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風詠と蟲姫  作者: 彩ぺん
八章 破滅と再生の激動大嵐

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聖と血の結婚式典【破】 1

【古代 かつて流星が見えた丘】


 燃えただけなら良いが、死体が腐敗して有害物質の温床になっている。埋めても埋めても、死体が増えていく。


「——。このマスクでも倒れた者がいるそうです」


「そうか……。ペジテ人は悪魔だな。何故、神はこのような……」


 誰も助けてくれない。人も、蟲も、大狼も何もかも、どんな生物も関係ない。命という命が無差別に殺されていく。


「お父さん! アピスが毒消し草を見つけたの! もしかしたら沢山の人が助かるわ!」


 愛する娘の声で、???は振り返った。全身身を守る衣服とマスクで隠れていて、顔は見えない。


「アモレ。良くやった。流石、俺の娘だ」


 ???は大きく手を広げて駆け寄ってくるアモレを抱きしめようと、両腕を広げた。


 死屍累々の絶望の丘に、一筋の光をもたらしたアモレ。酷い境遇で育ったのに、とても優しい子に育った。大勢の人を救おうと、奔走している。


 誰よりも幸せにしたい。


——パァン


 銃声が丘に響き渡った。



***



——必ず復讐する。永遠に続ける。愚かな人など死ぬがよい。決して許さない。俺の子供達に近寄らせない


 人工的に造られた命は意識を共有する。


 意識に残る憎悪は時に増殖し、侵食し、転移する。



***



【フォンの自宅】


 目を覚ましたセリムはぼんやりと視線を彷徨わせた。ここは、何処だ? マスクはしていない。マスク?


「セリム、大丈夫か?」


「セリム、どうした?」


 アシタカとシッダルタがセリムの顔を覗き込んでいた。


「ああ……。いきなりあちこちから伝心術で語りかけられて……。何も感じない」


 セリムは体を起こし、目をつぶった。伝心術を、今までどうやって使っていた? 何にも感じられない。これが普通なのに、妙な気分。特殊能力が無くなってしまったらしい。


「シッダルタ、アシタカ、僕は蟲や大狼とか伝心術で話せていた生物全部と話せなくなっている。何故だろう? 」


 シッダルタがいきなり大きく目を見開いて、大口を開けた。


「シッダルタ?」


「喋った……。喋った、セリム! この蟲が喋った!」


 シッダルタが絶叫した。セリムはアシタカと顔を見合わせ、それからシッダルタを見た。シッダルタは頭の上のアピの体を両手で包み、頭上から顔の前に移動させた。アピは青い瞳でギギギギギと小さく鳴いている。


「シッダルタ、アピは何て言っているんだ?」


「それが、シッダルタとしか聞こえない。まて、また聞こえた。遊べ? あー、セリム。遊べシッダルタとしか聞こえない」


 セリムはガクンと肩を落とした。これは全く役に立たなそう。仕方ないと、気を取り直して、倒れる直前の話をアシタカとシッダルタにした。


 シッダルタがアピを腕に抱え、不思議そうに首を傾げた。


「ソレイユさんが可哀想。それにソレイユさんの為に俺の世話役? 一体、どうなっているんだ?」


「ソレイユさんがフォンを守る? というか、フォンはソレイユの群れだったのか? パズーが一緒ならバジリスコスに聞いてみれば居場所が分かるんじゃ……」


 アシタカが途中で唇を結んだ。


「レークスが、バジリスコスとココトリスに聞いたらしいが分からないらしい。それで、孤高ロトワからソレイユ姫が家出した。明日の会談に参加するので、探して欲しいと要求された。期限は一月以内。いきなり参加されてもどうするべきなのか全く読めない。レークスに突き放されたし……。ああセリム、君のことをアピスの王にして大技師と呼んでいた。で、セリム。大技師とは?」


