第9話 はぐれドワーフ
次の目的を定め終え、取り合えず、グレースの足を治療する為、彼女を背負って裏の川原に来た。
ここならば、水の術がふんだんに使えるとの事だ。
彼女は川原に座ると、川の水を使い次々と外傷を治療していく。
この術というものは、何度見てもすごいものだと、関心してしまう。この世界に医者という職業があったら、さぞ儲からないのだろう。
暫くすると、彼女の身体にあったら切り傷は綺麗に消えていた。
「足も、もう、大丈夫なのか?」
「いえ、治療は終りましたが、完全に治るまでには、もう少しかかってしまいます・・・。」
何でもかんでも、治せるわけではないらしい。
深い傷に関しては、自然治癒力を高めて治すらしく、骨折ならば半日もすれば治るようだ。
治療も、おおよそ終ったので、再び彼女を担いで、再び村へと戻る。
今日は、村の辛うじて残っていた自分の小屋で休み、明日、村を出立する事にする。
遺体を埋葬しようと探し回ったが、全て、燃やされ、補食されてしまったらしく、誰も見当たらなかった。
案内してくれた男の遺体に関しては、恐らく自分が火竜と一緒に吹き飛ばしてしまったみたいだ・・・。
必死だったとはいえ、申し訳ない事をしてしまった。
その後、お互い、水浴びを済ませ、晩飯の事をグレースに聞いてみる。
「晩飯なんだけど・・・あの火竜って食べられるのかな?」
色々と因縁深い相手ではあったが、せめてもの弔いにと、考える。
見た目が悪いわけではないから、害が無ければ食べられると思うのだが。
それに、村に貯蓄してあった食料も全て燃やされてしまっている。
そろそろ、日も暮れてくる頃で、今から何かを調達に行くのも、時間的に厳しい。
「え、食べるですか?・・・うーん、火竜を食べた事ないので詳しくはわからないですが、毒とかはないとは思いますが」
試しに試食してみるしか無さそうだ・・・。
少し躊躇する気持ちもあったが、自分を奮い立たせ、肉切り包丁を手に火竜の前に立つ。
そして、背中に包丁を刺してみる。
恐ろしく硬い・・・。
何とか、刃は刺さるのだが、これを切り分けるのは、とんでもない労力を使う。
取り合えず、焚き火を起こし、包丁を熱しながら切って、やっと一部分切り取ることが出来た。
そして、切り取った一部分に、よく火を通して、覚悟を決めて食べてみる。
「お! これは美味しいぞ!」
身の絞まった鶏肉みたいで、とても美味しい。少し固めだったが、脂も少なくて自分好みな食感だ。
「今、グレースの分を焼くから、少し待っててな」
「あ、ありがとうございます」
先程、切り取った部分からどんどん切り進んで行き、丁寧に焼き、次々と皿に盛り付けていく。
そして、川で汲んできた水と一緒に、グレースのいる机に持っていく。
「はい。お待たせ」
「ありがとうございます・・・料理、上手なんですね」
「ただ、焼いただけだけどね」
そう焼いただけ・・・THE男の料理である。
「あ、いえ、そうじゃなくて・・・手際とか、包丁の使い方が上手だなーと」
「ああ、まぁ、一人で生活する事が多かったからかもね・・・」
「あ・・・そうなんですね」
「両親と祖父が死んだ後は、ずっと一人で生活してたから、料理も少しは出来るかな」
「そういうことなんですね・・・」
少し、彼女の声のトーンが下がった気がした。
いつも、この手の話になると、決まって重苦しい雰囲気になる。
でも、俺は、その空気が苦手だった。
もう、親類が不在になってから、かなりの日が経つ。その当時は、それなりのショックを受けていたものの、今や、いない事が当たり前になっている。
だから、変に労いの言葉等を受けとると、逆に反応に困ってしまうものだ・・・。
でも、彼女からの口からは、そこまでは出なかった。彼女もまた、それなりの苦労して来ているのだろう・・・。
「さぁ、冷めないうちに食べよう」
「はい。では、頂きます」
