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風詠と蟲姫  作者: 彩ぺん
七章 大嵐の前の静けさ

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王子の帰国と異国からの来訪者 7

【風車塔 会議室崖の間】


 被災者および行方不明者の確認が終わり、今後の土砂災害の被害確認の手筈が整うとユパは区画長に解散を言い渡した。幸いにも死者、行方不明者は(ゼロ)


「元々強風。更には注意喚起をして貰って助かったな」


 ユパは胸を撫で下ろした。海側下区画にて土砂崩れも起こっていたので、奇跡と言っても良いかもしれない。昨年の似たような災害では二名が海へ転落死、落石で一名亡くなった。怪我人も、もっと多かった。


 ユパは一番末席で沈黙貫くティダに視線を向けた。会議の途中から参加したが一切発言していない。


 土砂崩れが起こった場所を事前に危険だと注意し、雨足強くなれば実際に海側下区画で人払い。その後は留め具が外れた防護網の回収。豪雨に雷、そして飛来物まである中で被災者救助。その後、怪我人の確認や人民誘導までしていた。今回の災害にて、人命救助最大の立役者なのに、ティダはずっと口を閉ざしている。時折遠い目をしていた。


 他国なのに、来国初日なのに、圧倒的な先導力。何故これで皇太子ではない。何故、ベルセルグ皇国の皇帝はティダを大人しく国から出した。


 元々、ティダの目の上は痣になっていて、そこに今度は頭の包帯。5針縫ったというのに、痛々しいのに、ティダは涼しい顔をしている。


 区画長達は立ち上がる前にティダに次々と会釈した。ティダが片手を軽く挙げてから、立ち上がった。


「終わったようですのでユパ王と近衛兵長に嘆願があります。このまま近衛兵を可能な限り集めて頂きたい。全員の実力を把握をしておきたいです。それから非常時の対応を口頭、書面どちらでも構わないので教えて下さい」


 嘆願と言いながら、目が強制と訴えている。この国で、父親以外に怯む相手が現れるとは夢にも思っていなかった。


「今夜、祭壇(さいだん)大広間にてティダ皇子を正式に紹介するので、明日以降にしろ。午前中のうちに近衛兵長から国防関係の引き継ぎ。その間近衛兵は災害後処理。明日の午後から近衛兵長の肩書きを付ける。ヒルトンと連名だ。その怪我でいきなり働かせる訳にはいかん。医師の指示に従ってもらう」


 ティダがその通りだ、というように僅かに口角を上げた。背中がゾワリとした。試されただけだとハッキリ伝えてくるとは、タチが悪い。

 

「早急でした。私はどうもせっかちでして。ええ、近衛兵長ヒルトン殿の肩書きはそのままでお願いします。一時的な滞在の予定なので」


 一瞬、ティダが遠い目をした。


「ユパ王、会談が(こじ)れたようですがアシタカをここに呼びますか?」


 ユパは目を細めた。何故そんな事が分かる。耳が相当良いのはもう知っているが、会談は一つ上の階の風の間。真上の部屋でもない。


「ああ、蛇一族です。アリババ王子とシュナにつけています。本来護衛ですが、まあ盗聴って奴ですね。一部だけですけど」


 ティダが嘘くさい愛想笑いを浮かべた。近衛兵長ヒルトン、区画長達が騒めいたが、ティダは素知らぬ顔をしている。アスベルが無言でユパに目配せした。同意見だろう。


「アシタカ殿を呼んで貰えるなら呼んで欲しい」

 

 次の瞬間、もう扉からノック音が鳴った。内心ドキリとした。アスベルが立ち上がって扉に近寄った。


「呼ぶ前に探し出したようですね」


 ティダの言う通り、アスベルが開いた扉の向こうにアシタカが立っていた。


「クイ姫にこちらだと(うかが)いました。ユパ王、アスベル宰相、少々助けて頂きたいです。ああ、ティダ。やはり働いているのか。休めよ。主治医命令だ」


 ティダがアシタカを見ず、軽く会釈だけして部屋を出ようとした。


「大人しくしないと重症の診断書を書くぞ。入院が必要だってな。提出先は当然君の妻だ」


 静かに振り返ったティダが、アシタカに冷笑を浮かべた。


「なら休もう」

「ここで休め」


 アシタカとティダの言葉が重なった。アシタカがしたり顔をしてティダが座っていた位置を掌で示した。


「病状に変化がないか確認する為に、見張りに引き渡すまでは近くにいて貰う」


「んだよ、俺に何をさせたいんだ」


 ティダが舌打ちして着席した。


「いや、何も。休むと言って休まないだろうから見張るだけだ。軽傷?頭だ。大人しくしていろティダ。心配されたくなければ安静にしろ。シュナにあんな顔をさせるな」


 アシタカが腹立たしいという表情で、ティダの胸に指を突きつけた。鬱陶(うっとう)しいというようにティダがアシタカの手を払った。


「お見苦しい所をすみませんユパ王。それで助けて欲しいのは、アリババ王子の事です。正式会談の前に、()()崖の国に居合わせた僕達が意気投合したということにしたいのですが、どうも仲良くしてもらえそうにありません」


