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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 騒乱の王国
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第18話 王国の空気

遺跡での闘いから2日がたった。


あの事件以来、グレースとドミヤは仲良くなったみたいで、二人で笑いながら話している光景がよく見られる様になった。

ドミヤが一方的に喋っているような気もするが、グレースも楽しそうに聞いてるから問題ないのだろう。


もう王国の目と鼻の先まで来ている。結局、ここまで、村は一つも見つかる事はなかった。

やはり、ドミヤが言った通り、かなり数が少ない様だ。


「ドミヤ、村っていうのはこうも無いもんなのか?」


何やら楽しそうに談笑いている二人の背中に問いかける。


「そうですね・・・。私は一度、村から村へ移動した事がありますが・・・あまり、多くないかもしれません」

「どの種族も襲撃を恐れて、見つかりにくい所にいるっていうのもあるかもでさね・・・。」

「大型の生物の襲撃、とかって事か?」

「もちろん、それもあるでさが・・・。一番怖いのは、ヒトの存在でさ・・・」


ヒトの存在? 野盗とかが、よく出るって事なのだろうか?


「亜人種を捕縛する奴等が多いんでさ。それを、売って生計を立てている連中がいっぱいいるんでさ・・・。」

「・・・そういう事か・・・。」


先のクリスト達もそうだったが、亜人種には価値があるみたいだ。

ドミヤ曰く、術具の開発に必要との事だが・・・。


「じゃあ、ドミヤのドワーフ種は、安全なんじゃないのか? 術適正は無いんだろ?」

「なんかちょっとむかつく言い方でさね・・・。でも、実はそうでも無いんでさよ」


術が使えないと言われた事に、少し腹を立てたドミヤが言った。


「あい達、ドワーフ種は力や器用さが飛び抜けているんでさ。だから、労働させる為に捕縛するって事が多いんでさ。」


なるほど、そういう事か。じゃあ、ドミヤもまた、どこかの村から捕縛されて来たのだろうか・・・。

そんな疑問が頭をよぎったが、口に出す事は出来なかった。

しかし、そうなると、必然的に王国の近くに村などは存在しないだろう。


「でも、それだと・・・そもそも亜人種の村なんてもの自体、相当希少なものになっちゃうんじゃ無いのか?」

「そこなんでさが、ヒト種側に一応、規則みたいなものはあるんでさよ」

「規則? 亜人種を捕まえる事についてか?」

「そうでさ」


まぁ、そうでもしなければ、乱獲されすぎて大変な事になってしまう未来しか見えない。


「でも、あい達の様な、術適正のない亜人種の捕縛規制は緩いんでさ。個人が金で取引する事は強く禁止されてるんでさが・・・。でも、裏で売買してる連中はいるらしいんでさ・・・」