 アシタカが髪をくしゃりと掴んだ。複雑そうなアシタカの表情に、気まずいと思ってしまった。


「ああ、朝のうちに話そうと思っていたんだが……」


 セリムはヌーフに呼び出され、シッダルタやフォンと壁画の間に行ったことと、大技師を継いだことを語った。それに、地下にある蟲の世界についても話した。


「そんなことがあったのか。すまない、気がついてやれなくて。レークスは知っているのに、僕に黙っていたのか。父上も……。やはり、各国首脳会談で大騒動か……。絶対に試され刺されるな。人の世でも難儀そうなのに……」


 アシタカがパズーのように「うへえ」と呻いた。こんなアシタカ、見たことがない。


「アシタカ? 大丈夫か? すまないだなんて、君が謝ることなんて……」


「僕は何もかもを背負う。察しが悪いことや、僕が忙しそうで話し難いというのを改めないとならない。セリム、常に頼ってくれ。シッダルタもだ。父上め、僕を過小評価して、見返してやる。で、どうするか。家出? してらしいソレイユさんを探すのが先決なのか?」


 はぁ、と大きなため息を吐くと、アシタカが胸を張って背筋を伸ばした。あっという間に頼り甲斐がある姿に変わったアシタカは、とても格好良かった。


「アシタカ……」


「セリム、もう目で語っているからその続きを口にするな。アシタカ、家出なら危険は無いだろう。ティダの回復を待って、頼もう。ティダが一番頼りになる。期限が一月なら、今日の夕方だって問題無いはずだ」


 シッダルタがセリムに首を横に振ってから、アシタカに向き合った。セリムのアシタカへの尊敬は上手く伝わっているらしい。セリムは立ち上がった。


「シッダルタ、アピは何て言ってる?」


「遊べシッダルタ。アピスの子は遊ぶ。それだけだ。これがセリムの世界か。確かに煩いな」


 シッダルタが苦笑いした。アピ達は呑気そうなので、ソレイユの気まぐれか何かにパズーとフォンが巻き込まれたのだろう。セリムがそう口にする前に、アシタカが同じ意見を告げた。


「ソレイユさんは本当に妙な子だな……。流石ティダの妹というか……。愛嬌たっぷりで、素直というか馬鹿正直だから、ティダとは正反対の性格だけど。思い込みが激しいから、何か誤解して変に思い詰めてないといいけど。フォンとパズーがいるから大丈夫か?」


 アシタカが何処かに連絡を入れている間、シッダルタが独り言のように呟いた。セリムがシッダルタに話しかける前に、アシタカが連絡機をしまって部屋の隅から戻ってきた。


「玄関が破壊されてるから、泥棒でも入ると困るし護衛署に頼んだ。あれこれ誤解されて危ないと、連れ戻されるな」


 偽りの庭以外、四六時中監視で息が詰まると口にしていたアシタカが、申し訳なさそうに肩を揺らした。この早朝観光も、見張り付き。護衛署職員の前にヤン長官と部下が現れ、セリム達は偽りの庭に帰ることになった。



***


【第三砦】


 ヤン長官の運転で、第三砦に戻って来ると、偽りの庭へ続く門の前にティダが仁王立ちしていた。隣に月狼(スコール)が寄り添っている。出掛ける時はセリムの側にいたのに、いつの間にか消えていた。ティダを呼びに行っていたらしい。


 自動荷車(オートカー)から降りて、近寄る。


「おはよう、ティダ。ソレイユさんのことかい?」


 アシタカが爽やかな笑みを浮かべて、手を挙げた。ティダは反対に、不機嫌そうに顔をしかめた。


「方々から接触されて、探ってみたら、なんか知らんが、大蜂蟲(アピス)の子とかくれんぼらしい。だから放っておけ。子蟲は余程ヴァナルガンドに怒っているのかもな。もう追えん」


