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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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第12話 鬼が生まれる時

レンガは落ち着きを取り戻すと、一人、野営地に戻って来る。


そこに、ドミヤの姿はなかった・・・。

クリストの口ぶりからして、ドミヤは・・・あの一団と何らかの関係があったのは確かだ。恐らく、逃げたのだろう。

溜め息を吐きつつ、もうすっかり火力が弱まっている、焚き火の前に腰を下ろし、タバコに火を灯す。


これから、どうするか・・・。

勿論、あの一団を追うという事は決まっている。しかし、奴等がどこへ向かったのか、わからない。

あの騒動の後、すぐに追わなかった事を、今になって猛烈に後悔していた。

とんだ失態だ・・・。


このままでは、グレースがどうなるかも、わからない。奴等の様子を見るからに、最悪の想定をした方がいいだろう。

そんな考えから、焦りが募り、勢いよく腰を上げた。

仕方ない・・・。奴等が行った方向を闇雲にでも、探すしかない!


ガサッ!


すると、突然、森の中からドミヤが飛び出して来た。

もう、二度と会う事はないだろうと考えていたので、驚いてしまう。


「おまえ・・・何、やってんだ? こんな所で?」


ドミヤはその言葉に目を細めて、明らかに不機嫌な表情を見せる。


「何って? あいが、居たら、そんなに嫌なんでさか?」


そして、暫しの沈黙が訪れる。

やがて、沈黙を破る様に俺はゆっくりと口を開く。


「・・・ドミヤ、おまえ・・・あそこに居たんだろ?」


ドミヤはその問いに俯きながら、暫しの間を開けてから、口を開いた。


「・・・・居たでさ。」

「やっぱりか・・・。」


これだけ静かな所で、あれだけ派手に闘っていたんだ。ドミヤは気付かない筈がないとは思っていた。

そんな事を考えていると、ドミヤが俯いたまま、伺う様にこちらを上目遣いで見てくる。


「・・・怒らないんでさ?」


そのドミヤの問いに少し笑う。


「別に怒らないよ。それに、あそこでドミヤが乱入しても事態が好転したとも思えないしな・・・。下手するともっと、悪くなったかもしない・・・」


ドミヤは目を丸くして驚いている様だった。そして、いきなり、深々と頭を下げた。


「・・・旦那。ありがとうでさ・・・」


そんな珍しく、しおらしいドミヤの様子に驚きを隠せなかった。

だが、それよりも、今は気になる事があった・・・。


「それよりおまえ・・・追われてるみたいだけど、それは知ってるのか?」

「それは、あいもさっき知ったでさ・・・。本当でさ・・・。」


そう言って、再び俯いてしまう。

でも、俺はその言葉が本当だと信じられる理由があった。


「信じるも何も・・・。寧ろ、追われてるんだったら、王国に行く、なんて言わないだろ?」


それは指名手配者が、わざわざ警察署に行く様なものだと思う。

まず、自ら行こうとは言い出さない筈だ。


「何か追われる、心当たりはあるのか?」

「多分・・・さっきの大盾の男に個人的に追われてるみたいでさ・・・。王国は、そもそも一匹の亜人何かを、一々相手に何かしないでさから・・・」


そのドミヤの言葉に、今一、要領を得られない。

個人的な恨み・・・って事なのか?


