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風詠と蟲姫  作者: 彩ぺん
第ニ次クロディア大陸戦争

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315/316

破壊のその先

【ホルフル蟲森】


 タルウィは少し首を傾げた。今一瞬感覚がおかしかった。


—— 僕は本物の破壊神になったんだ


 幻聴?

 この声色は以前聞いた。蟲姫の伴侶らしい生かすかない美青年だ。幻聴はたまにあるので気にしない。

 嫌な予感がしたという事は作戦を変更するべきである。

 イルゼにワーフを攻めさせて崖の国に死体送りをしたら繰り返す前に監視の網に掛かった。

 排気雲飛行船の燃料が切れるかと思って焦った。捜索用木偶人形(パストゥム)の広域視線でも見逃しそうになったがなんとか発見。

 砂漠を歩く3名に犬1匹。怪しいと視線で追いかけたら蟲森へ消えた。拠点になりそうな場所を発見したのでそこで思案中。

 原始的な研究室の椅子に腰掛けて背もたれに寄りかかって机に横向きに伏せて勘の確認。


「俺の脅しで誰かが蟲森に隠れた。盲点っていえば盲点だ。ゴヤ蟲森で実験を繰り返していたけど奥までは入れてない。隠れた誰かも奥には行けないだろうが俺みたいに地下施設とかだろう。隠れられたら捜索困難。焼き尽くしても地下だと無駄。……焼き尽くす?」


 地図を眺めながらタルウィはペジテ大工房の前のノアグレス平野の部分を指で軽く叩いた。

 そもそもあの楽しい大祭りはなぜ起こった?

 毎回調査したけど毎回分からない。誰かが蟲達を激怒させてどういう訳か大蜂蟲(アピス)が止める。伝承な「鳥の人」みたいな奴が現れるので捕らえようとするけど逃げられてきた。

 蟲姫と蟲笛を使ってあれをして大陸掌握をずっと夢見て実験を繰り返して面倒だし遊んでいたら楽しいから遊んでいた。

 次こそ大陸中が燃えてそれを眺めつつ火に油を注いで新世界に君臨と思うのに止まる。

 かつて蟲森の範囲が大祭りは楽しかったけど今の方がゾクゾク、ゾクゾクする。

 絶品のシュナが景品で大嫌いな胸糞御曹司という大権力者との対決なので全身鳥肌で毎日毎日毎日楽しい。


「俺に必要だったのは好敵手で何百年も待った甲斐がある。それなのに焼き尽くして化物に集中攻撃されて死ぬのはなぁ。ギニピグを八つ裂きにされたし木偶人形(パストゥム)を使ったら研究所を破壊されて人を使えば俺好みの女子どもまで巻き添え」


 チッと軽く舌打ち。対蟲音響機器を使って捕獲して研究室内で解体は出来るようになったけど短時間で少ししか回収出来ない。なので必要な材料分は擬似蟲作成の方で補ってした。どちらもかなりの時間に経費と研修員を動員。


「クラテールは木偶人形(パストゥム)ごと不審者扱いで投獄。蟲笛と人形人間(プーパ)を奪われた気配。御曹司に先回りされた。ドメキア王国は無傷でベルセルグ煌国は劣勢。ボブル国は謎の蟲達。グルドからは追い出された。フェリスとワーフは血の海にしたけど小せえ。小せえ!」


 地図上のペジテ大工房を指でつつく。ベルセルグ煌国とドメキア王国、エルバ連合とグルド帝国を疑心暗鬼で戦争させるつもりが権力者を集めて科学技術で通信や書類撒きなどで邪魔されている。

 女子ども狙いの無差別殺人にして「アシタカ・サングリアルのせい」と怪文書を使っているけど国際指名手配と犯罪組織だとやり返されている。

 

「じわじわペジテ大工房内で逆恨みや権力闘争で刺されるようにしているけどそれで死んでも勝った気がしない。大陸平和が望みなら大陸崩壊こそ勝利。目の前で引き裂きにしたいから引きずり出したい。蟲姫と蟲笛で大陸中を火の海にしてあの要塞も破壊して御曹司とシュナちゃんを獲得」


 それこそが完全勝利。

 つまりやはり必要なのは蟲姫。ホルフル蟲森に隠されたのは蟲の王の方か?

