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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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第16話 罪と涙と決意

自分の手には、クリストに剣を突き刺した感触が、呪いの如く残っている・・・。


これで、自分が・・・人を殺めたのは、二度目だ・・・。

見張りの男を撃ち殺した時とは、違う何かを感じている。

あの時も、自分が人を殺したという実感はあった。だが・・・今、感じているものとは、少し違う・・・。

引き金を引いて殺した事と、直接、殺す事はこんなにも違うなんて・・・。


自分は、この場所、遺跡に来た時に、人を殺める覚悟は決めていた筈。それに、クリストに対して、あれだけの怒り、殺意を感じていた筈・・・。

それなのに・・・今は、酷く、気分が悪い・・・。


今、目の前には、クリストが横たわっている。もう・・・それは、クリストでは無い。只の、抜け殻。

こうしたのは、誰でも無い。自分自身だ・・・。


本当に、これで、良かったのか・・・?もしかしたら、他に解決法があったのでは無いか・・・?

そんな疑問が、次々と脳裏に浮かぶ。


俺は、そんな考えを振り払うかの様に、拳を強く握り絞める。

そんな事は・・・無い! 話し合いで解決など、出来た訳がない!


何もしなければ、こいつは、グレースの命を奪っていたに違いない。それを解決する方法は、これしかなかった。

この世界は自分がいた世界とは、根本的に違う・・・。


それは彼等と森で最初に対峙した時、明確な殺意を感じたからだ。

彼等は、野盗や、無法者の類いでは無い。寧ろ、現代の言い方を借りれば、公務員の様な職の者達だ。

そんな彼等が、平然と刃を振るう。その行為が意味する事は一つ・・・。


この世界では、争いは命の即やり取りに直結するという事。そして、それが認められているという事だ・・・。

だから、この結果は必然。当たり前の結末なのだ・・・。


「・・・。」

頭では、そう割りきっていた・・・。しかし、この気持ちが一向に晴れる事は無かった・・・。




「レンガ様・・・。」

すると、突然、擦れた声でグレースに呼ばれる。俺は、声のした方へ、ゆっくりと振り返る。


「何故・・・。こんな、危険なところに・・・。」

その問いに、俺は・・・戸惑った。

グレースを助ける為か・・・? クリストを殺す為か・・・? わからない・・・。


確かに、グレースを心配していた自分はいた。しかし、同時に、クリストに激しい殺意を向ける自分もいた気がする。

その時・・・蹲るクリストに、激しい感情で銃口を向けていた光景が頭を掠める。

あの時、俺は・・・歓喜していた、気がする・・・。


では、俺は・・・。


「・・・。」

何も、言葉が出なかった。

すると、グレースが、再び口を開いた。


「・・・私、すごく怖かったんです・・・。楽しかった日々が、毎日が、終ってしまう・・・。私が消えてしまう事が・・・。」

「・・・。」


「・・・今まで、呪われている子と避けられて、ずっと独りで・・・。何の楽しさもなかった暮らしでした・・・。でも、そんな時、レンガ様に出会って、私の過去を気にしないよって言ってくれた事が・・・。その素振りが、とても、嬉しくて・・・。」


グレースの瞳から次々と涙が零れ始める。


「初めて楽しいって思える毎日でした・・・。そんな日々が終ってしまうって思ったら・・・。すごく、辛くて哀しくて・・・。」

グレースは顔を抑えて、更に激しく泣き続けた。

俺は、そんなグレースの様子を見て、驚く。


自分がこの子にしてあげられた事など何もない・・・。寧ろ、こっちがして貰ってばかり。

でも・・・自分も彼女に何かを、与える事が、出来ていたのかもしれない・・・。


彼女が見せてくれた優しい涙が、自分の気持ちを軽くしていってくれる。

やっぱり、俺は・・・いつも、彼女に貰ってばかりだ・・・。

俺は、嗚咽を漏らすグレースに一歩、歩み寄る。そして、俯いている無防備な頭を、そっと抱き抱えた。


「・・・ありがとう・・・。」


自然に、そんな言葉が出て来た。自分の頬を、暖かい何かが伝って行く。

自分が、ここへ何故、来たのか・・・まだ、わからない・・・。

でも、一つだけ、はっきりと、わかった事があった。


彼女を、グレースを・・・救う事が出来て、良かった・・・。

そして、俺は・・・この世界に来て、彼女に出会えて、良かった・・・。


それだけは、今、はっきりと感じる事が出来た気がしたから・・・。



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