 アシタカが心底困った、というように眉毛を下げた。


「目の前に殴られようとしてる奴がいるのに眺めているんじゃねアリババ。またかよ。本当にパズーの事を恨んでいやがるな。それにしても、鼻高王子は相当ヴァナルガンドが好きだな」


 アシタカがティダの隣に腰掛けて机に頬杖ついた。


「あれだけ怒ればセリムもアリババに寄り添うはずだが、どうだろう。怒ってないと見抜かれそうなんだよな。シュナが上手く運んでくれれば良いが。パズー本人がいるともっと的確な言葉で刺してくれるんだけどな……。秘書なのに帰国を断固拒否。困った男だ」


 ユパは内心驚いた。またパズー。話が見えないので、ユパは二人の向かいに腰掛けて、問いかけた。アシタカがザッと会談でのアリババの様子を語った。アシタカがパズーを異種生物との通訳として、第二秘書にしたことも判明した。


「慎重さが、反抗のように見えるので、正式会談の前に矯正(きょうせい)しようかと。西の三ヶ国の権力者に、あけすけない不信感。確実に手の内を見せたら従いますとは駆け引き下手過ぎる。僕がグスタフなら災害に乗じてアリババを崖から突き落として、アラジンを傀儡(かいらい)にするな」


「エルバ連合筆頭国の王太子。西側の覇王と蛇を知らんだけだろう。持ってる権力の大きさを見誤っているから、教えてやったがまだ分からんとは。正式会談は荒れるな。そもそもお前の威厳の無さが原因だアシタカ。即座に尊敬されない器の小ささもだな」


 アシタカがティダを睨みつけた。


「そうだ。だからティダ、お前が僕の犬でないとならない。僕は一般市民や弱き者には好かれるが、ああいう男には見下される。議会内でもそうだし、週刊誌にも書かれたい放題。聖人一族の恥晒し。欲にまみれた独裁者。父上は遠いな。預言者と言われる程先を見ている得体の知れなさ。家だと呑気で娘に甘々なジジイだったのに」


 ティダがアシタカの髪をぐしゃぐしゃに撫でて、高笑いした。アシタカがブスッとしたしかめっ面に変わった。


「俺を使いたければ(えさ)を寄越せっつったろう?優劣的に結婚式典での会談が最後の予定だ。俺の役は後はテュールにぶん投げる。しかし軟弱臆病テュールにも威厳はないぞ。王者の風格は他を探すか、アリババを蹴り上げ続けろ」


 他を探すか、の時に二人が揃ってユパを見た。何が助けて欲しいだ。とユパは心の中でため息を吐いた。


「全面的に前へ出ろと言うなら断る。崖の国はエルバ連合の末席。私は末席なりの対応をせねばならん」


「残念ながらそうはならない。そういう器だ。自然と前へと押し上げられる。自覚があるだろう?何せ隣国の王太子をしばらく預かって欲しいと打診されるくらいだ。この国の雰囲気もそう。そしてお前には巨大権力を持つ俺がついた」


 セリムがペラペラと話したのか。ユパは後でセリムに雷だなと、セリムへの苦言リストに加えた。アリババの味方にならずに何をしている。アシタカ達に助力するのは良いが、尊敬のあまりに自分がエルバ連合崖の国の王子という立場が頭から抜けているのだろう。


 アシタカが背筋を伸ばして、精悍(せいかん)な顔付きになった。自分もそこそこ威厳や品格を(かも)し出しているという自覚は無いのかもしれない。並んで見劣りするのアシタカではなくユパなのに、本人はそう思っていない。自信が無く虚勢を張っているのは、そんなに変わらないのかもしれない。ティダが少しだけ肩を揺らして、ユパに「その通り」というように口角を上げた。


「全面的に裏に回って下さい。我が父ヌーフのように。各国首脳陣の顔を立て、各国を立て、僕が間違っていれば、矯正。必要があれば前に出てきて下さい。ユパ王、貴方にも巨大権力が乗ったので出来ます」


 アシタカがティダを親指で示した。ティダが背もたれに寄っかかって嫌そうな顔をした。アシタカの目的はあくまでティダだ。逃げるので、崖の国ごとティダを使うと伝わってくる。完全に巻き添えだ。アシタカとティダ、両方から突き刺される。セリムは本当に厄介な案件を持ち込んできた。


