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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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第1話  怯えるケモノ

そこには見たこともない大草原が広がっていた。

見渡す限り草木が続き、おとぎの世界の様に幻想的な草原、それは、まるで、絵画の中に入った様な美しい世界だ。

思わず見惚れてしまい、その場に固まっていたが、直ぐに、今の異常な状況に気が付く。


「・・・ここは、どこだ?!」


焦る気持ちを何とか押さえ、自分の最後の記憶を辿ってみる。


確か・・・いつも通り部屋で晩酌をしていた・・・外出した記憶はないぞ。

悪酔いしてどこかに歩いて来てしまった・・・これが、夢遊病ってやつなのか?


しかし、過去にそんな事して仕出かした事など一度もない。

それに、この風景を見るからに、近場に少し出たとかそういう感じではない。

少なくとも市内には、こんな場所はなかった筈。


もっとよく見渡そうと、立ち上がろうとすると、自分のもたれかかっている箱の存在に気付く。

確か・・・後で開封しようとしていた最後の祖父の私物だ。

仮に、夢遊病だとしたらこの箱がここにあるのはおかしい、律儀に私物を運搬する夢遊病など聞いたことがない。


一向に現状が掴めず、少し苛立った気持ちで、乱暴にポケットから携帯を取り出す。

アプリに新着を知らせるカウントがあるが、今はそんな事はどうでもいい・・・。

直ぐ様、重要な部分を確認する。


この状況に畳み掛けるかの様にまさかの県外・・・。

連絡を取る事さえも出来ない、という、更に非情な現実を突きつけられる。

仕方ないと、大きく溜め息を吐いて、携帯をポケットにしまった。



立ち上がり、もう一度、辺りを見回して見る。

近くに家屋はおろか、人工物のひとつも見当たらず、そろそろ夜明けなのか少し明るくなってきていた。


どこかもわからない草原に一人きり・・・。


そんな余りにも不可解な状態に、静かに恐怖が込み上げてくる。

あまりの理解不能な状況に、パニックを起こし、走り出したくなる衝動を寸前で抑えて、もう一度座り直す。


この気持ちを少しでも落ち着かせる為、せめて一服をしようと、煙草を求めポケットを探してみるが、出てきたのはライターだけ。


何もかもが上手くいかず、うな垂れると、箱の上に詰まれていた潰れかけているカートンの存在に気付いた。


・・・良かった。


思わず泣きたくなる程、嬉しさが込み上げてしまう。

取り出した一本を咥えて、火をつけようとするが、焦る気持ちと恐怖で、両手が震え、火を点けるだけでも悪戦苦闘してしまう。

煙を、深呼吸の様に深く吸い込んでは吐き出すをしばらく繰り返し、やっと少し気持ちが落ち着いて来る。

この状況で、煙草があってラッキーでしたね! なんて場違いな事も考えれる様になってきた。


少し、冷静さを取り戻した所で、とりあえず今の持ち物を確認してみる。


財布に携帯、タバコが2カートンとジッポライターに祖父の段ボール箱。

それだけの様だ・・・。


財布の中身も確認してみると、千円札が数枚と小銭が少しある。

この状況化では少し、不安になる金額だ・・・。

多分、誰かに抜き取らた形跡は無さそうだ。

落ち着いた頭で、もう一度、今に至る現状を考察してみる。


「夢遊病ではないとするなら、後は、誰かに連れ出されたという事か・・・。」


幾ら、いつの間にか寝てしまったとはいえ、施錠はしていた筈。

しかし、もし、仮に何者かが部屋に侵入して来た場合の事も考察してみる。


「そうだ! 今日は自分の誕生日だった・・・その日付に何か関係性はないか・・・。」


例えば、知り合いのお茶目さんが、そっと、寝ている俺の部屋に侵入する。 

そして、誕生日サプライズとして郊外の原っぱに投棄して焦る俺を見て、後から驚かす。


「かなり無理がある気がするな・・・」


そんなのは、サプライズでもなんでもない、ただの嫌がらせとしか思えない。

一歩間違えれば、犯罪に成りかねない・・・。

第一、そんな手の込んだ事を、わざわざ俺に実行する様な友人に心当たりもない。


