連恋輪廻応報
【約千年前 大陸中央】
連れて行かれたのは小高い丘の上で、そこまで来るとケルウスはしゃがんで私達が降りるまで微動だにせず。
そこでまたジオはケルウスにうりうりされて、お前の自由に乗せないというように遊ばれた。
『あの生き物は速かった』
(そういえばアトラは初めてだったわね)
『我はこんなに高いところも今の人生では初めてだ』
(今の人生? 前の人生もあるの?)
『我はおそらく転生者だ』
転生者とは、何度も生まれ変わって記憶を一部引き継ぐ者という意味らしい。
(前はどんな人生で誰と暮らしていたの?)
『旅をしていたら彼に、いや彼の転生者に会えたけど、人に襲われて熱湯に入れられて食われた』
(……まさか。人はアトラみたいな蜘蛛の見た目をした生物を食べたりしないわよ。多分……そんな国もあるのかしら)
『何度も昔の夢を見て我を食べたのはナナミだ。食べさせられていた』
(……えっ、あの時の蜘蛛はアトラだったの?)
食べさせられた相手の転生後と親友になるって変な縁。
『それが我の前の人生だ。彼だと思ったけどナナミは父っぽい。でも彼でもある。父でも彼でもなく混じっていて姫でもある変な生物がナナミ。我は覚えた』
私は転生者なのに記憶が全然保持出来ていない、我とは違うようだと笑われた。
輪廻転生、生まれ変わりが本当にあるということなのだろうか。
父と彼と姫とは何なのか問いかけたら、記憶の中にあるとても大切な者達だけどなぜ父で彼で姫なのか不明、なぜ大切なのかも不明、転生すると全部を覚えていられないようだとアトラは語った。
『あの歌をまた歌ってくれ。生まれ変わっても見つけるやつ。我は何度死んでもまたナナミを見つける』
(私の近くにいたら人に殺されることなんてありません。私が守るから大丈夫)
『守らなくて平気。我は強い。ナナミを守るのが我や我らだ』
人に襲われて味噌汁に入れられたなら全然強くないのでそう言ったら、あれは赤子だったからと怒られた。
我はもう強いしもっと強くなるとプンプン怒ってしまった。
お詫びに歌えというのでそうすることに。
あなたに出会い、全て輝いて、私が生まれ、燃えるような星々に手を伸ばした
生まれ変わってまた巡り合いたい
その時もきっと見つけて
その時はきっと離さない
歌姫アリアが作詞したこの歌をアトラはとても気に入っているけど、理由が転生者だからだったとは。
アトラは私、ナナミを忘れないように沢山覚えると笑ってくれた。
この変わった匂いはナナミだと覚える、細胞の隅々まで刻むと。
自分の体臭なんて分からないから変な感じ。
アトラはお日様の匂いがする。
それは昔飼っていたハムスター、神社に来る犬、猫、赤鹿、たぬき、狐、リスなどなどと似ているから困る。
悪党の匂いは嗅ぎ分けられる嗅覚は有しているのに、他のことだと普通で平凡な私は、死ぬまでにアトラの匂いを覚えられる気がしない。
数年経ってジオと祝言となり、私はアトラが贈ってくれた糸で作った花嫁衣装を着た。
作り手に何も教えず、アトラが入れる場所を作って貰ったので彼はそこ、特等席で参加。
それから二年して子供が生まれて、アトラが「彼だ、彼だ、思い出した、名前はテルム」と言うので息子にその名前をつけようとしたら、テルムそっくりじゃないからダメだとアトラに怒られて、ジオとテルムの一文字をとってジルにすることに。
アトラが私よりも息子の側に一緒にいるようになってちょっと寂しい。
それから十年くらいしてアトラは居なくなってしまった。
代わりに「アトラ」と名乗る別の小さな八咫雲の大副神様が現れて、問い詰めたら渋々、本当は秘密だけど、アトラは大きくなり過ぎたから岩山に帰ったと教えられた。
向こうは話しかけてくれているようだけど、私は遠いとお喋り出来ないようで悲しい。
アトラも海蛇達のように海中で暮らせたら、ずっと一緒にいられたのに。
蜘蛛は水中で生活し続けられないので仕方がない。
