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風詠と蟲姫  作者: 彩ぺん
二章 ペジテ戦役

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子蟲と未熟なお土産

 本当に神話を生きている。その中でアシタカは何の役柄ももらえていない。ただの傍観者。雪の勢いが減っていって視界が開けた。まるで見届けろと言われているようだ。飛行する小蟲に運ばれてノアグレス平野の惨劇が見渡せる。


 美しかった本物の大地は死屍累々(ししるいるい)や人殺しの兵器に汚された。ペジテ大工房が大陸覇者?違う。本当の覇王は蟲だ。ずっと伝承されてきた。蟲に生きることを許されてきたのは人間の方だ。


 その意味がやっと分かった。


 故郷ペジテ大工房が二千年の歴史に回答を突きつけられている。自分達だけが平和な世界に閉じこもり、外界の惨劇に目を背けてきたと蟲に非難されている。


〈罪を償え〉


 争いはじめたドメキア王国やベルセルグ皇国にではなく、何故かペジテ大工房に向けられている殺意。子蟲殺しでもなく、傍観の罪を償えとの批難。違うと叫びたくても、蟲へ人の言葉は届かない。先程からアシタカを運ぶ子蟲達に声を掛けても全く反応がない。


〈罪を償え〉


 遠くから響いてくる蟲の怒りの声。


「違う。僕等は恐れたんだ。再び憎しみの炎を灯すのが自分達になると……」


 ペジテ大工房はガラス細工に閉じ込められた街と同じだった。本物の風や大地、植物などほとんどない。人工的に造られた偽りの庭。毒に怯え、蟲を恐れ、不自由に甘んじれば至高な自然と共に生きれる。その道をペジテ大工房は選ばなかった。触れれば壊してしまうと、そう伝えられてきた。狭い箱庭で自由に生きる代わりに、偽りで満足しようと努めてきた。


「何故なんだ。僕らは何も……」


 二千年もの間、一度も開かなかったドームが開いていく。


「悪魔の炎⁈」


 白銀の巨大な大砲。かつて大地を焼き尽くし、毒を撒き散らした古代兵器。動くのか?動くだろう。民はずっと整備してきた。殺戮兵器(さつりくへいき)を手にしていても決して使わない、それを誇りにしてきた。裏返せば世界を滅ぼす兵器を恐怖心から捨てられなかっただけ。


「これじゃあもう終わりだな。何もしていないなどと弁明出来ない。アスベル先生の故郷と同じようにこの大陸の人の歴史は終わる……」


 アシタカはまた間違えた。ふと感じた。ティダ・ベルセルグはこの悪魔の炎を出させない為にやってきたのではないかと。あの男は絶対巨大な秘密を抱えている。


--恥を知れアシタカ!ペジテのために行くなら自力で行け!セリムの尻に乗るな!


 パズーに痛烈に批判されたのに、アシタカはこんなところで何をしているのだろうと深くため息をついた。


〈ゴヤアピスもへんてこ人間テルムに遊んでもらおう〉


 これから殺戮(さつりく)がはじまるのに、すぐ近くから届く無邪気な声の響きに思わず笑みが零れた。対立する蟲と人間。愛すべき祖国が再び罪を犯す。蟲はほら見たことかと怒り狂っている。なのにこの子供達はそんなの御構い無しだ。


「すまない。セリムはきっともう君たちと遊べない。人の世は終わりだ……」


 争いを止めようとする民もろとも殲滅(せんめつ)か。ペジテ大工房の愚かな末路に乾いた笑い声が自然と漏れた。


 自国の権力争いにペジテも蟲も関係ないと素っ裸で現れたティダ・ベルセルグ。自国だけでなく友の国も守ろうと飛んできたセリム・レストニア。蟲を愛するのに人をも愛し和解を祈ったラステル。そしてラステルをひたすら信じ、蟲も信じようとしたパズー。それなのに祖国が全て破壊してしまう。


 父ヌーフと肩を並べれば良かったのだろうか?正解が分からない。ただ間違えたということだけは理解出来る。


〈遊べない?遊べないって聞こえたぞ!〉


 浮かれてて歌うようだった小蟲達が唐突に騒ぎ出した。


 アシタカを掴んでいない小蟲が次々とアシタカの腹に突撃して来た。そんなに強くは無いが続くと効いてくる。何だ?どうした?


