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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第2章 騒乱の王国
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第17話 高まる不安


「あのー・・・」


突然、背後の暗闇から、声が上がり、思わず俺は、飛び上がった。そこには、少し居心地の悪そうな表情を浮かべるドミヤが居た。


「えっと・・・声が掛け辛くて・・・。ずっと待ってたんでさが。流石に、もう、限界でしてぇ」


そのドミヤの発言に、猛烈に恥ずかしさが込み上げてくる。先程の一連の行動・・・。そして・・・現在の自分の状態。

第三者に、ばっちり見られていたなんて・・・。最悪だ・・・。



「あ、あのドミヤ・・・これはな・・・。あれだよ・・・。な、なぁ、グレース?」


パニックに陥り、意味不明な言葉を並べてる。最後には、未だ、腕の中にいるグレースに呼び掛けるが、何も応答がない。

どうしたのかと、顔を近づけると、彼女の小さな寝息が聞こえて来た。心身ともに、相当疲れていたのだろう。

だが、今は、和んでいる場合では無い。ドミヤのニヤニヤ顔が見える。

しかし、これでは、グレースから離れることも出来ない・・・。どうすれば・・・。


「と・・・取り合えず、出ようか・・・。」


その言葉とほぼ同時に、グレースを抱えたまま、歩を進めた。外の空気を浴びたい。その一心で・・・。


「へい。わかりやした・・・ふふ」


ドミヤの小さな笑いに、今、どんな顔をしているのかは容易に想像はついた・・・。




そして、少し早足に遺跡から出ると、眠るグレースを一旦、広場の端に下ろす。右手の火傷が少し痛むが、そこまで酷くは無さそうだ。


「そうでさ、旦那。奴等の死体をどうにかした方がいいでさ。王国の兵士の死体が見つかると、後々、面倒な事になりかねないでさ・・・。」


確かにそうかもしれない。クリストは警備隊長らしいし、それが、誰かに殺されたとわからるとまずそうだ。

「でも、どうにかって・・・どうするんだ?」

「そうでさね・・・埋めるでさか・・・。」

「・・・それしかないか」


そして、自分は広場に転がる見張り達、ドミヤは遺跡内部のクリストの亡骸を運ぶ事にする。

まさか、死体を引きずって埋める、なんて事をする日が来るとは・・・。

これでは、まるで、犯罪者だ・・・。あ、でも、それは間違ってはいないのか・・・。理由はどうであれ、この世界のいわば、役人に当たる人物を殺害したのだから・・・。


広場には、無造作に衛兵達の遺体が横たわっている。飛び散った血液は、既に、変色しており、紅から茶色に変化したその色が、月明かりに映し出されている。


ドミヤの斧で頭部を、潰された遺体を一つずつ運び出す。・・・あまり、見ない様にしながら・・・。


これは・・・なかなかの重労働だな・・・。

何とか、一体ずつ運び、三人の遺体を運び終える頃には、もうすっかり肩で息をしていた。

大の大人を、一人を運ぶ事が、これ程までに、大変だとは知らなかった。


そして・・・最後の遺体の前に辿り着く・・・。


その遺体は、他の三人の遺体とは違い、頭部は無傷。だが、その代わり・・・その胸部は完全に崩壊していた。

そうだ・・・。これは紛れも無く・・・自分が手を下した、者だ・・・。


重い足取りで、それに近づき、運び始める。それは・・・先程まで、運んでいた遺体達より、重い様な気がした。

でも、それは、恐らく錯覚なのだろう・・・。自らの手を染めた、気持ちが生み出した・・・。

これは、罪悪感という・・・自分勝手な感情だ。


俺は、明確な行動・・・そして、明確な行動を持って彼を殺した。それは、疑いようも無い事。


だが・・・今の自分は・・・罪悪感という都合のいい感情で、その事から目を瞑り、逃げようとしている。もう・・・現実は何も変わらないというのに・・・。


そんな事をしては・・・駄目だ。

自分に強く叱咤を飛ばし、その遺体を持つ腕に、力を込めた。