そんな重くなりつつある空気を払拭する為、少し大袈裟に明るく振る舞う。
それを合図に、二人で火竜の肉を食べる。疲れている事もあって、その肉はすごく美味しく感じる。
さっきまで、死闘を繰り広げていた相手を、今は食べているって事に、変な違和感を感じてはいたが・・・。
大昔の人間、文明が発達する前の人間は、これが当たり前の日常だったのだろう。
命を張って狩りを行い、その打ち勝った相手が今夜の食卓に並ぶ、そんな毎日。そんなリスクも文明が発達していく事で、どんどん取り除かれていった。
それは、悪い事ではない。
しかし、自分の糧となっている動植物に対しての敬意は無くなっていく。
実際、生きていた時の姿を見ていないのだから、仕方がないとは思う・・・。
でも・・・自分が生きているのに、どれだけの犠牲を払っているのか・・・改めて、わかった気がした。
「火竜を食べてるなんて・・・普通は一生、経験出来ないですね」
「そんなに珍しい動物なの?」
「あ、いえ・・・そうではなくて・・・火竜を倒せる事なんて、普通では考えられない事なので・・・」
まぁ、あれは災害のレベルだもんな・・・。わざわざ、食用に倒そうとする者なんか、絶対にいないだろう。
「火竜に襲われて無事だった村も、ないと思います」
「そもそも、なんで・・・襲ってきたんだろう」
それは少し疑問に思っていた。
最初、川原で見つけた時、火竜は、明らかに村を目指していた様にも見えた。
「昔、聞いたお話だと・・・産卵の巣を探して、集落なんかに来る事が多かったらしいです。村があるところは、環境がいいみたいなので・・・」
「なるほどね、そういう事か・・・」
それで、徹底的に殺す事を優先する様な行動をとっていたのか・・・。
火竜からは逃げられないっていうのも、火竜が近場に危険分子を残さない為の行動からか。
「産卵のとき以外は、そこまで獰猛な生き物ではないらしいですし・・・」
「あの顔で、獰猛じゃないって言われても説得力ないけどな・・・」
「確かに、そうですね」
二人で笑いながら、和やかな雰囲気の中、食事を取る。
こんな穏やか空気の中で食事を取っている事が、随分、久しぶりな気がした。
その後は、床で寝る方の取り合いになったが、怪我してるんだからと言って、無理やりグレースをベッドに寝かせてから就寝する事にした。
かなり疲れている事もあって、横になるとすぐに、眠りの中へ溶け出して行った・・・。
俺は・・・愛用のソファーに座り、缶類で少し散らかった、机に向き合っていた。
目の前には、女性が座っている。
顔は、少しボヤけていたけど、自分はその女性をよく知っている気がする・・・。
すると、その女性は少し怒った様な口調で話し始めた。
「あんたさ・・・。何なのよ・・・私に、何か文句でもあるの?」
突然投げ掛けられた、質問に困惑し、言葉が出ない。
「私に、色々してくれるのは、ありがたいんだけど・・・。それで・・・そうやって黙っていられると、腹が立つんだけど・・・」
「いや・・・そんなつもりは、無いんだけど・・・。」
今度は、自然に口が音を発する。
「あんたが、色々やる度に、私は惨めになる・・・。それに、俺はこれだけやってるんだ。だから、お前のやれよ。って言われてる気がするのよ・・・。」
「・・・」
「自分だけ・・・そうやって、優越感に浸れて、楽しい? いい気分?」
「・・・俺は、別にそんなつもりじゃーー」
「いいえ。あんたは、そうやっている風にしか、見えない。」
「・・・」
そう・・・なのかもしれない・・・。
そんなつもりは無かった筈なのに・・・。
「偽善的なのよ!」
その言葉と同時に、はっ、と目が覚める。
壊れ掛けた天井の隙間から、二つの月が見え、辺りは小さな虫の鳴き声が聞こえている。
夢・・・か。
詳しい内容までは思い出せないが、それは確かに昔あった事だった。
偽善的か・・・。