「俺は表なんかに立たねえ。この世の頂点になのに、どっかを代表したら小さくなるじゃねえか。ユパの血脈は十分。何せ聖人一族の血を引くドメキア一族。それも正統な血脈だ。バジリスコスに認めて貰おう。誠狼(ウールヴ)が認めれば若手大狼も付く。兄をひたすら尊敬している弟があちこちで権力手に入れてきたのでそれもくっつける」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これか。皇太子ではない理由。のらくらと避けてきたに違いない。そしてユパにも目を付けた。


 この男に国を荒されるというのは、間違いなかった。ユパの側近となる為に今日のように働くだろう。国を捨てたとは真っ赤な嘘だと思っていたが、アシタカに自分の助力だけでは足りないとユパまで働かせる算段だったか。読み間違えた。


「今日の活動も、今後のセリムへの奉仕も祖国の為にか。代わりにベルセルグ皇国を担うのは良いが、仕事を増やしおって。人員不足の国だ。しかと働かせるからな。我等レストニア王家は西から流れてきたが、本当にドメキア一族の血を引くのか?偽り看板を背負うつもりはない」


「これだこれ。すぐにこういう発想をする。そしてこの目。俺は単にヴァナルガンドが危なっかしいから来ただけだ。縛りつけるんじゃねえ」


 不機嫌そうなティダの横で、アシタカが爽やかな満面の笑みを浮かべた。


「捨てられなくていくつも手立てを考え、あちこちに恩を売る男です。是非、縛りつけて下さい。陰謀で追い出された皇子が祖国を愛し、エルバ連合を頼っていると言いふらして下さい。僕もそうします。歴史を掘り起こせばこの国とドメキア王国の血縁関係はすぐ出て来ます。五百年前に内乱を起こそうとした民を率いて東へ去った王子オルゴーが崖の国の始祖です」


 ユパは腕を組んで(うな)った。下手な動きをすると、この材料で押し上げられる。ペジテ大工房の姫ラステルの夫は崖の国の王子、世間的にそういう肩書きもついてしまっている。ラステルは蟲森の村娘です、とはとても公開できない状況になっている。


「ついでに言うと、アシタカと同じ聖人一族の血も混じっている。聖人一族の血は二千年前に東に去ったので、東の地自体がその血脈だろう。連れてきた大蛇蟲(アングイス)小蛇蟲(セルペンス)はこの国の者の匂いが大好きなようだ。早速あちこちで役に立とうと、俺に(やかま)しいくらい訴えてくる。豪雨と崖崩れの警告もその一つだ」


 ティダの懐から小さな蛇が現れた。カイの前腕くらいの大きさだ。(わし)のような頭部に、逆立つような鱗をした見たこともない蛇。


「蛇一族の小蛇蟲(セルペンス)か。王家の守護神が(わし)と竜なのはこういうことなのか?竜は蛇だとも言われている。祖父から聞いたが、我が一族は生き物、特に鳥や蛇に好かれる者が多いという。しかし蛇とは違って賢そうな目だ。ティダ皇子やセリムは語れるのだろう?」


 少しセリムが(うらや)ましかった。守護神が本当にいて、顔見知りになり、気に入られた。セリムはユパの知らない世界を知って見聞を広げている。小蛇蟲(セルペンス)が机に乗ると、優雅な会釈のように頭部を下げた。ユパも頭を下げた。


 部屋を出ずに遠巻きにユパ達を眺めていた区画長達が、近くに寄ってきて倣うように頭を下げた。


「パズーも語る。噛むのを許してくれるのならユパも蛇の子にすると言っている。死ぬかもしれんがな」


「仕事が山程あるので、一か八かなぞ困る。こちらの言葉が分かっているなら、意思疎通は図れるだろう。むしろ文字を覚えるつもりはないですか?手信号のように貴方の一族特有の物も作れるかもしれない。こんなに小さな頭で、自分達だけではなく人語も理解するとは人より高度な脳かもしれない。どうだろう、小蛇蟲(セルペンス)殿」


 机の上で小蛇蟲(セルペンス)がぴょこぴょこと跳ねた。それからぐるぐると体を回して、再び会釈のように頭部を下げた。ユパはふと気がついた。


「シュナ姫のティアラはこの小蛇蟲(セルペンス)殿ではないか?」


「ああ、美しい自分達は蛇の女王の冠に相応しいと乗っかっている。護衛でもあるが、着飾らない蛇の女王を飾りたいらしい。不埒な男や害なす者は毒殺される。種々の毒を出し入れ自由らしい。ドメキア王国には毒姫が生まれてきたらしいが、小蛇蟲(セルペンス)達が守っていただけだ。蛇一族は、古い時代はもっと王家に近かった」


 静かに語るティダがそっと手を伸ばすと、小蛇蟲(セルペンス)がティダの腕を()って肩に乗った。少し遠い目をしているのは、小蛇蟲(セルペンス)と語っているのだろう。穏やかで優しい眼差しと、さざ波のような静けさ。ティダの様子一つで、部屋中の空気がガラリと変わった。これがティダの本当の中身。セリムが尊敬するティダの本質。ティダに目配せされたので、ユパは区画長達に外へ出ろと目で訴えた。


