第13話 闇夜の強襲者
クリストは見張りとの話し終え、遺跡の内部の広間へ戻って来た。
そして、そのまま、広間の壁に鎖で繋がれているグレースの前で歩を止めた。
「お仲間の方は、負けてしまって・・・残念でしたね。」
「・・・」
グレースはそんな言葉には何の反応も見せずに、ただ力無く俯いている。
「命は救ったのだから、もう少しは、感謝してほしいんですがね・・・。」
クリストは更に言葉を繋いだが、それにも何の反応を示さない。そんな様子に、クリストは諦めた様に溜め息を溢すと、再び話し始める。
「あなたは、どこの村のエルフなんですか?」
「・・・」
「私とは、何もおしゃべりしてくれないんですね。いやいや、嫌われてしまいましたか」
一向に何の反応も示さないグレースを見て、つまらなそうに笑う。
すると、鎖に繋がれているグレースの腕に、見た事もない石が施されている腕輪がある事に気が付いた。
「おや? これは何です? 何やら珍しい石ですね?」
そう言って、グレースの腕輪に手を伸ばす。
しかし、クリストの伸ばした手が、その腕輪に届く刹那。
「触るなぁ!!」
グレースが俯いたまま、激しい怒声を上げた。クリストはその突然の大声に驚き、少し身体を跳ねさせる。
「こ、これは失礼しました。」
そんな様子を遠目から見ていた一人の男が、ニヤニヤしながらクリストに尋ねた。
「隊長・・・その生意気な女、いいですか? 正直、我慢ならないんですよ。へへへ・・・。」
クリストはその男に対して、やや呆れながら言った。
「それは困りますね。このエルフが強力な固体であった場合、傷物にされては価値が下がりますからね・・・。それが判明した後ならば、どうでもいい事ですが・・・。しかし、あなたの物言い、少し下品ですよ」
男はクリストの言葉に短く謝罪すると、つまらなそうな表情を浮かべた。そして、クリストはもう一度、グレースに向き直る。
「まぁ、どちらにしても・・・。もう、これの末路は大方、決まってますがね」
そう小声で呟くと、その場から離れ、睡眠を取る為、横になった。
「・・・」
壁に括り付けられたまま取り残されたグレースの腕の鎖がカチャカチャと小さく鳴る。
微かに震えるグレースは、只、下を向き、瞳を固く閉じて、動こうとさえしなかった。
「そろそろ、いいか・・・。」
先程、クリストが一度、外へ出て来て、見張りと何かを話していた。その顔を再び見た事で、怒りの感情が沸々と浮かび上がって来たが、何とか押さえ込めた。
そして、奴が中に戻って行って、そこそこに時間が過ぎた。
今が、頃合いだろう・・・。
もう一度、見張りの位置を確認する。
遺跡の入り口付近に1人、そして、崩れ掛けた柱を挟んで、外周付近に1人。奇襲を掛けるには理想的な配置だ。
反対側の瓦礫に身を潜めるドミヤに目を向ける。此方からはドミヤの姿がよく見えるが、見張り達からは位置的に死角になって見えない場所だ。
そして、自分の額を拳で何度か軽く叩き、ゆっくり息を吐く。
落ち着け・・・。臆するな・・・。
決心を決め、行動を開始する。
まず、レンガは煙草を加え、火を灯す。そして、煙草に火が点いた事を確認すると、それを右手に持つ。
そして、その煙草をドミヤから見える位置に掲げると、誘導棒の様に左右に振る。
それが、作戦決行の合図だ。
ドミヤは直ぐ様、その合図に気が付く。すると、凄まじい速度で、入り口付近の見張りへ一気に距離を詰める。
ドミヤはその見張りが自分の射程圏内入ると、手のしている石斧を大きく振りかぶり、見張りの後頭部へ投げつけた。
グチャッ!!
見張りの後頭部は、まるでトマトの様に簡単に潰れ、そのまま、前のめりに倒れ込む。
「ん? どうしたんだ?」
外周側の見張りは、その音に気が付き、音のした方角へゆっくりと近づいて行く。
だが、レンガもその動きを、既に察知していた。
「おい!!」
レンガは、歩を進める見張りの背中越しから、少し大きめの声で呼び掛けた。見張りは、突然の声に驚き、直ぐ様、後ろに振り返った。
ドミヤはその隙に、見張りの死角側から、体勢を下げ、一気に距離を詰めた。そして、見張りの元まで辿り着くと、その後頭部に、石斧の渾身の一撃をお見舞いする。
ガンッ!!