死ぬまでに私のところに八咫雲の大副神様は五匹現れて、アトラが一番長くて、残りの三匹も大きくなってきたと去って、最後の一匹とは私の寿命が先にきてお別れ。
五匹はあらゆる悪天候、魚の群れの場所、流行病、悪人の居場所などなどを教えてくれたので、私は死ぬ頃には豊漁姉姫ではなく「神託の巫女」だ。
私の暮らした場所に神社が建つ予定。
出現が稀で、この国のどこにも祀られていなかった、八咫雲の大副神様を崇め奉るその神社は私の子孫が守っていく。
そうしてもらった。
輪廻についての研究家みたいになったアズサが、輪廻転生は子孫になるのでは? と言っていたので。
神社はきっと中々滅ばないので、私の子孫がずっと続いてこの地に居れば、アトラが転生してまた小さくなった時に、私の生まれ変わりを発見しやすいと思う。
☆★
むずむずして親が暗くて広いところへというのでそうしたらしばらく夢を見た。
父のような、それでいて彼で姫でもある人間、変わった匂いのするナナミと一緒の夢でホッとした。
以前、よく見ていた戦わされたり、足をもがれたり、人を食い殺しまくる夢は嫌いだ。
前はそんなに嫌いではなくて、ふーんという感じだったけど今は嫌い、大嫌い。
『アトラはこの曲が好きよね』
人とは器用で三本の糸と木の板と人間特有の指というもので素晴らしい音を作る。
あれは楽しくてならない。
ハッと目を覚ましたら周りに硬くて白い物があって、親に「脱皮した」と言われた。
そこまで大きくなったら悪魔に殺されるから帰って来いと。
——そうしたらナナミと遊べない
——別の子と交代しなさい。意識を共有すれば共にいるのと同じだ
それもそうだなと我は帰ることにした。
まだギリギリ子供だから許してもらえるだろうと親に言われて、頼んだらセルペンスもアングイスも道を通らせてくれた。
ここらではもう百年以上、アラーネアは自分達を捕食していないし、今も敵意が無いし、子供は宝だからと道案内まで。
同じ子供のセルペンスとアングイスが一匹ずつついてきて、あの変な姫はどうして喋れない、お前とは喋るのにと問いかけた。
——さぁ。変な姫じゃなくて父や彼が混ざっているからだろう
——父? 父って? それに彼って?
——父は我らを造った者だ。彼はテルムだ
——テルムは分かるよ。造った? 親ってこと?
——さぁ。我も知らん。ナナミは彼で父で彼で変な姫で忙しい。
——ふぅん、変な姫で彼で父だと『ナナミ』って言うのか
——そうだ、あの匂いは『ナナミ』っていう
転生したというおぼろげな記憶はあるけど、知らないことばかり。
ナナミは自分は転生前のことを思い出す気配はないが、それなのに一緒に楽しく暮らせた。
もっと一緒にいたかったな。
いくら意識を共有出来る他の子が代わりに遊ぶといっても、我はもうあの柔肌で撫でてもらえることはない。
こうして我は親のところへ帰った。
向こうにいる兄弟と繋がっているからナナミに会えるけど彼女は泣いた。
『アトラはどこへ行ったの? あなたはお喋り出来ないのね。お腹は減ってない? 寒くない? 平気?』
兄弟が泣かないでと頬に体を寄せた気がしたけど、我にはナナミの温もりは感じられず。
向こうの声はするから話しかけられるけど、こちらの声は届かなくて返事は無い。
巣に帰ったら更に大きくなってまた成体に近づいたので、親の言う通り人里にはもう出られない。
それに親達が我は王になるもの、新たな王の器だというので、未熟なのに人里に出て殺されるのはダメだと。
成体になるに連れてどんどん悪魔が嫌いになっていく。
とてもとても嫌いだ。
なのにいつまで経っても人肉を食べない我はそんなでは王になれない、記憶の海にも全然入らず学ばずにナナミ、ナナミばかりだから怒られる。
ナナミの周りをちょろちょろしていた、嫌な匂いはするけど何もしてこない、むしろ我に何やら良い感情を向けていた悪魔も恋しい。
悪魔は我らを殺すだけ、殺意を向けてくると思っていたけど違ったと学べた。