 呆れたようにセリムを見た後、ティダがシッダルタの腕の中のアピを見据えた。フンッと鼻を鳴らしただけだった。


「アピスの子はずっと僕に怒っている。そうか、それなのか。ティダ、ソレイユのことじゃなかったらどうしたんだ?」


 セリムの問いかけに、ティダが思いっきりしかめっ面になった。


「嫁入り前の最後の手料理を食え、とどっかの誰かが喧しいからだ。あと、お前が地下室の話をアシタカにしたのか確認しにきた」


 不機嫌そうなティダに、セリムは小さく首を縦に振った。ティダは膨れっ面のまま、なら良いと口にした。


「セリム、ティダから既に聞いていた。僕は小芝居を練習中だ。初めて聞いたと思ってくれただろう? 中々、演技派になれそうだと自負している。で、何でティダはここにいるんだ? ほら、行くぞ」


 アシタカがティダの脇を通り過ぎようとすると、ティダがかなり大きなため息を吐いた。


「俺の食事を離れかなんかに運んでくれ、アシタカ。最悪なことになっている……」


 心底困った。ティダは青白い顔でまた大きな息を吐いた。


 その理由は直ぐに分かった。偽りの庭、本邸の前で三つ子とカイ、それからアンリが待っていた。ティダが現れると、子供達がわっと駆けてきた。


「お帰りなさいティダ師匠! 先程大狼を見かけました! ご挨拶がしたいです!」


「大狼様、滅多に現れないのに、あそこで待っていらっしゃいます」


「カイ様はとても知識豊かで楽しいです」


「ルルの髪型を褒めてくれましたの」


 ルルだけ少し上擦った声だった。ティダがカイに手を繋がれ、引っ張られた。三つ子もティダとカイを取り囲む。


「食堂よりはマシか……」


 ティダが丘の方へと歩き出した。


「サンドイッチらしいから、後で持ってきてあげる。朝からピクニック気分になれるわよ」


 アンリが遠ざかるティダの背中に、そう声を掛けた。ティダの首が軽く縦に揺れる。


「最初は食堂に連れて行かれたんだけど、シュナがひっかき過ぎてヘソを曲げたみたい。それに昨晩、ベルセルグ皇国にはまた死体の山。最悪だって。あまり寝なくても済む体みたいだけど、(うな)されてた……」


 アンリが心配そうに、揺れる瞳でティダの背中を見つめ続ける。昨夜、ティダとテュール皇子とシッダルタと四人で将棋を指した。正確にはテュールとシッダルタの対局をティダとセリムが眺めていた、が正しい。草原の上、ランプ灯りの中で中々風情があった。祖国の皇子テュールに怯えていたのか、シッダルタの指はずっと震えていたが、他は堂々たる姿だった。


——俺にはやらねばならんことがある。


——私が引っ叩くはずだったが、役不足だったようだ。まあ、お前が帰る国くらいなんとかしておく。


 あれこれ話し合うのかと思えば、ティダとテュールの二人の会話はそれだけだった。シッダルタに負けたテュールは「泥棒猫よ、難儀な弟だ。頼む」とセリムの髪をぐしゃぐしゃにして、アシタカの家へと去っていった。


「アンリさん……」


「私、もう少し眠りたいの。第三砦の仮眠室にいるから宜しくセリム。国賓観光の前にティダを連れてきて、アシタカ。貴方は早くシュナの所に行かないと、爆発苔を喰らうわよ。昨夜のこと、ラステルが怒ってるみたい」


 グッと伸びをしたアンリが、セリムの肩を二回叩いた。アシタカにはウインク。サッと身を翻して去っていく。方向は第三砦では無い。


「アフロディテさんとアルセさんの所だろう。ホテルにクッキー、今度は何を要求されるんだか。行こうシッダルタ、君はサンドイッチの運び屋だ。アンリが向かっている家がララ達の家。後で僕の妹達と一緒に、アフロディテさんとアルセさんの所へ頼む。多少、罵倒しておけ。その方が良い」


 アシタカが呑気そうに笑い、シッダルタの背中を軽く叩いてから本邸の方へと歩き出した。アシタカがシッダルタに来いと、目で合図する。セリムにも、ティダの方へ行けと目配せされた。月狼(スコール)もついて行く。自分から気配り出来なかったのは情けないが、ここまでティダを任されるというのは誇らしい。役に立っていると思えないのが、複雑なところ。


