セリム王子の外交3
【崖の国 酒場 鷲の爪】
いきなり王族とその客に占拠された酒場「鷲の爪」でセリムは給仕係状態だった。ティダが許可した者以外女人禁制と追い出したので、店員が居なくなったから。
「おいヴァナルガンド、酒がねえ」
また同じ台詞。ティダはどれだけ飲むつもりなんだ。クワトロとドーラ、そして付き合わされているアラジン。アラジンは無理矢理飲まされていないがティダ達三人は蟒蛇。酒場中の酒が無くなるのではと思えてきた。
「毎日こんな風に飲んだらこの国の酒が無くなる」
もう十本を超えた葡萄酒をセリムはティダが座るテーブルへと運んだ。
「毎日この量を飲むか。しかし今は飲まずにやっていられるか。してアラジンよ、この盤面をどう見る」
チラリとティダとクワトロが対決しているチェス盤の状況を確認すると、クワトロやや優勢だった。アラジンはもうすっかりとティダの子分状態。恐れもせず、素直にティダに耳打ちしている。はっきり言ってあまり面白くない。こんな気持ちを抱くのは珍しい。
しかしアンリがティダはセリムの為に本当は嫌な人付き合いをしてくれる、そう評してくれていたので背中を向けた。そのアンリはというと、カールを近衛兵の輪に入れるためか大腕相撲大会をしている。シッダルタもいるのは嬉しいが、怖いとか嫌だと思っていないか心配だ。
ラステルとマルクが盛り上げ役なのか、樽を叩いている。すぐ近くでシュナとハンナがニコニコしながら観戦していた。近衛兵はもれなくデレデレ。フォンがさり気なくシュナやハンナを庇っている。
クイに手招きされて、セリムはようやく座った。
「セリム……ソレイユはどうしたら星姫になれるのかしら……」
クイとケチャと共に話し込んでいたソレイユが机に突っ伏している。
「セリム、よくぞ色々と気を配っていましたね。とても誇らしいわ」
ケチャがゴブレットを差し出してくれた。
「ええ、ええ。いつもは人の中央にいるのに、あれこれと気を回して疲れたでしょう?でもセリムのお客様はとても楽しそうよ。この国に住むのに少しは緊張も溶けるでしょうね」
クイが葡萄酒を注いでくれた。クイとケチャの温かい視線でセリムは元気が出てきた。そうだ。これは休みの日の遊びではなく、外交の一環だ。そして、褒めてもらえた。
「ありがとう姉上。あー、ソレイユ。ソレイユはシュナさんにはなれない」
ソレイユが顔だけを動かしてセリムを見上げた。あんなに元気一杯でニコニコしていたのに、すっかり萎れている。涙目で鼻の頭が赤い。
「なれるわ。ソレイユは勤勉家よ。いつだって努力してきたわ。だから強いし、可愛いし、人に優しくも出来るの。もっと励むの」
眉毛をハの字にしたソレイユがまた机に突っ伏した。
「そういう意味じゃなくて、ソレイユにはソレイユだ。他の誰にもなれない」
ソレイユは無言。セリムがアンリに言われて嬉しかったことが、ソレイユには上手く伝わらないかもしれない。
「ソレイユちゃん。男の気を引きたいなら緩急をつけるのよ。いまは緩ね。貴方のことを心配してくれているわよ」
クイの一言でソレイユが飛び起きた。ハンカチを渡そうとしていたセリムは、危うく頭突きを食らうところだった。クイがソレイユの両方の頬を両手で掴んだ。
「見ないの。恋とは忍耐よ。惚れさせないと男なんてどこかに飛んで行くわ。例えそのおとぎ話の星姫でもね。折角だから星姫様に聞いてみたらどうかしら?どうやって王子様に好かれたのか」
ソレイユがクイにキラキラとした瞳を向けた。この話、セリムは聞いていないといけないのだろうか。クイがセリムに目配せした。
「ソレイユにこんな話をしてくれるお姉さまは居なかったわ」
セリムはケチャに耳打ちされた。
「いい加減愛想笑いも疲れるでしょうから連れてきてあげなさい。そういうことよ。ラステルも来てくれるわよ。クイ姉上はラステルともっと話したいのよ」
ケチャの目線がシュナに向けられた。今日の活躍ならもっと出来るわね?というケチャの期待の眼差しが誇らしかった。今日のセリムは一歩大人になった気がする。もう成人だが、本当の意味での大人。ユパやティダ、アシタカに近づく第一歩。
ゆっくりと立ち上がって、胸を張って堂々とシュナの所へ移動した。まずは子供っぽい動きを卒業したい。
「シュナさん、ハンナさん。クイ姉上やケチャ姉上が歓談したいと言っているのですがどうですか?ラステルも間に入ってくれると、姉上もシュナさん達も助かるだろう」
ラステルが楽しそうに叩いていた樽を叩くのをやめて、トコトコとシュナの所に移動してきた。
「爆発苔かもしれないわ。でも大丈夫よシュナ。私がいるもの。ハンナもいるわ。お姉様あしらいの手本を見せるわ」
何故か戦闘モードのラステルが意気揚々とシュナの手を掴んだ。前回の帰国の際にクイ達に叱責されたのが相当辛かったのだろう。あと嬉しかったのだろう。それにシュナを紹介するのが鼻高々。そんなところか?
