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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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第11話 正義の炎

レンガは、漆黒の森の中、臨戦態勢の兵士達と睨み合いが続いていた。

グレースは彼に、何度も制止する様、声を上げたが、彼はそれに応じる事はなかった。


・・・さて、どうするか・・・。

相手は5人。こちらは1人。ただ、がむしゃらにぶつかって行っても、どうにもならない・・・。

過去に、喧嘩の経験はあるにはあった。

若い時に、数人に路上で絡まれ、揉み合いなった事がある。だが、結果は散々なもの・・・。

リーダー各の男に、拳を何度も叩きつける事は出来たがものの、他数人に四方からやられ、とても勝ったと呼べる様な内容ではなかった。

その時は、警察が駆けつけ、止められ、厳重注意を受け、その場は穏便に収まったのだが、今回はそうはなりそうにない・・・。


相手も、自分も、武装している。

その互いの武装は、容易に命を刈り取る事の出来る武装。それが意味するのは・・・敗北が死に直結するという事・・・。

だが、それでも・・・自分には退くという選択肢はない。


グレースは・・・自分と、この男の話の最中、何も、口を挟まなかった。

俯き、黙り・・・只、それを受け入れ様としていた。

あれだけ、理不尽な話を聞いて・・・その結果、自らの命に危険があってもだ・・・。


その行動は、こちらの身を案じている。それは、痛いくらいにわかる。

だから、自分も感情を抑え、穏便な解決法を模索した。しかし、その願いは届く事はなかった。


振り向き様に見せた彼女の雫・・・。それで、自分の我慢は限界を迎えた。


しかし、それで、自分が行動を移したからといって、問題が解決した訳ではない。

寧ろ、これからが問題である・・・。


一度、深呼吸を行う。

自分の中の、闘争本能は殺さず、頭だけを冷静に、冷水の如く冷ましていく。



男達との距離は、7、8メートル。古式銃で先制すれば、容易く何人か沈める事は可能だ。

彼らが着ている、革の鎧。あれならば、鉛の弾丸で貫通する事が出来るだろう。

一番の問題は、相手の数である。


5人に対して、古式銃の装弾数は全部で4発。どう上手く運んでも、絶対に一人分は足りない・・・。

乱戦中に装填する事など、不可能だ。

どうするか・・・。


そこで、一つの考えが浮かぶ。

4発で数人を、圧倒し、空になった古式銃で、白旗を上げさせる。これが、ベストだ。

ならば、最初に狙うのは、リーダー格の男だ。

こういったグループは、時に脆いもの。指示系統を失った場合、容易く四散する。

そこを、突かせてもらうぞ・・・。


そう意気込んで、攻勢に移ろうとした時。



「君達は下がっていていい。ここは・・・私が、この不届き者を成敗しよう!」


リーダーの男が高らかに宣言すると、取り巻きの壁を割って、一歩前に出てくる。

取り巻き達は、その言葉に応じて、剣を腰に納めた。


こいつ・・・。何を、考えてるんだ?

