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風詠と蟲姫  作者: 彩ぺん
第ニ次クロディア大陸戦争

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307/316

崖の国とセリムの攻防 3

【岩窟龍国】


 ラトナの泉。そこは聖地、とはアデス談。

 湧水で出来た小さな泉ではなく、端から端まで何メルテもあるような大きな湖。

 セリムは指定された場所、岩場の上に胞子植物が芝生のように生えている所に座ってラトナの泉の水面をジッと凝視した。

 透き通った水を覗いても、底は深いようでどこまで続いているのか不明。

 岩窟龍国内は地上——アデス曰くオーガの里——と同じ空気なので防護服やマスクは不要らしい。今のセリムには不要のものではあるが。アスベルは「不安だ」と防護服もマスクも外していない。


「普段通らない道から来ましたけど、このラトナの泉が国の中心で、大陸の中央、いわゆるヘソです。ここから大陸が生まれたと伝承されています」

「アデス君、道案内してくれた上に早速教えてくれて嬉しいが、大陸中央だとここはエルバ連合というかボブル国の領土内じゃないか?」

「さあ? そのボブルという国がオーガの里のどこに存在しているか知りませんけど、俺達はここが大陸中央だと教わっています」


 セリムは道案内役になったと現れたアデスと、母マリアから引き離されて不満そうなヘリオスに挟まれて座っている。自分の真後ろにティダとヴィトニルが座り、その左右にアスベルとオルゴーが腰を下ろしている。

 気配がするも、何か分かったのでジッとしていたら、案の定ティダに背中を軽く蹴られた。


「照らし合わせや歴史の勉強は後でにしろ」

「空き時間に質問くらい良いだろう? こうして答えてくれるんだし」

「次に答えたら嬲り殺し……殺すのは母上の手前出来ないので嬲り半殺しにするぞ軟弱犬その一。その二はもっと目障りなので喋るな」

「ティダ、いくら機嫌が悪くても弟に向かって……」

「で、もっと有意義な話をするなら考える。軟弱犬のどちらでも良いが、この国とアトラナートの関係、いやその前にこの国について話せ」


 ゲシゲシ、と蹴られたのはアデス。ヘリオスはサッと立ち上がって前へ移動して避けた。


「そのくらいの蹴り、気配で分かりま……」


 得意げなヘリオスの体がバシャンッとラトナの泉へ落下した。スコーンッと肩に何かがぶつかったのが見えたので、ティダがその何かを投げたのだと思った。


「ティダ、兄弟仲良くしろって」


 ヘリオスを助けようと立ち上がり、ラトナの泉へ近寄りかけ、気がつく。ほんのりと磯香りがする。


「海?」

「海? 海ってあのソレイユが泳いだ? ……ソレイユ! そうだソレイユ! セリムさん、貴方はソレイユ探しを頼まれていたんじゃなかったんですか!」

 

 あーっ! と叫んだアデスが立ち上がり、セリムを指差す。ヘリオスはゲホゲホ言いながらラトナの泉から上がってきた。


「いや、アデス君。君達の王? のオーディンに呼ばれたからこのラトナの泉に来た。ソレイユ探しは妻と友が請け負ってくれているが、そのことについては今のところ、とやかく言われてない」

「妻ってラステルさん? あの人の形をしたチンチクリンなアピス? そうだ、彼女についても気になっていました。蟲を妻にするってセリムさん、貴方って相当変わっていますよね」