一斉に近衛兵達が落胆し、更には自分達もという気配がしたのでセリムはアシタカの笑顔を思い浮かべながら、笑顔を作った。睨むよりも多分良い印象だろう。アシタカならこう言う。
「皆、ありがとう。お客様にこんなに喜んでもらえてとても誇らしい。女性は女性同士でも語り合いたいそうだが、きっと雰囲気を良くしてくれている君達のことを褒めてくれるだろう」
シュナが援護というように一同に華麗な会釈と、花が咲くような笑顔を投げた。
「ええセリム様。シュナはこんなに楽しいことは中々ありませんでしたのでとても胸が一杯です。その上ラステルの姉上方に呼んでもらえるなんて……アシタカ様もきっと喜んでくださるわ。これから親交を深めようとしている国にこんなに歓迎していただけるなんて」
シュナがラステルの腕に手を添えた。それからハンナに自分の手を取らせた。酒場でこんなに優雅に歩く女性なんて見たことがない。ラステル達がゆっくりとクイ達の所へ移動していった。
腕相撲は一旦中止。ティダ以外の男全員がシュナに首ったけというように、ぼーっとしている。アンリがサッとカールに目配せした。
「女同士らしいから隣のテーブルにでも行く?飲み比べなら負けないわ。ああ、下戸でしたっけ?」
「下戸ではない。勝てないからと手を変える卑怯者だな女狐め。シュナがあのように楽しそうにしている所を破壊するか」
アンリが澄ました顔でダーツを投げた。三本全て中央。カールが燃えるような闘志を瞳に灯してダーツの矢を手に取った。アンリが近衛兵達に勝負を持ちかけていく。カールはすっかりアンリにあしらわれている。ずっとしかめっ面なので楽しいのかは不明だが、アンリのこの姿は真似るべきだ。しかし、アンリに手で追い払われた。そしてクイにも手招きされたのでセリムは移動した。
「シッダルタ。君はどうする?」
セリムはシッダルタの顔色を確認した。楽しそうだが、疲れてもいそうで大丈夫なのか判断し辛い。
「俺は遠慮するよ。あのような場だと四方八方から、さ」
確かにあのテーブルへ移動したら敵視される。セリムはデレデレ締まりのない顔のアルマを肘で小突いた。
「この国の品格が疑われる」
アルマはまだシュナに夢中。顔なら良いが全身を眺めるのは、特に胸元を見るのはやめて欲しい。アシタカが早急に羽織を作ると言っているのは正解だ。
「あのような美人、仕方がないだろうセリム。君も気を抜くと魅了されてしまうくらいだ」
アルマをさり気なく庇ったシッダルタにアルマが勢い良く腕を回した。ビクリとしたシッダルタが心配だったが、顔色は悪くない。
「その通りだシッダルタ。さっきマルクから聞いたんだがティダ皇子に将棋?とかいうのを指南していたんだろう?チェスの仲間。俺は是非ティダ皇子と挨拶をしたい。あの雰囲気は絶対に真似るべきだ。付き合ってくれるか?」
シッダルタがセリムを見た。嬉しそうな顔でホッとした。
「あれからというもの避けられてて。そんなつもりじゃなかったのに。逆に接する機会が欲しいから助かる。君の国の人達は温かいな。気が楽だ。アルマさん、是非紹介しよう。手土産は酒だな。この様子だと度が強い方が良い」
「アルマでいい。度が強い酒か。取りに行こう」
マルクが人を押しのけて顔を出した。もう手に酒瓶を持っている。
「シッダルタさん。俺も行く。なあアルマ。チェスは得意か?」
マルクがシッダルタの横に並んだ。
「得意中の得意。なにせクワトロ様と張り合うくらいだ。毎年春に大会が開かれるのだが、一昨年はついに三位に入賞した」
マルクが尊敬の眼差しを投げた。
「それなら絶対に将棋も得意になる。取った駒をまた使えるから奥深いんだ。シッダルタはチェスも指すんだろう?」
「ああ。ティダに何でも付き合わされた。囲碁や象棋とかな」
三人が談笑しながらティダの所へ向かっていく。人懐っこいマルクがシッダルタを輪に入れてくれたのか。セリムの役目だと少し悔しいと思ったが、チラリとシッダルタがセリムに感謝の視線を投げてくれたので誇らしかった。シッダルタの顔に「セリムの友人は優しいな」と描いてある。
セリムはシュナ達の所に移動した。ラステルの隣の席を空けておいてくれていた。
