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風詠と蟲姫  作者: 彩ぺん
序章

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エルバ連合からの書簡

 召集


 古い盟約であり細々とした交流を続けているエルバ連合各国へ通達された書簡を溜め息交じりに寝具の上へと置いた。


 エルバ連合に所属する崖の国レストニア。象徴に共喰い双頭竜を掲げる辺境の小国。


 かつて大国から追い立てられ、エルバに救いを求めるも追い立てられた断崖絶壁。


 先祖はこの不毛な大地を必死に開拓し、挫折を重ね、辛酸を舐めて住み良い国へと育て上げた。


 しかし、500年もの月日において国内のいざこざはあれど外界との争いなく過ごしてきたこの国が本格的に巻き込まれるとなると侵略は目に見えている。


 戦う事を知らぬ、日々の生活で手いっぱいの民。


 故に大国からこのレストニアを隠匿し庇護下へおくエルバ連合への義理立ては必要不可欠。祖父の代、祖父の弟、ジークの勇猛果敢な大叔父は屈強な男衆幾人かと貴重な中型飛行船と共に召集に応じ、誰一人帰らぬ人となった。


 それより以前にも2度あったという。


 失われたのは王族といくばくかの男、それにありったけの食料と飛行船。けれども、それだけで済むのは安いものかもしれない。


 老い先短い、半ば引退している族長である自分が馳せ参じることが最も合理的であるのだが生憎グリークは腐敗病に侵され寝具から動くことが叶わない。


 実質国を治めているのは先妃メルルとの成した長男ユパ。彼は今は亡き父、先代族長に指導されたためか元々性格が似ていたのか厳格で非常に優れた統率者である。新王として妻と共に厳しく、時に優しくレストニアの平和維持に貢献してくれている。


 同妃の娘、長女クイは夫とともに城の給仕、食物管理に携わりつつ民と城との間に立ち、兄の政治を支えていくれている。


 二人にはこの国を支えていってもらわなければならない。


 同妃の息子でユパとクイとは歳の離れた弟である次男、クワトロは生来の機械好きを生かし機械技師として研究と開発に没頭している。レストニアが有する3機の飛行船を管理し、エルバ連合各国との細々とした交易を任せてきた。


 エルバ連合の各族長とも面識があり、相応しいといえばそうであろう。


 けれども彼には機転が足りない。戦闘も得意ではない。技師としては優秀だと耳にしているが、人付き合いは苦手で押しにも弱い。軽薄な態度で飄々とした態度。気の強い、豪傑な妻達の手腕に助けられている。夫婦で戦場へなどは論外であろう。


 残る子供は二人。


 先妃はクワトロのすぐ後に4人目の子を成すも、熱病後に胎児と共に冷たくなってしまった。


 ジークはこの頃から四肢に違和感を感じていた。腐敗病が内から自身を蝕み、身体が石のように固まっていく恐怖。


 それを埋めようとクワトロの乳母であった調薬師リシャを後妃へと迎えた。彼女は長らく子に恵まれなかったが娘を産んでくれた。ケチャは母を慕い調薬師として立派に成長している。


 ケチャは乳母であったクワトロの正妻ドーラに似て気が強いが、人心掌握や戦争などとは無縁に育った。息子がいるのに娘を戦場へ駆り出す事はあり得ない。


 リシャはその後さらに息子を出産したが、新しい命と引き換えに息を引き取った。それが三男セリムである。


 間に子が3度流れ、最後の毒を母親が引き受けたためか病一つなくすくすくと成長してくれた。


 蟲森で身を守るべくアスベルから剣技の指南を受け、大鷲凧を自在に操るために鍛錬を重ねた肉体。洞察力鋭く俊敏な身のこなし。


「セリムが妥当か…。」


 溜め息と共に、呟く。


 彼は赤子をすぐ亡くしたクイを乳母として育った。


 上の息子達と違い、末の息子と過ごす時間は酷く少なかった。足腰が徐々に弱り始めたジークとやたらと好奇心旺盛であらゆる事に興味を示し国中動き回るセリム。頭の良い子だった。というよりも知識に貪欲で探究心が強かった。


 セリムの何故、何、どうして、攻撃は国中の者を困らせた。


 ジークもまた、息子の話を聞いてやろうにも政務とユパへの指導に追われなかなか相手を出来なかった。


 だからこそ、死地へやるのを躊躇う。死んだ妻に良く似ている容姿をしている忘れ形見。快活明朗な末の子は目にいれても痛くない程可愛かった。我儘と身勝手を許してしまうほどに。


「父上、セリムよりも老い先早い私が行きます」


「お前はもうこの国を背負っている。カイへの後継指導も途中だろう」


「クワトロとドーラ、それにセリムが支えればカイは大丈夫です。それに父上の灯が消えるその瞬間まで見てくださるでしょう」


 ユパが真一文字に口を結んで拳に力を入れた。弟夫婦の息子カイは父親に似て優しすぎるきらいがある。これから逆風吹き荒れる国を背負うには幼すぎる上に力不足だ。


「お前も感じているだろう。」


 セリムが真っ先に懐いたのはユパだった。彼もまた異母弟を息子のように溺愛していたことはジークも良く知っている。


「あれは鳥の人だ。どちらにせよ国を飛び出していく」


 せめてレストニア王子という足枷をつけて野に放てば繋がりは途切れないかもしれない。


「民が暴動を起こさないように上手く立ち回れ」


 返事をしないでユパは眉を顰めてじっとジークを見つめた。深い悲しみと、どうにもならない苛立ちと、理不尽さに青緑の瞳が揺らめいていた。


 その両瞳に映る己も同様の光を帯び、震えていた。


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