 蟲の王とはそもそもなんなのか。ボブル国を守らせている蟲を操る男なら殺戮兵器蟲姫と同じく殺戮兵器蟲の王だけどあの男は蟲笛の効果をぶち壊した。

 

「異生物制御は我等の民としては重罪……。よく考えたら何様だ。自分はしておいてこの俺に偉そうに」


 蟲姫と勝手に結婚したってことはタルウィが作った兵器で楽しんでいるし蟲姫を利用して蟲の王になったなら俺の兵器を横取り。

 アシタカ・サングリアルへの怒りやシュナへの執着で気にするのが遅くなった。

 ワーフで写真を使って拷問しまくってあの蟲の王が崖の国の王子なのは確認済み。


「覇王は巨大要塞の中だけど崖の国は天然要塞なだけで剥き出し。……蟲森? 蟲森! 沈めっちまえ! 対御曹司で忙しいからあの国に総攻撃はしないと思ったけど他の方法があった。人の住めない里にしてやる」


 ここは丁度良く原始的な植物研究施設。原始的といってもタルウィは研究させてきていない分野。

 麻薬関係は楽しみのために常に研究させてザリチュに協力のお礼に医学還元をしてきたがそれを監視確認などはしてきてない。

 ゴヤ蟲森の有毒植物を調べてきた者がいるのかも把握していない。だから知識はないけれどここに丁度必要なものがある。立ち上がって資料確認。

 有毒植物を木偶人形(パストゥム)なら運べる。ボブル国で破壊されまくって撤退して温存中の飛行機械兵(ギフテッド)を使って有毒植物の雨を降らす事も可能。


「あっめあっめふーれふーれあめよふれぇぇぇぇぇ♪」


 ん?

 タルウィは首を傾げた。今一瞬感覚がおかしかった。本日2度目というか記憶にある限り人生で2度目。

 全面兜(フルメット)の視覚を次々切り替えして妙な勘の理由探し。

 沈む。なぜかそう思った時に意識が遠のいた。



 * * *



 セリムは両手を見つめて握ったり開いたりを繰り返した。見覚えのない黒い手袋なので自分ではないのは確実。とても変な視野だ。息は苦しくないが少し暑い。


「出来たか?」


 出した声が別人で覚えのある目的人物だったのでやはり成功したと感じた。

 子ども達を各王達から完全分断したから王並みになったと思い、それならレークスがセリムの体に意識を集めて体を乗っ取ったような事が出来るかもしれないと考えた。

 ティダもアンリで試したら出来たと言ったのとタルウィはどういう訳か意思疎通の輪にいてグロブスが逃げた気配がしたので追えばこうなるかもと思った。

 ティダには無理だったので教えてもらって実行。こうなるとセリムもティダも人ではない気がする。ティダがリュカントロプルという生き物ならセリムもそうなのか?

 アシタカがザリチュ帝王から不老帝王と呼ばれている長寿の理由を聞き出していた。

 ザリチュとタルウィはセリムには分からない技術で肉体を維持して意識を移植しているそうなので蟲達の神経伝達物質とやらに関係ありそう。

 それもあって成せる気がしたけど成功。アシタカから聞いたクライトン生物研究所という遺跡はとても気になる。


「ワーフだと思ったのに研究塔だ。タルウィはどうやってここに辿りついたんだ? ワーフに感じた気配はギニピグってものか?」


 いつまでこれが出来るか分からない。逮捕して数々の技術や関係者を——……引き離されて戻される!