「あのねセリム。聞いて?今日のお義姉様はとても、とっても優しいのよ。セリムの為に頑張っているってうんと褒めてくれたわ。私、シュナから色々と教わったの。上手くできたみたいなの」
椅子に座るなりラステルが破顔して耳打ちしてきた。あまりにも可愛かったので見惚れそうになった。ずっとラステルを見ていたい。しかし、ここはアシタカだ。手本を色々と見たのでセリムにも出来る。
「そうかラステル。僕が恥をかかないようにと王室で育ったシュナさんから熱心に学んでいた成果だ。結婚式典で同じように対応してくれれば姉上達の顔が立つ。僕もとても誇らしい」
パァッとラステルの顔が明るくなった。ニコニコしていたが、ますますニコニコ。クイ達を立て、シュナを立て、ラステルを立てれた筈だ。言葉を選んだが本心なので苦痛でもない。しかもラステルのこの笑顔。アシタカ方式は素晴らしいと身に染みた。
「まあまあセリム。クワトロみたいよ」
「それにアシタカ様を見習ってくれたのでしょう」
ケチャに揶揄われたが、シュナにその通りだとセリムは大きく首を縦に振った。ラステルが愛くるしい笑顔でゴブレットに葡萄酒を注いでくれた。
「セリムはアシタカさんをとても尊敬しているの。でもアシタカさんは誰よりもセリムを尊敬していると言ってくれていたわ」
「私もそうですよ。セリム様とラステルが目標ですもの」
シュナが静かに葡萄酒に口を付けた。シュナが酒を飲むのを初めてみた。
「そこまで言ってもらえるなんてセリムとラステルはご迷惑をかけなかったのかしら。二人とも本人達なりには頑張ったでしょうがまだまだ幼いですし……」
クイが探るようにシュナを見つめた。
「生きてきて良かったと思いました。ラステルに卵も割れないなんてって笑われた時に。私、とても不器用だったんですよ」
シュナがくすくすと笑い出した。ハンナが悲しみと畏敬の念をシュナに送っている。しかしシュナは愉快そうに笑って、触れるなという拒絶感を出している。シュナが助けを求めるような目でセリムを見上げた。後でセリムやラステルが語るだろうから今はそっとしておいて欲しいということなんだろう。
「卵も割れないなんてそれは大変よ。ラステルが料理を教えているそうですから、後でこの国の料理も教えましょう」
ラステルが飛び上がるくらいの勢いで背筋を伸ばした。クイに台所に招かれたのが相当嬉しいのだろう。
「実はお願いしたくて我が国の調理器具を持ってきましたの。私は無理ですがハンナが使用法を教えます」
いつの間にかシュナのゴブレットが空だったのでセリムは新たに葡萄酒を注いだ。この席は目の保養な上に、ラステルが幸せそうなのを眺められる特等席。クイがラステルを他人と交流させろと言っていた意味。今のラステルはもう「セリムの姉だから」「セリムの友達だから」そういう風には見えない。
一番はシュナだろう。セリムの知らない所でいつの間にか親しくなっていて、ラステルが自力で築いた人間関係。
「それにしてもソレイユはどうしたの?こんなに落ち込んで。飲み過ぎならお水が必要よ」
誰も触れなかった机に突っ伏すソレイユにラステルが声を掛けた。
「放っておきなさいラステル。忍耐の修行中です。ほら、シッダルタ君?チラチラ気にしているからもう少しそのままでいなさいソレイユちゃん。爛漫なのとの落差は相手の気を引くわ」
ソレイユが顔を動かした。シッダルタに後頭部が見える方向。眉間に皺を寄せて固く唇を結んでいる。
「まあまあ。殿方は手を差し伸べたくなるくらいがお好きですからね。元気だった貴方がここまで落ち込んでいると気にかけてくれるでしょうね」
ソレイユが体を起こしてシュナの顔に顔がくっつきそうなくらい近寄った。シュナは嫌ではないようだが、流石に驚いている。
「ソレイユは星姫になれないってセリムに言われたわ。クイ様にもソレイユだけの長所を磨きなさいと言われたの。ソレイユの良い所は元気なことよ。なのに今、嘘をついている」
シュナがさり気なく葡萄酒の追加をセリムに強請った。
「相手にされなくて悲しくないのなら本物の恋ではないかもしれませんね」
シュナの頬が赤い。目も蕩けているのでもう酔っているのかもしれない。十五時からの会談は大丈夫なのか?