「もう・・・こうなってしまったら、全部喋りますでさ・・・。」


ドミヤは大きく溜め息を吐いてから、語り出した。


「あいが工房をクビになったのは・・・。あの男の、大事な術具を壊したからなんでさ」

「それで責任取らされたって事か・・・。」


一回のミスで、クビとはなかなか厳しい世界だな・・・。


「ちょっと、生成に失敗してしまって、それで見事に弾け飛んでしまったでさ・・・」


ドミヤは恥ずかしそうに、頭をぽりぽりと掻いた。


「でも、少しの一回のミスで・・・クビが飛んじゃうなんて、ドミヤは大変な所に居たんだな・・・」

「いや~。それが割りとよくあることで・・・あの男だけでも、かれこれ20回目なんでさ・・・。」


前言撤回だ。やっぱりこいつはだめだ、早くなんとかしないと・・・。

そんな下らないやり取りをしていて、あっ、と思い出す。


「ごめん! ドミヤ、今はのんびり話してる場合じゃなかったんだ!」


そういって走り出した俺を、ドミヤが声を掛けてきた。


「あいつらの居場所なら、あいがわかるでさ」


思っても見なかった発言に、その足を止めた。


「どうしてーー」


そう言い掛けると、ドミヤは怒んないで聞いてくだせっ、と言ってから話し出した。


「あの時、旦那がやられた後・・・。あいは奴等を付けてたんでさ。そもそも・・・奴等をここに呼び込んでしまったのも、あいのせいですし・・・。それにーー」


ドミヤが言い終わる前に、歓喜のあまり、ドミヤに抱き上げていた。

見た目通りに軽い身体は、簡単に宙を舞う。まるで、子供を高い高いしている様な光景だ。


「やるじゃないか! ドミヤ!!」


ドミヤはレンガの突然の行動に、驚き固まっていたが、やがて盛大に暴れ始める。


「やめるでさ!! あいは、子供みたいに振り回さすんじゃないでさ!!」


文句を言い続けるドミヤを、気が済むまで振り回した後、地面に下ろす。


「すぐに行こう!」

「わかったでさ・・・。全く・・・」


そして、必要なものだけ持ち、足早に野営地を後にした。





「あそこで、野営しているみたいでさ」


森を向けた先、山岳地帯にある無数の岩の影に、ドミヤと二人、身を潜めていた。

ドミヤが指を指した先を見る。そこには、崩れ掛かった遺跡があった。

遠目に、ランタンを持った男が外に二人立っているのも見える。

あの建物を根城として使っているわけか・・・。


「ドミヤ、あそこの遺跡の中が、どうなってるかはわかるか?」

「大丈夫でさ。前に、仲間と来た時、探索した事があるでさ。確か・・・あの中は、大きな広間が一つあるだけだったでさ」


なら、外に見張りが2人、中の広間にクリストを含め、3人って事か・・・。

相変わらず、5対2と、不利な状況は変わらないが、今は時間の猶予がない。

直ぐに、何かしら決行しなければ、グレースの身が危ない。


「早く、何か、いい手を考えないと・・・」

「旦那。姉さんの身は多分、安全だと思いますでさ」


すると、ドミヤが突然、不可思議な事を言い出す。


「えっ? なんでだ? 何か確信でもあるのか?」

「エルフ種は術具の開発に大変、貴重な種なんでさ。だから、殺すよりも、無傷で王国に連れ帰るほうが栄誉なるみたいなんでさぁ・・・。恐らく、奴等はその目的で姉さんを捕縛したんだと思うでさ。」


