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2:重荷、そして旅立ち

 〝天災〟の逸脱した才能は周りから浮き出てしまう性質がある。

 簡単な話、周りが一桁の数値しかない中、〝天災〟は二桁、三桁、と文字通り桁が違う。

 林檎が一個しか入ってない籠と、十個入ってる籠を比較するようなもの。

 なので本人がどう普通を取り繕うと、自然と異常さ滲み出てしまうのだ。

 今日、人権が保証された世の中とは言えそれは表向きであり、実際には学生時代にイジメを受ける場合が多い。

 三影の身近にも〝天災〟と呼ばれる人は一人だけいた。

 近所の幼なじみ。

 その人も例外に漏れなく区別される待遇に身を置いていた。──何より、区別し距離を置いたのも三影自身である。

 身勝手で調子のいい話であるが、同じ立場に、ステージに立ってようやく彼女の気持ち、もとい〝天災〟の気持ちを共有できたのだ。

 他の〝天災〟も彼女のように、幼少期から人外を見る目線を受けてきたのであれば、やはり三影は珍しい部類なのだろう。

 何故って、周りとかけ離れた才能があるならば本人が一番理解できる筈なのに、彼自身ですら知らなかったのだ。

 自分の異様さを。

 それは、クラスの前で告げた日より一週間前に知ることとなった。

 才能を知らされる方法も、教科書には載っておらず、普段からネットに浸っていた三影にすら知らなかった方法。

 とてもシンプルな方法。家へと届いた、一通の政府通知。

 そこに書かれてた、彼の才能は──、



 ■■■


 クラスとの交流は、打ち明けた日を境に全くと言って過言ではないほど減少した。

 もともと積極的に関わるような性格ではなかったとは言え、0と1の差なのだ。あると無しではあった方が良いに決まっているし、人は誰であれ嫌われるのだけは嫌う。

 下手すれば教育委員が関わってきてもおかしくはないが先生からすらも距離を置かれ、結局卒業までの半年間、孤独な最後の中学校生活を送ったのであった。

 〝天災〟は今の世の中では一般常識である。

 が、世論でいい評価を受けるということはなく、寧ろその逆で、批判が相次いでいる。

 それもその筈で余りにも周りとの差がついた才能は尊敬を通り越し、嫉妬に変わる。

 自分達とは掛け離れた存在を、憎悪する。

 今はこうして才能溢れる若者を集め、保護する施設──もとい学園が建てられたというものの、ひと昔前までは差別が酷く、一時期は人権すら保証されていなかった。

 無論、人権に関しての問題をひっくり返したのも〝天災〟であるが。

 こういった〝天災〟を専門的に扱う学園は皆が皆異常である。しかしそれ故に、突飛な存在が並び平等になるという面ではこれ以上にない楽園であった。

 正直なところ三影は進路に関して切実に悩んでいた。何故ならば彼に得意な分野は無く、万年良くもなく悪くもない成績であり、何かに打ち込んでいる訳でもないので選ぶに選べずにいた。

 そんな中やってきたのは、最高峰の学園への招待券である。

 世界で唯一無二の〝天災〟を保護し育てる学園。国々の条約によって、こういった保護する施設の建設を禁止され、その代わりとして作られた学園。

 故に世界立。

 〝天災〟であるならば即決で入学が確定するので、受験勉強をする必要もない。尚且つ、入れること自体が名誉となる学園であれば、入らない筈もない。

 自分は受験戦争において勝ち組になったのだと、三影は心底喜んでいた。

 これがクラスに打ち明ける前の思考。打ち明けた日より以降、他の〝天災〟の気持ちを知ることとなる。

 皮肉な事に距離を置かれる事によって、浮かれた自分を引き戻し、気を緩めることなく受験シーズンを乗り越えれたのも事実。

 予想外であったのは、受験勉強しないといけないという圧迫がなく楽していた分、休みが少なかったということ。

 卒業して直ぐに、家を出る身支度を強いられた。知っていた事とはいえ、進路先である世界最高峰の学園は国外にあるからだ。

 それも学園は海の上。

 埋め立てられ、人工的に作られた学園。

 〝天災〟となる前から友達らしい友達も居なかったので、挨拶は親戚だけで済ませれたのは幸いか。

 準備に忙しい中でこの時間の削減は大きい事だと、悲しくも思い込んだ。

 準備の次は移動であった。

 三影の住んでいるのは港から離れたところにあり、間に合わせるために始発の新幹線に乗り、交通機関を駆使しながら千葉県に設置された岬へと向かった。岬には既に何台もの船が波に揺られている。

 同じ船が幾つかある中、記載されていた番号の大型客船を探し、乗り込む。

 少し周りを見れば、ちらほらと少年少女の顔が伺えた。全員が、不安と期待を混ぜらせたような、複雑な心を顔に映し、黙々と中へ入っていく。

 既に部屋の番号も割り振られているので真っ先に自室へ向かった。

 番号に従い部屋の前に行くと現代チックな玄関扉がある。半透明にコーティングされた扉に触れると、そこから電子回路そのものである薄く赤い軌跡の線が通った。

 指紋でも感知したのであろう。機械的な音声で、名前と迎えの挨拶が返ってくると、音もなく扉は横にスライドして開いた。

 目に映る光景。


「……俺の家より住み心地良さそうなんだけど。ホームシックになるか心配だったのに、降りる頃にはこの部屋をホーム認定してそうなんだけど!?」


 部屋に入り発した第一声。

 思わずここまでの長旅で肌身離さず持っていた複数のカバンを肩からズルりと落としそうになった。

 視界に映ったのは、どこぞの高級ホテルに匹敵しうる広さと内装。王女様が寝るような屋根付きのベッド、鏡の縁に施された柄、ガラス張りの浴室、アンティーク調の家具。ここにハリウッドスターが泊まっても何の違和感もないだろう。寧ろ自分が数日泊まる事が場違いな気がしてならない。