「アスベルとヒルトンは残ってくれ」


 ティダの視線もアスベルとヒルトンに向けられていた。区画長達が会釈して部屋を後にする時、小蛇蟲(セルペンス)もティダの肩の上で反対側を向いてまた会釈のように頭部を下げた。この行動はもう、会釈で間違いない。アスベルとヒルトンがユパの隣の席に座った。


「蛇一族は神でも何でもない。かつて祖先が受けた恩を返し続けている。大地に栄養を与え、王に相応しい者を守り、時に奇跡のような事もした。もう守護も終わりだと思ったところにシュナが現れた。病で長く生きられないだろうからと、すぐに失うのを恐れて肩入れしなかったが、意外に長生き。ついには完治。なので恩を忘れた国を捨て、シュナと新しい国を建国しようとした。シュナがドメキア王国を捨てたらドメキア王国は蛇一族の加護を失う。恐らく滅ぼされる。かなり怒っているからな」


 ティダもアシタカも複雑そうな表情をしている。小蛇蟲(セルペンス)がティダの肩の上で、威嚇するような鳴き声を出した。それから頭部を横に振って、ツンと頭部を上にあげた。


 怒っているが仕方ない。そういう事を言いたいのだろうか。


「シュナはドメキア王国を捨てません。背中を向けたらドメキア王国は蛇一族によって滅ぶと分かっていますし、その前から骨を埋める覚悟を決めていましたから。国を守る為にどんな策も練るでしょう。もう動いています。信仰の復活、政治改革、僕の後押し……」


 アシタカが悲しそうに瞳を揺らした。


「ドメキア王国だけじゃない。俺に恩があるとベルセルグ皇国に手を伸ばし、ヴァナルガンドとラステルに恩があるとエルバ連合にも真心届ける。大狼に蛇一族に蟲一族。あの女、死ぬまで与え続ける側だ。どれだけ手酷いことをされても、ちっとも折れない。せいぜい皮肉と嫌味を言うだけ。見た目があんな風に変わったので、シュナを囲う者が増えていく。そして争いが生まれる」


 セリムの件と同じかとユパはまた唸った。


「シュナには彼女をずっと守護してきたドメキア王国騎士がいます。中でも兄と姉は手練れ。そこに蛇一族。ティダの戦友の大狼。僕と護衛人。本人も立場を理解して大人しくしますし、自身が争いの火種となりそうになれば上手く立ち回るでしょう。油断すると前に出てくるので気をつけないとならないが……」


 アシタカが頭が痛いというように、額に手を当てた。


「しかと囲っておけアシタカ。今も小さき王(バシレウス)小蛇蟲(セルペンス)に見張らせている。シュナの奴、アラジンを突っついてるぞ。ヴァナルガンドの駒にするつもりだ。お前の横にアリババを並べないつもりだな。だからアリババを蹴り上げるのも大して手伝わない」


「やけに大人しいと思っていたが、そうなのか?僕にはよく分からないな。話が逸れましたユパ王。アリババ王子の話です。僕は怒っているということになっているので、お願いします」


 ぺこり、とアシタカが頭を下げるとティダが鼻で笑った。


「お前が部屋から出て行ったあと、ラステルがお前が怒っていないと暴露したぞ。で、シュナがお前の手柄を披露。まあ、鼻高王子は城塔内、お前のことを探しているようだ。ラステルは場をかき乱すというか、戻すというか、妙な女だ。ヴァナルガンドも変人だから変人夫婦だな」


 ユパは思わず、お前が言うなと口に出しそうになった。アシタカが嫌そうな顔でティダを見据えた。


小蛇蟲(セルペンス)大蛇蟲(アングイス)から聞き出しているのか。まさか、プライベートまで盗聴していないよな」


 ティダがしたり顔をしたので、アシタカが(ひる)んだ。ティダが肩を揺らして、ニヤニヤしながらアシタカの肩に手を回した。


「蛇の女王シュナは繁殖期だそうだ」


 アシタカが咳き込み、ユパも思わず目を丸めた。アスベルとハンネルも固まった。アシタカの顔は真っ赤。


「違う!何もしていない!嘘をつくな!淑女を貶めるな!」


 アシタカがティダの腕を払い、胸倉を掴んだ。中腰でティダを見下ろすアシタカのこめかみに、血管が浮いている。


「んだよ。まだ何にもしてねえのかよ。捨てられるな」


「貴様と違って捨てられるか!君の真珠(パール)は見限るのが早いぞ。余所見をしたら、即ゴミ箱行きだ。彼女の基準で大事にされなきゃ、やはりポイっと捨てられる」


 今度はアシタカがしたり顔をして、ティダが動揺を見せた。


「アンリは俺に夢中なので無理だな」


「まさか。たかだか恋人同士。明後日には離れ離れだし今日でお別れかもしれないな」


 ティダが勢い良く立ち上がって、今度はアシタカの胸倉を掴んだ。並ぶとほぼ背丈が同じくらい。鍛えているのと、雰囲気でティダの方がかなり大きいように見えたがそうでもなかった。