薄明るくなって来てるっていう事は、少なくともこの場で、何時間かは寝ていたって事になるのだろう・・・。

ふと、昔、何かで見た事件が頭を過ぎった。


それは、マリーセレスト号という船の乗員が船内からいきなり消えたという事件。


発見された状況は、机に用意されていた料理は食べかけで、それは、まるで、突然に神隠しにでも合い、忽然と姿をくらました、というものだ。


今、自分の部屋が、誰かに発見されたのであれば、まさにそれに近い状況なのでないかと思う。

外出した形跡もなく、忽然と姿を消した青年、そんな不可解な事件が新聞の一面を飾るのではないのかと・・・。

一番馬鹿げた考えだったが、今はそれが一番しっくりきてしまう様な気がする。


まぁ、とりあえず、出ない答えをいつまでも考えていても仕方ない、と判断して人が居そうな所に移動してみる事にする。

本当は遭難した際は、その場から動くな、というが、今の心境でこの場で、ただじっとしていると、気が狂ってしまいそうだ。

今は、何でもいいから、気持ちを紛らせたい・・・。


とは考えたものの、方角も何もわからない・・・取り合えず、目印になる様なものを探して遠くを、ぐるりと見回すと、空に浮かぶあるものを見つけ、驚愕に目を丸くした。


薄明るくなっている空に、月らしき星が二つあったのだ・・・。

それは最初、太陽かとも思ったが、その太陽は背後から徐々に顔を出そうとしていた。


ここは、一体、どこなんだ・・・・。


もしかしたら地球ですらないのかもしれない・・・そんな恐ろしい考えを振り払うように無心で箱を持ち歩き始める。

なんとなく、二つの月を見たくなかったので、取り合えず反対の方向、太陽が昇る方角へと歩を進めた。





暫く歩くと、深い森が見えてきた。


少し迷ったが、森の中の端を歩く事にする。

迷う心配があったのだが、今は自分を覆う、様々な不安から少しでも身を隠したかった。


暫く森の中を外円に沿って歩いていると、森の奥からガサッっと物音が聞こえた。

急な出来事にビクッっとその場に立ち止まる。


何の音だ・・・。


恐怖でその場に立ち尽くしていると、もう一度、小さく動く音が聞こえた。


何かの野生動物? 熊とかだったらどうする・・・。


そんな最悪の想像が浮かび、更に恐怖が高まっていく。

すると、物音の方角から人の声が聞こえた。


「そこに誰かいるのか?!」


取り合えず、野生動物でないことに安堵して胸を撫で下ろす。

しかし、心配な気持ちは拭いきれず、我ながら情けない、か細い声でそれに答えた。


「はい・・・」


声の主がガサガサと、こちらに近づいてくる気配がして、また緊張が高まる。


木の横からフードを被った一人の男が現れた。

随分汚い身なりをしている・・・。

薄汚れたボロボロの布を身に纏い、フードで顔を深く覆っている。


その手には、何か木の棒の様な物が握られている。


・・・弓矢!?


その男の予期せぬ武装状態に、全身を恐怖が駆け抜ける。


「あっ!!」


すると、突然、その人物は驚いたように声を上げると、バッっとその場に跪いた。

そのあまりに突発的な動きに、一瞬、心臓が止まりそうになる。


「大変失礼いたしました! 高貴なお方!」

「へっ!?」


男の突然の劇団員の様な動きに、思わずまぬけな声が漏れてしまう。

この人はいきなりどうしたんだ・・・。


「村の者かと思い・・・申し訳ありません」


弓矢を地面置き、肩膝で跪いている様子から敵意はない事だけは感じ取れた。

別段、ふざけてやっている訳でも無さそうだ・・・。


会話は出来る様なので、取り合えず、色々を尋ねてみる事にする。


「あなたは、この辺りの方なんですか?」

「はい。このすぐ近くの集落に住まわせて頂いております」


集落・・・。 


それは、あまりにも聞き慣れない単語。

ここが、いよいよ、日本ですらない可能性が明白になってくる・・・。

色々聞きたい事は山積みだが、まず、現在地を聞こうと、再び質問を重ねる。


「ここは何県になるんですかね?」

「ナニケンですか? 申し訳ありません。少し言っている意味を理解しかねます」


確定だ・・・。ここは日本ではない・・・なら、何故、言葉が通じるのか?


