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希望のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 葛藤の放浪
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プロローグ 独りで迎える明日

人は誰しも、様々な想いを抱き生きている。

それは、過去に感じたモノ達を通して育まれていく・・・。それが、喜びであったり、悲しみであったり。

その想い達を経て、自らの心の形を作っていく。そして、その形に同じモノなどは、只の一つも無い。


だが、誰しも、一度は思った事がある筈だ・・・。

自分の行く末を、自分の目指す先を。そんなモノに、答えなどは無いのかもしれない。生きる事、それこそが目指すモノなのかもしれない・・・。


だが・・・それでも、人間は悩み続ける。

一人で悩む。他者と関わり悩む。それが、人間なのだ。

そして、まだ見ぬ明日に、何を見つけるのか・・・。何を掴む事が出来るのか・・・。






明日、俺は、は24歳、最後の日を迎えようとしていた。


しかし、なんの予定もなく、また、入れようとさえしていない。

それに特に理由はなく、この歳で独り身なら、まぁ、こんなものだろと思う。

おそらく夜にそこそこの交友関係の人からSNS等でおめでとうのメッセージが届いて24歳最後の日は終りを迎えるのだろう。


外を見ると、すっかり日は傾き、そろそろ夕方になろうとしている。日が沈む前に買出しに出ようと、渋々と重い腰を上げた。



そして、家のすぐ近くにあるコンビニで、煙草のカートンとお弁当の類いを買い、寄り道はせず、帰り道を歩く。

ふと、すれ違った子連れの若夫婦が目に止まる。恐らく、自分と同じくらいの年齢・・・。


今の自分の現状を考えれば、少しは焦りや寂しさを感じ事が普通なのかもしれない。しかし、彼にはその光景が自分とは、まるで別世界の事の様に映っていた。


結婚か・・・。ちょっと想像できないな・・・。

そんな、どこか現実味が感じられていない感想が浮かんだ。



そして、そんな事を考えていたら、両親達の事を思い出した。彼の家庭はそれなりに裕福だった。

しかし、そんな生活は突然一変、父の勤めている会社が倒産し、そんな時、母は別の男を作りあっさりと消えて行った・・・。

残された自分達は、二人で生活していったが、まもなく父は自殺した。



その後、行方をくらましていた祖父がいきなり帰って来た。

元々、自由奔放で放浪癖があった祖父は、長期旅行に出たきり帰って来なくなっていたのだ。

本人いわく人生最期に色々見ておきたかったとの事。実に祖父らしい感想だったが・・。

今でこそ、そんな感想を抱けるが、当時はそんな勝手な祖父を恨んでいた事すらあった。


幼い頃、自分はかなりのおじいちゃん子だった記憶がある。しかし、戻ってからの祖父とはあまり上手く接する事が出来なかった。


両親の事もあり、身内との距離感でさえ、わからなくなってしまっていたのだと思う。そんな祖父も、もう20歳の誕生日に他界してしまっている。






この青年、藤原レンガはどこにでもいそうな、普通の人間である。

現在は、高校卒業からずっと勤めていた会社を辞め、失業者保証を貰いながら、次の仕事が決まるまでの間の数ヵ月間をのんびりと過ごしていた。

仕事での、成績も全くの普通で、良くも無く、悪くも無く。では、何故、退社したのかと言うと。


それは、会社内の環境に耐えられなくなったからだ。しかし、それは別に、ブラック企業だったとか、そういう事では無い。

人同士が織り成す空気間、そんなモノに耐えられなくなったからだ。それだけ聞くと、何故そんな事でと思うかもしれない。

だが、彼は学生時代から、ずっと、そんな目には見えない何かを感じてきていた・・・。


人は何故、集まり、共に何かを織り成すのか・・・。

動物的な観点から見れば、それは己の身を守る為。それが一つの理由なのだろう。だが、この世界での人間というのは、そんな外敵などは、ほぼ存在していないに等しい。では、何故か・・・。