「あ"あ"⁈何が恋人同士だ」


「ペジテ大工房大技師及び一族の婚姻は議会、大総統、裁判長の承認が必要だ。書類は作ってやったぞ。後は二人の署名と僕の捺印が必要だ。()()()()()()()()()アンリは独身。皆が狙っていて、彼女もより良い男を求めるかもな」


「大狼には書類なんぞ関係ない。そもそも俺より良い男がいるか!」


「阿呆め。アンリはペジテ大工房の民だ。大狼ではない。俺より良い男?いるじゃないか、目の前に。まず向こう側にユパ王がいる。蹴り上げ終わったアリババ王子。有能な議会議員もいるし、他にも作ろう」


 ティダが殺気の強い目を向けてきた。


「後妻を(めと)る気はない」


 否定の言葉を絞り出したユパを、ティダが観察している。小柄で子供のようにも見えるアンリは、好みでもない。そんな事を口にしたら噛みつかれそうだ。


「ふはははは!僕の犬を延期しろティダ・ベルセルグ!働きたいが平凡な家庭が欲しいアンリがペジテ大工房の民を捨てるか!アンリの両親がこのまま独身のままにしておく訳がない。幾度も見合い話が出ているからな。捺印して欲しければひれ伏せ」


「残念だなアシタカ。もうその手は使えない。アンリは絶対に俺についてくる。調子に乗ると聞きたくない話をしてやるぞ、この劇薬め!大総統代理の座から引きずり下ろしてやる!」


「逆だ。君を縛りつけるとアンリの後押しとなる。よってアンリは僕の味方をするだろう!結婚式典にて僕は大総統に昇格予定だ。史上初の他薦と国民の嘆願書による大総統就任。支持率はうなぎ登りで今や七割超え。国民に愛されるこの僕を引きずり下ろせるか?」


 火花を散らして睨み合うティダとアシタカの剣幕(けんまく)は激しい。


「捨てられるようにしてやる」

「捨てられるようにしてやる」


 同時に同じ言葉が放たれた。


「君が僕の犬だ」

「お前が俺の犬だ」


 また同じ。


「将棋で負かすと言ったが完膚なきまでに負かしてやる。シッダルタが」

「提案で負かすと言ったが完全敗北させてやる。ヴァナルガンドが」


 またほぼ同じ。


「真似をするなアシタカ。他力本願の卑怯者め!」

「真似するなティダ・ベルセルグ。他力本願の卑怯者め!」


 ヒルトンが小さく笑うと、アシタカとティダが同時にヒルトンを睨みつけた。それからまた二人で睨み合う。


「貴様のせいで笑われる」

「お前のせいで笑われる」


 再び二人が火花を散らすのが馬鹿らしくなってユパは背もたれにもたれかかった。まるで痴話喧嘩だ。中身は正反対のようなのに、気が合うらしい。ここまで好き放題言い合うということは、ある意味仲が良く完全に信頼しているのだろう。


 ノック音がして、扉が開いた。セリムとアリババが並んで立っている。二人とも顔が強張っていた。アシタカとティダが、一緒に顔を動かした。セリムとアリババの姿を確認したアシタカとティダが、無言で見つめ合った。互いに目を細めて、どう出し抜くかという顔つきをしている。


「何だアリババ王子。まだ教え足りないか?」

「アリババよ、頭が高いとは思わんのか?」


 平静を装っているが少し青白い顔のアリババが口を開きかけた。アリババが何か告げる前にセリムがアリババとアシタカ、ティダ両名の前に進み出た。


「いい加減にしてくれ!二人揃って己に相応しい言動をしろ!出来るのに何故しない!脅す必要がない相手を脅すな!やり過ぎだアシタカ!僕の友を脅すな!練習しなくても、当日君達が支えてやれば済むことだ!」


 アシタカとティダが二人とも肩を揺らして苦笑いした。アリババがほんの少し安堵の様子を見せた。


「アリババの発言の邪魔をするな。まあ、殴られている者を眺めてないのは褒めてやろう」


 ティダがセリムの頭に手を置いて、髪をぐしゃぐしゃにした。セリムが止めろと暴れると、ティダがセリムを羽交い締めにした。


「そうか。友か。てっきり敵対しに来たのかと勘違いした。僕の友であるティダの国と敵国な上に、かなり不審がられて探られていたからだ。そうか、セリムの友か。エルバ連合の王子同士で知人なのではなく友か。ならきっと親しくなれるだろう。僕もセリムの友で彼をとても信頼している」