〈ゴヤアピスは遊んでもらえない?〉


〈何で?何で?ホルフルアピスだけずるい!〉


 子蟲達が抗議するようにアシタカの腹に次から次へと突撃してくる。


「すまない。どうかお願いだ。我らペジテ大工房は滅ぼされよう。何もしてこなかったから……。だからどうか外の世界の人間は許してくれないか?そうしたらセリムはきっと君達とも遊んでくれる。人を諦めないで欲しい」


 アシタカの言葉はどこまで伝わるのだろう?小蟲達の抗議はちっともおさまらない。


〈遊びたい!テルムと遊びたーい!楽しーいやつしたい!風でくるくるしたい!〉


〈嫌だ嫌だ遊ぶんだ。テルムはゴヤアピスの輪にいるんだ!なのにホルフルアピスの子としかまだ遊んでない!〉


 嫌々の大合唱。アシタカの口は開いて塞がらなかった。この状況で何を騒いでいるんだこの子蟲達は⁈嫌だ、遊ぶとアシタカに向かって次々と抗議してくる。


「さすがに痛いって」


 思わず手で突撃してくる子蟲を払おうとしてしまった。


〈お土産は怒ってる!だからだ!遊んでもらえない!〉


〈きっとゴヤがおこりんぼを止めないからだ!偉い子じゃないと遊んでもらえない!〉


〈ホルフルはおこりんぼをやめた!お土産はきっとそれを知ってるんだ!〉


〈ゴヤは知らんぷりして帰ろうとしてるからお土産は怒ってるんだ!〉


〈ゴヤアピスの子も遊んでもらう!テルムと遊びたい!〉


 何だ何だ?この子蟲達には今この世界はどう見えているのだろう?今まさに蟲と蟲がぶつかり合い、祈りを捧げるペジテの民は同胞に背中から撃たれようとしている。ノアグレス平原の何もかもが焦土と化そうとしている。あの"悪魔の炎"の砲台が子蟲達には見えてないのか?

 

〈僕たちは怒ってるお土産連れてテルムと待ってる。テルムと会ったらお土産はおこりんぼ止めるよ〉


 アシタカを掴んでいる子蟲達が移動をやめた。


〈頼むよ兄弟。みんなで偉い子になろう。おこりんぼは怖いよ。おこりんぼは嫌だよ。アピスの子はおこりんぼにならない。悪い子じゃない偉い子〉


 腹に突撃していた子蟲達がアシタカを掴んでいる子蟲の前に並んでまるで挨拶するように頭を上下させ、次々とペジテ大工房の方角へと去って行った。


〈楽しーいって遊ぶまでゴヤには帰らない〉


〈親たちにアシタバも帰れって言ってもらおう〉


〈アシタバアピスも呼ぼう。みんな偉い子。遊ぼう遊ぼう遊んでもらおう〉


〈死んだアシタバアピスの子の分も遊んでもらおう〉


〈テテテテテルム。へんてこりん。遊んでくれるよテルムなら〉


 遠ざかる子蟲がまた歌うように、楽しそうに声を出した。アシタカは再び子蟲に運ばれはじめた。


〈テルム。テルム。へんてこ人間にお土産持ってく。遊んでもらおう〉


 また呑気な歌声が響いてくる。


「ふっ。あはははははは!セリムの奴何やってるんだよ!何だこれ!破滅の危機に遊びたいとか遊べなくて嫌だとか!」


 笑いが止まらない。ペジテ大工房とノアグレス平野で起こっている物事が全て分かれば良いのに。情報が断片的過ぎて点と点が全く繋がらない。


〈レークスが怒ってる〉


〈関係ないよ。親は怒っても子に酷いことはしない。テルムが言ってた〉


〈勝手に帰ったホルフルアピスの子は元気いっぱい。風の子にも遊んでもらえるんだって〉


〈僕らも怒られない。でもホルフルに行くのは連れ戻されちゃう〉


〈他の巣に勝手に行かない約束。風の子に会えないの残念だ〉


〈レークス……〉


 小蟲に運ばれるアシタカの前方に一際大きな飛行蟲。羽が十、いや十三枚?小蟲達の一生懸命な細かく早い羽ばたきとは違う、雄大な羽の動き。黄金の稲穂を思わせる(たてがみ)。"レークス"は古い言葉で"王"ではなかなったか?姿形は望遠鏡で見たラステルを抱えていた飛行蟲と同じに見える。


〈我は帰る。ゴヤの民はホルフルの民に賛同するだろう。そしてアシタバの民はしぶしぶ帰郷する。未熟者よ父やセリムを見習え。そして誓い通りテルムを死なせるな〉


「どういう⁈」


 竜巻のように体を回転させると(たてがみ)の蟲は大きく羽ばたいて空高く飛び上がった。分厚い雲に突っ込んでしまってそのまま見えなくなった。


〈テルムだテルム。あそこにいる。この土産を渡してあげよう〉


 アシタカは子蟲達に雪原に放り投げられた。ゴロゴロと体が回転して新雪に体が沈む。


 体を起こすとセリムが今にも倒れそうな青白い顔をして立っていた。前方には真っ赤な瞳をしたラステルと彼女を取り囲む飛行蟲。ラステルの後方には多種多様な蟲が並んでいた。どれも真紅、憎悪に染まった瞳。


--蟲愛づる姫の瞳は深紅に染まり蟲遣わす。王は裁きを与え大地を真紅で埋める


 ラステルの瞳だけ色が違う。ラステルの瞳は憎しみに染められていてもどこか違って見えた。アシタカにはそれが何であるのか判断出来なかった。


 アシタカはラステルという娘についてあまりにも知らな過ぎる。

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