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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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第15話 贖罪の時

レンガは、この土壇場で閃いた妙案を、実行に移す為、再び動き始める。

まず、足元に落ちている剣を、ゆっくりとした動作で拾う。


剣って、結構重いんだな・・・。

そんな感想を抱きつつも、グリップをしっかり握る。


「ほぉ・・・。離れてチマチマと攻撃するのは、もうやめたのですか?」


こいつ、やっぱり俺が古式銃を使う事に身構えていたのか。なかなか、斬りかかって来ないから、おかしいとは思っていたが・・・。

つまり、それは、古式銃の攻撃を避ける事が出来るという、自信があるからだ。

先にお手付きしていたら、ヤバかったかもしれないな・・・。


「おまえ・・・。俺と剣でやり合うつもりか?」

「何だ? 貴様・・・剣も使えるのか?」

「当たり前だろ。元々、こっちが本業なんだからよ・・・」


それは、勿論、真っ赤な嘘だ。剣の振り方すら、よくわかっていない。だが、ここは、ブラフを効かせる事に意味がある。


「前に、火竜だって倒してるんだ・・・。お前は、火竜の肉を食った事はあるか?」

「くだらん嘘だ・・・。あんなもの・・・倒せる人間なんている筈がない!」


そんな吐き捨てる様な言葉とは、裏腹に、クリストから少しの動揺を感じる。

すると、突然、グレースが会話に割って入ってくる。


「本当です。それが切っ掛けで、私はレンガ様にお供してるんですから・・・」

「な・・・何だと・・・。」


簡単に言い切るグレースの言葉に、微かな信憑性を感じたのか、今度は明らかな動揺を見せ始める。これは、もう一押しでいけるかもしれない。


「大体・・・おまえこそ、剣なんて使えるのか? いつもデカイ盾に隠れて・・・。それが、お前の騎士道なのか? 一人、亀みたいになってるヤツの、どの辺が美しいのか、俺に教えてくれよ・・・」

「貴様ぁ・・・。」


今度は、奴の怒りを煽る様な言葉を並べ、次々とぶつけて行く。その効果は、抜群の様だ。


「あの・・・炎流剣か? あれだって、人に見せびらかすのに持ってるだけなんだろ? そんなに目立ちたいなら、いっそ、亀の甲羅でも付けて闘うのはどうだ? そんな奴、見た事ないから、さぞ・・・人気者に成れるぞ」


安い挑発を店頭に並べ、次々とクリストに売り付けていく。クリストは、その浴びせ掛けられる暴言の嵐に、先程まで余裕の表情は吹き飛んで行く。


「ちょっとでも、悔しいって思うならな・・・。俺の一太刀くらいは、ちゃんと受け止めて見せてくれよ? 美しい亀の隊長さんよッッ!!」


そう言い放ち、俺は、地面を思いっきり蹴って、クリストに駆け寄った。そして、見よう見まねで剣を振り下ろす。


ギィン!!!!

「くっ!」


二人の間を、激しく金属の刃がぶつかり合う。そして、刃越しの力比べが始まった。


俺とクリストの体格に差はない。筋力は殆ど互角な筈だ。

それに、これだけ至近距離で刃を交えてしまえば、もう・・・技術もへったくれもない。



「このガキぃ・・・」


クリストは、レンガとの均衡する鍔迫り合いに、低く唸りを上げる。


このガキは絶対に許さない・・・。自分に幾度と噛みつき、あろう事か、怪我まで負わせたこの男を・・・。

王国の、隊長である自分に対して、ここまでつかかって来る奴は初めてだ。絶対に・・・この手で八つ裂きにしてやる!

しかし、そう意気込み、更に力を込めて押しやるが・・・まるで均衡は崩れない。


クリストは剣を用いる闘いはあまり得意では無かった。普段は専ら。盾を用いる闘いのみで、無防備な相手に止めを刺す時以外では、使う事はほぼ無い。

レンガが適当に並べた暴言は、遠からず当たっていたという事だ。


だが、クリストも術具の所有者。自分の持つ術具の特性には、直ぐに気が付く。


そうだ・・・! この術具はこうゆう場面でこそ、真価を発揮する物だ!

自分の突発的な閃きに、思わずほくそ笑む。

そして・・・術具を起動させようと、剣の柄を握り直した。



レンガは、そのクリストの動作を見逃さなかった。


奴は今、確かに、柄を握り直した! これは、間違いない・・・!