 アデスは顔をしかめながらセリムの隣に座った。


「ラステルはアピスではなくて……」


 言いかけた時にキィィィィンと耳鳴りがした。思わず耳を押さえる。次に感じたのは、開いた、という感覚。

 次の瞬間、ポチャンと水の中へと沈んだ。いや、水ではない、ここは——……。



【???】


 誰かがいる。四方八方、黒炭のような黒で平面なのに、セリムには分かる。


—— 滅ぼせるものなら滅ぼしてみよ。


——返り討ちにしてやる。


 誰だ? と首を傾げる。しかし傾げる首がない。何もない。手足も胴体も、目も、口も、何も。

 けれども自分自身は確実に存在しているという奇妙な感覚はある。


——招かれたということはオーガと一線を画した、というのは本当らしいな。


 この声はアトラナート。


——ああ、セリムは我からホルフルとアピスの王を簒奪した。


 この声はレークス


——我等は大会合へ招かれ、古き扉が開かれた


 この声はオーディン。


——ロトワの内部事情は説明せん。我等は何事も話し合うと誓いを立てているので、何に対しても即決は致しかねる。

——いいや孤高ロトワ。貴様等、何を隠しているのかと思ったらついに探り当てたぞ! 我等の青薔薇姫を強奪したのはお前達だ!


 この声はバジリスコス


——青薔薇姫? バジリスコス、この記憶の海からサルベージしたのか?


 この声はココトリス。


——そうだココトリス。記憶の海、特にセリム経由からダダ漏れてきた。

——貴様等が不甲斐ないので守護したまで。バジリスコスとココトリスから命を受けたウォーデン、そのウォーデンと共存する我等がロトワ領土内に匿ったまでのこと

——我等の姫は今どこにいる!

——……。それがだな、目下捜索中だ。


 声の主はそれぞれオーディンとバジリスコス。喧嘩のようだが、話が見えない。


——コポコポ……コポコポ……


 セリムが声を出そうとしても、まるで水中で喋ったように水の音しかしなかった。


——新参者は喋ることも出来んようだな。以後発言なしは何事にも同意とみなそう

——アトラナート、セリムへの敵視は止めろ。その為の大会合のはずだ

——ふんっ。代替わりしても説教臭えなレークス。本能が誓いを守れと警鐘を鳴らすので馳せ参じたが、ペジテカルケルの監視者とは誰だ? 


 しん、と静まり返る。返事がない。


——二千年の時の流れのなかで大会合は数度のみ。ペジテカルケルの監視者は常に沈黙を貫き、我らに自分達の事は己達で決めるようにと任せている。それも掟だからだ。誰が決めたのか知らんが呼ばれたからには何かしら話し合えということだ。まあ、前例に倣えば領土確認であろう

——相変わらず仕切り屋だなレークス。元々が始まりの王だもんなぁ? 我等アラーネアが分裂し、アトラナートが王となり、その次はレプティリア。その次はなんとロトワインセクトゥムをごっそり。アピスにはずっと輪外れされかけていて、ついに珍妙怪奇なオーガによってホルフルインセクトゥムごと。なっさけねえ王だ。

——嫌味はよせアトラナート。我らレークスは代々インセクトゥムの全てを統べきた王の中の……

——あーっはっはっはっ! 何が王の中の王だ! 家畜管理を放棄した負け犬が! その点、バジリスコスやココトリスの方がまだマシだ!


 レークスとアトラナートの言い合いが続く。セリムは再度喋ろうとしたが、コポコポ、コポコポという水音しか出てこない。

 何も見えない真っ暗闇の世界で声だけが聞こえている。


——我はお前とは気が合わんアトラナート。我が話すとアトラナートが茶々を入れてきてややこしい。前回同様にバジリスコスに任せよう

——領土についての前に我等の青薔薇姫の件だ。孤高ロトワよ、我等の姫を目下捜索中とはどういう事だ!

——千年も忘れていたのならもういいだろう? 最早もうお前達の青薔薇姫ではない

——良い訳あるか! そもそも名を名乗れ! ドメキアの姫と青薔薇姫は我等の姫だ!

——姫、姫、と喧しい! そもそも青薔薇姫とはペジテカルケルに囚われし聖なる姫の末裔。ペジテカルケルに出入りしているのだから連れ出せば良い。何人もいるではないか。我等の手中にいる青薔薇姫はかつてのバジリスコスから託されたんだ。完璧な記憶保持やサルベージが出来ねえ癖に煩いんだよ。

——姫は姫だ! 青薔薇姫は青薔薇姫だ

——喧しいのはそっちだバジリスコス! 認識不良生物共! そんなだから3分の1もの民が我等ロトワに移民したんだ!