 ティダがセリムの腕を引っ張ってユパの背後に追いやった。


「青二才にも程があるぞアリババ!見よ、このアシタカは懐が深すぎる。何もかも気にしていない。ちょっと試しただけ。豪雨のせいと見せかけられて、崖から突き落とされなくて良かったな」


 高笑いするティダが、もがくセリムを取り押さえている。アシタカがニコリと穏やかな微笑みをアリババに向けた。アリババは演技も出来ない程驚いているようで、茫然とした表情。


「嘘を詫びようアリババ王子。もう一度初めから()()()話をしませんか?美味しいお茶を飲みながら。今夜なら祝いもあるし酒でも構いません。僕は酒癖が良くないが、今日なら見張りがいる。しかし友が怪我で禁酒なので酒は後日が良いな。さて、こんな風に非公式会談なので何度でもやり直せる」


 アシタカがアリババに握手を求めた。しかしティダがアリババのターバンの上に手を置いて無理やり頭を下げさした。


「国が肩に乗っていると気負い過ぎだ。人使いも立ち回りも下手過ぎる。どちらが本当なのか見抜けという挑戦状だと思うことにします?阿呆か。どれだけ上から目線だ。得体が知れないのだから歯向かうな。あの時点で決裂でもおかしくない。軽くかわして、ヴァナルガンドと妃から情報を入手すりゃあ良いだけだったのにな。何の情報もなくいきなり真っ向勝負。おまけにボコボコに殴られた」


 高笑いしながらティダが部屋から出て行こうとした。さりげなかったのに、アシタカが慌てたようにティダの腕を掴もうと手を伸ばし、叫んだ。アシタカの手は宙を掴んでティダの体は捉えられなかった。


「貴様!だから安静だと言っている!見張りに引き渡すまでは僕の視界にいて貰うと言っただろう!主治医命令は絶対だ!セリムの手前、僕が折れたのに何故邪魔をする!毎度毎度、邪魔ばかりしやがって!このクソ野郎が!捺印しないぞ!」


「お前の声の方が頭に障る。黙れ劇薬。俺を犬にし続けようというのが気に食わん。俺が蹴り上げると分かっていて、一人でやらせるものかというのも腹立たしい。こっち側に来ようとするんじゃねえ。アンリにある事無い事吹聴されては困るから去るのは止めよう。酒は飲ませろ。祝いに酒も飲めんとは最悪最低だ」


 ティダが部屋を出るのを止めてユパの背後に来た。セリムがティダに飛びかかろうとして、避けられた。


「逃げるなティダ!君が己に相応しい言動をしないからだ!アシタカは君にも僕にもあちこちに気を回している!過ちもすぐに直した!僕の目付監視役なのに僕がアリババを庇わないことを、わざと注意しなかったな!アシタカがアリババに何を求めているかも分かっているのに、わざと僕に教えなかった!」


 セリムがティダを掴もうとして、ヒラヒラと避けられている。


「目の前に殴られようとしてる奴がいるのに眺めているんじゃねえヴァナルガンド。もう知っていることを教えねばならん。アシタカが過ちを直した?ドメキア王国で何を見たんだよ。学習能力が無いのか?」


「あれはグスタフ王が敵意剥き出しだったからだ!アリババとは違う!アリババはアシタカ達と肩を並べられると見せないとならないと気負っていただけだ!」


 セリムがムキになってティダを追いかけたが、一周した所でアシタカに足を払われて転ばされた。簡単に転ばされる程、セリムは視野が狭くなっていたらしい。あまり見ない姿にユパは席を立って、転んだセリムを立ち上がらせた。


「怪我人を動かすなセリム!貴様は黙って座れティダ・ベルセルグ。良いか、頭部外傷だ。大人しくしろ!」


 アシタカが激怒という表情でティダとセリムを睨んだ。腰に手を当てて仁王立ち。前髪から覗く額には血管が浮いている。ティダが涼しい顔で椅子に座った。


「セリム、僕はグスタフ王に何をした?」


 セリムが困ったようにユパを見た。ユパは知らないのでセリムに話して貰うしかない。


「ありのままを話せば良いだろうセリム」


 ユパはセリムの肩に腕を回した。一瞬、ティダと目が合った。ティダが首を横に振った。何となく察しがついた。ティダとアシタカの本当の目的はアリババではなく、セリムを潰すことだ。いや両方か。セリムに外交へ出てこさせたくないので、引っ掻き回してセリムにまだ役に立たないという烙印(らくいん)を押したいのだろう。普段目ざといセリムは気がついていないように見える。