 セリムはティダ達の方へと進んだ。一応、心の中でティダを呼んでみた。無反応。やはり伝心術を使えた時の、ざわざわした感じが全く無い。


 大地が、急に揺れた。


 あまりの縦揺れに、セリムは倒れそうになりながらティダ達の方へと進んだ。ティダがカイと三つ子の誰か——セリムにはまだ身分けがつかない——を放り投げてきた。優しく、セリムなら受け止めるだろうというように。セリムはカイ、三つ子と順番に捉えて、腕に抱えた。


「何をボサッとしているヴァナルガンド! レークスとバジリスコスの野郎! 好き勝手しやがって! 俺達を使いやがったな!」


「ティダ! ついさっきから、僕はあらゆる意思疎通の輪から弾かれてる」


「はああああ⁈ お前……」


 三つ子の二人を腕に抱き上げたティダが走って近寄ってきた。ぶら下げるようにしかカイと三つ子を抱いていられないセリムと違い、ティダは片腕で抱っこというように、二人を抱えている。咄嗟だったのに、そこそこ重いのに、良く出来る。


「下等生物に祝典など行わせん。列席も拒否する。だとよ」


 急に暗くなって、上を見上げた。鉛色と唐紅に染まったドーム。飛行蟲の大群。


大蜂蟲(アピス)が居ない……」


 セリムは小さく呟いた。蜻蛉(トンボ)、蛾、(ハエ)兜蟲(カブトムシ)のような蟲は見えるが、最前線に立つはずの大蜂蟲(アピス)は不在。


「お前の民だからだろう。レークス、バジリスコス、ココトリスめ、何をするつもり……」


 ドームの中央、偽りの庭の真上が蟲達に破られた。破片は降ってこない。開けられた歪な穴から、光が伸びてくる。照らされたのは市街地のどこか。次々と蟲がドームの内側に入ってくる。


 虹色が上空に現れた。


「トラーティオ……」


「二回目なのに、自分達でないと嫌とは我儘め。シュナの野郎、なんつう好かれ具合だ」


 ティダの声が遠い。その意見は違う気がする。しかし、妙に納得もしてしまう。セリムは目眩に襲われた。


——テルム!


——テルム!


——逃げようテルム! 何で来るなって言うんだテルム!


 この響きは大蜂蟲(アピス)の子……。


「照らされているあの建造物、サングリアル大聖堂というやつではなかったか?」


 ティダが振り返ってセリムを見た。心配で戸惑う黒い瞳。セリムの意識が遠のく。見えてきたのは黒ではなく赤。


 唐紅の激情。


 大聖堂?


 あそこは処刑地だ。


——炎の向こうへ届け。


——殺されるんじゃない


——俺とアモレは……


 熱くて息が出来ない。


 紅蓮の炎の向こうに、全身を隠した子供達の姿を見つけた。目元しか見えなくても分かる。あんなに大きくなって、立派になり、友や仲間が大勢いるので、きっと鮮やかな未来を進むだろう。


 曇らせてはいけない。


——どうか届け


——届け


——炎の向こうへ届け


——燃えるならば美しい炎に焼かれろ


——断ち切れ……


——獄炎を聖火に……


——慈愛(アシタカ)


——……


——……


——憎しみを断ち切るために許せ


——命の尊さを愛せ


——人も愛でろ


——愛してる



***



【サングリアル大聖堂 最上階】


 飛行蟲の大群がペジテ大工房から離れ、ノアグレス平野に移動した。蟲が十字に円、正円十字(ペジテクロス)を宙に作った。。大地のところだけ欠けた形をしている。飛行蟲だけではなく、ノアグレス平野には、地を埋め尽くす程の蟲の大群。


 柱のように並び、ペジテ大工房からユルルングル山脈方面に道を形成する大蛇蟲(アングイス)。その道の内側には小蛇蟲(セルペンス)。正円十字のところに、大蛇蟲の王(バジリスコス)小蛇蟲の王(ココトリス)がいる。小さな黄色は蟲の王(レークス)だろう。


