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6:初めまして

「うぜぇ、帰れ」

「寝起きで悪かったけど、それはあんまりじゃないですかね……?」


 これが彼の今日の第一声。お先は真っ暗かもしれない。

 時刻は十一時を過ぎようとしていた。

 学園到着まで残り四時間と言ったところか。

 朝早くから行っても迷惑だろうと、程よい時間を考えた上で六道の部屋へと来たのであるが。

 昨日の身も凍るような殺気は何処へ行ったのだろうか。

 彼は寝起きのようで、ボサボサの髪に加えラフな服装で出てきたのであった。

 昨晩と変わらずに閉じた瞼の上に走った傷は、彼が盲目だと暗示させていた。

 陽は丁度、天辺(てっぺん)に差し掛かろうとしているのに、低血圧特有のイライラした彼の態度からして朝は苦手なのだろう。

 学園での生活は大丈夫なのか、心配にもなる。


「何の用だ。お前、昨日空気も読まずに話し掛けてきた奴だろ。馬鹿か?」

「ああそうだよ、昨日の馬鹿だよ!俺の用件は一つ!」


 半ばヤケになりながらも、苦笑いで言う。


「俺と友達にならないか?」

「頭湧いてんのか?嫌に決まってんだろ帰れ」


 即答で六道は返す。

 玄関となるドアは指紋を感知し、自動ドアのように開くのであるが、今は救われている。

 ドアノブの付いたドアならば、六道はすぐ様、無理矢理にも閉じたであろうからだ。

 彼は玄関の壁に体重を寄せ、腕を組んでいる。

 目は閉じていても、不機嫌な表情は露呈していた。


「で、でもさ。出て来てくれたって事は──」

「此処できっちり切り離さなきゃ、学園で付きまとわれる可能性があると判断したからだ。俺からの用件も一つ。二度と俺に話しかけるな。昨日も言った通り、俺は好きで一人で居るんだ。はっきり言ってテメェの行動は邪魔だ」

「…………」

「はぁ……何で俺の所なんだ?テメェが友達居ねぇのは昨日分かった。だからってお前みてぇなお人好しなら幾らでも他の奴と仲良くなれんだろ」

「腑に……落ちなかった」

「あぁ?直ぐに帰らなかった件か?ありゃあ、最低でもこれだけの時間は居ろっていう命令があったからだ」

「違う、何でメールなのかってことだ」

「…………」


 差ほど表情は変わらなかった。

 しかし、雰囲気に重みが掛かかる。

 周囲の温度が数度下がったような気がした。


「六道はその、目が……さ」

「あぁ、見えねぇよ。今もな。お陰でお前の顔付きすら分かんねぇ」

「!やっぱり、あれは──」

「音声認識」


 三影の目が見開き、言葉を紡ごうとした所で六道は言葉を防ぐように言う。

 被せるように、一枚上手を行くように。


「最近の機械ってのはスゲーよなぁ。音声で誰が誰か判別して持ち主すら見抜いちまう。人工知能もありゃぁ、サポートしてくれるし、こっちが命令すりゃぁメールの内容くれぇ自動で読み上げてくれる。流行りの言葉や外国語も含めてな。納得したか?」