 怒声が飛び交う。声を出せないセリムは頭の中で話の整理をしようと試みた。しかし、知らない単語や知らない話だらけでついていけない。


——やめろバジリスコス。落ち着け

——ココトリス

——我は青薔薇姫なんて知らんしサルベージ出来ん。孤高ロトワに一理あるってもんだ。孤高ロトワと我等アシタバの話よりも領土について話そうではないか

——分かったココトリス。お前が言うなら冷静であろう。ついでだ、仕切りはお前がやれ

——我は前に立つとか苦手だ。バジリスコス、頼むよ


 レークスが「バジリスコス、頼む」と声をかける。


——古の王も務めたというのなら、我も務めるのが誉れというもの。では領土の件を話し合おう。出席者はインセクトゥムの王レークス。アングイスの王である我バジリスコス、セルペンスの王ココトリス、アラーネアの王アトラナート。で、ロトワを名乗るお前は誰だ? 前回は……ふむ、ヘルメースと名乗っていたが?

——サルベージご苦労。今回もヘルメースと名乗ろう。我はロトワの代表、ヘルメースだ。


 オーディンが偽名を使ったとセリムが指摘しようにも、やはり声を出せない。呼吸が出来ているのに水中の中にいる感覚とは奇妙過ぎてならない。


——ちょっと待ててめえら。ようやく喋れる。何がヘルメースだオーディン。お前はオーディン。大狼だ。岩窟龍国の王なんだろう?


 ディダの声がして、セリムはぐるりと周囲を見渡した。つもりだったが何も起きない。四方八方、真っ暗闇。動いたという感覚もない。


——ふうん。ロトワの皇太子がこの場所へ来られるとは驚きだ。

——追い出したのだがすまん。フェンリス、下がっていろ。それか黙って聞いていろ。何も知らないのに口を挟むな

——馴れ馴れしく俺の名を呼ぶなよオーディン。酷い吐き気のするこの記憶の海底で会合とは粋な王達だな。ここへ来られるのが王の条件なら俺も王か? 

——ロトワでも岩窟龍国でも何でも良いが王は一人のはずだ、ヘルメース。いやオーディン? オーディン! 欠席続きの大狼の王が紛れ込んでいたとは!


 アトラナートの高笑いが響く。


——大狼は各々ほぼ輪外れし個を優先して生きると決めた一族故にオーディンの座の価値は乏しい。千年もの昔から飾りの席だ。

——ならオーディンは欠席。ロトワはヘルメース。レプティリアの王メリクリウス……もまた不在。リュカントロプルの王ウォーデンの代理が我等の召使いエリニースだな。そういうことだよな? ココトリス。

——恐らくそうだろう、バジリスコス。リュカントロプルは元々輪が不完全。王座の引き継ぎがされないのはいつものことだ。エリニース、基本的に発言を許可しない。黙って聞いて……いや、問いたい。セリムをサルベージして喋れるか? それならセリムの代理人としての発言は許可しようではないか。

——おいココトリス。確かに俺はバジリスコスとココトリスの下についたが何故自分の発言件まで奪われなきゃなら……


 セリムはディダが消えた、と感じた。しばらくして戻ってきたとも。


——全員満場一致、いやセリム以外は一致でココトリスの訴えを認めた。フェンリスことエリニースの発言はセリムの代弁の場合許可とし、自身の発言をした場合は今のように追放する


 ここはディダ曰く「記憶の海の底」で、集まっているのは王達。


—— 七協王……


 不意にセリムは喋れた。喉を動かした訳ではないし、声色も違うが確かに自分が話したと感じた。声色がディダだったのでディダのおかげなのだろう。

 七協王と口にしたものの、それが何か自分でも分からない。


——へえ、これまた古い話をするじゃないか新入り。それにしてもわざわざロトワの皇太子の体を乗っとって意思疎通とは訳が分からん。下手くそか。

——下手くそ? 下手くそとはどういう意味です? ディダの体を乗っ取って意思疎通とは?

