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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 騒乱の王国
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第20話 囚われの獣人

「レンガ様・・・遅いですね。」


グレースが窓の近くに座り、外を眺めている。その視線の先には、街の小さな灯りがパラパラと映っている。


「多分、お酒でも飲んでるんでさ。大丈夫でさよ・・・。旦那だって子供じゃ無いんでさから」


ドミヤは、先程買ってきた本を目をやりながら呟いた。


「私・・・少し探しに行ってきます。」


そう言うと、グレースは勢い良く立ち上がった。すると、ドミヤはその動きを見て、本から目を離した。


「姉さん! それはやめた方がいいでさ・・・。夜に亜人種だけで歩くのは、危なすぎるでさよ」


そう、王国は亜人の滞在こそ、認められてはいるが、その亜人達を守るルール等は殆ど無いのである。

だから、暗くなってからの一人歩きなどは、己を危険に晒す行為に他ならない。


「でも、何か嫌な予感がするんです・・・。」


グレースはドミヤの言葉に足を止めたが、顔を俯かせて、その顔に影を落とす。


「大丈夫でさって・・・。ここは王国でさ。旦那にとっては、どこよりも安全な土地なんでさから。」


ドミヤは、グレースがゆっくり座り直した事を確認すると、再び、本に視線を向けた。

まぁ・・・いくら旦那が無知でも、王国で何かあるなんて事はない筈でさ・・・。





「ううぅ・・・。」


レンガは後頭部の響く様な痛みと共に、目を覚ました。


ここは・・・どこだ? 暗くてよく見えない・・・。

頬に接する冷たい感触から、自分が石の床に横たわっている事がわかる。しかし、今、自分がどこにいるのかまではわからない。

上体を起こしながら、目を凝らしてみるが、辺りは真っ暗で何の情報も掴めそうにない。


俺は、確か・・・。

後頭部を擦りながら、最後の記憶を探ってみる。

飲みに行こうと街へ出て、路地で・・・。そうだ、背後から誰かに殴られた。

すると、意識を失っている間に、ここへ連れてこられたってところか・・・。


全く・・・。知らない間に何処かへ連れてこられるのは、もう、勘弁して欲しいな・・・。

そんな既視感から、思わず乾いた笑いが漏れる。

すると、突然背後から声が上がった。


「だいじょぶっすか?」


声のした方向に振り返ると、少し離れた所に誰かが座っている。

まだ目覚めてすぐなので、良く見えない。警戒心を持ちながら、そこに座り込む人物に尋ねる。


「・・・誰だ?」

「あたしは、獣人種のシーデっす。別に、敵意はないっすから、そんなに警戒しなくてもダイジョブっすよ~」


彼女の言葉通り、その明るい口調には敵意は感じられない。

徐々に暗闇に慣れてきた目でよく見ると、先程の男に連れられていた半獣人の少女だった。

猫の様に大きな耳で黄色の肩くらいまでの長さの髪に、程よく日焼けした健康的な肌に、モサモサした尻尾も生えている。

なるほど、猫化の獣人ってところか。


「・・・ああ、ごめん。こっちは、人種、のレンガです。」


取り合えず、相手の自己紹介に答えて置く。自分の人種を名乗る事に慣れない為、少しぎこちない言葉になってしまう。