「本物の恋?恋に偽物と本物があるの?ソレイユはいつも修行でこんなこと初めてよ。星姫、ラステル、お姉様方、ソレイユにどんどん指南して下さい」
ソレイユが熱視線をシュナに送る。シュナがクスクス笑いながらソレイユの体を押した。クイとケチャも似たように笑っている。ラステルだけは大張り切りという表情。
「そうよソレイユ。本物と偽物があるのよ。本物は終わらないの。ずっと続くのよ。私とセリムがそうよ。偽物はパリンッて割れるわ。それで、そのうちどうでも良くなるの」
ん?セリムはラステルの発言に違和感を覚えた。
「真の愛にならなかった恋は捨てるもの。今日のような席で肴にするのよ。こんなに可愛らしいソレイユ様なら男なんて選り取り見取り。星姫と星の王子様も死ぬまで添い遂げたから本物になっただけで、生きている間は区別がつかない。突然やってきて、こんな浮ついた気持ちになる感情に保証なんて出来ませんよ」
シュナがため息を吐いた。呼吸一つで艶めかしいとはどういうことなんだ。ラステルがこのようだったらセリムはとても平静を保てない。セリムはますます今のアシタカを見習うべきだ。
ソレイユがふむふむと頷いている。何故かラステルも同じ動作をしている。この二人、ちょこちょこ動きが似ている。
「浮つきなんて初めのうちよ。そのうち静かになるわ。また違う楽しみがあるわよ。新婚さん達は羨ましいわね」
ケチャの愉快そうな笑みにセリムは逃げ出したくなった。これはもう女だけで話して欲しい。
「アシタカさんはシュナが大好きなの。仕事第一だったのに仕事を減らすくらいよ。でもやっぱり働いてしまうから効率化を追求するのよ。シュナを大事にする時間を作ってくれるんですって」
シュナがはにかんだ。酔っているのだろう。甘い顔に甘い雰囲気、そこに酔って視点が定まらないのが破壊的な威力を放っている。男達の視線がセリムに突き刺さっていて怖い。
「ソレイユも運命の王子様に大切にされたいわ」
「違うのよ。シュナも大好きなの。アシタカさんと手を繋げれば何もいらないっていうくらいよ。お姫様も辞めちゃったわ」
ラステルの話は大間違いなのだがシュナは特に否定しない。むしろシュナが両手で口元を覆って恥ずかしそうに身をよじった。ソレイユがまたふむふむと頷いた。何が参考になるんだ?
「それなのに何でもくださるそうです。大した我儘を言わないだろうから何でもすると。シュナの為に昔、習っていたピアノも弾いてくれるそうなの」
シュナの惚気にセリムは固まった。セリムがアシタカの立場だったら恥ずかしくて穴に入りたい。それにしてもアシタカはいつの間にシュナを口説いていたのだろう。四六時中シュナに優しい言葉をかけていたが、ピアノの話なんて聞いてない。そもそも趣味がないと言っていたアシタカが、ピアノを習っていたことがあるという事実にも驚いた。
「まあ熱いわね。セリムも見習いなさい。夫なんて知らぬところで貶されることが多いんですから」
クイの発言にセリムはバッとラステルを見た。ラステルの視線が泳いだ。つまり、褒められていないということだ。
「セリム様はラステルの為なら泥スープでも喜んで飲むのよね?強情だから止めないとお腹を壊して病気になってしまうなんて、聞きましたよ」
何の話だ?ラステルがみるみる赤くなった。可愛いが見惚れる以上に、戸惑いが勝った。知らないところで何を言われているのか。シュナがハンナと顔を見合わせて笑った。しかし、ラステルは恥ずかしそうなのでセリム不在の際にセリムを褒めてくれたのだろう。しかし、泥スープ?まったく飲みたくない。飲んでラステルの風邪が治るのなら飲むか?