裏取引というモノか・・・。どこの世界にもそういう連中はいるものだ。


「後は、個人でも捕縛が強く禁止されている術適正のある種族は、王国が表立って捕縛したりしてるんでさ。クリスト達がそうだった様に・・・。」

「なるほどな・・・。それが、亜人の村はまだ、存在しているけど、隠れ住む村が多いって理由か・・・。」


「レンガ様が最初、村へ来た時。私もイヴァの村の人達も、そういう目的で来たのかと思ってたんですよ・・・」


なるほど・・・それで、あそこまで怯えながら、丁寧な対応をしていたって訳か。


「この世界って、他にはどんな種族がいるんだ?」

「あいも、全部は知らないんでさが・・・後は、獣人種とハーピー種辺りでさね。あ、後・・・ヴァンパイア種なんてのも、昔はいたらしいでさよ」


獣人種はおおよそ、想像がついたが・・・。吸血鬼・・・。そんな種族までいるのか・・・。


「そのヴァンパイア種ってのは、やっぱり、生物の血を吸う種族なのか?」

「うーん・・・。そこまでは、あいもわからないでさ。なんせ、今はもう、絶滅していない種族でさから。」


そうなのか。でも、ヴァンパイアなんて呼ばれている種族だ。恐らく、かなり危険な種族なのだろう。

絶滅してくれている事で、一つ危険が減ったと考えていいか・・・。


「ハーピーってのは、やっぱり羽が生えてる種族なのか?」


確か、翼を持つ美しい生物だった気がする。


「そうでさ。これも、かなり希少な種族みたいで、王国が捕縛しようと躍起になってるみたいでさが、なかなか見つからないってのが、現状みたいでさ。」

「私も聞いたことあります。術の扱いが、かなり上手な種族みたいですよ。」


グレースの口ぶりから、ハーピーの術の腕前はエルフの上を行くみたいだ。すると、術具の進歩のために重要な種族って事になるのだろうか・・・。


「後は、この辺りなら、亜人の養殖の村とかもあると思いやすが・・・。あまり気持ちのいい所じゃないんで、行かない方がいいでさ・・・。」


それは、恐らく、捕縛された亜人の隔離施設の様なものか・・・。確かに、あまり行きたいとは思わないな。




それから、暫く歩くと、正面に大きな建造物が見えてきた。それは、石造りの巨大な塀と門の様だった。


「旦那。そろそろ、正門に着くでさ。もう一度、確認しておくでさよ」


俺は、ドミヤの問いに無言で頷く。


「あいと姉さんは旦那の奴隷。王国内では、それでいくでさよ。そこは、ちゃんと徹底して下さいでさ」


本当ならば、偽りでもそんな事をするのは嫌だったが、今は仕方の無い事だ。クリストとの事で深く痛感していた。


「わかった・・・。グレースもそれで、だいじょぶか?」

「はい。問題ないです」


「なんか、村を見つける前に、王国に着いちゃって・・・ごめんな」


グレースの当初の目的を達成出来なかった事に、少し責任を感じる。これでは、騙して連れて来てしまったみたいだ・・・。


「あ、いえ それに・・・。出来れば、私は、このまま・・・レンガ様に、お供したいんですが・・・。ご迷惑でしょうか・・・。」

「え・・・。あ、うん。別に俺は、だいじょぶだけども・・・。」

「あ・・・。ありがとうございます・・・。」


俯いたままのグレースは、更にその頭を下へ下げた。

彼女もいいと言ってくれているから、まぁ、いいか・・・。


「あー。あの旦那、それとここからは、金の管理は旦那にお願いするでさ」


ドミヤは少し居心地が悪そうに入って来ると、こちらに金の入った袋を差し出す。


「え? でも、単価とかは教えてもらってわかったけど・・・俺が持ってていいのか?」


通貨の単位などは、粗方教えてもらってはいたのだが、自分は王国のルールはまるで無知だ。騙されたりとかしそうで、少し不安ではあった。


「王国内では、あいらは硬貨の使用を認められてないでさ。だから、ヒト種の旦那が持っていて欲しいでさ」

なるほど・・・。それにしても、ヒトと亜人の区別は異常とも思えるくらい徹底しているな・・・。

何か、理由でもあるのだろうか・・・。




そして、正門前に到着した。

正門は大量の兵士で固められ、その付近には狩猟に帰ったであろう姿の男たちで賑わっている。


「かなり、でかい街なんだな・・・。」


その規模は街というより国というような規模だ。正門の隙間から見える街は、レンガ作りの建物偶が果てしなく続いていた。


「ヒト種の殆どは、ここで生活してる筈なんで、こんなもんでさ。」