 ふと見たらサラサラと風に若草が揺れる丘の上に立っていた。ここは誓いの丘だと感じる。そこに黒い砂粒が集まって人の形になってタルウィが現れた。


「へえ。酔っ払った結果なのか立ったまま寝たのか現実のか知らねぇが俺は一瞬お前だったぞ蟲の王。崖の国の王子セリムらしいなぁぁぁぁ。身辺を隠せなかった自分を呪え」


 よろめくような立ち姿の彼の向こうに黒炎が揺めき始めた。


「タルウィ! なぜ非道な真似をする! 貴方は命をなんだと思っているんだ!」

「お前は胸糞御曹司を後押しするみたいな台詞を口にしたから胸糞蟲の王。異生物制御は重罪ってお前は俺と同じ事をしたよな?」

「僕は生物を兵器にしようとなんてしていない!」

「そもそも非道な真似ってなんの事だ。命をなんだと? 命は食い物だろう。何を言ってるんだ。あの大陸和平とかいう最悪な事を考えた男の隣に立っていただけあってイカレてるな」


 セリムは目を丸くして固まった。命は食い物だが彼が行った行為は食事とは異なる。それで大陸平和が最悪な事?


「子どもを無意味に殺すことは食事でない!」

「はあ? 無意味? 俺の快楽の糧になっておやつになった。ヤルのも殺すのも楽しくて仕方ない。どれの事を言っているのか分からないけど楽しいし美味かったはずだ」

「た……楽しい? おやつ?」


 高笑いに混じった台詞に耳を疑う。


「ついでに手紙にしてみたり風呂にしてみたり。この世は強食弱肉で優勝劣敗。食うか食われるかだ。かっ食らって何が悪い。お前は何も食わずに生きてきたのか?」

「生存の為に感謝して命をいただくのと貴方の行為は全く意味が違う」

「はあ? お前はバカなのか? バカだよな。感謝しようがなんだろうが死は死だろう。あらゆる屍の上に立って生きている癖に偉そうに」

「話が全く違う!」

「違くねえよ。事実をねじ曲げるんじゃねぇ。生存の為に感謝して食えば良いという理論なら俺は俺が生きる為にあれこれしてる訳だから許される」

「殺人や殺戮は生きる為に必要な行為ではない!」

「それはお前の理屈だろうクソ野郎。趣味を止めたら俺は退屈死しちまう。俺に死ねって言う訳だ。つまりお前は殺人鬼。おまけに自分達に邪魔だから殺しにくるんだからやはり俺と同じだ」


 タルウィは腹を抱えて笑い出した。話がまるで通じない。このような人物はセリムの短い人生では出会った事がないし知識も足りてない。


「反論してみろよ王子様。俺を退屈死させるか殺人罪とかで殺そうとする殺人鬼。殺人鬼らしく振る舞えよ」

「退屈で人は死なない。罪には罰だ」

「だからお前の価値観を押しつけるんじゃねぇよ。死ぬって言ってるだろう。罪には罰? 俺の罪はなんだ。生きる為に食うのが罪ならお前も罪人だろう。お前は俺を怒らせた1人だからお前のせいで人が大勢死ぬ。つまりお前は殺人鬼でお前も罪人ってことだ。あのお前と同類みたいな胸糞御曹司にでも裁いてもらえ。そうなると御曹司君も殺人鬼。愉快な流れだ」

「それは僕のせいにして貴方が実行することだから僕の罪だとか僕が人を殺したというのとは違う」


 彼と話していると頭が痛くなってくる。


「正義なんつう欺瞞で人を殺すのと俺が生存の為に人を喰らうのも同じだバーカ。目を背けようが屁理屈を捏ねようが無駄だ。ならそれを証明してみろ。俺がお前のせいだと言い続けて趣味を続けるとお前は石を投げられ非難されて殺される。俺は幾度となく見てきた」

「そんな事はない!」

「うるせえよ。夢か酒酔いなのにキャンキャンうるせえな。俺は少数派だから多数派にぶっ殺される。世の中は食うか食われるかだから仕方のない話だ。俺はずっと食う側できたからこれからもそうする。大体お前は殺戮兵器を手に入れたのに……お前も殺戮兵器だよな? だから欲しい」


