお世話でさッ! あいはこれがいいんでさッ! 馴染んでる武器が一番いいんでさよ!」


膨れるドミヤに、ナイフを選んで貰う。一つの台に、大小様々なナイフが並べられている。


「旦那は、どんな形状が好みなんでさか?」

「そう言われても・・・使ったことが無いからな・・・。」


包丁以外の刃物なんて、この前のクリストの時に使ったのが始めてだった。

そんな自分に、好みも何も無い。こうやって、色々なナイフを見ても、正直違いが全くわからない。


「はぁー。相変わらず、頼り無いでさね・・・。」

「うるさいな・・・。なら、初心者でも、扱いやすそうな物とかにしてくれよ」


ドミヤの得意な嫌味も軽く受け流し、提案してみる。


「なら・・・これとかは、どうでさ?」


ドミヤは台に並ぶナイフを一つ取ると、それを此方に差し出した。

それは、刃渡りは10センチ程の、自分の良く知るナイフよりは少し長めのナイフだった。


「長さは少しあるでさが、刃は片面だけなんで扱いやすいと思うでさ」


ドミヤ、曰く、刃物の初心者は自分の刃で怪我をする事が多いとの事。なので、この様な片面が刃の形状の方が扱いやすいみたいだ。

重さも、重すぎず軽すぎずで、使いやすそうだ。これに決める事にした。


そして、カウンターにて、会計を済ませ、店を後にした。


ナイフも買った事だし、これから暇を見て、ドミヤかシーデにレクチャーして貰うとするか。

でも・・・シーデに教えて貰うのは無理か・・・。自分には、あんな動きを再現出来るとは思えない・・・。


「レンガさんッ! あたしの武器も奢ってもらってアリガトっすねッ!」

「大丈夫だよ。その分、仕事してもらうからさッ!」

「げぇ~。それは・・・プレッシャーっすね。」


実は、シーデの狩りには、相当期待していた。猫科の狩りの成功率は相当なものだと聞いていたからだ。

明日の初狩りが少し楽しみであった。

シーデとドミヤの身体能力、グレースの弓と術、そして高い聴力。かなりの、成果を見越せそうだ。


しかし、それと同時に、自分が盛大に足を引っ張るというビジョンも浮き上がってくる。気をつけないとな・・・。



「そういえば、グレースの体調は大丈夫かな? 大した事無いとは言ってたけども・・・。」


今まで体調を崩したところ見た事がない分、心配だった。


「きっと、旦那が夜遊びばっかするから、具合が悪くなっただけでさよッ」


大笑いしながらドミヤが言った。


「だから、夜遊びじゃないって言ってるだろッ! シーデもなんとか言ってやれよッ!」

「そうっすねー。レンガさんと暗がりに二人。大変だったっすよ」

「旦那・・・。」

「シーデ・・・。もう何も言わなくいいよ・・・。」


二人はそんな呆れている自分を見ながら、盛大に笑っていた。

それにしても、この二人はなかなかに、馬が合いそうな感じだ。何所となく毛質が似てる感じがする。

悪ふざけが好きなところとか、特に・・・。




こうして、二人にめちゃくちゃ弄られながら、やっと宿に戻って来た。


「グレース、体調は大丈夫か?」


部屋に戻り次第、窓際に座っていたグレースに声を掛けた。


「あ・・・。おかえりなさい・・・。はい、もう大丈夫そうです。」


そうは言っているが、まだどこか元気がない。更にあまり、此方は見ないで俯いている。

どうしたんだろう・・・。


「そうだ、これ。市場で見つけて買って来たからさ。食欲があるなら、食べてな」


そう言って、昨日グレースが気に入っていた砂糖が塗してあるパンを渡した。


「・・・あ、ありがとうございます。レンガ様・・・。」


グレースは驚いた様な表情で此方を見ると、それをゆっくりと両手で受け取った。


そんな光景を見て、ドミヤとシーデがあらあら~などと、言っている。

もう、この悪ふざけタッグはどうにかしてくれ。


「そういえば、旦那。今日も夜は出るんでさか?」

「そうだな・・・。」


昨日はとてもアルコールを取る暇など微塵も無かった。それならば、今日こそはッ!


「今日こそは、行ってくるよ。だから、また留守ーー」

「なら、今日はあいたちも行くでさ。旦那を一人で出すと何するかわからないって事が、よくわかったんで ・・・。」


ドミヤのその言葉には、反論は一切許さないという強い意志を感じた・・・。しかし、元々弁解の余地などは無かった。


「仕方ないな・・・。でも、お前らはまだ子供の歳だろ? 俺は酒場に行く気だけども、平気なのか?」

「なッ! あいらはもう、とっくに大人の歳でさッ! それにあいらに、ヒトの年齢云々は関係ないでさよ!」


ドミヤ曰く、この世界では15が成人の年齢らしい。当の本人は相変わらず、子供しか見えないが・・・。

日本ならば、電車を子供料金で乗れてもおかしくは無い。


「悪かった悪かった・・・。じゃあ、今日は四人で出掛けようか・・・。」


正直、あまり乗り気では無い。ドミヤとシーデに酒が入るのだ。どうなるか考えるだけで恐い・・・。

多分、羽根などは伸ばす事は出来ないだろう・・・。



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