自分が圧倒的に有利だった状態をあっさりと捨てた、この男の行動が読めない。

それだけ、自分の腕に自信があるというのか・・・。それとも、ただの馬鹿なのか・・・。


しかし、これは此方にとっては願ってもない事態。

一対一ならば、負ける気はしない。

所詮、相手は自分と同じ人間。更に、此方には飛び道具があるのだ。


「さぁ、私が直々に、ご指導して差し上げましょう」


男は芝居がかった様子で、剣は抜かず、背中に拵えていた、身の丈程ある大盾を右手に構えた。

その盾を見ると、表面に無数の刺が配置されている。

恐らく、攻撃を防ぎながら戦う武器なのだろう。

だが、そんな原始的な武器なぞ、恐れる必要もない。


「なぁ、この闘い・・・あんたをねじ伏せたら、彼女を解放してくれるか?」

「いいだろう・・・。騎士の名に誓って約束しよう。皆も、誓うんだ」

「かしこまりました!」


男は余裕の表情でそう返してくる。取り巻きの男達も直ぐに、その言葉に同意して見せた。

中二病も真っ青なそのリアクションを何度も見せるのはやめて欲しい。

見ているこっちが恥ずかしくなってくる・・・。


しかし、まぁ・・・そんな約束など、当てにはならないだろう。いざとなったら、グレースを人質にする事も念頭に入れて置かなければ・・・。

こいつに致命傷を負わせて、彼女の解放を求めるのがいいか・・・。


すると、突然、男は腰を深く下げながら、高らかに声を上げた。


「騎士クリスト! 参る!!」


これから、殺し合いになる事は明らか。彼はスポーツでもしているつもりなのか・・・。

それだけの余裕があるからなのか・・・。

しかし、一つ、わかったのは、こいつが自分の苦手とするタイプの人間だという事だ。


まぁ・・・取り合えず、今は余計な考えは捨てよう。目の前の闘いに集中するんだ・・・。

まずは・・・。


男の持つ強大な盾に注目する。しっかり構えれば、男の全身を完全に覆う程の大きさである。

問題はその強度だ。弾丸を弾くか、貫通するのか・・・。


ならば・・・。

俺は、盾の表面、裏に男の腹部があると思われる箇所へ向かって、狙いを定め、躊躇なく引き金を引いた。


シュッダン!!

ギンッ!!!!


だめか・・・。

激しい金属音が響き渡っただけで、貫通した様子はない。

この大盾、かなりの強度を誇っているみたいだ。


すると、再び、男は大声で何やら喋り出す。


「何て、野蛮な奴なんだ・・・。名乗りもせずに攻撃なぞ、同じヒトとして恥ずかしい限りだ。皆もそう思うだろ?」


クリストの意見に同調する取り巻き達は、ゲラゲラ笑い出す。


野蛮なんて、ドミヤに散々言われ慣れているよ・・・。誰が、そんな安い挑発に乗るかよ。


盾こそ、貫通できなかったが、こんな奴・・・火竜に比べれば、微塵も怖くはない。

こいつの間合いだけに、気を付けていれば、何も問題はない。


すると、次の瞬間、自分の目前に、猛烈な勢いで大盾が迫って来た。

直ぐ様、それから逃げる様に、後ろに飛び退く。


ブンッ!!!

ガキンッ!!


しかし、クリストはレンガの距離を詰めると、盾を更に突き出し、横へ大きくなぎ払い、その大盾がレンガの手にしていた古式銃を掠めとる。

レンガの手から離れた古式銃が、そのまま地面に滑り落ちる。


「よく、避けましたね・・・。お見事です」


こいつ・・・。意外に早い・・・。伊達にリーダーを勤めている訳じゃないな。

そんな事を考えながら、ホルスターから、直ぐに次の古式銃を抜く。

それを見て、クリストは驚いた様に呟く。


「ほう? 術具の複数持ちとは、珍しいですねー。」


そんなクリストの小言には付き合わず、冷静に距離を取る為、少し後退する。


「おや? もう、尻尾を巻いて、逃げ支度ですか?」


クリストの言葉を聞いて、男達は大爆笑する。


「何とでも言え・・・。」 


クリストの挑発には耳を貸さず、しっかりと自分の距離を維持する。

先程の動きでわかったが、こいつは腕は立つ・・・。先程までの、自信もあながち、嘘ではないみたいだ。

だが・・・。見てろ。今に、余裕面、出来なくしてやる・・・。


そして、手にした古式銃を強く握り締め、レンガはクリストに再び、引き金を引いた。


シュッダン!!

ガキンッ!!!!


その動きに反応して、クリストはしっかり盾で全身を覆い、弾丸を防ぐ。

だが、今度は、レンガは引き金を引くと同時に、地面を強く蹴り、クリストの向かって右方向に走り出し、その勢いのまま滑り込む。

防御に転じる事で、視界が覆われるクリストの武器の弱点を突いたのだ。


こっちならば、盾を上手く振れないだろ!!

そのまま、後方に抜ける様に滑り込みつつ、再度、撃鉄を起こす。

そして、自分の目と鼻の先に現れた、クリストのがら空きの横腹へ、狙いを絞った。

もらった!!