 指を突きつけられてセリムは腰の鞭に手を掛けた。ここは意思疎通の輪のどこかなのでそのような行為をしてもタルウィを捕まえる事も止める事も不可能。

 意識を再度乗っ取るのが最速だけど繋がれない。思考が異質だからか? 彼はセリムとはあまりにも違う。

 

「なんつう腹の立つ夢だ。酒も飲んでなかったのに。崖の国はぶっ壊すとしてそれを先に知らせないと意味ないよな? 兵器がないと大陸を地獄の業火で燃やせない。見たいなあ。見せつけながら胸糞御曹司を殺してえ。いや殺してくれって言わせてぇな。そうだな。そうだった。そっちが楽しい」


 タルウィはセリムに背を向けてふふふんと、鼻歌混じりでよろよろと歩き出した。見つけ出したらすぐに捕まえられそうな動きだ。

 研究塔にいると分かったから追えるが「崖の国をぶっ壊す」という言葉に悪寒がした。ワーフは無事なのか?

 あちこちで同時無差別テロ行為。彼のせいで大勢の人達や人を救おうと動いてくれたセリムの家族も亡くなっている。繋がれないではなくてもう一度乗っ取ってやる。


「待てタルウィ!」


 追いかけているはずなのに近くならない。


「ひっとり殺すと3人助ける。やっらなきゃ4人ぶっ殺す。おお。アシタカ君はどうするかな? 写真と手紙を送ろう。2回目は2人殺したら6人助ける。8人死亡。大量殺人鬼だなあの御曹司」


 タルウィという男の発想は狂っている。


「待てタルウィ!」


 繋がれ。彼の中にグロヴス・サングリアルの憎悪が逃げ込んだのならそこへ届け。神経伝達物質がなんなのか分からないけど繋がりがあるのなら繋がれ。

 ……いや違う。ここで繋がってはいけない。ここは誓いの丘だ。セリムは子ども達とここから新しい世界を始める。二千年の憎悪を引き継がない真っさらなところから。


 ()()()()()()()()()()()


「殺すと八つ裂きにしてくるなら捕まえて殺させりゃあいいのか。長年その発想がなかった。目の前の楽しみに夢中で気がつかないとは間抜けだ。蟲爆弾と植物爆弾で沈むなら……おお。他のところでも出来る」

「タルウィ! ここから出て——……」


——俺の子ども達に近寄るな


 その通りであのような男は僕の子ども達に近寄らせない。でもグロヴスは? 彼の憎悪は愛情からきている。


 空から七色の光の光が降り注いた。幻想的な空だ。もう地は揺れていないし雨も止んだ。つまり大地が揺れて雨も降ったのか?

 厚い灰色の空に隙間が出来て眩い太陽が一筋丘を照らした。いつの間にか大草原で溢れんばかりに輝いているけれどさらに眩い場所が出来た。

 テルムが立っている。長くも短くもない黒髪が風にサラサラと揺れて徐々に短くなった。背も縮んでいく。


『このようにずっと大丈夫です』


 屈託のない満面の笑顔の男性の姿が次々と変化していった。肌の色も顔立ちも背も髪の色も瞳も年齢も背丈に体格に性別まで次々変わっていく。


『兄上! なぜこのような非道な真似を! 父上や母上から禁足地の生物は化物ではなくて我等の友であり互いを守る盟友だと教わってきているのにこのように! 化物なら怯えて逃げたりしません!』


『殺しません! 肩から落ちただけです! 襲いませんから落ち着いて下さい!』


『大丈夫だ、その真ん中の手当をする。そんなに守ろうとしてまだ生きているのだろう? しかし賢そうな目で仲間想いなものたちよ。何処から来た? 』


『俺も2匹に負けない偉大な男となる』


『信頼すれば無防備に背を預ける!』


『それならどうぞ噛んでとお伝え下さい』


『希望と絶望は表裏一体。救いと破壊は一心同体。この大陸はまさにその通りの世界だ。私は愚かな人など救わない。救うべきなのは彼等の方だ。結果として人も救ったように見えるだけ』