更に、疑問は増える一方だった。

先程の月のことを思い返し、小さく息を吐いてから、覚悟を決め、尋ねる。


「なら・・・ここは地球・・・ですか?」


端から見たら、ものすごいバカな質問である。

口に出してから猛烈に恥ずかしさが込み上げ、思わず声が上ずってしまう。


「チキュウですか・・・さぁ? 質問の意味がわかりかねますが」


一気に血の気が引いた・・・。

男にふざけている様子は微塵もなく、本当にわからないといった様子だ。


ここは海外どころか、地球ですらないらしい・・・。


先程の、二つの月を見た時に浮かんだ疑念が確信へと変わった。

俺の脳は、完全に理解の限界を迎え、唖然とその場に立ち尽くす。


しかし、男は固まる自分を余所に、続けて口を開いた。


「こちらは、イヴァの村に隣接した森に御座います」


それは、もはや、全く聞いた事もない地名だった。

だが、それは当たり前、ここは地球ではないのだから・・・。


「高貴なお方はこちらで何をなされておいででしたか?」


それにしても、さっきから聞く高貴なお方ってのはなんだ・・・俺がそんな風に見えるってのか?


今の服装はパーカーにジーンズと、至って普通の格好だが、この男の身なりに比べれば、かなりきちんとした格好に見えるのかもしれない。


後、今まで、スッカリ忘れていたが、祖父の私物から見つけたブレスレットも付けたままであった。

あまり高価な石ではないが、こういったアクセサリーの性もあってそういう風に見えるのかもしれない。

取り合えず、今はそんな事はいいとして、話を続ける。


「はい、少し道に迷ってしまっていて・・・」

「それならば、村へ案内して差し上げましょうか?」


敵意は無さそうだし、ここはついて行って見るか・・・。


結局、目的は愚か、現状すらも何もわからないのだ・・・取り合えず、今は何でもいいから情報が欲しかった。


「では、お願いします」

「はい! それでは、ご案内致します」


そう言って、男は立ち上がり頭のフードを外した。


「!?」


そこ下からは、耳が異常に尖った男が姿を現した。


あれはなんだ・・・作り物か?


男はその視線に気付き、焦りながら言葉を発した。


「申し遅れて大変申し訳ありません!私はエルフ族の者であります」


エルフと言うのはゲームや映画で聞いた事があった。

確か、弓とかが得意な種族だった気がする。


「申し訳ありません! このような種族の村にお呼びするのは失礼でしたか!?」


男は何度も頭を下げ、謝罪を繰り返す。

そんな様子を見て、レンガはまずい事を言ってしまったと思い、焦りながら言葉を返した。


「いやいやっ! 初めて見るもので、少し驚いただけです。こちらこそ申し訳ない!」


あまり踏み入ると失礼かもしれないと思い、それ以上の追求は避けた。

正直、すごく気になるが、本物ですか? なんて、とても聞く勇気はなかった。

男は、そんな言葉に少し驚きながら、口を開いた。


「そうなんですか・・・。初めて見るとは、余程身分な方なのですね」


男はまたよくわからない事を言った。


身分ってなんだよ・・・。


だが、この世界のルールがわからない以上、ここは合わせておいた方がいい様な気がする。

少なくとも、彼は今、俺を上に見ている様子、もし、対等だと思われたら何をされるのか、想像もつかない・・・。今は、慎重なくらいの行動をとった方がいいだろう。


「そちらのお荷物、お持ちいたします」


そう言われて、ずっと箱を持ったままなのをすっかり忘れていた。

箱の存在を意識した事で、その重みを思い出す。


「大丈夫ですよ、重たいんで」

「いえいえ! 差し支えなければ、是非お持ちさせて下さい」

「あーではお願いします・・・」


この押し問答がエンドレスに続きそうなので、ここは素直に持って貰う事にする。

男に箱を差し出すと、では、と呟き、箱を軽々と胸の前に抱える。


こうして荷物を渡して男の後に続き、深い森の奥へと進んで行った。



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