親がそれは人間と悪魔がいるからで、それを学ぶために子らがそうしたいなら旅をさせる教わった。
この世は弱肉強食だし、世界には様々な生物がいて、生存の為に食って食われるし、時に共闘するものだから、過保護に育てても良いことはないと。
人間と悪魔がいることは学んでいたけど、ナナミの番は悪魔なのに我にとても優しかった。
どう考えても悪魔ではないのに匂いは悪魔。
あれをもっと知ってみたかった。
それこそ王になる器が学ぶべきことだった気がしてならない。
そうしたら親達にそれはそうだ、まだまだ匂いの嗅ぎ分けが甘い、修行せねばと言われた。
我は特殊体質のようだし、王の器だと深淵を覗かないといけないらしいので、記憶の海には入りたくないなぁ……。
もっと大きくなり、ますます人里に出られるような大きさではなくなり、ナナミは死んだ。
ナナミも転生者だからどこかでまた生まれるはず。
探しに行きたいけれど、大きくなり過ぎたし間も無く戴冠だ。
今の王が寿命とやらで死ぬので王の記憶を受け継いで次世代へ繋げないとならない。
悪が蔓延るこの世界から家族を守らないとならない。
なぜ我らアラーネアは蛇一族達のように人里に根付く道を選ばなかったのか。
それを我はもう、かなり理解している。
ナナミに会いたいがまた別れるのは辛くてならない。
お別れは一度で良い。
人という生物達は蛇一族よりも我らの姿形を忌み嫌う。本能で。
だから蟲一族も我らのように人という生物達と離れている。
ナナミがそうしてくれたように、人が畏怖する姿形の者が側にいても迫害されないように人が仕組んでくれない限り共存は無理。
振り返ると良くナナミは我を受け入れたな。最初は怯えられていた。
百年しないくらい経ち、ナナミも我と同じく同じ血のところに転生すると思っていたのに、すぐそこの人里で誕生。
嬉し過ぎて思わず拐ってきてしまった。
しかし、ナナミは我の事を全然覚えておらず、ナナミという記憶も無く、匂いはどうしようもなくナナミなのにまるで別生物。
しかし、震える手で我に手を伸ばして、敵意を押し殺して優しい温かな気持ちを向けてくれたのは狂おしい程同じ。
王なのに他生物との領域を正しくない理由で侵害し、ナナミの転生体を怯えさせるとは未熟な王である。
伝わらないようだけど謝り、里に帰し、喜びそうなものを贈った。
我の代わりに遊びに行った子供が、やがて新しいナナミと喋れるようになりアトラと呼ばれた。
嬉しかったが、ナナミは我だけをアトラと呼び、死ぬまでに四匹の子供を別々の名前で呼んだので、やはり転生体は記憶がなければナナミではないと、とても悲しかった。
だから我には分かる。
王しか行けない感情の墓場、深淵で嘆き悲しむ父の気持ちがよく分かる。
『姿形変わろうと何もかも忘れてもどれだけ時間が過ぎようと僕のような者は必ず生まれる』
我は特別なので違うが、他者認識が曖昧な民達は彼のような者の再来で満足する。
しかし我くらいになると絶望する。
彼のような者は生まれても彼は生まれない。
息子のような者は何度だって生まれるが、息子は二度と生まれない。
ナナミのような者は生まれてもナナミはもう生まれないのと同じだ。
だから我らの父はずっと悲しくて、ずっと憎くて、ずっと苦しい。
その深淵から抜け出せず、むしろ嫌な記憶は自分が請け負うと引き受けて深淵をより深く、暗くしている。
我らは父がいるからこうして永遠に守られる。
我はナナミを殺されていないから憎くない。
そこだけは我らの父と異なる。
歴代の王は何とも思わなかったのか、そこまで深いところへ潜れなかったようだが、我は父を深淵から連れ出したい。
我らを永遠に愛し、永久に守る者を幸福にしたいのは当たり前だ。
しかし方法は不明。
ナナミは分類的には悪魔だ。血の濃さ的にそうだった。
だからその命は余りにも短かった。
たった数十年なのだから、最後の最後まで共に生きる道を探せば良かった。