「何って……侵略せずに平和に、豊かになれと要求した。グスタフはアシタカを疑い続けて王家にも家臣にもそっぽを向かれた……」


 アシタカが首を横に振った。


「武力振りかざしてな。国民に新たな王を選ばせようとした。現国王が最適であれば望まれると言ったが、間違いなく引きずり下ろされると考えていた。僕に思想が近い王を選ばせたかったからだ。脅迫だよ。ペジテ大工房の民も脅した。許しを選ばないなら、死ね。君は見ていたはずだ」


 セリムが言葉選びを悩んでいると、アシタカがセリムの胸に指を示した。


「かつて蘇ったと偽った聖人アシタカ。嘘と偽りで塗り固めた人生がペジテ大工房を二千年も存続させた。平和であれと恐怖で脅し続けた。地獄に堕ちたかもな。僕も脅迫を止めない。続ける」


 セリムが首を横に振った。アシタカがアリババをチラリと確認してから、セリムに視線を戻した。セリムがアシタカのわざとらしい態度に眉根を寄せた。


「だから止めろアシタカ。アリババを試すな。もう分かってくれている。アシタカ。君はこう言ったじゃないか!血が流れれば交渉は白紙。また一から考える。記者会見の時だって、あんな状況で許しを選んだ。しかもティダやシュナの庇護まで考えて悪役に回ろうとした!さっきシュナさんに聞いたが、もうボブル国に……」


「信じることは難しいが、先に信じよ。亡き父の言葉だ。先に信じ、与える。僕がボブル国に何かをしたと知って、未だに黙っている相手と何の交渉をしろと?僕はシュナやセリムになるつもりはない。セリム、君の信念は素晴らしい。シュナを四方八方茨の道に閉じ込めた。君が愛する蟲達も似ている。そして君自身。この許して刺され続ける者は誰が救済する?僕だ。その為なら恐怖政治をする悪魔にだってなるさ」


 セリムが悲しそうに眉根を寄せた。アシタカの目の光は強い。以前この国を訪れたのはまだ最近なのに、胸に宿す覚悟が違うと伝わってくる。


「アシタカ……君はそんな風にはなれない。恐怖政治の偽装をしても、皆が気がつく。常に前を歩いて、進んで、いつだって先に与えようとしてるじゃないか。アリババに手伝って欲しいと素直に頼んで、自分の数々の功績もしかと語れば良いだけだ」


「語ってどうする?真実か決めるのは相手だ。世論が認めれば僕は聖人アシタカ。未来永劫名が残る。聖人の名を与えられて聖人一族として相応しいようにと育ててもらった。名折れになりたくない。それが亡き父の祈りと願いだ。逆なら処刑台行き。各地を植民地にしようとした史上稀に見る極悪人。最悪の親不孝だな。妻も道づれにする最悪の夫。しかしそれでも僕がいれば良いと言ってくれる」


 アシタカがセリムからティダへと視線を移動させた。アシタカの燃え上がるような闘争心宿す、烏羽色(からすばいろ)の瞳がティダを捉える。


「自分の誇りのために本物の聖人になりたいと思っていたが、変わった。この世で最も幸福になるべき女性をしかと幸せにする。地獄行きは御免だ。処刑台送りでも構わないというのは却下。絶対に高みに登ってやる。必ず外界でも至宝と呼ばれてみせる」


 ティダがアシタカと同じような、闘争心を瞳に宿している。二人の目と目の間に火花が散った。


「シュナが許せないのに許すという地獄に残ることこそ、許せなかった。少しは身軽になっただろうが、まだまだだ。この世の全てを与えられる男を捕まえたのに、何が欲しいかと聞いてティーセット。おまけに、渋々語るくらいだ。セリムといい、シュナといい、訳が分からない。特に君だティダ・ベルセルグ。西の次は東。東の次は海の向こうか?どいつもこいつも苦労ばかり背負うから、僕が世の中の仕組みごと変える。傍観者こそ許さない。どいつもこいつも無理矢理にでも働かせてやる。よって働けアリババ」


 アシタカがアリババの目の前に立った。頭半分、背が違うのにアシタカの方が大きく見える。同じ白い服で、アシタカは宝飾などで着飾っていないのにアシタカの方が格上に感じる。威厳が無いなど、無意識にも程がある。


「セリムが化物と呼ばれる蟲に知性があり、穏やかだと見抜いた。セリムがティダ・ベルセルグという意味不明の男の真の中身を見抜いた。セリムがシャルル王子というどうしょうもない男が実は根が良い男だと見抜いた。セリムが子を戦場に送ったグスタフの中に子を思う気持ちがあると見抜いた。よってセリムが友と呼び、さらには推薦(すいせん)までする男はそれだけで信頼するべき人材。逆は知らん。己で決めろ。時は金なり。謝罪なんて時間の無駄だ。何せ怒っていない。次は明日の朝九時。議題は同じ」