そして、ドミヤと共に、一箇所に集められた死体の山を見下ろす。何とも言えない気分だ・・・。



「にしても・・・王国の隊長の癖に大した事なかったんでさ。結局・・・旦那一人に負けちゃったんでさからね・・・」


ドミヤの口から飛び出した軽口に、思わずムッとする。

こっちの苦労も知らないで・・・。


「全然あっさりじゃなかったけどな・・・。寧ろ、あっさりやられたのは、お前の方じゃないのか?」


「なっ!! あ、あれは・・・そもそも、旦那が攻撃外したからじゃないでさか!! それをあいがフォローしようとした結果でさッッ!!」


忘れていたが、全くその通りであった。戦犯は・・・間違いなく自分である。

言い過ぎた事を謝罪しようと、口を開きかけるがーー


「まったく、下手っぴーで困るでさ! 旦那は、こそこそ攻撃する事しか出来ないんでさから、それくらいしっかりこなして欲しいでさ・・・。はぁ。」


続くドミヤの暴言の嵐に、俺の怒りのゲージのメーターが振り切った。


「何だと!? お前なんか、何も考えないで牛みたいに突っ込むことしか出来ないじゃねーか! あー、でも、その乳じゃ、牛に失礼か・・・。」


ドミヤは自分の胸を両手で押さながら、その発言にみるみる顔色を変える。


「な、なんて事言うでさッッ!! さっきまで、姉さんと抱き合って、ピーピー泣いてた癖に生意気でさッッ!!」


そう言い放つと同時に、小さく跳躍してレンガに飛びかかる。そして、レンガをそのまま地面に押し倒すと、平手打ちを何度も振り下ろす。


「この野郎ッ!! なにすんだ!? いてえだろがッ!! お前は自分の糞力を自覚しろよ! この胸地平線女ッッ!」


更なる罵倒を重ねつつ、ドミヤを引き剥がそうと掴み掛かる。だが、ドミヤの怪力に押さえつけられ、均衡は崩れない。


「もうほんとッに頭に来たでさッッ!! この色ボケ童貞男ッ!!」

「童貞じゃねーよッ! この怪力女ッ!!」


そして暫くの間、この低レベルな言い争いと掴み合いは、双方が疲れるまで続いた。




お互い肩で息をしながらその場に座り込みながら、レンガがようやく口を開いた


「こんな事してる場合じゃなかった・・・。さっさと片付けよう・・・」

「ほんとでさ。無駄な体力使ったでさ・・・」


そう言ってから、二人は無言で穴を掘り始める。

しかし、一見不毛な争いではあったが、大きい声を出した事でレンガの落ち込んでいた気分は少し晴れていた。

そして、レンガが掘り終えた穴に、遺体の一つを投げ込もうとすると。


「あっ! 待って下せぇ、旦那」


俺を制すると、ドミヤは死体の懐を漁り出す。

まさか・・・。


そして、ドミヤは金らしき物を次々と後ろに放り投げていく。ドミヤはそんな光景を見て固まる此方を見ると、爽やかな笑顔と共に親指を立てた。


「貰えるものは貰っておかないとでさ! これは正当な戦利品でさ!」


それはそうなのだが・・・。これじゃ、完全に強盗殺人じゃないのか・・・。

更に、ドミヤの慣れている手つきに少し引いてしまう。

まさかこいつ・・・。よく、こんな事をしてる訳じゃないよな・・・。


「流石、王国騎士でさね。こりゃ、相当な額でさ! これで王国に着いても安心でさね」


ドミヤはホクホク顔で頷く。


「まぁ、確かにそう・・・だな」


あまり誉められた行為ではなかったが、今はこれも必要な事。割りきるしかないか・・・。

ドミヤの横に腰を下ろし、渋々、仕分け作業を手伝う。


王国か・・・。

この貴族に出会って思ったが、本当に行っても平気なのかと少し心配になっていた。

貴族がこんな人間ばかりじゃなければいいのだが・・・。




小一時間程の時間かけ、クリスト達の埋葬を終えると、眠るグレースを背中に背負い、暗い森を戻って行く。

ふと、ドミヤに声を掛けようと口を開く。


「なぁーー」

「あの旦那ーー」


二人の声はぴったりと交差する。


「あ、旦那からどうぞ!」


すると、すぐにドミヤが笑いながら促してくる。俺は、それを受けて、再び口を開く。


「王国の貴族って、皆・・・あんな感じなのか? お前達、亜人に対してとか・・・。」


それは少し聞き辛く、何となく語尾が小さくなってしまう。