しかし、彼女の風貌を見ても、もう驚かなくなっている自分に気が付く。自分もすっかりこちらの世界の常識に慣れてしまったのかもしれない。


すると、突然シーデはレンガを見て吹き出した。


「ぷっ! レンガさんって面白いっすね。こんな状況で自己紹介なんて、滑稽っす!」


お前が始めたんじゃないか・・・。

心で悪たれをつきながらも、その言葉に辺りを見回してみる。


「なるほど、こういう事になってるのか・・・。」


どうやらシーデと一緒に牢に入れられているらしい。8畳程の何もない空間に閉じ込められているみたいだ。

そして、立ち上がって牢の鉄のドアに手を掛けて、引いたり押したりしてみるが、勿論開くわけはない。


「なんだが、すごく冷静っすね。」

「まぁ、色々あったからな。火竜に追い回されたり・・・騎士団にリンチにされたりとかさ・・・。」


そう思い返して見ると、ここの所、ろくな事が無かった気がする・・・。

そして、現在も飲みに出ただけなのに、この有様である。俺には何かがとり憑いているんじゃないか・・・。


「何すか、それッ! めちゃくちゃな体験ばっかりっすね!」


シーデはそう言うと、堪えきれなくなって、ゲラゲラと大笑いを始める。

なんて能天気な子なんだ・・・。この子も一緒に閉じ込められている筈だけども・・・。


未だ、マイペースに笑い転げているシーデを見て、ある意味、感心してしまう。


「君は、何でここに閉じ込められているんだ?」


突然、尋ねられたシーデはまだ少し笑いながらも、それに答える。


「あたしは、あいつ等に捕まってここに連れてこられたっすよ。さっきは売り飛ばされる寸前で、割とピンチだったっすねー。」


やっぱり、先程の男達の会話は亜人の裏取引で間違いないみたいだ。

しかし、彼女の様子はどこまでも他人事で、本当にピンチだった様には全く見えない。なんだか、掴みどころのない子だな・・・。


「それで、レンガさんは見ちゃいけないものを見て、ここに連れてこられたっすね」


シーデは猫がする様に毛繕いをしながら、言葉を繋げる。


「取引現場を見てしまったからっねー。あの男たち、めっちゃ怒ってったすよ~。もう少しで商談成立したのにって~」


彼女は言い終わるとくすくすと楽しそうに笑う。


「その感じだと・・・俺の事を穏便に済ませる気は、無いだろうな・・・。」

「そうっすね。良くてかなり乱暴に口封じ、悪くて殺されるってのは間違いないっすね。」


シーデは伸びをしながら、簡単に言い放つ。

とんでもない事を、簡単に言ってくれる・・・。これは、何か対策を打たないとまずいな・・・。

しかし、この世界で関わった人間は、またもやこんな類の人間とは。

人の命をまるで物の様に売り払い、生計を立てる・・・。ふざけんなよ・・・。


「あいつ等は、強いのか?」

「ん? ああ、闘う腕前っすか? さぁー・・・。でも、大した事は無いと思うっすね。凄みのあるオーラは何も感じられないっすから。」


シーデは言葉を濁しながらも、きっぱりと言い切る。

獣人特有の野生の勘の様なものなのか。

それはいつか聞いた事があった。野生の動物は、対峙しただけで、相手の力を図る事が出来るという。

それで、不要な闘いは避けて来たのだと。後、それが出来ない動物は人間だけらしい・・・。


しかし、そうだとするならば、シーデはあいつ等より強いという事になる筈だが。