人は、自分に足りない何かを求めて、他者を求める。それは、楽しさで合ったり、寂しさで合ったり・・・。何かの繋がりを求めて、生きていく生き物だ。

しかし、今の世の中は、そんな繋がりを簡単に持てる世界になって来ている。

それは、一重に通信機気の発展が一つである。

携帯、パソコンが普及。それと同時にインターネットを通じて、誰しもが簡単に繋がる事が出来る様になった。


だが、そんな機器の普及が、人間同士の繋がりをより軽薄なモノにもしている要因の一つでもあった。

簡単に繋がりを持てる・・・その事が生み出す要因。それは、一つの繋がりの大切さ損なうという事。


例えば・・・誰しもが、一つしかないモノは大切に扱うもの。代替えが聞くモノなど、誰も大切には扱わないだろう。

そんな、いつでも替えが効いてしまうとさせてしまっている、環境こそが、人間同士の繋がりを脆弱にさせていたのだ。

生物の一つ一つは、モノでは無い。誰しもが常に、何かを感じ、何かを想い生きている。誰でも、殴りつけられれば、痛みを感じるのだ。


かく言う、彼も会社という、一つのコミュニティーを通じて、それを痛感していた。

会社というのは、同じ目的に向かい合う一つの集団である。いわば、同じ目的を持った一つの仲間達である。

しかし、それは、表面的なモノに過ぎない・・・。

現実は、仲間内で壮絶な足の引っ張り合い、落としめ合うそんな世界だ・・・。

誰しもが、弱者を見つけ、踏みつけ高みを目指す。強者を見つければ取り入る。そんなモノが渦巻く空間だ。


彼もまた、入社した当初こそは、これが社会なのだと、割りきり、その環境に身を置いていた。

だが、ある時、彼は気が付いてしまった。こんな関係を重ねて、何の意味があるのかと・・・。


そんな想いを最初に抱いたのは、まだ学生時代。彼の母が去った時だった。

彼の母は、彼や父を切り捨て、あっさりと姿を消した。

その時、彼の母の心中には、小さな悪魔が生まれていた・・・。だが、それは、自分の身を守る為に、生まれた一つの感情なのかもしれない・・・。生物が自らの身を守るのと同じ様に・・・。