その石斧は見張りの男の兜ごと粉砕し、男は力無く倒れ込んだ。
レンガはそれを確認すると、目の前の塀を飛び越え、ドミヤと合流する。
「おまえ・・・ほんとに、凄い力だな・・・。」
「ふふん♪ どうでさ? 少しは、あいの事を見直したでさかー?」
ドミヤは得意気に鼻を鳴らした。
しかし、ドミヤの戦闘能力は想像以上だった。これは、足を引っ張るのは自分の方かもしれないな・・・。
「ドミヤ、後3人だ・・・。準備はいいか?」
「あいは、いつでも大丈夫でさ」
外の見張りは無事、鎮圧する事が出来た。後は、中の見張り2人とクリストだけだ。
ドミヤと共に、入り口へと走る。そして、入り口の前まで来ると、お互い、入り口の壁の左右に別れ、壁に背中を預けて身を潜める。
それから一呼吸置いてから、俺は低い声で中の見張りを呼び掛ける。
「おーい。ちょっと、こっちに来てくれー」
「あ? どうしたんだ?」
返って来た声は、クリストものでは無い。恐らく、中の見張りの者だろう。
好都合だ・・・。
そして、俺は、直ぐに古式銃を抜き、撃鉄を起こす。
コツコツ・・・。
次第に、中から、二つの足音が近づいて来る。俺は、その音に耳を傾けつつ、唾を飲み込んだ。
心臓の鼓動が早まっていく。その余りに激しい鼓動は、見張りに聞こえてしまうのではないかという程だった。
やがて、見張りの二人が、壁越しに隠れるレンガとドミヤの横を通り過ぎ、そのまま遺跡の広場へ向かって行った。
そして、次の瞬間、二人はほぼ同時に、動き出した。
見張りの元へ辿り着いたドミヤは、再び、石斧を振り下ろし、一人の男の兜を砕く。
僅かに遅れて、レンガも、もう一人の男の背後に辿り着く。
その男は、ドミヤに倒された仲間の異変に気が付き、振り返ろうとしたが、レンガがその後ろから、頭を抱える様に組付かれる。
「なっ! うぐっ!!」
男は組点いた俺を引き剥がそうと、盛大に暴れる。口は左手で押さえているので声は出せない。
そして、俺は右手に持つ古式銃の冷たい銃口をその背中に当てだった。
一瞬、男の戦慄する感情が、此方にも伝わって来た気がした。しかし・・・。
シュッドパッッ!!!
俺が引き金を引くのと同時に、男の胸部から、大量の紅い飛沫が飛び出した。
男の身体の力が、途端に消え、絶命した事を悟る。
しかし、絶命直前に見張りの振り上げた剣が、その手を離れ、宙を舞っていた。
ガランッ! ガシャッーー。
放物線を描いて飛んだ剣は、激しく地面叩きつけられ、男達が出て来た遺跡の通路へ滑って行く。
・・・しまった!!
ドミヤに目で合図を交わすと、直ぐに単身、中へと走り出す。遺跡の入り口を潜り、仄かに明かりの見える広間へと向かう。
そして、目的の広間へと辿り着くと、一人の男と対峙し、その足を止めた。
「おや・・・。物音がしたので、何かと思えば・・・貴方ですか。」
クリストが盾を構えながら、こちらに見ていた。
クソッ・・・。手遅れだったか。
あわよくば、このまま、クリストも奇襲して終わらせたがったが、失敗してしまったみたいだ。
そして、広間の済みに、壁に鎖で括り付けられているグレースを見つける。
「グレース!」
「えっ・・・。レ、レンガ様・・・。」
彼女は顔を上げると、驚いた様に目を見開いた。
取り合えず、グレースの無事は確認出来た。後は、こいつだけだ・・・。
レンガは、自分の直ぐ横、ランタンが置かれている崩れかけた石柱の後ろに、しゃがんで身を隠した。
「皆さーん! こっちに居ますよー!」
クリストは大声で外に向かってを呼び掛けている。
だが、そんな様子は無視して、古式銃に先程撃った弾丸の装填を始める。
黙々と装填を続けるレンガの瞳には、静かに怒りの色が見え始めていた・・・。