「アシタカ様はシュナが泥スープを作る前に止めてくれます。毎日、練習に付き合ってくださるそうです。昼間はハンナやカール姉上。それにたまにはアンリに習いますが夜はアシタカ様だけです」
やはりシュナは酔っている。アシタカにデレデレという様子。机に肘をついて手に顔を乗せたのもシュナらしくない少し行儀の悪い仕草。しかし、やはり破壊力は抜群でソレイユが熱心に観察している。
「アシタカって料理なんて出来るのか?仕事しかしてきてないと……」
突然シュナに頬を抓られた。
「大嘘ですよ。女をはべらかして涼しい顔をしていたそうです。シュナに大してもすっかり落ち着いた様子。アシタカ様は色々と飲み込むのが早すぎます。私、絶対にアシタカ様の澄ました顔を破ります!」
これはもう完全に酔っ払いだ。アシタカが女をはべらかして涼しい顔?多分一番縁が遠い評価だが、どんな誤解があるんだ?シュナが立ち上がってゴブレットの中の葡萄酒を一気に飲んだ。
「行きますよソレイユ様。指を咥えて眺めていたら誰にとられるか分かったものじゃありません。観察し、反応を確かめるのです。あとは本能。本能に響かないなら諦めるしかありません。しかしまずは戦いますよ。ラステルとハンナはシッダルタ様と話し易いので来てはなりません」
シュナがソレイユの手を引いてティダ達の方へと向かっていく。かと思ったらそのまま方向を変えてカールとアンリに近寄っていった。近衛兵に愛想を振りまいている。ティダ以外が人だかりを意識しているのが分かる。シュナがティダにしたり顔をしたので、クイとケチャがとても愉快そうに笑った。ラステルはポカンとしている。それからワクワクした輝く瞳でシュナとソレイユを見つめた。
これはもう外交ではなく単なる日常生活の延長だ。
「シュナ様、良かったです。ずっととても緊張されていました」
ハンナがポソリと呟いて嬉しそうにシュナを見つめた。しかも涙目だった。
「そうよ。心配で上手く眠れないって言っていたもの。でもセリムがお仕事を手伝ってくれたでしょう?アンリがカールさんに付きっ切りで親身になってくれてる。ハンナもずっとシュナのお世話を焼いてくれている。だから楽しめているのだわ。こんなの初めてって言っていたもの」
ラステルの言葉がセリムに突き刺さった。こんなの初めて。セリムにとっての当たり前は、シュナにとっての当然ではない。そうだ、自国に戻ってきて自分の事で一杯で忘れていたがシュナはこんな生活をしたことが無いはずだ。
「セリム?」
「そう。だからあんなに慕ってくれているの。良かったわ。セリム、ラステル、人を一人幸せにするというのはとても大変なことよ。本当に良く頑張ったのね」
クイがセリムとラステルの肩を順番に叩いてくれた。ハンナがドメキア王国での話を始めた。如何にシュナが素晴らしい姫だったのかが明るみに出たこと、奇跡が起きたこと、その奇跡を与えたのが誰なのか。
蛇神が現れてアシタカとシュナが国民中の前で永遠を誓ったこと。
ハンナ視点は国民視点だろう。自分やラステルがどう見られているのか、シュナがどういう存在として受け入れられたのかを目の当たりにして改めて驚いた。これではまるで創作話。こんなことが世の中に起こるのか。そう思ってしまった。
ハンナが突然侍女に選ばれたことを語った。それこそ奇跡。理由はないのにという、驚きと戸惑いを語った。
「それは違うわ。シュナがハンナが如何に素晴らしいのか話しているもの。献身的な慈善活動なんかがそうよ、外交よセリム。アンリにばかりカールさんを任せていてはならないわ。ハンナもアンリからカールさんとの接し方を学ばないと大変よ。行くわよハンナ!私はセリムの妻だから外交をするわ!シュナのお手伝いもするのよ!」
「あら。なら私も付き合いますよラステル。可愛い妹にお手本も見せないとなりませんしね」
ケチャが先に立ち上がってラステルに微笑みかけた。やる気満々の表情のラステルが勢い良く立ち上がってハンナを連れて、ケチャと共にカールとアンリの方へと歩いて行った。
「本当に良かったわねセリム。貴方はいつも外にばかり夢中で近くを見ていなかったけど、色々と大事なことに気がついたみたいね」
振り向いたらクイはふくれっ面だった。
「クイ姉上。またそんな顔をして。ラステルにすっかりセリムを取られて面白くないのも分かりますけど」
ドーラが豪快に笑いながらクイの隣に腰掛けた。
「クイ姉上、いつも心配を掛けてすみません」
ドーラに勢い良く背中を叩かれた。
「ははは!そうだセリム。何だあの男は。クルクル態度を変えて嘘くさい男め。しかし周りも人も見ているな。集中したらクワトロなんて即惨敗だろう」
ドーラがチェスの駒を置く真似をした。
「ほれ頼まれた。あのケチャに何処と無く似ている娘、あれは狂犬だな 」