——七協王?


 アトラナート以外の王達が次々と問いかけてきた。


——始祖王。人族の王テルム。蛇一族の王バジリスコスとココトリス。蟲一族の王レークス。龍一族ウォーデン。リュカントロプルの王フェンリス、大狼の王オーディン。全員、悪魔に燃やされ消し炭にされた。誰もサルベージ出来ねえか?


 アトラナートの質問に、他の者達が「ああ」と相槌を打つ。


——古の記憶をサルベージ出来るのが新入りと我だけとはねえ。まあ、我もついこの間知ったばかりだ。氷河の時や、なぜ我等がレークスから輪外れしてアトラナート王を擁立したのか、それらが不意に忘却の彼方から呼び覚まされたからなあ。

——不意に呼び覚まされた? アトラナート、その話を……

——黙れ新入り。バジリスコスが進行役だ。バジリスコス、ココトリス、レークス、アトラナート、ウォーデン、オーディン、メリクリウスの七王に前回加わったロトワという集団。全員の出欠が判明したが次はどうする? バジリスコス。

——通訳が不要になったので招かれざる客と思わしきエリニースは追放とする。異論は?


 セリムを除く全員が「無い」と答えた。すると再びディダの存在が遠ざかった、と感じられた。しかし、すぐにUターン。


——エリニースはセリムの意思疎通の輪と半分結合しているようだな。剥がそうにも剥がれないのでこのまま半追放でいく、異論は?


 またしてもセリムを除く全員が「無い」と回答。


——さて、大会合だ。サルベージした限りだと前回は約千年前。ロトワ誕生の時である。この事は、この場に招かれた者ならサルベージを行って把握しているな?

——いえ


 分からないので素直に分からないと答える。目なんて見えない暗闇なのに全員の視線を集めた、と感じた。


——サルベージって何です? そもそも大会合とは? この場に招かれた者というのも気になります。この場というのが「記憶の海の底」という場所なのは先程聞きました。そこに招かれたって誰にです? 何故僕達が招かれたんです? 

——喧しい新入りだな。バジリスコス、どうする? そもそも我はこやつが気に食わん。気に入っているのは……

——我はセリムと共存するという意思を有している。一応な。輪外れしたアピスやホルフルインセクトゥムがそれを望んでいる。一代限りの王だろうから、セリム亡き後はまた我の民になると言っているんだ。してアトラナート、アラーネアも既にセリムに侵食されているがどうするつもりだ? こやつは破壊神ヴァナルガンドと言ってだな……

——何だと?


 シューッという膨らました袋から空気が抜けるような音がする。バジリスコスだろう。不思議と感じた。


——黙れアトラナート、レークス。仕切れと命じておいて、どうする? と尋ねておいて、勝手に脱線するな

——なら仕切れボンクラ

——同意だアトラナート。進行役が頼りないからこうなる


 セリムは思った。人では無い世界の王達もまとまりがなさそう。しかし、この王達は民を束ねて率い、互いに生存区画を分けている。

 人はというと、同じようにまとまりがない王達の下に、更にまとまらない民がいる。

 千年も会合をしなくて済んだ王達と、その千年の間にいくつもの国や王が入れ替わった人という種族……と考えたところでセリムは アシタカの存在を思い出した。


——あのー……。この会合にペジテの、貴方達がペジテカルケルと呼ぶ国の王、いや…… アシタカは別にペジテの王になった訳じゃないしな。えーっと、あー、そうだ。人の王。人の王は呼ばれ無いのです?

——ふふふ、あはははは! いきなり本題か輪外れオーガ! 我等の父が守るサングリアルの血脈、 アシタカ・サングリアルのことだろう? レークス、バジリスコス、ココトリスが共和国を再興する為に持ち上げたテルムの後継だと宣言した者。テルムを名乗るとは畏れ多いことだが、まあサングリアルの血脈なら見過ごしても良いと思っている


 サングリアルの血脈、という台詞でセリムはグロブスの存在も思い出した。彼らは彼の存在については知っているのだろうか?