 圧倒的な空気で口を挟む隙がない。アシタカが腕時計を確認した。


「休日は働かないとシュナと約束したんだがな。散策ということにしよう。建前というのは大事だ。シュナはラステルと料理で僕は散歩。観光に来て、のんびりできる良い休日だ。なのでセリム、ティダが頭部外傷なので見張ってくれ。逃げられるなよ?アンリに引き渡せ。ソレイユさんとかいう謎の女性の相談と君の理想の話は明日の正午、王の間にて。以上」


 アシタカがグッと伸びをして部屋を出て行った。本当にのんびりとした雰囲気で、穏やか。


「あの良く回る口と、有無を言わさぬ空気。分かっているのかいないのか、本当に腹立たしい男だな。かと思えばあの穏やかさ。二重人格だなあいつは。俺を背負うというのが心底気に食わねえ。俺こそがこの世の頂点だから、絶対に蹴り落としてやる。無いものは奪う。借りる。最後の最後にバジリスコスと俺の下にしてやるから、大いに励んでもらおう。ふははははは!短期間でこれ程突き抜けたのは、本当に清々しいわアシタカ・サングリアル!」


 セリムがアリババに近寄って背中に手を回した。それからユパを(すが)るように見つめた。


「ユパ王。明日は王も参加して下さい。間に立つというのは難し過ぎます。僕はアリババを支えるべきだったのに、アシタカに飲まれました。ティダを非難したのに、アリババを刺した。今もアリババがアシタカに話しかけられるようにしたかったのに出来なかった。僕は未熟過ぎです」


 いつもなら、それでも胸を張るセリムが明らかにガッカリと肩を落として項垂れた。ティダが満足そうな顔をしているので、やはりセリムの自信を折ることも目的の一つだったのだろう。アシタカはどうなのか測りかねるが、ティダとアシタカはどこか似た者同士なようなのでアシタカもかもしれない。


「よしヴァナルガンド。目付として教えてやろう。まずシュナを会談から追い出せ。アシタカの戦力が半減する。次は俺を追い出せ。更に戦力半減だ。そしてユパ王を加え、場の空気を読まずにペラペラ喋るラステルを増やせ。アシタカのペースが乱れる。アシタカに苦言を呈するフォン。アシタカの顔を立て真実を語るだろうシッダルタとマルク、後何を言いだすか分からんカールも加えておけ。誰でも、自由に、ペジテ流と言ってやるがよい」


 セリムがティダに熱心な目を向けた。ティダがニヤリと口角を上げた。


「俺はアシタカの総取りがムカつくので不参加。しかしアシタカは俺を使いたくて仕方がない。シュナも離れない。どうしたら離れるか考えろ。お前はもっと人を使うという事や遠くを見る事を覚えろ。一人では無理と学んだのだから視野を広げよ。俺が何の為に頭に怪我をしてまで、他国の見知らぬ民を助けたのか考えてみよ。慈善事業じゃねえ。ユパ王は見抜いたぞ」


 ティダが立ち上がったので、ユパも立ち上がってティダの前に立った。ごく自然に立ち去ろうとするとは油断も隙もない。おまけにセリムはすっかりユパを尊敬の眼差しで見つめていて、燃え上がるようなやる気を全身から発している。


「ッチ。分かったよ。ったく何でこんな軽傷で騒がれなきゃなんねえんだ」


「この国での滞在期間は長いので、怪我が治ってから働いてもらう。王を立てるという約束だよな?」


 ティダが「また俺は犬か」と高笑いしだした。アシタカと話をしておくべきなのはユパ自身だ。このティダの御し方を聞いておかないと、外交で好き勝手に使われる。犬にされてたまるか。


「セリム、監視を任せた。奥方様や大狼君を呼ぶと良い。私はアシタカ殿が薬草園や病院など観光案内をしてくる。大国からの大切な来賓だ。アスベル、クイ達やラステルにシュナ姫をもてなして夜の準備をさせよと伝えよ。アリババ王子、アラジン王子と共に久々にこの国の視察をして意見をもらいたいです」


 ユパはアリババについて来いと目で訴えた。飲み込まれたのと、すっかり気落ちしてしまったのか、アリババの目に覇気がない。まだ一言も言葉を聞けていない。


「ヴァナルガンド、あれこそ見本だ。アシタカとアリババを早速とり持つ。邪魔そうなシュナをラステルで追い出す。俺をアンリに見張らせる。素早い判断と采配。明日の会談への布石にもなる。見習え」


 部屋を出るときに、ティダの静かな声が耳に届いた。アシタカがアリババをつつくのを手伝い、セリムを抑えようとあしらい、更にはユパをつついて見事に巻き込んできた。かなり食えない男だ。煮ても焼いても食えないかもしれない。


 真っ向からはアシタカ、後ろからティダ。横槍でシュナ。そしてセリムの信頼と尊敬。とんでもない組み合わせだなとユパは思わずため息を漏らしそうになり、飲み込んだ。

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