「シーデは・・・どうして、捕まったんだ?」


もしそうならば、彼女が何故、彼らに捕獲されたのかが謎である。


「あたしっすか? あたしは、森で昼寝してるとこを、あいつ等に捕まっちゃったっすよー」


何たる間抜けな理由・・・。

でも、この子なら、それもあり得そうだと納得してしまう。


「シーデは、仲間とはぐれっちゃたのか?」

「違うっすよ・・・。あたしは、一人、気楽に生活してただけっす。」


彼女はそう言って、視線を逸らした。

何か、言い辛い事でもあるのだろうか。まぁ、あまり詮索するのも悪いか・・・。

今は、この状況を何とかしなくては。



「俺は、なんとかここから脱出するつもりだけど・・・。シーデはどうする?」


多分、このままここにいたら、間違いなく殺される。何とか脱出する方法を探さなくては。

彼女も、ここにいるメリットも無いと、踏んで促してみるが・・・。


「あたしはパスっす。下手なことして、死んだらイヤッすから。それに、そんなこと無理だと思うっすよー。」


彼女は此方の誘いを即答で断った。

まぁ・・・俺は、ともかくこの子は殺されるわけじゃないからか。そもそも、まだ信用もされていないだろうしな。仕方ない・・・一人でどうにかしよう・・・。


「じゃあ、もし上手く逃げ出せる事になったら、一緒に逃げるぞ」

「そうっすね・・・。考えておくっす。」


シーデは短く言い放ち、そのまま横になる。気ままな子だ・・・。ほんとに猫みたいだな。

小さい頃に、飼っていた猫を何となく思い出してしまう。



まずは、自分の現在の持ち物を確認してみる。


古式銃はホルスターごと無くなっていた。まぁ、あれは見た感じ武器っぽいから、奪われるのは当然だろう。

ポケットからは、タバコとライターが出てくる。後は、携帯か・・・。

昔からの習慣で、無意識に携帯を持ってきてしまっていた。しかし、この世界じゃ連絡も取れることも出来ない、只のガラクタである。


「そういえば、この部屋に、見張りはいないんだな」


この空間には、二人以外の人の存在は確認出来ない。


「そろそろ戻ってくると思うっすよー。多分、ご飯にでも行ってるだけっす。」


なら、戻るまでにどうにかしないと・・・。

再び格子をガチャガチャと動かしてみる。かなり頑丈で、自分如きの力じゃどうにも出来ない。

何処かに、怪しい隙間などは無いか、探ってみるが、そんな物は見当たらない。

しかし、それは当然の事だろう。逃がさない為の牢に抜け道など、用意して置くメリットなど無いのだから・・・。


そんな事をしている間にも、時間は刻一刻と進んでいく。焦る気持ちをぐっと押さえて、携帯を取り出す。

そして、何となく携帯の電源をつけた。

パッっと眩い光を放ちながら、ディスプレイにロゴが表示される。

バッテリーはまだ生きてるか・・・。

思わず、最新機種のバッテリーの持ちに感服してしまう。


「なんすかッ?! それッ?!」


すると、突然、背後からシーデの驚きの声が上がった。予期していなかったその大声に、寧ろ、こっちがびっくりしてしまう。


「な、何だよ。急に大きい声を出すなよ・・・。ビックリするじゃないか。」

「はーい。申し訳ないっすねー。」


でも、、まぁ、仕方ないよな・・・。此方の世界には電気の類いは無い。こんな携帯などが出てきたら驚いても当然ーー。

そう思いかけて、閃いた事があった。


そうだ! これは、上手く行くかもしれない!