外部で住むものは、殆どいないという事らしい。取り合えず、受付係らしき男に話し掛け様と近づいて行く。

すると、男は、レンガの不思議な身なりを見て、話し始めた。


「あー長期遠征者の方ですね。では、あそこでチェックをお願いします」


男に促されたまま、簡単な身体検査を受ける。

恐らく、自分のジーパンにパーカーという不可思議な格好を、どこかの民族衣装とでも思われたのかもしれない。

でも、これで、探り探り話を進める手間は省けた。


2人の男が、自分の周りをグルグル見て回る。厳重なボディチェックをする訳では無いらしい。

多分、ヒト種かどうかのチェックなのだろう。


そして、再び、受付の男の元へ戻ると、滞在料を要求された。


「滞在は、一人と亜人は二匹で500ゼルになります。」


その金額が高いのか安いのかは、比較するものがない為、自分にはわからない。

しかし、クリスト達から頂いた金貨は相当な量だったので、金銭の心配は当面、平気そうだ。


金を支払うと、門前の男から証明所の様なスクロールを受け取る。すると、横の男がグレースとドミヤの首に、小さな首輪のようなものを取り付けて始める。

あれが、王国に侵入を許された亜人を証明する・・・奴隷の証なのだろう・・・。


仕方ない事だとはいえ・・・複雑な心境だ・・・。




そして、一頻り手続きを終え、正門を潜る。

その中は想像以上の賑わいを見せていた。

帰還してきた者達を出迎える様に、立ち並ぶ露天の数々。道には沢山の馬車と人々が行き交っている。


「おー! これは凄いなッ!!」


想像より華やかな光景に、思わず歓喜の声を上げた。まるで、過去の世界に来てしまったかの様な、その風景に胸が高鳴る。


「はい! 見た事のないものがいっぱいです! あれはなんですかねッ?」


村から出た事の無いグレースも同じ心境だった様で、自分と同じに、歓喜の声を上げ、はしゃいでいる。

すると突然、ドミヤが、顔を紅く染めながら声を上げた。


「ちょっとッ! 二人ともッ!! みっともないからやめるでさッ!!」


歓喜の声を上げ、仕切りに辺りを見回す二人は、まさに絵に書いたような田舎者であった。


「何だよドミヤ・・・。急に大人ぶっちゃって、見た目はお子さまなんだから、もっとはしゃげよ」


自分の発言に、ドミヤはピクリと、身体を震わせ、ゆっくりと此方に振り返る。


「・・・旦那・・・。今、何か言いましたでさ?」


そのドミヤの鋭い目付きに自分が失言した事に気が付く。これはいつ、平手が飛んで来てもおかしくない・・・。


「あッ! まずは荷物を置きに宿を探しましょう! それにそろそろ、ご飯も食べたいですし! ドミヤちゃんは宿わかりますか?」


グレースはそんな凍りつく空気を感じ取ってくれ、ドミヤを促してくれた。

ご飯と言う単語で上手くドミヤの気を逸らすとは・・・グレースもなかなかやるな・・・。



そして、ご飯という単語に簡単に機嫌を直してくれたドミヤの案内の元、宿を探すべく、宿場区を歩き回る。

しかし、亜人受け入れの宿がなかなか見付からなく、何件も回ってようやく目的の宿を見つける事が出来た。この宿探しという行動だけで、王国内での亜人の境遇が少し見えて来た気がする・・・。


ベッドが3個ある部屋を押さえ、二階にあるその部屋に足を踏み入れる。


「ふぅ・・・。ようやく、これで、ようやく落ち着けるな。」


俺は溜め息を吐いて、ベッドにドカッと腰を下ろす。


「ごめんなさい・・・。レンガ様」


グレースが申し分けなさそう俯く。その反応に、自分が思わぬ失言をした事に気が付く。


「あッ! ごめんごめん! そんなつもりで言ったんじゃないから・・・。」

「王国には、あいらの様な亜人は少ないんで、仕方ないでさよ」

「確かにそうだったな・・・。」


ここに来るまで、相当に歩いたのだが、亜人種は一人も見ていない気がした。


「じゃあ、飯屋探しながら、少し街を散策してみるか?」


俺は、荷物を降ろし、立ち上がりながら二人に促す。


「はいッ! 行きましょう!」


グレースが元気よく返事を返してくれる。

余程楽しみにしていたみたいで、今まで見たことない位にテンションが高く見える。


「あいは、お腹減ったでさぁ!」


こいつはいつもこればっかりだな・・・。

そして、軽く身支度を整えてから、宿を後にした。




そして、まずは商店区を暫く散策しようかと思ったのだが・・・ドミヤのいつも以上の五月蝿さに、俺もグレースも白旗を上げてしまい、結局、最初へ見つけた亜人有りの食堂へ入る事にした。