「うーん。全部って訳ではないでさが・・・基本はあんな感じが多いかったでさね。あいも、王国へは、たまに行く位なんで、詳しくは知らないでさが・・・」


そのドミヤの返答に少し違和感を覚える。


「あれ? おまえ確か、王国技師じゃなかったっけ?」

「そうなんでさが、工房は王国の外にあったでさ。たまに特例で、貴族に連れられて、材料の調達とか行くくらいだったんでさよ」


「特例?」

「へい。王国はヒト以外は基本的に入れないんでさ。亜人種が入れるのは主人の奴隷としてしか入れないんでさ。あいは、誰の奴隷でもなかったんで、特例でさ」


そのドミヤの言葉に、驚きを覚えた。大昔の奴隷制度の様なものが、存在している・・・。そんな所なのか・・・。

だが、それを知って、エルフ達の自分への対応、クリスト達のグレースへの扱いが、わかった気がする。

そして、一つの心配が浮き上がる。

そんな所へ、彼女達と一緒に行っても大丈夫なのか・・・。


すると、ドミヤが突然、そうだと、声を上げた。


「というか旦那・・・。ずっと気になっていたんでさが・・・。何で、そんな事も知らないんでさ?」


彼女の疑問は至極当然の事だろう。ヒト種である自分が、そんな基本的なルールを知らない・・・。

それは、明らかにおかしい事だ。


でも、それで構わない。この闘いの前に自分は決めていた。

この闘いを無事に切り抜ける事が出来たら彼女にも、話そうと・・・。

そして、ドミヤに真実を語るべく、ゆっくりと口を開いた。




その話を聞き終わり、ドミヤは疑惑の眼差しをレンガに向けていた。


「にわかには、信じられない話でさが・・・。ふざけている訳じゃ無いさそうでさね・・・。」


これが正常な反応だろう・・・。仮に前の世界で、自分が誰かに「僕は違う世界から来たんだ!」 なんて言われたら、絶対に信じたりしない。


「まぁ・・・話半分くらいに信じておくでさよ・・・。」

「ありがと。それでいいよ・・・」


半分信じてくれただけでも、十分だ。


「・・・あいは、とんだサイコ野郎についてきてしまったかもでさね・・・。」

「ん? 何か言ったか?」

「いや・・・何でもないでさ!」


ドミヤは思わず漏れた独り言が聞かれてない事に、胸を撫で下ろす。


「そうだ。だから前に、この武器を調べられるとまずいって言ったんだ。この世界にないテクノロジーだからな・・・」


そう言って、背中の古式銃を指差す。


「ああぁ、なるほどでさね。それで・・・世界的な迷子の旦那は、王国に行ってどうするプランなんでさか?」


それは痛い質問だった・・・。

勿論、プランなど何もない。行って見て決める、只それだけだったから・・・。


「一応、グレースは道中の馴染めそうな村を見つけて、俺は王国に住もう予定だった・・・。でも、さっきの連中を見てると、少し不安が残るかな・・・。」


恐らく、自分の世界とは文化も考え方も全く違うのだろう。

そこに溶け込む事が出来るのか・・・。この協調性の無い自分が・・・。


「旦那はヒトのくせに、変わり者って感じでさからね。あいの工房にたまに来る、他の貴族も大概はあんな感じだったでさ。多分・・・旦那は、貴族とは馬は合わなそうでさね」


やっぱりか・・・。ドミヤの言葉に不安は増す一方だ。


「それに、エルフを受け入れる村っていうのも難しいかもでさ。村自体も少ない上、どこの村も貧しいでさ・・・。それに、旦那は個人的に別れても・・・いいんでさ? ぷぷぷ・・・。」


ドミヤは始めこそ、真面目に答えてくれたが、最後におちょくる事は忘れない。

だが、俺はそんな冷やかしは思いっきり無視してやる。


ドミヤは特に反応を見せない、その様子につまらなそうに溜め息を吐くと、前に向き直る。


「まぁ・・・取り合えず王国へ行って見てるでさ。もしかしたら、そこに旦那の知り合いがいるかもでさし。」

でも、その可能性はほぼ0に近いだろう事は何となくわかっていた。しかし、今、自分には何も選択肢はなかった。


こうして、お先真っ暗の三人は、改めて、王国に向かう決意を固めるのだった。




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