確かに、そうなのかもしれない。
まどろみ掛ける意識の中、ベッドの方を見ると、グレースが小さく寝息を立てているが見える。
俺は・・・彼女達を救いたくて、戻った訳ではないのかもしれない・・・。
只・・・自分の背徳感を満たした、だけなのかもしれない・・・。
でも・・・今は、そんな考えを振りきりたくて、もう一度、固く瞳を閉じた・・・。
翌朝、部屋に差し込む激しい日差しと共に、目が覚めた。
何か、嫌な夢を見ていた気がする・・・。
しかし、内容を思い出す事が出来ない。
不思議なもので、夢というのは、覚えていない事が多い。それが、どんな内容だったとしても。
ベッドの方を見ると、差し込む日差しから逃げる様な姿勢で、グレースはまだ眠っている。
彼女より先に、目覚めるのは、これが初めてだ。
余程、疲れているのだろう。
取り合えず、彼女を起こさない様に、静かに伸びをしながら、広場へ出て、朝食の準備を始める。
朝から、焼いた肉という、少し重い朝食だったが、仕方ない。
そして、肉を焼き始めると、彼女がバタバタと小屋から出てきた。
「レンガ様! 申し訳ありません!」
彼女は目を擦りながら、こちらへ駆け寄る。
そんな初めて見る、寝起きの彼女の様子に少し可笑しさが込み上げてくる。
「大丈夫だよ、それに、もう、そういうのはいいって。それより、足は大丈夫そう?」
昨日、治癒しきれなかった足の具合を尋ねてみる。
「あ、はい。もう、痛みは無いです。それより・・・何かお手伝いします」
「あーじゃあ、もう焼けるから。水を汲んで貰っていいかな」
朝の日差しの元、朝食を取り始める。
そして、これから必要になりそうな物を集める為、手分けをして崩れた家屋から道具を探す。
何とか、族長の家の残骸から、コンパスと地図を見つける事が出来た。
今後の食糧として、先に火を通した火竜の肉を幾つか持っていく事にする。恐らく、数日は持ってくれるだろう。
村を出る時、グレースが深々と村に向かってお辞儀していた。
彼女の表情からは、何も読み取る事は出来ない。
ここは、彼女が育った村。良いことも悪いことも、沢山の思い出が詰まっている場所。
自分には無い、様々な思いがあるのだろう・・・。
俺は、暫く、何も言わずにそんな彼女と村の景色を眺めていた・・・。
村を出て、2日が経った。
「今、どれくらい来てるんだ?」
現在は、イヴァの村を西へ進んだ山岳地帯を歩いている。
「そうですね・・・。半分以上は来てると思います」
流石、集落育ちである彼女は逞しかった。微塵も疲れた様子も見せない。
自分はと言うと、照りつける太陽の暑さで、すっかり疲労困憊していた。
こんな炎天下の中、長時間歩くのが、こんなキツいとは・・・。車と電車の偉大さが見に染みて来るな・・・。
「それにしてもここは暑いな・・・。」
「では、丁度、あそこに湖があるんで、少し休憩にしましょうか?」
「是非そうしよう」
彼女の素晴らしい提案を即、受諾する。
軽やかに歩く少女と、げっそりとして歩く男・・・。それは、何とも情けない光景に見えている事だろう・・・。
そして、湖の畔に着くと、力が抜けた様に、ドカッと腰を下ろす。
グレースは、そんな俺とは対照的に、水を汲み、テキパキと昼食の準備を始めている。
この華奢な身体のどこに、こんなエネルギーがあるのかと、関心してしまう。
彼女が肉を焼き初めて、暫くすると、岩影から物音が聞こえた。
「グレース、何かいる・・・。」
「えっ?」
彼女に警戒するように促してから、静かに古式銃を抜く。
・・・何かの動物か? 獰猛なヤツだと、困るな・・・。
しかし、人という可能性も拭えない為、一応、声を掛けてみる。
「おい! そこに、誰かいるのか!?」
何の応答もない。
やっぱり、動物か・・・。
そう思い、音で逃げてくれれば考え、威嚇射撃を行ってみる。撃鉄を下ろし、岩本体を狙い、引き金を引く。
シュッダン!!