——ずっと大丈夫。


——私達は永劫大丈夫。


『語れるようになるってどういうことだ? 俺の言葉は伝わっていないって言うていたな。喋るのか? 賢いなら文字を覚えるか? よし、ひらがなを教えてやろう。喋れないやつは文字を使うんだぜ』


『こちらの言葉が分かっているなら、意思疎通は図れるだろう。むしろ文字を覚えるつもりはないですか? 手信号のように貴方の一族特有の物も作れるかもしれない』


——ほら。


——テルムは嘘つきではないから帰ってきたわ。


『護衛君も疲れただろう。この部屋では好きに過ごして大丈夫だ』


——私達はずっとずっとずーっと一緒にいるの。


『カイ・レストニアです。よろしくお願いしますホルフルの民の……アピスの子君』


——何度燃やされても蘇る。決して滅びない。私達を殺すことも引き離すことも誰にも出来ないわ。


『止めてやれ。こんなに怯えて可哀想だ。化物ならとっくに食い殺しにきている』

『えっと……アピスはドジ、違うな、おっちょこちょい? あー分かんない! とりあえず化物じゃなかったです!』


——私達はずっと一緒で誰よりもなによりも幸せなの。


『彼等はあまり個体認識しないので同じ者達を何度も殺されている感覚だ』


 何度も何度も何度も何度も何度も正しい者が燃やされて、殺されて、盾になり、テルムは殺され続けた。


——怖いよ


 熱くて、苦しくて、憎くても許すのは自分達の為だと言ってくれた。テルムはそう伝えてきた。

 手を出せば殺されるから遠くへ逃げてどうか幸せになって欲しいと祈られた。

 テルムも姫もいつも庇って逃がそうとしてくれる。

 この世に神などいない。残酷で、理不尽で、希望のない世界で、正しい者は生きられない。

 降りかかった火の粉から逃げ続けても最後は炎に飲まれ燃やされる。戦わなければ殺される。


 ()()()()()()()()()()


——嫌だよ


『姿形変わろうと何もかも忘れてもどれだけ時間が過ぎようと僕のような者は必ず生まれる』


——また会えたのにセリム(テルム)がまた殺される


—— ()()()()()()()()()()って


——戦おう


——戦おう


——そうだ皆で戦おう


「動くな! 絶対に巣から出ないで戦うな!」


——戦えって言われてる


——またセリム(テルム)が死ぬのは怖いよ


——燃やされるのは嫌だよセリム(テルム)


 視界が暗転後に目の前に険しい表情のティダがいた。


「ティダ! 僕が隔離した子ども達に近寄れるか⁈ くっついているんだ! 裏と表なんだ! 幸福だけ残す事は出来ない!」

「今度はなんだ。繋がれないから何も分からなかった」

「どうにかこうにか繋がって戦うって言い出した子ども達を止めてくれ!」


 セリムはティダになにを感じたのか、何を知ったのか急いで説明した。


「お前が根こそぎ持っていってねじ切ったから元に戻したら各王の下に戻るんじゃないか? 破壊しようにもこの方法だと破壊出来ないってことだな」


 そうしようとしたら「セリム(テルム)とずっと一緒にいる」と子ども達にはねつけられた。

 

