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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 騒乱の王国
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第19話 術具の適正

完全に寝てしまいそうなドミヤを、何とか起こして、商店区を3人で並んで歩いている。


「ホントにドミヤの胃袋ってどうなってんだ? このままだと、おまえの食費だけで金が全部無くなっちゃうんじゃないか?」


ドミヤは、まだ眠そうな目を擦りながら、大きく伸びをした。


「ふぁ~~。旦那は、男の癖にケチクサイ事、言うなでさ。 あぁ~~夜ごはんも楽しみでさ。」


あれだけ食べて、既に夜ごはんの事を考えている・・・。もう、呆れを通りこして感心してしまう。


「でも、ホントに美味しいかったですからね。私も、またご飯が楽しみです。」


いつもはあまり食べないグレースも、今日は珍しく多めに食べていた。今まで、美味しい物を食べていなかった反動なのか、あまり食に対して関心がなかったのだろう。


それから本屋に立ち寄り、語学書を一冊、ドミヤに選んでもらう。この世界で暮らしていく以上、文字を書ける必要があると考え、これからドミヤに教えてもらおうと思ったからだ。

まさか、この歳になって一から字の勉強をする事になるとは夢にも思わなかったが・・・。

ドミヤが持って来た、術具関連の本も一緒に購入して、本屋を後にした。


王国には本当に色々なものがある。様々な露店、噴水のある公園の様なものあった。まだまだ、知識不足で何の店かわからないものも多かったが・・・。

しかし、文明レベルはさほど高くないらしく、機械的なもの等は一切見掛けない。


暫く、のんびりと往来を歩いていると、ドミヤが何かを思い出したように尋ねてきた。


「そうでさ・・・。旦那は術具の適正は無いんでさか? その武器は・・・術具とは違うんでさよね?」


そう言って、ドミヤは背中の古式銃を指差す。その口ぶりから、少しは違う世界から来た話を信じてくれたのかなと思う。

しかし・・・また、始めて聞く単語が飛び出したな。


「適正? なんだそれ?」

「ヒト種は15歳の成人の儀で術具の適正を与えられるんでさ。あ、でも旦那の境遇が本当なら、受けてるわけないでさね・・・。」


勿論、そんなものは受けてない。20歳の時、成人式に出たくらいだ。

ドミヤは、今一、わかって無さそうな自分に察してか、更に話を続けた。


「その儀を受けることで火、水、地、石、樹の中のどれかの資質を授かるでさ。それで、初めて術具が使える様になるって感じなんでさ。」


なるほど、全員が最初から使えるって訳じゃ無いらしい。


「流石、ドミヤちゃん。詳しいんですね。私も、初めて知りました」


しかし、そうすると、当然、俺は使えないのだろう。術具があれば便利そうだが・・・まぁ、仕方ない。

そこで一つ浮かんだ、疑問を口にしてみる。


「そういえば・・・おまえ達は術具は使えないのか?」


そう言って、ドミヤとグレースを見る。


「あいは、勿論、術適正が全く無いんで無理でさ。姉さんは術は使えるけども・・・多分、無理でさね。」


どうやら、術具は使用はヒト種の専売特許らしい。原理まではわからないみたいだが・・・相性とかの問題なのだろうか。


そんな話をしていると、前の人ごみの中に、首に鎖をつけられた半獣半人の様な一人の少年を見つける。

そのあまりに異様な光景に思わず言葉が漏れた。


「なんだ、あれ・・・。」

「あれが、王国内での亜人種の普通の姿でさよ。あい達の様に自由に歩いてる事の方が、よっぽどおかしい光景でさ。」


ドミヤは別段、驚きもせずに言い放った。


だが、自分にはそれは異常な光景にしか映らない。まるで、犬や何かの様に首から伸びる鎖に引かれている少年。

俺は、そんな光景を前に、逃げる様に少し早足で、その場から離れた。



今は一頻り街の散策を終え、噴水のある広場で時間を潰していた。

日が傾き始めたので、そろそろ宿に戻るかと考えて辺りを見回す。すると、一つの露店に釘付けになっているグレースの姿が見えた。