激しい音と共に、岩にヒビが入る。
すると、岩陰から慌てた様な、悲鳴が上がった。
「ちょっと! やめて下さいでさ! 攻撃しないでくだせぇ!」
どうやら、人の様だ。
しかし、まだ姿が見えていない以上、それが敵意のない人物かの判断はつかない。
「敵意がないなら、こちらに見える場所に出て来てくれ」
身を晒す様に促すと、おずおずと小さな人が岩影から姿を現した。
「ご勘弁してくだせぇ~。あいに敵意なんて無いでさ・・・。只、ちょっといい匂いがしたもんで、それを見に来ただけでさ・・・」
見たところ、子供の様だ。近くに村でもあるのかもしれない。
火竜の一見で、少し過敏になり過ぎていたとはいえ、こんな子供に凄んでしまい、大人げないない事をしてしまった。
構えたままの、古式銃を下ろし、声を掛けてみる。
「腹がすいてるなら、こっちで一緒に食べるか?」
「え!いいんでさ?」
その言葉を聞くやいなや、先程までの不安げな表情を一変させる。
まさに、子供特有の技である。
「持ってきた肉がもうだめになりそうだっーー」
そう、言い終わる前に。
「え! 肉でさか! それならぜひぜひぃ!!」
目に止まらぬスピードで、こちらまでやって来ると、焚き火の前にしっかりと座り込んでいた。
なんて、遠慮のないやつだ・・・・。まぁ、腕白な子供はこんなものだろう。
グレースが伺う様にこちらを見ていたので、それに頷き返すと、その子に肉串を渡した。
「いや~こりゃ神のお恵みですさ! ではでは遠慮なく」
すごい勢いで食べてるな・・・。
グレースがまるで、わんこそばの様に次々と肉を渡していく。見てるだけのお腹が膨れそうな食いっぷりである。
そして、無言のままひとしきり食べると、満足そうに腹をパンパン叩いて至福の表情を浮かべていた。
「くぁ~。ごちさまでさ。大変おいしゅうございましたでさ」
軽く見積もっても、自分達の3倍以上は食べていた。
この小さい身体のどこにそんなに入るのかと、疑惑の視線を向ける。
すると、その子は思い出したかの様に、自己紹介を始めた。
「あ、そうだ、自己紹介が遅れやした。あいは、ドミヤと申しますでさ」
まぁ、色々と順番がおかしい気もするが、良しとしよう。
すると、自分より先にグレースがドミヤを尋ねた。
「ドミヤさんは、ドワーフ種の方ですよね?」
「そうでさ! そうでさ! よっくおわかりでさ」
この子は、ドワーフ種というものらしい。少し、イメージと少し違った。
ドワーフってもっとこう・・・山男!みたいな武骨なイメージだったが、今、目の前にいるのは茶色の短めの髪の可愛らしい少年だ。
背丈も、150cm有るか無いかだ。
「へーそうなのか。で、僕はこんな所でどうしたんだ? 近くの村から遊び来てたのか?」
俺はドミヤに目線を合わせ、優しく話し掛ける。
しかし、その言葉を聞いて、ドミヤは少し怒った様に声を上げた。
「なっ! あいは子供じゃないでさ! もう立派な17でさ!」
「えっ!? 冗談だろ?・・・その大きさで17はないだろ・・・。」
完全にまだ小学生くらいにしか見えない・・・。
「それは悪かった・・・。見た感じ、村子供にしか見えいもんだったから」
「はぁ!? なんてぇ失礼な方なんでさぁ?!」
膨れて怒るドミヤを笑いながら宥めていると、グレースがそのやり取りに割って入って来た。
「じゃあ、私と一つ違いなんですね」
これはまた、衝撃の事実だ。この二人が一つ違い・・・。
どう見ても、大人と子供にしか見えない。
まぁ、ドミヤの顔をよく見れば、顔立ちは子供では無い様にも見えるが、その身体の大きさがやっぱりな・・・。
「そうなんでさか? 姉さんはエルフ種なんでさね」