——テルムの後継? そういえば七協王という話の中に人の王テルムという事を言っていたな。人の王とは我らが守るべき者のこと。何故聖なるテルムと混ざっている

——ヘルメースはサルベージ不足、と。


 アトラナートの嘲笑が響くとヘルメースことオーディンが低い唸り声を発した。

 サルベージ、とは聞いたことのない単語。なのでどのような意味なのか推測が難しい。今までの会話から推測するに、この「記憶の海底」から記憶を取り出すことだ。

 ドプンッ。急に体が沈む感覚がした。まるで泥沼に落ちたというように沈んでいく。深く、深く、深く——……。

 

 

【崖の国】


 ヤルル盆地に停泊させてあるペジテ大工房の飛行機船内。一番格納庫でアンリはヘッドホンをつけた。しばらくして相手が通信に反応。

 定刻の報告なので当然ではあるのだが、少しばかりホッとした。


「シュナ? アシタカ?」

(わたくし)よ。アシタカ様は昨夜に引き続き点滴というものをしているわ」

「そう……。大丈夫そう?」

「分かりません。毎日、例の……」


 例の、の続きは聞かれなくても分かった。昨日の朝、その例の……の本物を目撃したからだ。

 見るも無残な死体を使った手紙。思い出しただけでも身の毛がよだつ。


「その例の熱烈なラブレターが アシタカの妹、ラステルにも届いたの。彼女、今日のうちに崖の国から出した」


 アンリはザッと事情を説明。タルウィがワーフへラステルを連れて来ないとエルバ連合を襲うと宣言してきたこと。ラステルはシッダルタ、カール、スコールでホルフル蟲森の中、ラステルの故郷へ身を寄せたこと。


「この国の誰もラステルの故郷を知らない。貴女も、私も、驚いたことにセリムさんもですって。特製のマスクが無いと村には辿り着けないそうよ。隠れるのにはうってつけ」

「で、アンリはラステルの身代わりってところかしら?」

「ええ。ラステルには秘密だけどね。ラステルのフリをして強行部隊と共にワーフへ行く。私を囮に釣って見せるわ」

「カールが猛反対しなかった? 私もしますけど」

「しなかったわ。私には勇ましい大狼の群れがついているもの。ウールヴさんだけじゃなくてその妻と何匹かが過保護な夫の手配で来ているの。崖の国が今や大狼の里みたいよ。まあ、国内じゃなくて崖の方に居るんだけど、一匹は常に私の周りにいるの。スコール君サイズのリズっていう可愛い子よ。今は格納庫の扉前で伏せてる」


 アンリが話をしていると、リズが入室してきた。


——アンリエッタ。そろそろ眠る時間よ。お母さんが怒ってる。身重の女は早寝だって。数分後にはここへ来るわ。

——あー、分かった。ありがとうリズ。


 アンリは頭を掻いた。今朝現れたウールヴの妻ヘズナルは恐ろしい大狼だ。到着早々アンリに説教をまくしたてた。建造物内ではヘズナルの部下リズがアンリに寄り添い、建物の外ではヘズナルがアンリの真横にいる。現在、アンリの1メートル以内に近寄れる人間は居ない。


「シュナ、ワーフの地形と可能な限り知っている国内地図のデータを送るわ。あとこちらの戦略わまとめたデータも。明日の戦略会議の結果と貴女の考えを照らし合わせて再度練り直す予定。よろしく」

——アンリエッタ。三回遠吠えする前にヘズナルの前に現れなかったらこの国の人間を食うって

「分かったわよ! 寝るったら! もうっ! 過保護な上に怖いわね! ごめんシュナ! 見張られているの!」


 アンリは通信を切り、ヘッドホンを外し、マイクから離れた。走ると怒られるので早歩きで飛行機の外を目指す。外に出ると「早く歩いてつまづいて腹をぶつけたらどうする」とヘズナルにコンコンと説教された。

 尻尾に掴まれたまま。

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