「どうしたんだ? グレース」


そう言いながら、近寄るとその理由はすぐに判明した。グレースの先にある露店から、濃厚な甘い匂いで溢れ出していたからだ。


「あ、レンガ様・・・いえ、何でもないです」


そう言うと、彼女はあっさりと此方に踵返した。だが、彼女のその言葉が本心で無い事は、流石にわかる。


「なぁ・・・あれが食べたかったんだろ? 遠慮するなって。」


そう、遠慮なんて一切不要だった。露店で売っているお菓子なんて、大した金額はしないだろうし。

グレースはその言葉に少し戸惑いながらも、伺うように、上目遣いで此方を覗き見てきた。


「・・・いいん、ですか?」


レンガは笑いながら、勿論さ~、とグレースの腕を引っ張って露店の前に立つ。


そこには、砂糖を塗して焼いたパンの様なものが売られていた。いつも間にか、ベンチに座り込んで、大きないびきを立てているドミヤの分も含め、三つ購入する。


そして、その一つをグレースに手渡す。それを、グレースは嬉しそうに受け取った。


「あ、ありがとうございます」

「ほしい物があったら言っていいんだからね。この位は、大したものじゃないんだからさ。」


グレースは笑顔で頷くと、手の中のパンを一口、齧る。すると、驚愕の表情を浮かべ、そのまま固まった。

俺は、彼女の意外な反応に驚く。まさか・・・不味かったのか・・・。


「だいじょぶか?! 変な味でもしたのか?」


グレースはゆっくりと首を左右に振り、パンを飲み込んでから口を開いた。


「すごく、美味しいです・・・。」


余程、美味しかったらしく、震える声で短くそれだけ伝えると、また、そのまま固まっている。


その反応を見て、自分も一口食べてみる。うん・・・。何てことは無い、普通の甘い揚げパンだ。

でも、グレースは、それを大事そうに抱えて少しずつ食べている。


ああ、そうか・・・。グレースは、甘いものは殆ど食べたことことがなかったのか・・・。

勿論、果実なんかはあるのだろうが、砂糖の様な物は始めてだったのだろう。

やっぱり、女の子は甘いものが好きなんだな、と改めて思う。

俺は笑顔で幸せそうに食べるグレースを、只、眺めていた。それを、見ているだけで・・・自分の心は満たされて行く気がした・・・。





日もすっかりと暮れた今、俺達は宿へ戻って来ていた。


「レンガ様のお知り合い、いませんでしたね・・・。」


グレースが、残念そうな表情を浮かべて呟く。

だが、正直、そのことはほぼ期待していなかったし、ぶっちゃけ忘れてさえいた。もう、今更、元の世界に戻れるとも、誰かに会える事も無いと思う・・・。


このまま、王国に腰を据えてもいいのかもしれない。今日の色々な出来事で、そう感じていた。


「まぁ、仕方ないさ。それよりドミヤ・・・新しい主人探しはいいのか?」


その言葉を聞いて一瞬口ごもったドミヤは、そんな事はすっかり忘れていたという様子だった。


「あー・・・。そうでさね。でも、もし、旦那がここに住まうなら・・・このまま旦那を主にして、どこかの工房で働くのもありかもでさ。」


此方の意思なんてお構いなしに、勝手に話が進められて行く・・・。


「いつの間に俺が、おまえの主になったんだよ・・・。」

「正門で、あいも姉さんもそうなったじゃないでさか? もう、決定事項なんで、今更、覆せませんでさよ?」


その余りに強引な決定事項に、不満を抱く。救援を求める様にグレースに目を向けるが、彼女はうんうん、と何度も頷いていた。

今回は、助け舟は出してくれそうにない・・・。


形式上との事だった筈なのに・・・。完全に騙された気分だった・・・。

でも、現状、彼女達をここでほっぽり出す訳にもいかない。取り合えず、今はそういう事にして置くしかないか・・・。

観念した自分の口からは、小さな溜息が漏れた。



「そういえば、たまに見かけた、亜人たちはどこから来たんだ?」


ちらほら見かけて、気になっていたことを尋ねる。彼らはどういった経緯でここにいるのだろうか、それが謎だった。


「それはでさね・・・。あいの様な術が使えない種族は、外部で働いているものと交渉して主従の関係を結んだりするでさ。中には、勝手に捕縛したりも勿論、あるでさが・・・。」