「あ・・・。私はエルフ種のグレースと言います。それと、こちらの方がレンガ様です」
グレースは思い出した様に、二人分の自己紹介してくれる。
驚きの連続でこちらが、自己紹介する事をすっかり忘れていた。
「宜しく。ドミヤくん」
そう言って、ドミヤの肩をポンポンと叩く。
すると、再びドミヤの鋭い眼光がこちらへ向いた。そして、肩に置かれた手を払い退け、再び声を張り上げた。
「失礼な! あいは男じゃないでさ! 立派なレデーでさ! 気安く触んないでくだせぇ」
またも衝撃の事実だった。今度は女だと、言い始める。
あの食いっぷりと腕白な様子から、完全に少年だと思っていた。
今一つ、信じる事が出来ず、疑惑の目を向けていると、更に非難の声を上がる。
「ホントでさ! あんたの主人様、失礼な方でさ! いきなり攻撃するし・・・野蛮人でさ!」
「・・・そんな事、ないですよ・・・。」
グレースはそう笑って返すが、その声のトーンは少し低い様にも思える。
ドミヤの怒りのボルテージは上がる一方なので、大人しく謝罪の言葉を口にする事にする。
「悪かったからよ・・・。許してくれ、ドミヤちゃん」
「もういいでさ! それと、何か、気持悪いんで呼び捨てでいいでさ!」
そう吐き捨てる様に言い放つと、そっぽを向いてしまう。
この子はエルフと違って、辺りの強さが容赦ないな・・・。
種族によって対応が違うものなのか、それともこの子の性格なのかはわからない。
そっぽを向いていたドミヤが、あっ、と何かを思い出した様にこちらに振り返る。
「そういやぁ、旦那、さっきの術具はなんでさ? 何やら見た事のない術具なんで、気になってたでさ・・・」
まぁ、見せるだけならいいかと思い、古式銃を取り出して水平にして見せる。
余程興味があるのか、その視線は、古式銃に釘付けになっている。
「ほー。これは変わったものでさ。色々見てきましたが、こんな形の術具は初めて見るでさ・・・」
「お、ドミヤは術具に詳しいのか?」
その問いに、ドミヤは胸を張ってから、誇らしげに言った。
「あいは、ちょっとばっかし前までは、貴族御用達の術具工房に居たんで、術具に関してはちょっとしたもんでさ」
なるほど、所謂、職人といった所なのか。
しかし、人は見かけによらないもんだなと、思わず、心の中で毒を吐く。
「そりゃ、すごいな。で、そんな工房技師さんがこんな所で何をしてるんだ?」
ドミヤはその言葉を聞くと、急に縮こまりながら口籠る。
「それは、ちょっと・・・。」
何か言い辛い理由があるようだ。
だが、その理由は、何となく予想がついていた・・・。
「なんだよ、急にマゴマゴして」
「そ、そんな事ないでさ・・・。え~~と。」
先程までの様子とは打って変わり、いつもでもはっきりしない。
そんなドミヤを見て、先程言いたい放題言われた復讐をしてやろうと口を開く。
「クビになって、途方に暮れてたとか?」
図星を突かれたドミヤは驚き、伏せていたいた顔を勢いよく上げた。
「なんで知ってるんでぇ!?」
「やっぱりそうか・・・。」
してやったり顔で笑い掛ける。この図々しさと、口の聞き方で何となくそうでは無いかと思った。
余り、人に関わる仕事、所謂、接客には非常に不向きなタイプだと感じる。
工房と言うくらいだから、勿論、顧客と話す機会も多いだろうし・・・。
すると、ドミヤは、再び目を吊り上げ、激しく喚き始める。
「釣りやがったでさ! きー! ほんっと失礼な人でさ!」
ドミヤの激しく地団太を踏む様子を見て、少しやり過ぎたかなと思い、なだめる様に声を掛ける。
「ごめんごめん。でも、勝手に自白したのはそっちだからな。まぁ、そのうちいい事もあるよ」