そう確信した瞬間。


激しい衝撃が自分を襲った。視界は大きく反転し、上下すらもわからない感覚に陥る。

肩から地面に叩きつけられ、その痛みに思わず呻き声を漏らした。


一瞬、何が起きたのかわからなくなり、目を白黒させる。

痛みに顔を歪めながら、ゆっくり顔を上げると、そこには、不気味な笑みを浮かべる取り巻きの男が一人、立っていた。

こいつは・・・確か、後ろに控えていた・・・。


その男を見て、何が起きたのか、瞬時に理解した。

滑り込むレンガを見て、取り巻きの男の一人が、自分を蹴り上げたのだ。

一対一などと、気を抜いた自分が・・・。完全に迂闊だった・・・。


続けて、背中に強い衝撃が走る。


「ぐっ!!」


クリストがうつ伏せに倒れるレンガの背中を思いっきり踏みつけた。

そのまま、レンガはその足で地面に張り付けにされる。


「おい、君・・・何故、横槍入れるんですか? そんなのは美しくないですよ・・・」


クリストは言葉こそ非難めいていたが、その表情には、明らかな満足げな笑みが浮かび上がっていた。

この一連の流れを見ていたグレースが、大声で叫んだ。


「なんて汚いの!!!!」


いや、違う・・・。俺が甘かった、これは、十分考えられる事だった筈なんだ・・・。

自分が火竜を倒した事で、調子に乗り、油断していた事に気が付く。相手は、大した事はないと、勝手に鷹をくくっていた。

その結果・・・油断し、大事な事を見落とす結果を招いてしまった・・・。


舐めていたのは、クリストだけではない・・・。自分も同じだった・・・。


「さて・・・。」


クリストはそう呟いてから、いつも間にか両手に持った剣を天高く振りかざした。

その光景を横目で見やって、次に起こる事を理解する。


くっ・・・。な、何かないか!

必死に打開策を考えるが、身体は足で完全に地面へと押さえられている。古式銃も取り落としてしまっていた。

抵抗する術すらない。


「さぁ・・・これが、正義の炎です!」


その言葉を合図に、クリストの剣の刀身に、紅蓮の炎がトグロを巻いていく。

その光景を前に、恐怖に顔を凍らせた。


なんだ・・・あれは!?

刀身にまとわり付く様に、火炎が立ち登っている。それは自分の常識では考えられない光景だった。

これが・・・術具ってヤツなのか!?


「くっ!」


グレースもまたそれを見て叫びながら、抑えられたいる腕を振りほどこうと暴れる。


「やめてーー!!!!!」


これで終わりなのか・・・。こんな、あっさりと・・・。

嫌だ・・・。まだ、終わりたくない!!


これまでの出来事が走馬灯の様に、次々と思い浮かぶ。

そして、目前に迫る死への恐怖と、悔しさ、不甲斐なさに涙が溢れ、視界が歪む。

次の瞬間ーー


「ふふふ・・・。まぁ、この位で、勘弁してあげましょうか・・・」


そう言うと、クリストは満足げな笑みを浮かべ、剣を下げた。

レンガは一瞬、何が起きたのか理解出来ずに、涙で濡れている瞳をクリストに向けた。


「これは、部下が横槍入れてしまったお詫びです。弱いものいじめは・・・私の美学に反しますからね」


男の言葉に取り巻きの男達がパチパチ、と次々に拍手して歓声を上げる。

クリストは未だ、涙を零し続けるレンガを一瞬、鼻で笑い飛ばしてから、行きましょうと男たちに促した。

そして、下を向いて、泣き続けるグレースの腕を強引に引っ張り、森の暗闇の中へ消えて行った。


「では、お元気で・・・。弱虫さん」


そんな言葉だけが、その場に残っていた・・・。



取り残されたレンガは、今だ涙を零しながら、渾身の力で地面を叩く。


くそ! くそっ! くそっっ!!

癇癪を起こした様に、更に何度も地面を叩く。

脳裏には、クリストの勝ち誇った表情が浮かぶ。奥歯が欠けるのではないかという程に、噛み締める。

でも、これは、自分の油断と甘さが招いた必然だ・・・。

その結果、自分は敗け、グレースも連れて行かれてしまった・・・。

だから、この悔しさを、痛みを自分に刻みつけろ!


だが・・・。これで終わらせるものか!


今度はお前にも味合わせてやる。

この苦しみを、痛みを・・・。

ここで、俺にとどめを刺さなかった、お前の甘さが招く結果をッッ!!




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