「姉さんの様な術を使える種族は、術具に使えなかった者を国が売ったりする事があるんで、個人が連れている事は割と珍しいでさ。でも、まぁ・・・亜人種はヒトには、あまり好かれていないから・・・。好き好んで身近に置く事自体、珍しいケースみたいでさよ・・・。」


なんだか、聞けば聞くほど嫌な話だ。

それにしても、ヒトが亜人種を嫌うか・・・。逆ならば、それは容易に想像はつくが、どういう事なのか?

只、自分達とは違う生物だからなのか・・・。それとも、他に何か別の理由があるのだろうか・・・。

ふと、そんな疑問が湧き上がって来る。しかし、それを彼女達に聞くべきないと悟っていた。




夜もすっかり更けて来た。

少し前に、一度、外に出て簡単に晩飯も済ませた。そして、部屋に戻ってからは、各々自由な時間を過ごしていた時、俺は何かを思い出して2人に声を掛けた。


「あー・・・。そうだ。ちょっと、出掛けて来てもいいか?」


先程、商店区でちらほら見かけた飲み屋が気に掛かっていたのだ。もう随分とお預け状態になっていたアルコールを摂取したかった。


「あ・・・。では、私もーー」


グレースがそう言い掛けて、語学書を閉じて立ち上がろうとするのを、俺は制した。


「えー・・・。グレースは、今日はもう疲れてるみたいだから先に休んでていいよ。」


彼女は先程から、本を読みながらウトウトしていたのもあったが、自分自身がたまには一人でゆっくり飲みたい気分というのが、正直な所だった。たまには、一人きりの時間も欲しかった。


「あ、わかりました・・・。」


グレースは誰が見てもわかる程に、落胆の表情を見せ、俯いた。

そんな彼女の様子に、自分の胸に痛みを感じる。


「まぁ、姉さん。旦那も一人で羽を伸ばしたい時もあるでさ。ヒト種の旦那なら、王国で変なトラブルに巻き込まれる事もない筈だから、心配ないでさよ。」


ドミヤのその言葉は、何かフラグ立てられている気もするが・・・。まぁ。なんにせよ、ドミヤの気遣いに甘える事にするか。


「じゃあ、適当に戻るから・・・遅いようなら先に寝てていいからな」


そう言い残して、一人夜の街へ繰り出して行った。




先程のグレースの様子を思い返して、少し悪いことしたかなと考えていた。帰りに、お土産でも買っていいくか・・・。

しかし、そう思いながらも、俺の気持ちは久々のアルコール摂取に心が躍り、足並みも軽かった。


そうして、商店区を目指していると、ふと、路地の端に人影が見えた気がした。

この辺りは、まだ商店区では無く、明かりが灯されている建物も少なく、かなり暗い。だが、自分の正面斜め前の建物の影に隠れように、人影が見えた。その不審な動きに、何かを感じる。


こんな薄暗い所で・・・何をしているんだ?

此方も建物に上手く身を隠しながら、その人影を覗き見る。

目を凝らして見ると、そこには3人の人物がいる様だった。


黒いローブを身に纏っている男が一人と、いかにも身分の高そうな格好をした男がもう一人。後、ローブの男に鎖で繋がれている半獣人の女の子が一人いた。


これは、もしや・・・ドミヤが言っていた、裏売人ってヤツじゃないのか・・・。


「・・・でどうだ?」

「これ以上は落とせないな・・・。こっちも、それなりにリスクを抱えてやっているんだ。」


間違いない。これは、裏取引の真っ最中だ。

どうする・・・。衛兵に通報しに行くか。


「おいッッ!! 何やってる!?」


その時、突然、後ろから大きい声が聞こえた。驚きつつ、直ぐ様、振り向こうしたが。


ガンッ!!!!


頭部に激しい衝撃が走り、俺の意識はそこで途切れてしまった・・・。




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