来たばっかなのにドーラがカールの方へと歩いていった。近衛兵を押しのけてカールの前に仁王立ち。迫力ある二人にちょこんとしたアンリ。しかしアンリも凄みがある。ティダは静かにクワトロとチェスを指している。時折アラジンに声を掛けているのは分かったが、ドーラに何か頼んだりした素ぶりには気づかなかった。
「セリム」
クイが少し寂しそうな声を出した。
「何ですか姉上?」
「孫よ。孫が欲しいわ。セリムもケチャもあーんなに可愛かったのに大きくなってしまって。シャナも可愛いから、貴方とラステルの子もきっと可愛いわよ。ケチャは子育ては自分なりにしたいと口を出すと怒るのよ」
クイがまたぶすくれた。
「姉上。それはラステルなら口を挟みたい放題ということですが?それは困ります」
セリムが文句を言うとクイは破顔してくれた。
「あの子が私の所に来てくれるでしょう?ふふっ。貴方の嫁なんて誰が現れても気に食わないと思っていたのに不思議な子ね。また言っていたわよ。セリムは変なのって」
クイがラステルに眩しそうに、嬉しそうに微笑んでくれたので悪い意味ではないのだろう。
「僕は姉上の忠告を守っていれてるのか分かりません。自分なりには頑張っているつもりです」
「それで良いのよ。私が正しい訳ではないもの。色々な考え方があって誰しも全部は通じ合えない。ラステルったら私にこう言ったのよ。セリムは変。私がセリムを大好きだってちっとも伝わらない。セリムが大好きだからセリムが好きな人や物は何でも好き。セリムは変で、いつまで経っても私の気持ちが分からないからヤキモチ焼きになる。ですって」
セリムはポカンと口を開いた。
「姉上。僕がラステルの為に色々と我慢したり気を配っているのが全く伝わっていないということですよね?」
クイに耳を引っ張られた。
「そこじゃないわよ。私がこんなに気にかけているのに、セリムのおまけみたいな扱い。セリムの姉だから好きです?許せないから台所にしばらく入れません」
セリムはクイの腕を掴んで耳から離させた。やはり随分と小さく感じた。それだけセリムが大きくなったのだろう。
「姉上。先程シュナさんに料理を教えると言っていたのに、ラステルを除け者にしたらイジメです。僕こそ妻に対するイジメを許しません」
クイに思いっきり睨まれた。
「全く誰が育てたと思っているのかしら。ふふっ、大きくなりましたね。また寂しそうな、悲しそうな人達ばっかり集めて。でも今日みたいに少し落ち着いて周りを見れるなら大丈夫ね。前なら友を紹介できて、国を案内出来て誇らしいって大興奮だったでしょう?」
いつまで経っても母親目線のクイの視線がくすぐったい。しかし成長したと明け透けなく話してくれて、ストンと腑に落ちるのはクイや父だなと改めて感じた。過大評価だとは思わなかった。
しかし、寂しそうな悲しそうな人達とはクイはもう今日きた者達の奥底を見抜いたということだろう。ティダがクイを断固拒否した理由はこれか。
「姉上。僕は人を見る目がそこそこあると自負していましたが、他の者も評価してくれました。父上や兄上譲りだと思っていましたが、姉上もです。むしろ姉上かもしれません。ティダが一番嫌がっていました」
クイが肩を揺らして笑った。
「難儀そうな子ね。私を嫌がったのはそういうことではないわ。ユパは王。仕事もあり過剰には構わないでしょう。父上は歩けない。でも私はどう?この国の王族で一番国中への影響力があるのは私です。女は怖いわよ」
妖しげな笑みにセリムはギョッとした。クイのこんな一面は知らなかった。
「ティダはつつき過ぎると七面倒なのであまり構わないで下さい」
アシタカとの嫌味合戦を思い出してゲンナリした。あれがクイと起こるとまたセリムが間になる。シュナがカールに抱きついていた。カールがやっと微笑んだ。カールにとってシュナだけ、の世界が変わる日は遠そうだ。
ドンドンとティダが靴で床を踏んで大きめの音を鳴らした。騒がしい一同がもれなくティダに注目した。足音を鳴らしただけでこれ。どういう事なのだろう?
「久々に負けた。クワトロ殿は聡明なようだ。しかし俺は腕には自信がある。パズーから崖の国の男は豪傑だと聞いているが我こそはという者はいるか?マルク!パズーも俺の下、ゼロースに鍛えられて中々の腕前になったよな?」
呼ばれたマルクが直立して敬礼した。
「はい!パズーは我等ティダ皇子の直属の部下として恥じない男です!大狼と大蛇神の化身の間に入り、鍛錬に励む努力家です!」
セリムが目を丸めた。パズーがそこまで励んでいるなんて知らなかった。パズーの一歩、一歩は相当大きな歩幅らしい。セリムも負けていられない。酒場内に近衛兵の失笑が漏れた。この時パズーの気持ちがやっと理解出来た。遠巻きで見ていて分かった。パズーへの辛辣な評価。過小評価。
ティダがチェスの駒を投げた。近衛兵若手筆頭、クルーズの額に命中した。自己紹介も何もしていなさそうなのにティダはこの場で一番影響力がある近衛兵を見抜いている。