笑いながら謝罪して、ドミヤの頭をポンポン叩く。
すると、ドミヤがそうだ!、と何か思い立った様子で、こちらにを向き直った。
「旦那! あいを専属技師で雇わないかでさ?」
「えっ? 専属技師? 悪いけど、技師は必要としてないからな・・・」
「え~。そう言わず、これもなんかの縁でさ! それに、あいはかなり優秀な技師ですぜ」
クビになった技師がどう優秀なのか・・・。すごく突っ込みたい所ではあるが、ここは堪える。
「どのみち、雇っても金持ってないからな・・・」
「はぁ? 文無しなんでさ? まぁ、でも、お代はその術具の解析でもいいでさよ。ほら! これなら、どうでさ?」
それは、非常に困る提案だ。
古式銃はこの世界ではまだ、未知のテクノロジーだ。慎重に扱わなければ、色々と大変な事になるかもしれない。
「それはもっと困る。これは、事情があって人に漏らせない秘密があるんだ・・・」
「え~! そんなの・・・困るでさ!」
そんな事、言われても、こっちも困るのだが・・・。
「レンガ様、そろそろ」
そんなやり取りに、少し強い口調でグレースがいきなり割り込んできて、出立を促してくる。
何か、少しいつもと違う彼女の口調に、気圧される。
「あ、そうだな」
荷物持ち、すっと立ち上がる。
しかし、ドミヤはその動きを見て、焦った様にすがり付いてくる。
「あ! ちょっと待ってくだせぇ!」
その余りのしつこさに思わず、溜息が漏れる。
「そんな事、言われても困るんだって。人なんか雇う気ないしさ・・・」
「え~~。だって、そっちの姉さんは雇ってるじゃないでさ?!」
そう言って、グレースの方に指を挿して、尚も騒ぎ立てる。
その誤解を解くのと、ドミヤを落ち着かせる為に、なだらかな口調で説明する。
「グレースは別に雇ってる訳じゃないから・・・。目的が同じ、旅の仲間って感じかな」
「じゃあ、あいも、旦那と目的同じにしますんでぇ~!」
しかし、ドミヤは落ち着くどころかそのしつこさは更に増していき、今度は立ち上がっている自分の腕にしがみ付き、ねぇねぇっと、下にグイグイ引っ張り続ける。
物凄くしつこい・・・。これはただ一つの、しつこさが落ちないドミヤだと確信する。
それにしてもスゴい力だ。全力で踏ん張ってにも関わらず、徐々にドミヤの方へ引きずられて行っている。
肩の骨が脱臼するじゃないかと、心配になってくる。
「いたたっ! ちょっと、引っ張るのやめろって!」
「断るでさ!! ここで引く訳にはいかないでさ! それより、旦那こそ、早く観念するでさ!」
観念するって、何にだよ!
暫く、そんなよくわからない、やり取りが続いたが、遂に、ドミヤの猛攻に白旗を掲げてしまった・・・。
「あ~! もう、わかったよ! じゃあ、俺たちは王国目指してるから、そこまで一緒に行って、ドミヤはそこで新しい雇い主でも見つける。それでいいか?」
そう言い放つと、やっとドミヤから解放された。
自分の肩を擦りながら、ドミヤを見ると、ピョンピョン跳ね回って、歓喜の舞を踊っている。
こいつ、いい性格してるよ・・・。
「さっすが旦那! やっさしいですぜぇ。大好きでさ」
「さっきまで、失礼だの野蛮だの散々言ってた癖に・・・よく言うよ」
しかし、その小言はドミヤの耳にはまったく届いていない。
それから、クルッと向き直ると、満面の笑みで嬉しそうに口を開く。
「それじゃ! これから、宜しくでさ! お二方!」
休憩が終って、まだ出発すらしていないというのに、既に疲労困憊だ・・・。
「はいはい・・・。宜しくな・・・」
「・・・宜しく。」
こうして、何の因果か、エナジードレインのドミヤも一緒に行く事いなった・・・。