中に入り空いている適当な席に腰を降ろす。

そこは木造作りのシンプルな内装で、二階の席もある結構広い食堂。今は時間帯が微妙なのか、殆どが空席だ。

しかし、適当な所に入っては見たものの、肝心のここが何の飯屋かは不明のままだった。

変なゲテモノの飯屋では無ければいいのだが・・・。


すぐさま、店員と思わしきヒトがメニューを持って来た。

一応、それに目をやってみるが、ミミズが絡み合う様な文字が書かれているだけで読む事が出来ない。


「ドミヤ・・・ここは一体、何の料理屋なんだ?」


この中で唯一、字が読めるドミヤに尋ねる。


「ここは、麺を取り扱ってるお店みたいでさ」


ドミヤはメニューを眺めながら言った。こいつも、入るまでわかってなかったのか・・・。

彼女の相変わらずの、適当さに溜め息が漏れる。

そして、ドミヤはメニューをじっと眺め終えてから、二人に言った。


「じゃあ、お二人の分は、あいが適当に注文するでさよ」

「ああ、それで頼むよ」


すると、ドミヤは店員を呼ぶと、メニューを見ながら注文をしてくれる。


「いやぁ~! 久々の王国のご飯! 楽しみでさ~。」


注文を終えたドミヤは、早くもウキウキしている。グレースは食堂が珍しいらしく、キョロキョロと辺りを見回している。

その口を開けて見回す姿が、何か子供みたいで可愛いらしい。


「やっぱり、王国の飯って美味しいのか?」


俺はイヴァの村で食べた飯の印象が抜けずにいた。まずいって訳ではないのだが、あの超薄味だけはどうしても慣れなかった。


「それはもうッ! 道中で食べてた草汁や木の実なんかとは比べるだけ失礼でさよッ!」


確かに、あれは酷かった・・・。残っている岩塩を使って辛うじて食べれるレベルの味ではあったが・・・。

しかし、ドミヤは文句を並べながらも、かなりの量を食べていた気もしたが・・・。


「それは楽しみだな。グレースも王国の飯は始めてなんだよね?」


今だ、辺りを見渡しているグレースにも声を掛ける。


「はいッ! 私は村のご飯しか食べたことなかったので・・・どんな物が出てくるのか楽しみです」


そう言って、彼女は顔の前で両手を握って目を輝かせた。


そんな雑談に興じていると、やがて、料理が運ばれて来る。

机に並べられていく料理は、パスタに非常に良く似ていた。茹でられた麺の上に赤いソースが掛けられている。


「わぁー! すごい綺麗な食べ物ですねッ。」


柄にも無くはしゃぐグレース見て和みながら、ドミヤの方へ目をやる。すると、そこには同じ料理が五皿も並べられていた・・・。


「おまえ・・・。どんだけ食べるんだよ・・・。」

「これでも、控えめな方でさ」


この量で控えめだと・・・。こいつの胃袋はホントにどうなってるんだ・・・。

思わず、そんだけ食べてるのに、何でそんなにチビ何だよ。と、口にしそうになるが、寸での所で踏み止まる。こんな所で掴み合いになるのだけは、ごめんだ。


そして、各々、並べられた料理を食べ始める。


それは味と食感こそ少し違うものの、ミートスパゲティに近い感じ。ソースの中に何かの肉が混ぜられていて食感は少し変わっている。

味はしっかりと整えられており、久々の調味料の味に食が進む。


何となくグレースに目を向けると、その味に感激して言葉もない様子だ。

しかし、フォークで麺を食べる事が始めてらしく、食べようとしては口に近づけては、皿に数本の麺が滑り落ちるを繰り返し、悪戦苦闘している。


「グレース、こうやって食べるんだ。」


そう言って、皿の端を上手く使い、麺をクルクルとフォークに巻きつけて見せる。グレースは、それを真似て、フォークをぎこちなく回しながらも何とか麺を巻き取って見せた。


「こう、ですか?」

「そうそう、上手いな。それで、そのまま口に入れると食べやすいよ」


グレースは上手く出来た事が余程嬉しかったのか、ニコニコしながら食べている。

ドミヤはどうかなと目を向ける。皿を手に持って、無心で掻き込んでいた・・・。彼女に下手な食べ方のレクチャーなどは不要であろう・・・。



そして皆、食べ終えた皿を下げてもらって、食後の至福の一時を過ごしていた。

俺は、無性に煙草が吸いたい衝動に駆られていたが、灰皿も無さそうなので涙を飲んで諦めることにする。

先程まで、まるで掃除機の様に麺を吸い込んでいたドミヤも、今は大人しいものだ。腹が満たされた事で早くもウトウトと半分寝ていた。

本当に自由なヤツだな・・・。


「それにしても、美味しかったな。」

「ホントですね。私が、こんな美味しいものを食べれるなんて・・・夢みたいです。」


グレースは目を閉じて、うっとりした表情で言った。

そうか・・・。外の亜人は普通ならば、あの辺境の村で一生を終えることになるんだろう。美味しいものや、変わった物を知る事も無いまま・・・。

そんな境遇を考えて、少し寂しい気持ちになる。


「これからも、色々美味しいもの食べてみような。」

「はいッ。」


グレースはそんなレンガの言葉に満面の笑みで答えた。

この料理を食べさせてあげられた事で・・・彼女を村から連れ出して良かったと感じる事が出来たのかもしれない。




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