ドミヤの意外な知識に少し感心した。

思わず、腐っても王国技師なんだな・・・などと、失礼な感想を抱く。


しかし、術具の開発にエルフを使う? 一体、どういう事なのか・・・。

昼の道中でドミヤから少し聞いたのだが、術具とは、ヒト種が術を用いる為に使う、所謂、中継器の様な武具らしい。

個人個人で適正などがあり、使える物は限定されてしまうみたいだが。

しかし、まだまだ、色々と研究段階の武具らしく、不完全の物が多い様との事。

だとすると、その術具の研究や、改良にエルフの協力が必要になるってところか・・・。


色々と、ドミヤに聞きたい所ではあったが、こんな所で悠長に話している時ではない。

後で、ゆっくり聞く事にしよう。


取り合えず、一時、グレースの身の心配から解放され、じっくりと辺りの地形と見張りの動きを観察する。


この地形ならば、気付かれずに近づく事は出来そうだ・・・。

あの馬鹿貴族・・・快適な野営地を選んだ事に感謝するぞ。

そういえばと、気になった事をドミヤに尋ねてみる。


「ドミヤは闘えるのか?」


今は猫の手も借りたい状況。ドミヤも戦力として数えられるならば、とてもありがたい。


「任してくださいでさ。姉さんみたいに術は使えないでさが、ヒト種なんかにゃ、力じゃ絶対に負けないでさ!」


そういえば、ドミヤに引っ張られた時があったな・・・。腕が、千切れるんじゃないかって程の怪力だった気がした・・・。

ドワーフ種は術が使えない代わりに、筋力が特質している種族なのだろう。


すると、ドミヤは背中側の服の中から、何かを取りだし、此方に見せてきた。

その手にあったのは、何とも頼り無さそうな、くたびれた石製の斧だった。


「何だこれ? どこかで拾ったのか?」


その言葉を聞くと、ドミヤは怒った様に目を吊り上げ、猛抗議してきた。


「なっ! 相変わらず失礼でさ! これが、あいの武器でさ!」


そう言うと、柄の部分に取り付けてある紐を持ち、石斧を空中にブランブランと振って見せてくる。


「それを投げて攻撃するわけか」

「そうでさ! 見た目よりも、丈夫なんで安心してするでさ」


ケタケタと笑いながら胸を張る。

強度が平気なら大丈夫か。あの怪力から放つならば、かなりの威力なるのだろう。

しかし、ドミヤが戦えるとなると、大いに助かる。これは、何とかなるかもしれない。


「じゃあ、ちょっと色々と考えるから、何も話しかけないでくれ・・・。」

「なんか、いちいち、言い方に棘がある気がするでさ・・・。」


そして、文句を言うドミヤを尻目に、打開策を練り始めた。




ドミヤは特にする事も無くなり、何となく星空を見て、物思いにふけっていた。


・・・何で、あいは、こんな事してるんでさか・・・。

確かにこうなってしまった事には、責任は感じている。しかし、だからといって、命を張る必要はない筈。

この闘いに勝利したとしても、自分には何のメリットもないのだから・・・。寧ろ、後々、色々と面倒な事にもなりそうである。

そもそも、何故、彼等に付いて行ったのか。それは、旦那の存在である。


仕事も住む場所も失った、あいは完全に路頭に迷っていた。

ヒト種ならばまだしも、只の一介のドワーフ如きが、そこから生計を立て直す等、不可能に近い。

そんな時、出会ったのがこのヒト種の旦那だ。


そこそこの身なりをしていて、更には術具まで保有していた旦那は、自分の救いの光に見えた。

このヒトに付いていけば、自分は助かるかもしれない。そう、強く思った。

だが、蓋を開けてみれば、一文無しで、ヒト種の常識すら、まるで持っていない様子・・・。

このヒトは一体、何者なのだろうか・・・。


星空から、旦那の方へ視線を移す。彼は、岩影から身を乗り出し、辺りを忙しく見回し、何やらぶつぶつと呟き、考えている様子。

何故、連れているエルフ一人にあそこまで、熱心になるのか・・・。変わったヒトである。


でも・・・そう考えて、一つの違和感に気が付く。


何故・・・自分は、あの時、クリストの後を付けたのかと。

あの時、自分が取れる最善は、早々にあの場から逃れると事だった筈。なのに、何故、態々彼等の後を追い、更に旦那の元へ戻ったのか・・・。


しかし、それについては、自分の中で確信の様なものがあった。

旦那は、絶対に姉さんを助けに行くと・・・。


何でそう思ったのかはわからない。でも、旦那と話していて、そう感じたから。

まだ、半日しか一緒にいないが、そう感じていた。

旦那が、姉さんや自分に向ける目と仕草。それは、今までヒトが自分達、亜人種に向けるものとは異なっていた。


自分達を、下に見る訳でも、避ける訳でもなく・・・。只、同じ目線で接し、それが当たり前の様な・・・。そんな感じ・・・。

自分に失礼な事ばかり言ってくる事は腹立たしいのだが、ちょっと不思議で変なヒトだ・・・。


すると、今まで考え、固まっていた旦那が、動き出す。


「よし、ドミヤ。ちょっとこっちに来てくれ。」

「はいはい。直ぐに行くでさよー。」




レンガは考えをまとめ終え、これから行う攻撃の段取りをドミヤに事細かに説明すると、一旦、ドミヤとは別れ、お互い遺跡の近くに移動し、再び身を潜めていた。


正直、ドミヤがちゃんと覚えられているかすごく心配であった・・・。本人は、記憶力には自身があると、言ってたが、今一信用出来ない。

もし、手筈を少しでも誤れば、奇襲は台無しになってしまう・・・。


大まかな流れは、外と中の見張りを波状攻撃で一気に撃破し、あわよくば、クリストの寝首を刈る。それが無理ならば、2対1で仕留めるというものだ。

奴等の装備等を見るからに、敵を探知する道具や、通信する道具などは持ってはいない筈。

ならば、闇に紛れての奇襲はかなり有効と踏んでいる。


問題は、声を上げさせる間もなく、鎮圧するという事だ。

だが、それについては、敵が見張りを分担してくれた事が、功を奏してくれた。

各個撃破に、更に奇襲という要素が加われば、自分の古式銃は無類の強さを発揮してくれる。


後は、奥にグレースと共にいると思われるクリストの存在。

古式銃の弾丸を易々と弾く、強靭な大盾がかなり厄介だ。おまけに、グレースを盾に使われる心配まである。

更に、腕もそれなりに立つ。

ドミヤ曰く、奴は王国の外部の警備隊長らしい。

あの妙な騎士道精神と、慢心さえ無ければ、相当の手だれなのだろう。


だが、先の闘いの中・・・奴の弱点も見つけた。

常に、回りに己の強さ、尊厳を見せつける様に振る舞うあの仕草。・・・あれは、自己評価の低さ、強い集団への固執からきているものだ。

集団の中に、その身を置いて、己の弱さを隠している典型的な人間。

そんな人間は、集団から離れ、孤立した時・・・その精神は非常に脆い。

孤独への不安、恐怖に全身を蝕まれ、その心は泥船の如く決壊していく・・・。そこに大きな隙が生まれる。


普段、回りから持て囃され、守られているクリストには、孤独というのは無縁の代物。自分がそんな状況に追いやられるなんて、夢にも思っていないだろう。

ならば・・・。そんな状況を、此方が作ってやればいい・・・。


そんな事を考えていると、これから自分が人を殺すという事が、現実味を帯びてくる。

勿論、過去に人を手に掛けた事などある筈もない・・・。自分が、こんな事をする日が来るとは思ってもいなかった。

出来れば、こんな事はしたくはない・・・。


しかし、奴等は、自分に・・・グレースに、刃を向けた・・・。

ならば、此方も、全力でそれに答えるしかない。向けられた刃を振り払い、先に刃を突き立てるしかない・・・。

微かに震える右手に力を入れ、強引にねじ伏せる。



俺は・・・。今だけは・・・。人の心を捨て、鬼を宿す・・・!!



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