「過剰な低評価は牙を削ぐ良い手だ。しかし味方に使う手法ではない。敵も作る。例えば俺。次にラステル妃。俺が敵を追うための飛行機を見事に操縦して援護し、結果この国の麗しいラステル妃を救った男パズーを侮辱するとどうなる?」
ティダの発言に酒場内が静まり返った。クルーズも青ざめている。
「見ていないことに正しい評価などつけられません。先にその話をするべきではなくて?そもそもはティダが侮られているからでしょう?たった今、チェスも負けましたしね」
シュナがクルーズに貴方は悪くないですよ、そういう視線と笑顔を向けた。一気に場の空気が和んだ。しかし、シュナの目の奥は恐ろしいほど怒っているように見えた。ラステルが怒りの笑顔なので、そのせいだろう。
「セリム。とんでもない目付監視役を連れてきたわね。国が荒れるわ。しかし、しかと間に立ちなさい。むしろ彼の方に立ちなさい」
そう言いながらクイはシュナを見つめている。
「煽る子なのね。しかも庇った振りをして背中を刺すとは怖いわ。あれは味方にしたら心強いけど敵に回すと恐ろしいわね」
クイが近衛兵に愛想を振りまき、ラステルにも気を配るシュナを凝視した。
「ティダ、貴方も力試しに参加してみれば良いのです。きっと力量が分かりますわ」
シュナが期待の眼差しをクルーズに向ける。クイも見抜いた通り毒蛇のシュナだ。罠。ティダが嫌そうな、不服そうな、あまり自信がないという大嘘の態度を取った。フォンとマルクがティダに目配されて机を退かし、樽を運んだ。
「姉上。これより寒々しい空気になりますが、放置します。友を二人も侮辱され、更にはティダの部下の名誉も侵害されました。ラステルも相当怒っています。この国は他国を知らぬので少々鼻が高すぎます」
「あら、飛び出さないのね。今後他国と交流を持つなら色々と学ぶべきでしょう。セリム、これからは貴方も教わるばかりではなく指南する立場。常に国民を見れないのだから、成長する機会は与えた方が良いです。広い世界で色々考える機会があり多くを学んだのね。ユパ王やクワトロの手伝いが出来るようになると信じていますよ」
喧嘩となれば直ぐに止めたいが、何が争いの火種になりどう終わるのか観察したい。ティダはわざとだからキチンと場をおさめてくれる。
クルーズとティダが樽の上で腕相撲の格好を取った。パッと見はクルーズの腕の方が鍛えられている。ティダに目配されたマルクが高らかに宣言した。
「始め!」
両者全く腕が動かない。ティダはつまらなそうな表情。クルーズの顔は真っ赤。ティダを知らない者は驚愕している。
「ふむ。折られたくなけりゃあ手を離した方が良い。この顔の傷も十年振りだ。アラジン!この俺は誰だ⁈」
ティダがクルーズの体を持ち上げた。
「ティダ皇子です……」
アラジンの言葉にティダが舌打ちしてマルクを見た。手を挙げたのはフォンだった。
「不敗神話築く大狼の兵士、ティダ・エリニュス・ベルセルグ皇子。覇王ペジテ大工房の名誉国民にして宗教最高峰の大技師。ドメキア王国聖女シュナ様の盟友にして、ドメキア王国守護神大蛇蟲様の遣いエリニース様。です」
ティダがクルーズを床に叩きつけた。ティダにしては相当手加減。床板も壊れていない。酒場内が凍りついた。セリムは立ち上がってクルーズに近寄った。ティダがしゃがんでクルーズを見下ろした。
「良く鍛えてある。よい心掛けだ。しかし人を見る目と相手の力量を見抜く力を養え。この俺と戦争すると小国どころか大国も吹き飛ぶぞ。吠える相手を間違えて良いのは子供だけだ。しかし許そう。名もない小鳥。ここはヴァナルガンドの国。そして偉大な大鷲ジーク殿が即座に俺を見抜いた。よって大狼は小鳥など相手にせん」
ここまで力量を見せられたのにクルーズがティダに殴りかかろうとしたのでセリムはクルーズを引っ張って止めた。
「引くときは引け。先に侮辱したのは君達だ。恥をかかされたが正攻法でだったろう?殴りかかるのは恥の上塗りだクルーズ。さて、クルーズだけではない。大国からの来賓を堂々と侮辱するとこれだけでは済まないこともある。何が争いの火種になるか分からない。彼はそういうことを教えてくれた。一人一人が国を背負っているということを忘れないで欲しい」
セリムは近衛兵をぐるりと睨んだ。これが正しいのかは分からない。しかしセリムは王子。来賓の面子を守るのも仕事のはずだ。
「巨大権力を有し戦に出れば無敗の俺が崖の国の目付監視役と国防の頂点を担った。理由は一つのみ。この国がヴァナルガンドが育った国だからだ。いずれ覇王アシタカ様の隣に並ぶ。有能な護衛が必要。この場にいる者はヴァナルガンドに選ばれたという自覚を持て。期待されている。各国の前に堂々と立つには力だけではなく教養も必要。他国の有能な者ではなく自国からというこの期待。例えば先頭に立ったクルーズ!他に期待に応えるものはいるか⁈」