「……ッ。じゃあ、見せてくれ。それが確認出来たら素直に諦める」

「……ちょっと待ってろ」


 壁から身体を話、部屋の奥へと進んでいく。

 目の光を失った彼の部屋には電気など付いて居らず、窓から入る陽の光のみであった。

 視覚からの情報も無くとも彼は問題なく歩く。

 人間、五感のどれか一つを失えば他がそれを補うと聞く。

 昨晩会場で、六道は三影が近づくのにいち早く察知していた。

 聴覚は人並みから大きく外れているのだろう。

 よく見ると、彼は靴下を履いていない。

 足の裏の触覚を頼りに進めれるのだろうか。

 どちらも、視覚を得ている三影には体験出来ない事であるが。

 進む途中、六道は振り返り。


「そう言えばお前、何で此処が俺の部屋だって分かった。この船の奴に聞いた限りじゃ、部屋には番号だけで名前は記されてないって話だったが?」

「え?あ、あぁ。何故か知ってる奴が居てな。半信半疑だったけども」

「……そうかい。そいつは何で知ってんだろうなぁ」


 その知ってる奴というのは言うまでもなく、今のところ唯一の友達である朱涙だ。

 今思えば、三影の部屋も最初から知っていた。

 彼女の馴染む雰囲気に当てられ気にしていなかったが、今思えば不思議な話である。

 船の乗組員に聞いたのだろうか。


 目の前に焦点を置けていない程度には思考を巡らしていた為か、音も無く動くそれに反応が遅れた。

 ──扉が閉まったのだ。

 気付いた時には遅かった。

 ドアノブが付いていれば、無理矢理にでも閉じれるの反対で開けることも出来た。

 しかしこれは最新式。

 指紋を扉の何処でも感知し、この部屋の主だけが開けれる扉。

 閉じる前に手を挟めば、安全の為に閉じるのを阻止できる。

 やられた。

 嵌められた。

 そうさせない為に、六道は疑問を投げてきたのだ。

 少しでも意識を逸らさせ、自動で閉じる距離と時間も悟らせなければ、簡単に拒絶出来るのであるから。


「っておい!!そうするって事は持ってないって事で良いんだな!?」


 扉越しで投げ掛ける。

 返事は無い。

 朱涙の声すら届くのであるから、聞こえないと言うことは無い筈だ。


 結局、三十分待っても彼から反応を示す事は無かった。

 三影は一度、諦めるのを余儀なくされたのであった。


 ■■■


 六道の部屋は五階の一番端。

 階段から一番遠い位置にあった。

 この船の宿泊エリアでは、長い通路の両端に各部屋が建てられている。

 大方、海を眺める事が出来るようにする為であろう。

 ただし、番号は書いてあっても名前までは立てられていないので何処に誰が宿泊しているのかはしれない。

 船に乗った〝天災〟の人数と、部屋の数は明らかに違うので空きの部屋もある筈だ。

 三影の部屋は四階のフロアである。

 食事する会場があるのは三階となっている。

 惨めな気持ちになりそうなので、結局行くことは無くなったが娯楽施設もあるそうだ。


 行きと帰りでは、帰りの方が体感で早い。

 しかし半信半疑で来ていた不安に駆られ気にしていなかったが今思えば、かなり廊下は長い。


「って、遠いなこりゃ。目が見えないなら歩くのも疲れるのかもしれないし、夕食に来なかったのも面倒くさかったから、だったりして」


 独り言を呟きながら歩いていく。

 すると、目の前から顔見知り程度の人物が歩いてきた。

 セミロングで清楚な黒い髪。中学の制服であろう服。

 昨晩は意識して見れなかったが、女性にしては背の高い。

 もしかすると朱涙に慣れすぎたせいか。

 人物と目が合う。

 昨日、六道と接するのを止めた人物と。


「よ、よお」

「…………」


 むっとした表情で返された。

 視線は三影の後ろを覗くように動き。


「もしかして、六道の部屋に行ってたの?」


 お見通された。

 昨日のようにまた何か言われるのであろうか。

 それは別として疑問は残っていた。

 彼女と、会場内の反応の元に。


「ああ、その通り。駄目か?」

「別に自己責任なら勝手だと思うわ」

「何で六道をそういう扱いにするんですかね?皆同じ仲間みたいなもんだろ?」

「……そう言えば貴方は何処のグループにも居なかったわね」

「え?あぁ。人探しに出ててな。帰ってきたら皆馴染んでて驚いた。見事に出遅れたってわけ」

「〝誘導の天災〟が居てね。緊張を解すよう、手を回してくれたの」

「なるほど。そういう背景があったのか」


 てっきり、帰ってきた頃には緊張の糸が緩んでたのかと思っていたのであるが。


「そうよ。今皆、船を出る準備してて今暇なの。少し時間ある?さっきの質問に答えるのと、その理由を話すわ」

「分かった。何処で?立ち話するのもあれな気がするし」


 ピッ!