蛇一族達のように海中で暮らせれば、大きな体を人から隠せたと途中で気がついたので訓練中。
全然ダメだ。
こんな事を考えているので、仲間達が反発してお前は王の器では無いと言い出した。
それならそれで構わない。
似たような異端児に誘われたので、我はナナミがいた地に近くなるロトワへ引っ越し、我は王座を返還して一族と縁を切ることにする。
ロトワは住み心地が良い。
我が選ばなかった世界があり、異端児達が集まって和気藹々。
『今のは雷。雷は高いところに落ちるのよ。だから近くの丘の避雷針に落ちるから大丈夫。震えないでアトラ。大丈夫よ』
雷が鳴ってももう怖くない。
記憶の海に軽く沈むとあの優しい声や笑顔が蘇る。我らと違い、非常に不細工な変な顔だったな。
ナナミの温もりは流石にもう思い出せない。
『蜘蛛って肉食なのにアトラはどうして貝殻が好きなのかしら。丈夫な歯……はあるの? へぇあるのね』
親が人里で肉を食べると殺されるというから、肉ではないものを色々食べてみて気に入ったのが貝殻だった。
今はもうあんなに小さなものでは腹が満たされないけど、たまに無性に食べたくなる。
これまでは食べられなかったけど、ロトワならセルペンスが採ってきてくれる。
『良かったアトラ。あら、あなた。模様が少し違うわね。あなたはどなた? アトラの友達?』
生まれ変わってまた巡り合いたい
その時もきっと見つけて
その時はきっと離さない
あの時はあの歌の意味がまるで分からなかったけど今は深く深く胸に突き刺ささる。
あと少しナナミが長生きだったらロトワで共に暮らせたのに。
我も生まれ変わってまたナナミと巡り会いたい。
その時もこの間のようにナナミの転生体を見つけて、その時こそ、次こそ離れないで共に生きる。
その時は固有名を忘れてしまった、あのナナミの番の転生体も居て欲しい。
あいつがいるとナナミはうんと幸せみたいだったから。
やがて我にも寿命がきて意識が途切れた。
それで気がついたらロトワではない森にいて、ふーん、色々記憶が欠けているし、能力も乏しくなっているし、我は我だけどはぐれ王でもアトラでもない子供だから変な感じ。
転生とはこんなだったか? と散歩。
せっかく父と語り合っていたのに転生するとは。
自ら死ぬのは怖いし嫌だけど、深淵で父と遊ぶ方が楽しいので早く死にたい。
なにか忘れているような……。
なんとなく、勉強しないといけない気がして人里を目指した。
親達が掟破りと騒いでいるけど、掟を破らない親達は追って来ない。
死んでしまう、殺されてしまうと言われたけど、そうしたらまた転生するだけなので無視。
異端児だ、異端児、なんだあれはと言われたけど我は異端児だ。
王の器がないと記憶のサルベージや伝達、繋がることが不完全なのは前世で確認済み。
生まれ変わってまた巡り合いたい。
いつ覚えたのか不明だけど好きな歌。誰が歌っていたんだっけ。
好きな歌を歌って散歩は楽しい。
その時もきっと見つけて
その時はきっと離さない
自分の歌声に混ざる違う声が記憶の海からして実に幸せ。
これはいつの我のどの友との合唱だろうか?
何かとても大切なことを忘れている気がする。
あまりにもギラギラした太陽に衝撃を受け、これは干からびる……と意識を失った。
転生してすぐに死ぬのか。
前世はたまたま長生きしたけど、そういえば知的好奇心が旺盛過ぎて短命が多かったなと思い出す。
これで父と楽しく暮らせる……。
死んだと思ったけど死んでいなくて、水の中にぷかぷか浮かんでいた。
カラカラだったので蘇ったようだ。
喜びの踊りをしていたら悪魔が登場。
「——」
我はロトワで悪魔語を覚えたけど、転生した結果忘れてしまったようで何て言ったのか理解出来ず。
我らの会話法は特殊な者でなければ伝わらないのでお礼を言ったけど無反応。
悪魔の真似、会釈をしたら潰されそうになったが、激しい動きなのに敵意はなくて襲ってこない。
前にもあったような?
