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大木に一筋の稲妻が落ちる


「由紀さん。良い名前ですね」

「ふふっ。ありがとうございます…………ところで、あなたのお名前は?」

「アキラ。杉沢晃すぎさわあきら


「晃くん。貴方だって良い名前じゃないですか」


 アキラははにかんだ。

 透き通るような綺麗な声が自分の名を誉めてくれているという事に喜びを感じたからである。


「そうですか? ごくありふれた名前だと思うんですが」

「いいえ。それが良いんじゃないですか」


 ユキが会話をしているときの、ほのかな笑みは美しかった。

 彼はその優しい眼差しに最高に癒された。


 すると彼女は、突然何かを思いついたようにアキラに話かけた。


「知ってます?この場所もともと大木があって、そこに雷が落ちてこんなスペースができたみたい……なんでしたっけ、ギャッ…ギャップ……」


「ギャップダイナミクス」

「そう! 雷のせいでそれができたみたいなんですよ」


「へぇ。知らなかったなあ」

 ユキの話を聞いて、軽く受け流しそうになった時だ。アキラの脳裏にいきなり、その瞬間の光景が浮かんだ。彼の目の前がフェードアウトして行く。




 …………あれは、満点の星空が輝く夏の夜の出来事だった。

 突然、一筋の不気味な風がここら辺一帯を吹き抜けた。


 木々はざわめき、月は雲に覆われた。

 アキラはその光景をまぶたの内側にありありと想像することが容易にできた訳である。


 おそらく、三日月が妖しく笑う真夜中の出来事だったのだろう。

 その時とつぜんに、雲に覆われた空から、まるで女神の涙とも表現すべき大粒の雨が降りしきったのである。


 直後、一筋の光があった。

 それは龍の断末魔のようなひどい轟音と共に発せられた光で、それが周りに突き抜けた。


 アキラは思わず目を閉じる。


 …………燃えている。

 大木が、火柱を上げて燃えている。


 気が付けば大木はたび重なる自然ピュシスの計らいによって、力尽きて……倒れていた。

 このような巨大な大木が、一筋の稲妻に打ちのめされて、その場で崩れて、ただ力なく燃えて行く。


 まだ炎は上がっていたけれども、降りしきる雨がその火災の脅威を大きく防いでいたので、周りに移り、山火事になるという事態にはならなかったのだ。


気が付けば、もともと大木が植わっていた場所にはその面影は無くなって、ただ大木が黒い塊と変わってなぎ倒されているのみであった。


 時は流れ、倒された大木はバクテリアに分解され、ぽっかりと空いた空間はいつしか、光が差し込み、神秘的な光景を生み出す場所へと移り替わっていた。


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