 と、左腕を伸ばし、左人差し指を真っ直ぐ隣のドアに指さした。


「ここで良いでしょう。私の部屋だし」


 まさかの、である。

 仮とはいえ、女の子の生活している空間に踏み入れるなど幼稚園以来の事である。

 妹のような安心感を出す朱涙とは違う。

 纏う雰囲気は同学年以上。

 一瞬反応に困る。

 しかし、冗談の空気でない彼女を前に浮かれた反応は出来なかった。


 無言で頷く。

 その仕草を見ると、軽く目を閉じ、進行方向を変えて部屋の扉に彼女は触れる。

 電子回路が広がるように、瞬間的に光が動くと扉が開く。

 彼女の部屋の証明でもある。

 現実味を帯びる。

 彼女が部屋に足を踏み入れようとしたその時、ふと思い出したように振り向く。


「あ、そうそう」


 六道の行動を思い返し、少し不安を覚える。

 そもそもあれ自体、会場で三影がした事の意趣返しだったのかもしれない。

 彼女は口を開き。


 「私は冬峰(とうほう) 美湖(みれい)よ」


 簡素に、挨拶を交わした。


 ■■■


 部屋の造りは三影の部屋と差ほど変わらない。

 変わってる点としては、部屋の左右が逆な所だけで、それ以外の設備は同じであった。

 ただ部屋の主によって流れる空気は変わるもので、女の子らしい甘い雰囲気であった。

 香水なのだろうか。

 雰囲気を醸し出す要因として、甘い香りが漂っていたのだ。

 加えて、部屋の中には小さな縫いぐるみが幾つも置いてあった。

 約九日間の旅であるが、この荷物量はどうしたものか。

 そもそもバックの中に入り込めるのか。


「ああこれ?私の趣味よ。縫うのが好きなの」


 興味あり気な視線を中の物に向いてたのに気付き、冬峰は間を挟むように声を掛ける。


「縫いぐるみじゃなくて、縫うのが好きなのね」

「そうよ。そういう才能、〝裁縫の天災〟。そこら辺は察しなさい。私は別にいいけど、才能を良いと思ってない人も居るんだから。地雷を踏まないようにね」

「ご忠告どうも。にしても凄いな、ブランド品として店に並んでてても違和感ないわ」

「流石に言い過ぎ。褒めても何も出ないからね?あ、そこに座って」


 ベッドの横にある、丸い小さなテーブル。

 テーブルに合わせた丸い椅子が二つ対になっており、壁側の方に彼女が座る。

 その反対に三影は腰掛けた。


「本心で言ってるよ。俺には到底出来ない事だし」

「そんなに褒めるなら、これを褒めて欲しいんだけど」


 冬峰は両手も真っ直ぐ横に伸ばす。

 意図が読めず、三影は首を傾げる。

 その態度が癪に障ったのか少し不機嫌な声を出す。


「制服よ制服!」

「え!?もしかしてお前のそれ自分で作ったのか!?」


 彼女が主張していたものは己の来ている服。

 何処かの学校の制服なのは分かっていた。

 それがまさか、本人が縫っていたとは考えもつかない。

 何処からどう見ても、綺麗に整われたそれは、製品と見間違えてもおかしくない。

 寧ろ細かく仕立てられたそれは、製品よりも綺麗に出来ているのかもしれない。


 度々忘れてしまう。

 彼彼女らが〝天災〟だと。

 自らの才能を自慢のようにさらけ出したりはしない。皆が異常な才能を持っている為、雲に隠れてしまっているが、人並みから外れているのだ。

 その所業の一つを、今、目の前で見れた。


「そうよ。これはなかなかの出来でしょ」


 誇らしげに、冬峰は笑う。


「ははは……すげえやほんと」

「ありがと。まあこれはもう置いといて、本題に入りましょうか。何故六道をそう扱うのか」

「…………」

「そもそもね、私と六道は中学の時、友達だったの」

「え?そうなのか?」


 想像の斜め上の真実。


「まあそう反応するわよね。続けるわよ。六道が殺人を犯した八年前から小学六年間の生活を私は知らない。でも、中学には普通に入ってきてた。勿論皆、六道を避けてた。異常な殺しの才能を持つ彼を、避けたわ。だけど疎外以外のイジメなんて起きなかった。だってそうでしょう?殺されるかもしれないから」

