忘れられない想い。
地下室から出ると、孤児院は今までになく静寂に包まれていた。
勉強室から出ようとすると、扉の前にうつぶせに倒れる少女がいた。シンディだ。
だが、彼女に話しかけることはなかった。何故だか分からないが、その行為が無駄であることが判ったのだ。
彼女の背中はパックリと切り開かれていた。
喉が渇いて仕方がないので裏庭にある井戸へと向かう。
覗いてみると、真っ赤な何かが詰まっていて使えなかった。
孤児院を出て村にある井戸を探す。共同の井戸は孤児院のものと同じ状態だったので、誰か個人で持っている家がないかを探した。
その間にもいろいろな残骸を見かけた。
村長の家の裏に使えそうな井戸を見つけて、喉を潤すとふと言葉が漏れた。
「なんで……」
なぜその言葉が出たのか考えたが、答えが出る前に、空腹とあの子たちのことを思い出して自分の分のパンを口にくわえて水の入った桶に入れて持っていく。あの子たちのパンは桶の中だ。
あの子達ではこの硬さのパンは無理だろう。
ぐったりしていた彼女たちに水を飲ませ、ふやかしたパンを口にくわえて更にぐずぐずにして無理矢理食べさせる。
二人とも嫌がったがなんとか飲み込ませた。
着替えを持ってきて布で彼女たちの体を拭いてから着替えさせる。
普段寝るのに使っていた布も何枚か持ってきて、そこに彼女たちを寝かせた。
糞尿も垂れ流しで汚いはずのそこはしかしなぜか綺麗なのだが、精神的に汚いと思ってしまう。
彼女たちを上に移動させるのでも良かったのだが、なんとなくだが彼女たちに上の様子を見せたくなかった。
ランプはまだ灯っているが、他のランプやこれからの水、食料も集めてこよう。
やることだけが淡々と浮かんでくるだけで、考えてはいなかった。
化け物がやってきて一週間は経っただろうかというころ。
まだ食べれそうなものがないかと村を回ってっていると、4人の人が村の真ん中に立っているのが見えた。
最初はその姿を見ても誰だか分からなかったが、段々と思考がクリアになっていき、彼らが誰なのかが分かった。
勇者だ。
その姿は以前見た時よりもいや、まったく輝いて見えなかった。
彼らが心身武器諸々が疲弊した様子なのもあるだろうが、それ以上に俺の中の認識が変わったのがあったのだろう。
この時のことを後になって考えてみたらそう思えた。
俺は心のどこかに燻っていた何かがふつふつと沸き立つのが分かった。
あいつらがこっちに気付いて近づいてきたとき、ソレを溜めていたものが弾けるのを感じた。
———うそつき!にせもの!———
———なんでたすけてくれなかったんだ!———
———みんな、しんじていたのに!———
自分でも何を言っているのか理解はしていなかったし、どこかで「言うのを止めなくては!」とも思った。
しかし、言葉はいつの間にか流れていた涙が止まるまで留まることはなかった。
その時の彼らの、彼女の顔と身体を包む温もりを俺は一生忘れることはないだろう。
———ごめんなさい———
気づけば、馬車の荷台に乗せられていた。
横を見るとエヴァンとセシリアが眠っている。
馬車は魔法使いの少女が動かしていた。
周囲に他の勇者たちの姿はなかった。
子供の頃にやらかした記憶って何気に覚えていますよね。偶に思い出して死にたくなります。
プロローグはここで終了です。次は3年後からのスタートになります。