 歩みを進めると、もう一つ部屋があるようでそこには見るからに高そうなソファーに加え、目の前には大型のテレビが置いてあった。

 その後にはバーで良く見る長い机に脚のつかないような高い椅子。更に後ろの棚にはズラリと瓶に入った飲み物が入っている。

 どうやら娯楽室のようである。

 長旅で疲労した足を休めるべく、設置されているソファーに腰掛けた。腰が埋まり、マシュマロにでも包まれたかのような包容感に襲われる。干した直後の布団のような、心理的気持ちよさも現れる。

 しかし、


(……虚しい)


 テレビの後ろに広がるガラスの壁に映る海を見ながら、そう思った。

 家具も、空調も、部屋の雰囲気も、流れる音楽も、部屋と部屋を繋ぐガラスの壁から見える景色も全て申し分ない。

 残念なのは彼の平凡な金銭感覚で、泊まるにしては勿体ない気がしてしまう。

 今まで普通の家庭で育ってきたというのに、それといった金額も払わないまま、ここまでの優遇を受けてもいいのかと、彼の薄い心に圧がかかる。

 結局、入室してものの数分で疲れすら忘れて部屋を後にしたのであった。


 ■■■


 三影には、見ず知らずの他人に話しかける程の度胸はない。

 外に出たからと言ってやることと言えば、何かを購入するか、携帯を弄るか、海か港と山しか見えない母国を目に焼き付けることだろう。

 外に出ると潮の香りが強い。

 海とは殆ど無縁であった三影にとって海はテンションが上がっても仕方ない。

 ただ周りの人はそんな気分でもないのか、黙々と部屋に入っていくばかりだ。


(〝コミュニケーションの天災〟とか一人くらい居てもいいんじゃないですかね、俺の心はもう折れそうなんですが……オアシスを下さい)


 船の揺れは少ないが、三影は不安からか酔ったような表情で地平線を眺めていた。

 特に見たいものがあるわけでもなく、ぼーっと眺めていると、布切れの音とハイヒールで床を踏むような音が聞こえる。

 知り合いの筈も無いだろうと、誰かを確認することもなく水平線を見ていると、


 「あのー、すいません」


 少女の声が耳に聞こえた。

 聞いたことのない声主なので、知り合いでは無いようだ。

 ここで振り返り返答し、違う人へ向けた声だったならば気まずいので無視する事にした。勿論緊張で固まっているのも要因であるが。

 しかし。

 トントン、と右肩に触れられた感触がした。確実に自分に向けられたものだと確信し、反射的に首を回す。

 

「……はい?」

「すいません、私の部屋を探していまして」


 そこにいたのは金髪の美少女であった。外国人とのハーフなのだろうか。

 顔はさながらフランス人形のようで、小柄な体格がまたいい味を出している。

 服装も服装だ。黒を基調としたフリフリの服である。

 ゴスロリ、と呼ぶのだったか。


「部屋……?自室の部屋番号分かるか?入学案内と一緒に、知らされた筈なんだけど」

「えっと……」


 少女は手持ちのカバンをゴソゴソと漁り始め、中からA4サイズの紙を取り出した。


「よん、まる、いち、ですね。」

「401……ああ、俺の部屋の近くか。このフロアの一個上が宿泊エリアだから。その部屋は確か上がって一番手前の筈だよ」

「ありがとうございます!……その、お名前伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、いいよ。俺は三影 頼。同じ所に行く縁だ。よろしくな」

「みかげ、らい。はい!よろしくお願いします」


 珍しい苗字でもある。物珍しさからか、ほんの一瞬彼女の表情が固まった。

 こんな空気の重い中、一人でも知り合いになればこれから着くまでの旅は幾分か有意義となる。

 もっと言えば友達を作るチャンスだ。

 すかさず三影も言葉を繋げる。


「俺も名前聞いてもいいか?」

「あ、はい!私は鳩崎(ハトサキ) 春空(ハルア)っていいます」

「鳩崎、な。覚えた!」


 最後に軽く挨拶をしたのち、鳩崎は聞かれた通りの自室へと服を旗めかせ、足軽に入っていった。

 

「……ふぅ」


 鳩崎が階段を使い上がって行ったのを確認した後、手すりに重心をかけ下を向きため息。

 それと同時に、ドクドクと汗が吹き出す。


(──やべぇ!むっちゃ緊張したぁぁぁぁぁぁ!!!)


 数刻前の事を思い返してみると、三影の今まで見てきた異性の中でも、トップクラスの可愛さを持ち合わせていた子であった。彼も男なので、親しくなりたいという本心、もとい野心はあった。

 とは言え、鳩崎もこの緊張感の下見知らぬ誰かに話し掛けるなど心底勇気が居たはずである。それに答えなければと頑張っては見たものの、あと数秒で崩壊していただろう。


(何がともあれ、名前だけでも交わせただけよかった……おかげで少しだけ気が晴れたな)


 項垂れた身体から顔だけを上げ、空を見る。(カモメ)が陽気に飛んでるのを眺めながら、この先の不安の一つが消えたのを実感する。

 緊張の糸が緩んだのか、重々しい感じは彼の中から抜けていた。


「幸先はいいようですし、この調子で話しかけていきますか」


 彼がポツリと呟くと同時に、汽笛が鳴った。

 出航の準備が完了したようだ。

 長い旅が、始まる。



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