そう、確信したレンガは、固く目を閉じ、次の行動に備える。


次の瞬間・・・。クリストの刀身から、凄まじい発光を発しながら、炎が立ち登る。

その熱を、肌で感じると、レンガは目を瞑ったまま、クリストの腹部を蹴りを叩き込み、後方へと飛び退く。

すると、突然、クリストの絶叫が広間に響き渡った。


「ぐああぁぁぁぁぁぁ!!」


クリストは剣を取り落とし、両目を押さえて悲鳴を上げ続ける。持ち主の手から、離れた術具は地面に落ちるのと同時に、その効力を失う。


クリストは、突然の光に完全に目をやられていた。

失明こそ、してはいなかったが、この暗闇で、あの強い発光を・・・しかも、至近距離で見てしまったのだ。

まるで、目を抉られた様な、激痛がクリストに襲いかかっていた。


「うわぁーー!! 目がッ目がァッッーー!!!」


何かどこかで、聞いた様な台詞だな・・・。

光の気配が消えた事を感じ取り、レンガも目を開ける。その目の前には、両目を強く押さえつけ、悶絶するクリストの姿があった。


だが、その時・・・。レンガは、自分の身体にも違和感を覚えた。まるで、チクチクと、針で指されている様な痛みが、右手に感じられたのだ。


「ッッ!!」


見ると、自分の右の二の腕に火が灯されていたのだ。だが、まだその火はかなり小さい。俺は、焦ってその火を叩き、消そうとする。


「くっ!」


しかし、火の勢いは収まるどころか、ドンドンその火力は増して行く。やがて、激しさを増して来た炎は自分の肉を焼き始める。


「うあぁぁぁぁぁッッッ!」


忽ちに、襲いかかる激痛に悲痛の叫びが漏れる。

しかし、突然、その痛みから解放された。気付くと、全身がずぶ濡れになっている。


な・・・何が、起きた・・・。


横を見ると、グレースが少し離れた水溜りに膝を付き、此方に手を掲げていた。


「大丈夫ですか!? レンガ様!!」

「グレース!?」


グレースが自分に対して、水の術を放出してくれたのだ。

その水には、治癒効果こそ無かったものの、彼女の咄嗟の機転で自分に引火していた炎は完全に消えていた。

黒ずむ右腕の具合を確認する様に、動かしてみる。まだ、微かに痛みを感じるが、大した事は無さそうだ。


そして、クリストに目を向ける。彼は、未だ、目を押さえ、土下座でもするかの様に地面に伏せている。

その口からは、小さな呻き声も聞こえる。


「森の時とは逆の立場だ、クリスト。でも・・・俺はおまえみたいな、甘い事はしないぞ」


俺は、許しを乞う様に、踞るクリストに銃口を向ける。


「これで・・・終わりだ、クリスト」


そう言い放つと、引き金を引いた。

しかし・・・。


ガキッ!


撃鉄は勢いよく倒れた。が・・・何も起きない。


なんだ?! 後、一発・・・残ってる筈だぞ!?

直ぐにもう一度、撃鉄を起こし、引き金を引くが、弾丸は発射されない。


「・・・あっ!!」


そうだ、水で火薬がーー

そう思いかけた時・・・。クリストが咆哮を上げ、猛烈な勢いで体当たりをして来た。


「ぬあああぁあぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ぐっっ!!」


すごい勢いで地面に叩きつけられ、一瞬息が止まる。

完全にマウントポジションを取ったクリストは更に、奇声を上げる。そして、手をめちゃくちゃに振り回し、レンガを激しく殴打し続ける。


「ふざあけるなぁ! ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


その狂気に満ちた顔はまるで、別人。血走り充血した目で、レンガを睨み付ける。

レンガは顔の前に腕を組み、幾度と無く繰り出される殴打から身を守るのが精一杯だった。


すると、クリストはその手を一瞬、止める。そして、自分のブーツに備え付けてあるナイフを取り出し、それをレンガの顔面目掛けて、一気に振り下ろす。


「しねしねしねしねぇ!! 殺してやるぅぅぅ!!!」


レンガは咄嗟の反応で、そのナイフを持つ手を受け止める。しかし、この余りにも不利な体勢・・・。

振り下ろされる刃は、じわじわとレンガの顔面に近づいて来る。


くそ・・・! 凄い力だ・・・。このままでは、確実にやられる!

だが、この状態をひっくり返す術はない。自分に出来る事は、只、この迫るナイフを力で押し退ける事だけだった。

余計な考えは捨て、両手に全ての力を注ぎ込む。


「ぐうぅぅぅッッ!!」


ドンッッ!!!!


突如、何かがぶつかった衝撃が、クリストの身体越しに自分へ届く。それと、同時にクリストの腕の力が消えていった。


「レンガ様!!!!」


声の先を見ると、グレースが手錠されたままの両手で剣を持ち、それをクリストの背中に深々と突き立てている光景が見えた。


「うぅぅ・・・・う・・・」


クリストは、悲痛の呻きを上げ、そのまま横向きに倒れる。そして、生まれたばかりの赤ん坊の様に丸まり、クリストを中心に、大量の血の池が形成される。


俺は、その光景を何とも言えない気分で見下ろした。

更に、広がりを続ける紅い液体は、彼の命が外へ漏れ出している様だった。


彼の傍らに転がっている、もう一本の剣を拾い上げる。

もう、彼はこのまま放って置いても、直に・・・死ぬだろう・・・。

でも・・・苦しむ、のたうつ彼を、楽に。

いや、それは、只、自分がその光景を見ていたくないだけなのかもしれない・・・。


「クリスト・・・。これで、終わりだ・・・。」


切っ先をクリスト胸元へ、垂直に向ける。

クリストはその動きを察知して掠れた声で、何度も囁く。


「や・・・めて・・・。殺さ、ない・・・で・・・くれ・・・。」


涙を溢し、助けを求め続けるクリストの姿に、目を瞑りたい衝動を駆られる。でも・・・ここで、目を瞑ってはいけない。そんな、気がする・・・。

だから、せめて・・・お互いの苦しい時間を終わらせる為に・・・言葉を紡ぐ。


「悪い・・・。それは出来ないんだ。すまない・・・。そして、さよならクリスト・・・。」


彼に最後に言葉を与えると、両手に力を入れる。


グッシュゥゥゥゥ・・・


刃が、クリストの胸の中へ差し込まれて行く。そして、自分の手には、水分をたっぷり含んだ雑巾を絞っている様な、水っぽい感触が広がる。とても・・・嫌な感触だ・・・。

彼は、剣が差し込まれ行くごとに、口からゴポゴポと、紅い泡を漏らしていく。

俺は・・・その光景を、見続ける・・・。目は離さない。時間の流れが永遠と思える程、長い・・・。


やがて・・・クリストは完全に動かなくなった。


こうして・・・真夜中の死闘は終りを告げて行った・・・。



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