暫くすると、階段を下りてくる足音が聞こえて来た。数は2つ。恐らく、見張りの者達が戻ってきたのだろう。

やがて、ランタンを持った男が2人、部屋に入って来た。

一人の男が此方の姿を見ると、愉快そうに声を上げる。


「おっ! 目覚めてるじゃねーか」


俺は、二人の観察する様に見回す。二人とも、腰には剣を装着している。他には、目ぼしい武器は見当たらない。

そして、先程自分に軽口を叩いてきた男の背中には、古式銃がホルスターで装着されていた。


男は此方の視線に気付き、古式銃をポンポンと叩きながら下品に捲し立ててくる。


「こいつは貰っておくぜ。この装飾品は、王国のボンボン共に高く売れそうだからよォー!」


この男の言動、仕草から、あまり頭のいいタイプでは無さそうだ・・・。

だが、それは今、好都合だ・・・。

もう一人の男は、此方には何の興味も向けずに、無言で奥の椅子に腰を掛けた。


「俺を・・・どうするつもりなんだ?」

「あぁ? そんなん聞かなくてもわかるだろ」


男は此方の問いに、ニヤつきながら答える。多分・・・殺す、で間違いなさそうだ。

それならば・・・仕方ないな。

俺は心の中で、静かに覚悟を決める。そして、ゆっくり肺に大量の酸素を吸い込むのを、合図に行動を起こし始める。

「おまえはこんな事して恥ずかしくないのかッ?! こんな、女の子まで捕まえて売りさばいてッ!」


俺は、目の前の男に挑発的な言葉を並べ立てた。


「ああッ?! 何言ってんだ、てめぇ? 女の子ォ? そりゃーただの獣じゃねーかッ!!」


男は、此方の威圧的な態度が気に触ったらしく、凄い剣幕で言い放ってくる。

だが、此方は、まだまだ攻撃の手を休める気は無い。


「このゲスがッッ! テメェは、只のケダモノじゃねーかッ!! 恥を知れッ!!」


男は此方の言葉に、更に激昂しながら唸りあげる。

いいぞ。これだから、バカは単純で助かる・・・。


「このガキッッ! 言わせておけば・・・! オイッ! もうこいつ殺しちまってもいいだろッ?!」


目の前の男は、怒り任せに、格子を思いっきり蹴りつけると、座っている男に振り返った。

そんな、取り乱している男とは対象的に、静かに目を閉じていたもう一人の男は、面倒臭そうに言葉を返す。


「・・・いつやっても同じだからな。好きにしろ・・・。」


その答えを聞いてた男は歓喜の笑みを顔中に広げた。

そして、ヘラヘラと腰の剣を抜くと、ポケットから小さな鍵を取り出した。


「残念だったな・・・。くだらねぇー口訊かなきゃ、もうちょい長生き出来たのによォ・・・。」


男は楽しそうに語りながら、牢を開けようと鍵を差し込む。

俺は、その男のあまりにも計画通りの行動に、思わず表情を崩しそうになるが、ぐっと堪える。

そして・・・更に次なる行動にに移すべく、動き出す。

ポケットの中に手を突っ込んだまま、携帯のディスプレイを操作する。


「あっ! ごめんなさいッ! やめてくださいッッ!!」


俺は、情けない声を上げながら、その場に尻餅をつくと、男に許しを請いながら牢の奥に這いずって行く。

人生初の決死の演技である。仕方の無い事とはいえ、何とも恥ずかしい・・・。


ガシャ!と、激しく牢を開けると、男はゆっくりと此方へ歩を進めてくる。

そして、恐怖に固まる自分の様子を見ると、楽しそうに笑いながら言い放ってきた。


「もう、おせぇんだよッ! 大人しく死になッッ!」


そして、へたり込んだままの、此方の目の前まで来ると、男は仁王立ちに見下ろしてくる。その瞳は、歓喜の色が浮かび上がっていた。


「やめてくださいッ! 殺さないでェッ!!」

「はははッ! 情けねぇー野郎だァ! じっくり切り刻んでやるから、覚悟しろやァ!!」


ピリリリリリリリリリリリリリッ!!!!


すると、突然、先程レンガが尻餅ついた場所、男の背後で、けたたましく音を上げて携帯が鳴り響いた。

男は、聞きなれないその電子音に、ビクッと飛び上がると、直ぐ様、背後へ振り返った。


かかったなッ!!

俺は、思惑通りの男の行動に、歓喜の笑みを漏らしながら、地面を蹴り立ち上がった。

男の隙だらけの背中から、古式銃を一丁を抜き去る。

そして、男が再び振り返るより速く、撃鉄を起こし、引き金を引いた。


シュッダン!!!!


「ガァッッ!!」


乾いた破裂音と同時に、男は短く声を上げる。弾丸の突き抜けた胴体からは、大量の血しぶきが舞い上がらせながら、その場に崩れ落ちる。

そして、先刻まで口汚く声を上げていた男は、物言わぬ人形と化した。


すると、座っていた男が、突然の破裂音と仲間の現状を察して、剣を抜き立ち上がるのが見えた。

しかし、ここまで、来てしまえば、後は何の問題も無いッ!!


俺は、男の亡骸を飛び越えると、横飛びに牢から身を晒す。そして、剣を構える男に向かって、躊躇無く引き金を引いた。

シュッダン!!!!


再び部屋に響く破裂音と共に、男の胸に弾丸がめり込んだ。

男は、背後の壁に鮮血のアートを形成し、糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた。



「・・・。」


あたしは、突然の激しい音に、両手で耳を塞ぎながら、ポカンと口を開け、目の前で起きた一瞬の出来事を只、唖然と眺めていた。

一体・・・。何が・・・起きたの??


状況が全く飲み込めずに、男達が撒き散らせた鮮血を、只・・・見つめていた。


すると、突然、自分の視界に、大きな掌が割り込んでくる。


「さぁ、逃げようッ! シーデッ!!」


あたしは、反射的に手を差し述べて来た人物の顔を見上げる。

それは、昔・・・何処かで見た様な、光景だった気がした・・・。



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