〈セリムが戦うから仲良く遊んでなさい! 子どもの仕事は遊ぶことだ!〉


 それなら遊ぶという返事がきて一先ず安堵。


「ティダ。止まった。多分止まった。これはどうしたら良いんだ?」


 細胞1つあれば蘇る、か。

 幸せと共に絶望も与えられてきた血の記憶がまた子ども達に影響を与える。幸せを辿って憎悪は侵食してくる。

 根深い。二千年かけて断絶の道を選んだ様々な生物達と人の関係性は深刻だ。

 セリムが死んだら子ども達は憎悪に飲まれて過去の悲劇のような事が起こってせっかく再び繋いだ絆が千切れる。


「おい、それは後回しだ。タルウィと接触出来たんだろう? お前は一瞬あいつになった」

「ティダ。この手は二度としない。むしろ僕は今の状況では子ども達以外とは繋がらない。繋がれない」

「だからそれは後で聞く。あいつをどうにか捕縛させたとかなにか出来たか? ワーフはどんな状況だったとか何かあるだろう!」

「その前に一旦(わたくし)に全員情報を提供しなさい!  アシタカ様! 軍師は(わたくし)で飛び出したティダとついて行ったセリム様が接触してきたらすぐにお呼びくださいと申していましたよね!」


 通信機の向こうからシュナの怒声が聞こえた。


「おお、シュナ。最初から居る気がしていたけど居なかったのか」

「ティダ! セリム様! ペジテ大工房を飛び出してからあった事全てを話しなさい!」

「シュナ姫! 時間がありません! タルウィが崖の国を見つけていて蟲爆弾とか植物爆弾って言っていたのでこのままでは惨劇になります! ワーフも気になるけどとにかく先に僕の研究塔にいるあいつを捕まえないといけません!」

「はあ? ヴァナルカンド。お前は何を見てきた」

「セリム! それはどういう事だ!」

「アスベル先生! それ——……」

「全員勝手に動くな! ティダが孤高ロトワに接触されてグルド帝国へ攻め入るならセリム様は戦力になるから共に行け。崖の国が人質。そういう話でしたよね? それは解決しました? ワーフが気になるとか僕の研究塔にいるタルウィを捕まえるって話が違います」

「孤高ロトワはクライトン侵略を一旦止めて僕にアトラナートとタルウィを裁けと任せました。アトラナートは孤高ロトワは言いがかりだから触りたくもない下等生物のタルウィを僕に任せたと。…… 巣にいる下等生物? ホルフル蟲森付近はアトラナート達の巣じゃない。でもクライトンに近づくな? 巣とクライトンは違うのか? 巣にいる?」

「情報を分析しないまま突き進むつもりだったのですね。セリム様。そのように1人で突っ走ると傷つけられてはいけない身なのに前線に出てノアグレス平野で蟲達の激怒を引き起こしたような事になりますよ」


 シュナの台詞にセリムは愕然とした。彼女の言う通りだ。

 ティダと共に来たのは崖の国が人質だから言われてティダの戦力になれという話だった。

 

「悪い。俺もあれこれ起こって冷静さを失っていた。シュナの言う通りだ。ヴァナルカンド。お前は必要がなければラステルと同じく隠れて身を守っていないとならない立場だ」

「君は? ティダ。君はテルムだ。ヘトムだからそうだ。なのに君に兵力。孤高ロトワ、岩窟龍国のオーディン達は君を止めない。アデス君。何か知ってるかい?」

「急になんですか。伝承ではあらゆる一族の絆を結ぶ怪物が蟲の民テルムです。兄上は龍人だし貴方は次々と絆を破壊しているから逆。テルムは協王様達が見つけて岩窟龍国に招くから一緒に暮らします。それか龍人をつけて保護」


 アデスはそう口にすると目を丸くしてからセリムとティダを交互に見た。


「龍人をつけて保護……。招いたし兄上をつけた⁈」


 アデスの叫びの後にもう1度シュナの「情報提供をしなさい!」という怒声が響いた。


 ***


 遊ぼう


 沢山遊ぼう


 遊んでなさいっていうから遊ぼう


 テルム(セリム)や姫の匂いがするトムやトルなら遊んでくれる。

 代わりに風でくるくるしたり、なにかをブンブンして跳ねさせてくれたり一緒に泳いでくれる。


 トムもトルも巣の外にいるからお土産を持って会いに行こう。


 ***

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