 「…………」

 「当時の私も私で、異常だって言われた。小学生の頃に〝天災〟だと発覚して、裁縫の余りの出来に先生に問われて、皆にバレた。口をうっかり滑らせちゃったのよ。そこから距離を置かれてね。そんな中やってきた、歪だけど同じ〝天災〟の六道。私がどうするか想像出来るでしょ?」

 「同じ者同士、仲良く出来る、かも」

 「ご名答。そして考えてた通り私は六道に絡み始めたの。六道と絡んでたから、私もイジメらしいイジメも受けなかったわ」

 「話を聞く限りじゃ、冬峰が六道を突き放す理由が見えてこないんだけど」

 「話は最後まで聞くものよ。私は、アイツの事を何も理解してなかったの。私達は部活動なんてしてなかった、しても疎外されるだけ。でも一緒に帰る事は無かったわ。家の方向が違うって理由でね。でもね、ある時気になったの。どんな所に住んでるんだろうって。私は普段遊べるような家庭じゃなかったから。裁縫の練習をひたすらさせられてたから」


 冬峰は目を細めてテーブルに目線を落とす。

 口元を噛み締め、嫌な記憶を呼び起こすように雰囲気が暗くなる。

 半透明のテーブルの奥で、両手を強く握っているのを確認出来た。


 「その日の放課後は大雨だったの。だから少し帰るのがおそくなっても、言い逃れは出来そうだったから、六道の後を付けたの。アイツの歩くペースは早くて、時折見失いそうになったわ。息もしづらい中ついて行った。でもね、途中見失っちゃったの。気付いたら山の麓にまで来てた辺りはひと通りもない。もしかしかたら山道に入ったんじゃないかって、雨と雲のせいでやけに暗い森の方に怖いけど勇気を出して踏み入れたらね、足跡があったわ。それを頼りに進んでいったの、足元を見ながら。そして、やっと六道に会えたの。その時アイツ、何してたと思う?」

「……何、してたんだ?」

「人を、殺してたの。大の大人を三人。動かなくなった死体の作った血の海の中で、六道は血だらけで立ってたの」


 絶句。

 心の何処かで、そういう結末も考えていた。

 拒否していた。

 そんな事ないと、望んでいた。


 「やっぱり、人殺しの才能を持ってるんだって私怖くなって。六道と目が合った瞬間、私は慌てて逃げたわ。殺されるかもしれないって。私は逃げきれた。次の日学校に行ったらね、居るのよ。普通に。六道は当たり前のように学校に来てた。昨日のことが嘘みたいに。人なんか殺してないって言わないばかりに、溶け込んでた。裏では人を殺してたのに。その事は事件にすらならなかったわ。多分、〝天災〟としての圧力が掛かってたんだと思う」

 「……でも、皆が六道を避けてたのは?」


 これでは、冬峰が避ける理由である。

 三影を六道から離そうとしたのは、彼女のこの経験から来たものなのだろう。

 誰よりも、六道の事を知っていたから。


「一日目。三影は人探しをした後どうしたの?」

「え……、帰って来たら入りにくくて、そのまま帰ったけど……」

「ちょうど入れ違いだったのね。あの日、六道は会場に来たのよ」

「来たのか……?」


 昨晩の台詞も嘘だったのか。


「ええ。私も驚いた。そして、アイツは皆に向かってねこう言ったの」


『初めまして。俺は六道 極楽。〝殺しの天災〟。殺されたく無かったら、俺に関わんな』


「皆、ざわついたわ。昔世間を騒がせた殺人者が突然現れてそういうのだから。そして〝誘導の天災〟は彼に近寄った。そういうネタなの?って、軽い気持ちで」

「そいつは……どうなったんだ?」


 恐る恐る、問う。


「公開処刑、もいいところね。あの殺気に加え、会場に置いてあったナイフを首に当てたの。『死にたいのか?』って。〝誘導の天災〟の腰が抜けて座り込むと、六道は会場を後にしたわ。そして、皆六道を避けた。アイツは本気なんだって」