 一様に瞳が赤色。


 ドームに映る動画に、アシタカは身震いした。十字の鉄か類似金属に磔にされた黒髪短髪の男。アシタカに良く似ている。違うのは、黒子と鼻の形。彼は今まさに、炎に燃やされようとしている。もう体の半分以上が炎に包まれている。


 地震と共に現れた蟲の王(レークス)に連れてこられた、サングリアル大聖堂の最上階。大技師の間のベランダ。祭事にて大技師一族しか入ることが許されない場所。下から煙が上がってくる。サングリアル大聖堂が燃えている。火事? 何故ここに? 磔ではないが、アシタカも炎に包まれようとしている。


〈憎しみを断ち切るために許せ〉


〈命の尊さを愛せ〉


〈人も愛でろ〉


 市街地から煙が上がっている。黒煙に混じる虹色の光。この声は、他の者にも聞こえているのだろうか?


 ドームに映っていた男が全身、炎に包まれた。高笑いが響き渡る。炎が消え、炭になった死体が正十字から下ろされた。全身黒い法衣の者が群衆から飛び出し、白っぽい布を遺体に掛けた。次々と人が駆け寄っていく。次の瞬間、土柱が上がった。


 次々と地面が割れ、空から煌めきが落ちてくる。割れたドームの破片だ。土や空から蟲の大群。激怒を示す真紅の瞳。


〈争うな!〉


〈血を流すな!〉


〈必ずやこのテルムが誓いを果たす!〉


 全身煤だらけの、先程まで遺体だった男がよろよろと立ち上がった。


 爛々と輝く深紅の瞳。


 男が繰り返し叫ぶ。争うな、血を流すな。無意味な殺生をするな。叫び続ける。


〈テルム・サングリアルが告げる! 誓いを守る限り仲立ちし続ける! 両者手を出すな!〉


 号泣しながら、テルムが地に膝をついた。祈るような姿勢。絶叫が悲痛な呟きに変わっていく。この男はテルムではない。息子のアシタカだ。古代の記録? ドームの屋根にそんな機能があったのか? 誰が仕込んだ?


 次々と蟲がペジテ大工房から去っていった。古代アシタカの姿が遠くなっていく。二千年前のペジテ大工房は、一重の要塞だったようだ。ノアグレス平野は紫色に染まっている。


 映像が変わった。


 第一都市大演説場。その前には群衆。


「記者会見の映像? こんなのどこから……」


 かなり上空から撮影されたものだ。ドームの屋根の反射光も映り込んでいる。あの日、国外から撮影していた者など居なかった。飛行船も、飛行機も無かった。


 銃声が轟いた。映像の中のアシタカの左肩から鮮血が飛び散る。


〈争わないようにと考えるのが何が悪い! 血が流れないようにと願う事が悪い筈がない! 私は国を背負って守るために大掟を破った! 隠しはせず裁かれよう! それが国民の答えであるならその恥を背負うつもりはない。撃つなら撃て、狙うはここだ!〉


 自分で自分の姿を見るというのは、何度見ても妙な気分。記者会見の資料は、あまりにも不甲斐ない日だったので見返していなかったが、何て酷い顔をしていたんだ。


 続くのかと思ったら、それで終わりだった。


 煙の勢いが増していて、アシタカは咳き込んだ。背広の内ポケットからハンカチを出して、口に当てる。周りには同じ高さの建造物は皆無。眼下には大勢の者がいて、何やら騒いでいるが、助けは期待できなさそう。


 まさか、蟲の王(レークス)に恨まれているとは思わなかった。明日の結婚式典後に行う各国首脳会談に招く予定で、打ち合わせもしていたというのに。


「何でこんなことに……。僕はついに死ぬのか……」


 アシタカは遠のく意識の中で、シュナに「すまない」と謝った。


 最後なら、何をするべきなのだろう……。

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