『——。そんなに遠くまで跳べるなんて凄いって褒められたのよ。潰そうとしたんじゃなくて拍手と言って賞賛』
これは誰の声だ? 前世のことで誰かからの言葉だな。
我は目の前の悪魔の行為が潰そうという攻撃ではなく褒め、拍手だということは思い出した。
ぴょんっと跳んだらまた拍手されるかも。
昔々、我が我でない頃に、遠くまで跳んだら拍手されたらしいので。
☆★
そこは、砂漠と死の森の境界にあるとある小さな小さな研究棟。
鎖国したというのに、主人不在のそこへ足を踏み入れたリノに、国際指名手配されている極悪人の魔の手が伸びた。
瞬間、極悪人は蜘蛛のような生物に噛まれ、猛毒を受けた。
リノは叩き潰されそうになった蜘蛛を掴み、背中をナイフで切られたが、軽傷でなんとか走れたので逃亡。
——風の子だ
——風の子が怪我をしてる!
リノに会いに集まっていた者達は彼を捕まえて運び、彼らの医者のところへ行こうとして、人には人の医者では? と大移動。
彼らの言葉が分からないリノはされるがまま。
リノは近くの故郷ではなく、彼らが信用していて喋れる者がいる、医学大国らしいと学んだ遠い、とても遠い地——ペジテ大工房まで運ばれた。
——入れないぞ
——監獄だから入れないね
仲介役がおこりんぼで役に立たないと彼らはプンプン怒り、親にぎゃあぎゃあ言って、ようやく彼らの目的の人物の遣い——アシタカが現れた。
軽傷とはいえ背中を誰かに切りつけられて熱発しているリノはすぐさま運ばれ治療開始。
リノを運んだ偉い子達が離れず寄り添い続ける。
その中には密かに現代のアトラもいた。
☆★
ベルセルグ皇国の皇子妃アフロディテ。
神職一族の娘で、氷のような無表情の裏に愛という情熱を燃やす者。
彼女が生まれ育った大神宮は、かつて、ナナミ・カライトと彼女を守る大副神のために造られた。
大陸中央の人間がどんなに争おうと、本物の聖域だというように残り続けた「絆」の証。
ベルセルグ皇国でもその地は聖域である。
その場所に祈られた願いは表面上は消えても、「一族」として脈々と受け継がれた。
そうしてアフロディテは生まれ、「また会おう」という祈りと願いは成就した。
——ナナミの転生体を見つけて、その時こそ、次こそ離れないで共に生きる。
新アトラナートは即座にその決意を王として、自分の持つ共存の記憶と共にばら撒いた。
それは、孤高ロトワが千年かけて失った目標、理想でもある。
縁とは糸だ。その糸には始まりも終わりもないけれど、絡んで結ばれて離れて太くなってを繰り返して次々と別の色を作り出す。
リノは大陸の端に生まれ、師匠など大人たちに導かれて今のように育ち、命を助け、本来なら出会わないで終わるはずのアフロディテとアトラを引き合わせた。
アフロディテは祖国で実務よりも、愛する者を支える道を選んで悪魔の監獄へと足を踏み入れた。
その愛に見返りがなくとも、彼女の愛は揺るぎない。今は返ってくると分かっていても、彼女は変わらない。
与えて、与えて、与え続けるその本質はティダ・ベルセルグという義兄の同族嫌悪を刺激する。
そして——その奉仕心と欲の乏しさは彼女を愛する者を時に激昂させる。
——お前が破壊神ヴァナルカンドか。さあ、手を組もうじゃないか。俺とお前の目的は非常に近い
——うわあああああ! 待て待て待て! これは一体どういうことなんだ⁈
——弱い固体で断片しかサルベージできないのかよ。ったく、他の今の王も弱固体で面倒極まりないな
——僕はセリム、君はアトラナートで、別のアトラナートとはどういうことなんだ?
——新しい王ってことだ。龍の国は今やハイエナの国か。ハイエナとは簒奪した俺に相応しいな
大笑いしたものの、新アトラナートことアトラはまだ幼体で色々幼いので、アフロディテとリノとの交流という狂おしい甘美さに飲み込まれて、意識をまた新王から子供に戻した。
アフロディテのすらりとした指とその温もり、リノの歌声が楽しくてならなくて。
セリムはますます混乱を深めた。