 波の音。

 部屋に流れる、気持ちを落ち着かせる音楽。

 辺りの部屋から響く低い音。

 流れていた音は、三影の耳には入って来ない。

 彼は今、確かに無音を体験していた。


 ■■■


「へぇ……そういった事があったのですね」


 自室に戻り、荷物を整理していると朱涙が訪ねてきた。

 部屋を知っていた件の疑問も残っていたが、一先ずは六道の事を話したのだ。


「朱涙はそういう忠告無かったのか?色んな人と接して」

「無かったですよん。単純に暗い雰囲気を避けてたのかもしれませんね。それで、気は変わりました?」

「変わらない」


 即答。

 朱涙は目を見開き、動きが静止する。

 荷物を詰めながら、朱涙に背中を向けながら言葉を続ける。


「彼奴は、六道は確かに人を拒絶してる。でも、本心じゃない」

「何でそう確信を持ったふうに言えるんですかねぇ。私には不思議で成りませんが。殺人鬼じゃなかったとしても、人として難ありな方じゃありません?」

「そうかもな。そこんところはまだ分からないわ。俺は彼奴の事、不器用な奴だって思ってるからさ」

「不器用?」

「あぁ。『殺されたくなかったら、俺に関わんな』逆に言えば、殺される覚悟があるなら関わってもいい。完全に拒絶するような奴が言う事じゃないだろ?当人の自主性に任せてる。俺なら、『関わったら殺す』って言うよ」

「そういうの、揚げ足取りって言うんですよ。三影さんの妄想かもしれないのに」

「妄想でも何でもいい。俺は六道が人を拒絶する理由を知りたいんだ」

「自己満足ですね。案外、殺人衝動が抑えられない線が一番濃厚なんじゃないですかね。人を殺したくて殺したくて殺したくて。でも本人の善良な意思に阻まれて、苦しんだ結果が、近付かないだったりして」


 皆、怖くて近付かない。

 六道本人も、殺したくないから近付かない。

 理に適っている。

 しかし。


「そうだとして、俺は彼奴からその事実を聞いてない。本心を知りたい」


 それを聞くと朱涙は静かに笑みを見せた。


「本当、面白い人ですね三影さんは。私は気が合いそうにも無いのでやめておきますが、そうやって距離を詰めようとする三影を、私は応援してますよ」

「ふっ、そうかい。ありがとな。六道が本当は良い奴だった時は宜しく頼むな?」

「あはは、その時はその時で!」


 拳を朱涙の方に突き出す。

 彼女は笑顔で、拳に軽く突き返した。

 すると突然、朱涙は目を見開く。

 視線は三影の後方。


「あ!三影さん!後ろ!後ろ!見てください!」

「え?」


 やけにハイテンションな朱涙の声を聞いて振り返る。

 大きなそれは、一面ガラス張りの窓に冴えて映った。


 学園。

 世界立〝エデンの園〟。

 テレビの前でしか見ることの無かったそれは、強烈な印象を三影に与えた。


 富士山や東京スカイツリー。

 初めて見た時、現地と画面上での違いに、ギャップに驚いたものだ。

 首元を流れる血が、熱を帯びる。

 目元が熱くなる。

 三影は知っている。この感覚を。

 しばらくの間感じることのなかったそれの名前は。

 感動。

 驚き、歓声を上げそうになるがグッと堪え、思わず笑みが浮かぶ。


「夢みたいだ」


 巨大な人工島に建てられた学園。

 ここから先、学園の内部の情報は何処にも転がっていない。

 まさに踏み出すのだ。

 未知への一歩を。


 ──劇的な人生が待っている。

 彼らの物語が始まろうとしていた。


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