ヴァナルガンドに選ばれた?この為にセリムに近衛兵に声をかけるように言ったのか?それかこじつけ。ティダはよくもまあ口が回る。近衛兵の敵対心があっという間に変わった。名を呼ばれ、しかも讃えられたクルーズも悪くないという表情。ついさっきまでティダに牙を剥き出しにしていたのに。
マルクが勢い良く手を挙げた。
「このマルクはヴァナルガンド様の護衛を熱望して故郷を後にしました!如何に素晴らしい国か聞いています!我が国の騎士道精神と通じ合うと思っています!」
緊張感を壊すような甘いため息が漏れた。
「私の護衛親衛隊よりもセリム様を選びましたものね。しかし間も無く始まる大陸中での会談に我が国の騎士がここにあり、と示してくれるのは嬉しいです」
シュナの微笑にマルクはますます胸を張った。ティダが樽の上に飛び乗った。
「間も無く国境を越えて交流が始まる。貧乏小国の王子と本人は言っていたが生き様と矜持で大国三ヶ国の王族と協定結んだ。世は因果因縁であり矜持と誇りを忘れるな。この世は生き様が全て也!俺についてくれば誉れ高い見晴らし良い世界を見せてやろう!俺の隣には崖の国の王子セリムが並ぶ!もう一度聞く。応える者はいるか⁈」
近衛兵の注目がセリムに集まった。いつもの雰囲気が違う。親密さではなく尊敬されているような錯覚がした。
フォンが樽を三回蹴ってティダに敬礼を向けた。
「残念ながらこのフォン支部長官はヴァナルガンド様が新設する支援機構の共同立ち上げ人になりますので辞退します。しかしティダ皇子、個人的にご教授お願いします。いずれ活躍舞台は大陸全土。故郷の至宝アシタカ様と奥方シュナ様の顔に泥を塗る訳にはいきません」
奥方シュナ様の発言の瞬間、室内に落胆の嵐が吹き荒れた。ティダが樽を踏んで意識を自分に戻させた。
「よく吠えた。俺は矜持が好きだ。折れぬ信念は敬意に値する。さすがアシタカ様の直下である」
ティダが樽を踏み鳴らそうとしたらラステルがとことこと樽の前に進み出た。
「私は弟子のままよ。ティダ皇子には毎日、シュナにも定期的に国際的な教養を学びます。お義姉様方には崖の国のことを叩き込んでもらい、セリムに恥をかかせないわ。ここにいる皆さんなら、セリムが選んだなら、とても素晴らしい働きをしてくれるわ。だから前祝いをしているんです!」
ラステルが胸の前で両手の拳を握り、グッと力を込めた。それからグルリと近衛兵を見渡した。ラステルが期待の眼差しと笑顔を振りまいた。ラステルのこの思い込みは心配だが、割と役に立つと思う。後押しのように、隣にシュナが並んで同じような表情を向けた。
ティダが樽を三回踏み鳴らした。いつの間にか手にゴブレットを持っていた。初めから持っていたか?
「崖の国ユパ王の支援をしかと担うヴァナルガンドとラステル妃に!両名の美しい友シュナ様に!国家繁栄に!期待されている男達に!この国の誇りとなり国家の威信を背負う男達にこそ祝いを!誇りこそが崖の国レストニアである!この場にいる誇りに祝福あれ!」
ティダがゴブレットを高々と掲げた。近衛兵達が次々とゴブレットやグラスを持ち上げた。ティダが堂々たる姿で酒を飲み、樽から降りてクルーズの肩に腕を回した。ラステルとシュナへクルーズの事を何やら話している。あっという間にやる気に満ちた、活気ある空気に変わった。
「セリム。ティダは元々ああいう男だ。好き勝手。そして友の為に熱くなる」
シッダルタがセリムの隣に立った。寂しそうな、しかし嬉しそうな顔をしている。
「ドメキア王国兵にこう言っていたらしい。奴隷兵の先頭にいるのは捕虜にしろ。兵力になる。で、シッダルタは前に立つ男だ。ティダ、あいつ奴隷兵を救うではなく君だけの為に戦場に出たのかもしれない。ドメキア王国に連れて行ったのもそのまま亡命させる為」
シッダルタが大きく目を丸めてセリムを見つめた。コツンと頭に何か当たった。結構痛いと思ったらチェスの駒だった。ルークの駒。ティダだろう。
「傍若無人ながら力があり仁義も厚い。街をぷらぷらしては何かしらしていたしな。あんな男。上に立って欲しくなる」
シッダルタが暗い顔になった。またチェスの駒が飛んできてセリムの額に直撃した。さらに痛かった。分かっていても避けれなかった。
「そのうち本人から聞く。そうして欲しいみたいだ」
ラステルが近寄ってきて、嬉しそうにシッダルタの手を取って連れて行った。セリムも手招きされた。ティダを囲っている。
国を荒らす。
崖の国はティダにどう影響されるのか。セリムは必ず間に立つ。蟲と人との間に立つということは、人と人の間に立てないと話にならない。
セリムは胸を張ってラステルとシッダルタの間に移動した。それから飛び掛かってティダの髪をぐしゃぐしゃにしようとしたが、ひらひら避けられて鬼ごっこのようになっただけだった。