ともあれ、そんな風に捨て置かれた時に、彼の脳裏には一つの疑問が浮かび上がっていた。

親密な人の繋がりに、どれだけの価値があるのかと・・・。


どれだけ、大切にされ、それを唱えられたとしても、人はいとも容易く裏切るのだ。窮地に立たされた時、それは唐突に、簡単に姿を現す。

それを目にした時・・・彼の心は一本の亀裂が入っていた。そして、その亀裂は、その後の交友関係を通して、社会を通して広がっていき、やがて、割れた・・・。


そして、そんな彼が選んだ道は個として生きる道だった・・・。





そういえば・・・。

コンビニ袋を持ち、夕暮れの中を歩く彼は、ある事を気が付いた。


祖父の部屋の押入れをずっと整理していないこと思い出した。

別段、帰ってもする事もない為、命日である今日に片付けてしまう事に決める。



家に着くと、さっそく押入れへ、無造作に突っ込まれているダンボールを次々と開封していく。

箱からは、記念品やらよくわかないガラクタが次々と出てきた。


その中にトルコ石の腕輪に目が留まる。

自分が18歳の誕生日にもらったネックレスと同じ石だ。


なにやら魔よけ等の効果があるらしい。

しかし、この現代社会の、どんな魔から守ってくれるかは、不明ではある。


祖父はこの石が好きらしく箱の隅にも、いくつかゴロゴロ転がっている。

なんとなく、その中の一つのブレスレットを腕に付けてみる。


すると、ググーと腹の虫が大きく悲鳴を上げた。

自分の腹が空腹が限界の告げている。


片付けは後回しにしようと、奥に残っていた最後の箱と、アルバムを持ち、居間へと戻って行った。


弁当を暖め終え、ビールを飲みながら食べ始める。

先程の箱とカートンを重ねてちょうどよい肘掛に作り、そこへもたれ掛かる。

あまり行儀良くはないが、別に誰かに見られているわけではないし、構わないだろう。


弁当を食べ終え、新しいビールと食後の一服を楽しみながら、先程のアルバムを開いてみる。


相当、昔の写真らしく、カラー写真は一枚もない。

かなり若い祖父と思われる人物が写った写真が並べられていた。

なかなかいい男じゃないかなんて思いながら、次々にページをめくっていく。


おそらく、戦地に向かう前に撮ったと思われる、若い祖父と祖母で並んで笑い合っている写真が、最後のページにあった。

祖母には実際あった事ないので、少し変な感じがした。


このまま、なんとなく働いて歳を重ねて老いていき死ぬのだろうか・・・。

今の生活に何の不自由もない。

この先、自分はどうなっていくのか、想像も出来なかった。


殻になった缶を流しのシルクに置き、冷蔵庫から新しいビールを取り出す。


結婚か・・・。

それは人生の大イベント一つなのだろう。


やっぱり、現実味がないな・・・。

自分のこれまでの人生のイベントを振り返ってみる。


・・・。


気分は急速に落ち込んでいく。

彼のこれまでの、人生はお世辞にも良いものではなかった。

若くして、両親を失い、孤独に生きてきた人生・・・。

更に、社会はそんな彼の境遇に、同情などしてはくれなかった。

そんな家庭環境を、周囲からは奇異な目で見られ、築けた交遊関係も数える程。


そんな経験が彼の性格をねじ曲げていった。

そして、彼は考えていた。


他者との関わり合いなんてものは、所詮、損得勘定でし無い。

友人はより利用価値が高そうな相手を、女は男により良い財力・権力で自らの安泰を求め、男は女に生存本能からくる更なる快楽を求め続ける。

それが、彼の出した交遊関係の本質。


社会についても同じ様なもの。

己が生きる為、上のモノは下のモノを裏切り、利用し、自らの生計を立てる糧とする。


それは、上流にいる者が撒いたエサを醜く奪い合う魚の群れの様に・・・。

更に、その魚が出した糞を奪い合うプランクトン達。

そんな螺旋階段が永久に続いていく・・・。それが、社会の縮図。


何となく生きていけば、その大半の人間は自然とプランクトンの部分に入っていく。

その事に気が付いているかは、定かではないが・・・。


そして、また、餌を巻く人間になる者も、勿論いる。しかし、その者になれる大半は、生まれた時に既に決まっている。

生まれた家、環境によって、それは絞られているものだ。まず、そこに漕ぎ着ける事がスタートラインでもある。


よく、真面目に努力すれば、必ず報われるというが、俺はその言葉が凄く嫌いだった。それは、恵まれている環境に気が付いていない人間の戯言にしか聞こえなかったからだ。


だが、希に、底辺から這い上がっていく人間もいる。

しかし、そうなっていったのは、勿論、真面目な努力などではなく、血で血を洗う如き、戦いに勝ち進んでいく事だ。


弱者を踏みつけ、奪い、騙し、自らの地位を上げていく。

それは綺麗なものではない・・・。

だが、そうでもしなければ、高みを目指す事すら出来ないのだ。


それを理解した時、いつの間にか自分は、人や社会から距離を置き歩むことを選んでいた。どうしても、自分の中にある、甘えた感情を制御する事出来なかったからだ。


信じては裏切られを繰り返し、その痛みを知りすぎた自分は、他人に同情してしまい、冷徹に徹しきる事が出来なかった。その甘さが招いた結果が、今の自分の現状だという事がわかっていても・・・。



しかし、そうした時。全てを投げ捨て、個として生きて得たモノは、無だった。

目的など何もない・・・。自分は、この世界に生まれ出て、一体に何を残していくかと・・・。


そんな終息しきった毎日。俺は、そんな毎日に嫌気が差していた。

俺は変わるべき時なのだろうか・・・。その為に、すべき事を考えてみる・・・。


誰にも利用されない

弱みをがあるならそこを徹底的につく

誰かを蹴り落とさなければ、生きて残れない

誰も信用しない、隙をあたえてしまう相手をつくらない


人を信頼?

信頼するっていうことは、その相手に全て丸投げにすること、ただ楽をしているだけだ・・・。


皆で仲良く?

いつだって出し抜くやつが登りつめていく、そんなこと言ってるやつを踏み台にして・・・。


次々と過去に抱いた自分の想いを砕いていく。それでも、今までの自分の甘さを切り刻む、どんなに痛くても苦しくても。

それが・・・それこそが、この世界では必要なのだから・・・。



そして、レンガは少し飲みすぎたせいか、いつのまにか深い眠りに落ちていった。何か暖かなモノに包まれている。そんな感触を感じながら・・・。





そして、次に目を覚ました時。彼の前には見た事も無い草原が広がっていた・・・。




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